- ヒーローたちの冥福をお祈りします -

<12月という月>
 多くのロック・ファンにとって、12月という月はジョン・レノンが暗殺されたということで特別な存在になりました。しかし、12月という月は、ソウル・ファンにとっても特別な存在です。なぜなら、サム・クックとオーティス・レディング、そしてカーティス・メイフィールドが亡くなった月だからです。実は、ブルース・ファンにとっても、12月は特別な月かもしれません。マジック・サム、フレディー・キング、アルバート・キング、それにレッドベリーが亡くなったのもまた12月なのです。改めて、調べてみると12月には、なぜか各ジャンルの大物アーティストたちが数多く亡くなっています。なぜ12月なのでしょう?
 
 ソウル界ではサム・クック、オーティス・レディング、カーティス・メイフィールド、グローバー・ワシントン・Jr、ニューオーリンズの大御所リー・ドーシーとルイジアナの大御所クリフトン・シェニエ。ラップ・ヒップ・ホップ界では、ダーレン・ロビンソン(ファットボーイズ)。ブルース界ではマジック・サム、フレディー・キング。ジャズ界ではローランド・カーク、ポップス界では、ホーギー・カーマイケル、ディーン・マーチン、ニッキー・ネルソン、スキャットマン・ジョン。ブラジルではアントニオ・カルロス・ジョビン、レゲエ界ではガーネット・シルク、サルサ界ではアルセニオ・ロドリゲス、アフリカではザイールの大御所フランコフォーク界ではティム・ハーディン、フィル・オクス。そして、ロック界ではロイ・オービソン、ボビー・ダーリン、フランク・ザッパ、デニス・ウィルソン(ビーチボーイズ)、トミー・ボーリン(元ディープ・パープル)、イアン・スチュアート(もうひとりのストーンズと呼ばれた男)、リック・ダンコ(ザ・バンド)、ニコレッタ・ラーソン、マイク・クラーク(ザ・バーズ)、そしてジョン・レノン
 上記の名前はすべて今月12月にこの世を去った方々です。ジャンルもバラバラ。死因もバラバラ。死んだ年齢もバラバラですが、それぞれのジャンルにおけるかなりの重要人物ばかりがなぜかこの月に数多く亡くなっているような気がします。なぜ?こうも12月に?そこには何か意味があるのだろうか?そんなことを考えたくなるほどです。そんなわけで、今月はそんな偉大なアーティストたちの死について考えてみたいと思います。

<無念の死>
 12月と言えば、やはりジョン・レノンの名が浮かびます。「スターティング・オーバー」の直前に暗殺されたジョンの無念さは、多くの知るところであり、あれから25年がたったとは思えないほど、今年もまた多くの場所、多くの放送局で彼の歌が取りあげられています。しかし、志半ばにしてこの世を去らなければならなかったアーティストは、彼だけではありません。
 ソウル界の革新だけでなく公民権運動のリーダーとしても活躍することが期待されていたサム・クック。彼は白人社会におけるジョン・レノンに匹敵する存在として、未だアメリカのブラック・コミュニティーで愛され続け、その人気はまったく衰えていません。そして、彼の死の謎もまた永遠に語り継がれることになるのでしょう。
 自分のレコードが全米ナンバー1になることを知らず、飛行機事故により、天国へと登っていったミスター・ソウルことオーティス・レディング。その力強い歌声を一度は生で聴いてみたかった!  未だにブルース・ファンの間でしか知られていない驚異の天才ブルース・ギタリスト、マジック・サム。彼は残念ながら死んだ後もまだまだ過小評価され続けており、天国へと登る階段を踏み出せずにいるかもしれません。
 あまりの多才さと奔放さからゲテモノ音楽扱いされジャズファンの多くに無視され続けてきたローランド・カーク。彼はジャンルの狭間で、行き場所を失ってしまった悲劇のアーティストです。その扱いの低さは、彼の死後も続いており、もしかすると天国でも彼は自分の居場所を見つけられずにいるかもしれません。
 彼らのやり残したことへの悔しさを思うとき、僕たちは自らの「持ち時間」について考えざるを得ません。もちろん、自分に残された時間の長さなどわかるわけはないので、僕たちに残された対処法はただ一つ。残された時間を有効に使うことだけでしょう。
 12月という月は僕たちに、「自分は時を無駄にしてはいないか?」胸に手を当てて考えるひとときを与えてくれる大切な月でもあるのです。

<人生を呪いながらの死>
 一年の終わりの月である12月、死にきれない思いを抱きながら、あの世へと旅立たなければならなかった人がいる一方、自ら死へと向かったとしか思えないやり方で呪われた人生に終止符を打ったアーティストもいます。
 ディープ・パープルというあまりに大きな存在のプレッシャーに押しつぶされ、寿命を縮めてしまったトミー・ボーリンは、彼は若かっただけにかわいそうです。
 フォーク・ロックの新たな道筋を示しながら認められることなく、いつしかヘロインでボロボロの身体となり、この世を去ったティム・ハーディン。ジョン・レノンとほぼ同じ時期に亡くなったため、その死すら彼は無視されてしまいました。
 ボブ・ディランと並ぶプロテスト・フォークのリーダー的存在でありながら、公民権運動とベトナム反戦運動の急激な後退に置き去りにされてしまい、いつしか時代そのものに取り残され、ついには自殺へと追い込まれてしまったフィル・オクス。ディランのような身軽さを持ち合わせなかった彼の気真面目さが悲劇を呼んだのかもしれません。
 ビーチ・ボーイズというアメリカを代表するバンドのメンバーでありながら、天才ブライアンの陰に隠れ、その才能を発揮できず、酒とドラッグに溺れ、ついには海で溺れ死ぬという皮肉な最後を遂げたウィルソン兄弟のひとりデニス・ウィルソン。
 人生に疲れ、人生を呪いながら死んでいった彼らの死はあまりにも悲劇的です。いったいどこで彼らは道を踏み誤ったのか?それをどこかで止めることはできなかったのか?もちろん、そんな人生の流れをくい止める方法などあるわけはありません。
 しかし、そんな悲惨な状況においても、彼らに手を差し伸べてくれる友人、家族、恋人がいてくれたら、もしかすると流れは変わっていたかもしれません。(実際はそんなことで変わるほど、彼らの人生は軽くはなかったのでしょうが、・・・)
 忘年会やクリスマス・パーティーなど、人と会う機会の多い12月は、そんな人と人との心のつながりを再確認する月でもあると思います。

<幸福なる死>
 一年の終わりの月である12月、やりたいことをやり充実した人生を過ごし、やすらかにその生を終えた幸福なアーティストもいます。
 汲めどもつきぬ才能を活かし、数え切れないほどの作品を発表。まだまだリミックス中の作品が山ほど残っているというロック界の巨大山脈フランク・ザッパ。彼の作品をききつくすことは、それだけでライフ・ワークになってしまいそうです。もちろん、まだまだ音楽製作の仕事を続けたかったでしょうが、とりあえず、膨大な作品(どれもが傑作)を世に残すことができた人生は間違いなく幸福だったと思います。偉大なる巨人の魂は天国でもきっとスタジオにこもりっきりになり、録音・編集作業を続けていることでしょう。
 「オンリー・ザ・ロンリー」などの大ヒットを飛ばしながら、その後ヒットに恵まれず、妻子の不慮の事故死など度重なる不幸により人生のどん底に追い込まれたロイ・オービソン。彼は再起不能と言われながらも、多くの友人たちの助けで作り上げた傑作アルバム「ミステリー・ガール」を発表、見事甦りました。そのアルバムの発表直後、彼は心不全でこの世を去らねばなりませんでしたが、少なくとも死の直前の彼は幸福だったに違い有りません。そう彼こそは、人生の勝利者だったのです。
 下半身不随となるほどの事故にさえ巻き込まれなければ、まだまだ活躍できたかもしれませんが、インプレッションズ時代からソロ時代へと常に時代の流れとともに社会との関わりを歌に託し続けたカーティス・メイフィールドもまた人生において最後まで闘い続けた偉大なる魂の持ち主でした。彼の死もまた、十分すぎるほどの仕事をやり遂げた安らかなものだったに違い有りません。天国でゆっくりと休んで下さい!
 ボサ・ノヴァというブラジル音楽の新境地を切り開いただけでなく、その後も世界中のポピュラー音楽に影響を与え続けた20世紀を代表する作曲家アントニオ・カルロス・ジョビン。彼もまたその人生を幸福な中で終えることができたのではないかと思います。天国での彼の歌声は、天使たちの羽根よりも軽く、神々の歌声よりも優しく天上界に響いていることでしょう。ハレルヤ!
 一年の終わり12月は、人それぞれが一年を振り返るとともに、新しい一年に向けての思いを抱く月です。そんな12月も最近は単なる12個ある月のうちのひとつになりつつあるような気がします。人生という長い旅の途中で、しばしば立ち止まり、通ってきた道を振り返ると同時に、これから先の道に思いをはせる。そんな機会は実は以外に少ないものです。まして、社会人になると、どうしても同じ日々の繰り返しが多くなります。
 だからこそ、12月という月ぐらいは、この月に亡くなったアーティストたちの音楽を聴きながら、自らの一年についてもじっくりと振り返る、そんなひとときをもってはいかがでしょうか。

<締めのお言葉>
「・・・アルバム「ロックン・ロール」の最後に「ジャスト・ビコーズ」という曲があって、フィルは僕たちに歌わせたがっていたんだが、僕はあんまり知らない曲だった。聞けばわかるけどね、「そしてぼくたちはレコード惑星の西部にわかれを告げて・・・」っていう歌詞があって、そこを歌った時に、一瞬、ぼくもいずれこの世界に別れを告げるんだろうかと思った。・・・」
ジョン・レノン「ラスト・インタビュー」より

<12月の追悼リスト>
レッドベリー ブルース 1949年12月 6日
ダイナ・ワシントン  ジャズ 1963年12月14日
サム・クック ソウル 1964年12月11日
オーティス・レディング R&B、ソウル 1967年12月10日
マジック・サム ブルース 1969年12月 1日
アルセニオ・ロドリゲス ラテン、サルサ 1970年12月30日
ボビー・ダーリン ロック、ポップス 1973年12月20日
フィル・オクス フォーク 1976年12月19日
フレディー・キング ブルース 1976年12月28日
トミー・ボーリン(ディープ・パープル ロック 1976年12月 4日
ローランド・カーク ジャズ 1977年12月 5日
ジョン・レノン ロック 1980年12月 8日
ティム・ハーディン フォーク・ロック 1980年12月29日
ホーギー・カーマイケル ポップス 1981年12月27日
デニス・ウィリアムス(ビーチボーイズ ロック 1983年12月28日
イアン・スチュアート(準ストーンズ ロック 1985年12月12日
リッキー・ネルソン ポップス 1985年12月31日
リー・ドーシー ニューオーリンズ・ファンク 1986年12月 1日
クリフトン・シェニエ ザディコ 1987年12月12日
ロイ・オービソン ロックン・ロール 1988年12月 6日
フランコ(&TPOK Jazz) リンガラ・ポップ 1989年12月19日
エディー・ヘイゼル(パーラメント ファンク 1992年12月23日
篠田昌己 ジャズ 1992年12月 9日
アルバート・キング ブルース 1992年12月21日
フランク・ザッパ ロック 1993年12月 4日
マイク・クラーク(ザ・バーズ フォーク・ロック 1993年12月19日
アントニオ・カルロス・ジョビン ボサノヴァ 1994年12月 8日
ガーネット・シルク レゲエ 1994年12月10日
ディーン・マーチン ポップス 1995年12月25日
ダーレン・ロビンソン(ファット・ボーイズ) ラップ 1995年12月10日
ニコレッタ・ラ ーソン ロック 1997年12月16日
リック・ダンコ(ザ・バンド ロック 1999年12月10日
スキャットマン・ジョン ポップス 1999年12月 3日
チャーリー・バード ジャズ 1999年12月 2日
グローバー・ワシントン・Jr ソウル 1999年12月17日
池田貴族  J−ロック 1999年12月25日
ジルベール・ベコー シャンソン 2001年12月18日
ナムジルィン・ノルブバンサド モンゴルの民族音楽 2002年12月21日
ジョー・ストラマー(クラッシュ) パンク・ロック 2002年12月22日
マル・ウォルドロン(ピアニスト) ジャズ 2002年12月 2日
アーティ―・ショー(クラリネット) ジャズ 2004年12月30日
デレク・ベイリー(ギター・インスト) フリー 2005年12月25日
マリスカ・ヴェレス(ショッキング・ブルー)  ポップ(オランダ)  2006年12月 2日
ジェイ・マクシャン(ピアニスト) ブルース 2006年12月 7日
アーメット・アーティガン アトランティック創業者 2006年12月14日
ジェームス・ブラウン ファンク 2006年12月25日
カール・ハインツ・シュトックハウゼン 現代音楽の作曲家 2007年12月 5日
アイク・ターナー(アイク&ティナ・ターナー)  ソウル、ロック  2007年12月12日
オスカー・ピーターソン ジャズ 2007年12月23日
オデッタ フォーク 2008年12月 2日
遠藤実 歌謡曲の作曲家 2008年12月 6日
フレディ・ハバード ジャズ 2008年12月29日
喜納昌栄 琉球民謡 2009年12月24日
キャプテン・ビーフハート ロック 2010年12月17日
ヒューバート・サムリン(ハウリン・ウルフのギタリスト) ブルース 2011年12月 4日
ラルフ・マクドナルド(パーカッショニスト) ジャズ 2011年12月18日
デイヴ・ブルーベック  ジャズ  2012年12月 5日
ラヴィ・シャンカール(シタール奏者、作曲家) インドの民族音楽 2012年12月11日
ネルソン・マンデラ 南アの政治指導者 2013年12月 5日
ジム・ホール(ギタリスト) ジャズ 2013年12月10日
かしぶち哲郎(ムーンライダーズ J−ロック 2013年12月17日
大滝詠一はっぴいえんど J−ポップ 2013年12月30日
ボビー・キーズ(ストーンズのサポート・メンバー) ロック  2014年12月 2日
イアン・マクレガン(フェイセズ、スモール・フェイセス) ロック 2014年12月 3日
ジョー・コッカー ロック  2014年12月22日
レミー・キルミスター(モーターヘッド) ロック  2015年12月28日 
ナタリー・コール ソウル、ポップ  2015年12月31日
グレッグ・レイク(E・L&P) プログレッシブ・ロック 2016年12月 7日
ジョージ・マイケル(ワム!) ポップ・ロック 2016年12月25日 
ピエール・バルー  フレンチ・ポップ 2016年12月28日 
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