- 10CC、ゴドレー&クレーム -

<アナログ時代、最後の傑作>
 コンピューターの発達によるデジタル革命が音楽の世界で始まる以前、アナログ的手法を用いて、まるで映像作品のような音楽空間を構築した驚異のグループ、それが10CCです。しかし、彼らが、あの名曲「アイム・ノット・イン・ラブ」を含むアルバム「オリジナル・サウンドトラック」などの傑作を生みだすことができたのには、それなりのわけがありました。それは、このバンドがまったく異なる個性をもつ優れた二つのユニットからなるバンドだったということです。

<メロディー・メイカー・コンビ>
 エリック・スチュアート(ギター、キードード)とグレアム・グールドマン(ベース)、この二人は、10CCが分裂した後も、バンドの名を引き継ぎ活動を続けたコンビで、バンドのメロディー・メイカーであり顔でもありました。もちろん、名曲「アイム・ノット・イン・ラブ」は、このコンビの作品です。
 もともとグレアム・グールドマンは、60年代の人気ポップ・グループ、ホリーズの大ヒット曲「バス・ストップ」の作者として有名な売れっ子ソング・ライターでした。彼は、1965年ごろに活躍していた英国の人気バンド、マインド・ベンダーズのリーダー、エリック・スチュアートに誘われて、バンドの一員となりました。その後、このバンドは解散しますが、1968年にスチュアートが、ケヴィン・ゴドレイ、ロル・クレームとともに新グループ、ホット・レッグスを結成すると、再びグレアムはそこに呼ばれ、ついに10CCが完成したわけです。

<音の魔術師コンビ>
 ケヴィン・ゴドレー(ドラムス)、ロル・クレーム(ギター、キーボード)、この二人は、見た目からして、エリック&グレアム・コンビとは違っています。まるで、アニメに出てくる原始人のようなモジャモジャの髭に見るからにオヤジっぽい体型(グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシア風といえば分かりやすいでしょう?)アイドル系ポップ・グループ出身の二人とは、実に対照的です。
 しかし、一見原始人風の二人だったのですが、その頭の中身はそれとは対照的で、遙か未来を見通す未来派でした。独特の音色を生み出すギズモというギター・アタッチメントを開発し、そのためのアルバムを制作したり、映画的なドラマ仕立ての音楽をつくりだすために、音空間を築き上げるなど、頭の中には斬新なアイデアがつまっていたのです。

<映像の魔術師へ>
 ゴドレー&クレーム、彼らの頭の中につまっていたのは、音楽的なアイデアだけではありませんでした。そこには、映画マニアだった彼らの映像に関するアイデアもたっぷりとつまっていたのです。そして、これが後にMTV時代に爆発することになります。ポリスの「シンクロニシティー・ライブ」を初めとする一連のビデオ作品や大傑作「サンシティー」のヴィデオ・クリップなど、彼らは文句なしにMTV最高の演出家として、その名を世界中に知られることとなるのです。もちろん、彼らは本業のミュージシャンとしての活躍も、忘れてはいませんでした。1979年の「フリーズ・フレイム」や1988年の「グッドバイ・ブルースカイ」などの数少ないアルバムは、10CC時代の最強メロディー・メイカー・コンビがいなくても十分素晴らしい作品を作れることを証明しています。

<絶妙のコンビネーションから生み出された傑作>
 エリック&グレアムという職人技をもつヒット・メイカーによるポップなメロディー、それにゴドレー&クレームのもつ、くめどもつきぬアイデアと高度な録音技術。この二つが絶妙のバランスで組み合わさることで、ポップでありながらアバンギャルドかつドラマチックそして映像的な未だかつてない音楽の世界を生みだしのです。

<不朽の名作「オリジナル・サウンドトラック」>
 1975年の「オリジナル・サウンドトラック」は、そんな作品群の中でも文句なしの最高傑作と言えます。架空の映画のためのサウンドトラック・アルバムというアイデアもさることながら、名曲「アイム・ノット・イン・ラブ」やクイーンにも間違いなく影響を与えたであろうオペラ風ドラマ作品「パリの一夜」など、どの曲も未だに輝きを失っていません。

<これも傑作「ハウ・デア・ユー」>
 傑作アルバム「オリジナル・サウンドトラック」のおかげで、影が薄くなっていますが、1976年の「ハウ・デア・ユー」も、文句なしの傑作です。(個人的には、僕はこのアルバムの方が好きです)すべての曲が電話でのいろいろな会話を元に作られていて、それぞれ面白いストーリーをもつ曲に仕上げるという一歩間違えばアイデア倒れになるような凝った内容ですが、これもまたポップで、ブラックな素晴らしい作品に仕上がっていました。

<必然だった分裂、解散>
 こうして驚異的な二枚のアルバムを発表して、10CCはあっさりと分裂しました。二つのユニットの方向性の違いが、その原因でしたが、考えてみると、それまで4人が一緒にやってこられたことの方が不思議だったのかもしれません。そして、それだけ個性的な二つの音楽性が一つになったからこそ、あの時代を越える名作が生まれたのかもしれません。

<隠れた名曲「我が愛のフィルム」>
 「オリジナル・サウンドトラック」のラスト・ナンバー「我が愛のフィルム」は、僕の一番好きな曲です。そして、僕はこれこそ最も10CCらしさが現れた曲だと思います。歌詞に込められた映画への愛は、映画ファンならうれしくてたまらないものです。そしてそれは、その後彼らが音楽映像分野の第一人者になることを、予言する作品でもありました。

<締めのお言葉>
「映画だったら、ここで音楽が入るところだ」
        映画「アフリカ珍道中」におけるビング・クロスビーのセリフ

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