- ニューウェーブに乗って -

ザ・ポリス The Police

この年の出来事 代表的な作品 デビュー 物故者
<小樽経由のパンク>
 この年、僕は東京中野の四畳半の部屋で下宿生活をしていました。狭い部屋にはオーディオ・セットを置くスペースなどもちろんなく、ラジカセで小樽から持ってきたテープを聴くのが精一杯でした。なにせ、そのころはFM放送といえばNHKのFMとFM東京だけで、気の利いた音楽番組は、まだまだ少なかったのが現状だっただけに、弟が貸してくれるカセットは実にありがたいものでした。そのうえ、弟はまだ高校生で小樽に住んでいたにもかかわらず、とにかく音楽情報通でした。いちはやくレゲエ・ブームを察知してその火付け役となった「ハーダー・ゼイ・カム」のサントラ盤を買ってきたり、ロンドンのパンク・ブームとなれば、すかさずセックス・ピストルズを録音してくれました。(後でわかったが、弟には、筋金入りのパンク・ファンの友達がいた。小樽でパンクのあのヘアー・スタイルを実践した先駆けだったようです)おかげで、パンクに飛びつくには年をとりすぎていた?僕も、いっぱしのパンク通になってしまいました。

<パンク?ニューウェーブ?>
  この時期登場し、その後も活躍を続けたバンドの数は、ロックが熱かった60年代末に匹敵するかもしれません。
 セックス・ピストルズエルビス・コステロXTCクラッシュスペシャルズ、ジャパン、パティ・スミスラモーンズ、テレヴィジョン、プリテンダースPIL、マッドネス、ポップ・グループ、ギャング・オブ・フォー、ブームタウン・ラッツ、ジャム、…etc. そしてポリス。しかし、これらパンクからニューウェーブへの転換期に登場してきたバンドを改めて思い出してみると、本質的な意味でパンク・バンドだったと言えるのは、ほんのわずかだったことに気づかされます。

<パンク・ロックとは>
 パンク・ロックは、ギターもろくに引けない10代の悪ガキたちが、日常の不満と有り余るエネルギーのはけ口として、バンドをつくって演奏を行うことから始まったと言われています。そこには、一流のテクニックはなくても、かつてロックが持っていた本質的な部分、「魂の叫び」とも言えるものがありました。だからこそ、世界中の若者たちがこの原始的とも言えるサウンドに飛びついたのです。その代表的な例が、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスでしょう。彼はセックス・ピストルズに入るまで、楽器などさわったこともありませんでした。(それどころか、バンドに入ってからも、ベース・ギターはほとんどその役目を果たすことはありませんでした)しかし、そのおかげで彼は生き方そのものが「パンク」と言われるようになり、パンクの象徴的存在になり得たのです。しかし、上にあげたバンドのほとんどは、そんなシド・ヴィシャスのようなタイプとは全く縁遠い存在ばかりです。アーティスト系のパティ・スミ、テレヴィジョン、インテリ系のエルビス・コステロXTC、アバンギャルド系のポップ・グループ、ギャング・オブ・フォー、スカ系のスペシャルズマッドネス、アイドル系のジャパン(最初は)、それにプリテンダースのリーダー、クリッシー・ハインドはロック雑誌の評論家でキンクスの追っかけでした。ジャムポール・ウェラーの解散後の道のりからも分かるとおり、ソウル・マニアのバンドでした。正統派?パンクバンドと呼べるのは、セックス・ピストルズクラッシュラモーンズぐらいではなかったのでしょうか。(かなり乱暴な見解ですが・・・)

<ポリスというバンド>
 そんな中でも、ポリスというバンドは特にパンクとは縁遠い存在でした。まずバンドの中心であり、ヴォーカルとベースが担当のスティングは、元高校教師でジャズバンドに在籍していました。ギターのアンディー・サマーズは、60年代から活躍している孤高のギタリスト、ケヴィン・エアーズ率いるソフト・マシーンに参加したこともある名うてのギタリストでした。そして、唯一のアメリカ人、ドラムスとパーカッション担当のスチュワート・コープランドはというと、プログレッシブ・ロック・バンド系のカーブド・エアというバンドに在籍していたパーカション・マニアともいえる学究派の人物でした。彼らは、技術も、経験も、実績も有る本格派のバンドだったのです。

ポリスについての詳細ページはここから

<パンク・ロックの功績>
 では、それだけ優秀なバンドだったら、黙ってもあれだけの活躍ができたのでしょうか?たぶんそううまくは行かなかったでしょう。そして、そこにこそ「パンク・ムーブメント」がもたらした本当の意義があるのかもしれません。
 パンク・ブームはレコード購買層多様化のきっかけとなり、メジャーのレコード会社も、今までにない音楽を探すようになりました。その結果、
 誰でも、どんなへたくそでも、バンドをつくり、好きな音楽を演奏できるようになり、お金持ちでなくても、レコード会社をつくって、好きなレコードを販売できるようになったのです。
 そのおかげで、数年前ならまったく無視されたであろう前衛的、芸術的なサウンドがメジャー・デビューする事が可能になったのです。ポップ・グループやPILのような過激なバンドが登場できたのは、こんな時代だったからこそなのです。(この点は、60年代末の状況に似ているかもしれません。ヴェルベット・アンダーグラウンドマザーズのようなバンドも、あの時代のサイケで自由なな空気が生んだスターでした)
 こうしてパンク・ロックは、ロックの世界にその原点へと戻る先祖帰りをもたらし、新しい進化の道筋を築くことになったのです。このような過去への進化の流れを、生物学では「幼形進化」ネオテニーと呼びます。これは生物の世界において、進化が行き詰まった時、しばしば登場する作戦なのです。
<ニューウェーブの登場>
 
こうして、パンクは時代の新しい波を起こし、その波に乗って一躍スター街道を駆け上がったのがポリスでした。彼らの出世作であるこの年発売の「レガッタ・デ・ブランク」を改めて聴くと、ポリスというバンドがギター、ドラムス、ベースという最小編成の超ハイテク・トリオによるホワイト・レゲエ・バンドであり、パンクが破壊した古い壁を越えて登場した新しいタイプのバンドだったことがはっきりわかるはずです。こうした新しいタイプのバンドが、「ニューウェーブ」と呼ばれるようになり、ポスト・パンクの中心として80年代をリードして行くことになる。

<追記-さらばパンクの友よ>
 「パンクの時代」は、ある意味では消え去ってしまった無数のへたくそなバンドたちによって築き上げられたとも言えるかもしれません。その意味では、彼らこそが、真のパンク・バンドだった言うべきなのかもしれません。

関連するページ
セックス・ピストルズ
(ブリティッシュ・パンク)
パティ・スミス
(NY・パンク)
クラッシュ
(パンクからニューウェーブ)
エルヴィス・コステロ
(ニューウェーブ)
XTC
(ニュー・ウェーブ)
ラモーンズ
(NY・パンク)
映画「シド・アンド・ナンシー スペシャルズ
(激動の80年代へ)

     アンダーラインの作品は特にお薦め

ロック系
哀愁のマンディ」 The Boomtown Rats
"Armed Forces" Elvis Costello
"Are You Grad To Be In America" James Blood Ulmer
(ジャズ系ジミー・ヘンドリックスとでも言うべきか?)
"Breakfast In America" Supertramp
"Broken English" Marianne Faithful
"Candy -O" The Cars
"Discovery" Electric Light Orchestra
"Do It Yourself" Ian Dury
"Drums And Wires" XTC
生存学未来論 Duty Now For The Future」 Devo
"Extensions" Manhattan Transfer (ジャズ系ポップの傑作)
" Eskimo " The Residents (超未来派前衛ロックの代表作)
"Fear Of Music" Talking Heads (アフリカン・ポップ時代を予見した名作)
"Freeze Frame" Godley & Creme(10CC分派の最強コンビ)
"Get The Knack" The Knack (究極の一発屋)
"Gimme Some Neck" Ron Wood
"Hydra" TOTO
破壊」 Tom Petty & The Heartbreakers
"Into The Music" Van Morrison
"Kenny愛のメッセージ" Kenny Rogers
"London Calling" The Crash (ロンドン・パンクを代表する作品)
"Living In The USA" Linda Ronstadt
"Mingus" Joni Mitchell (チャーリー・ミンガスに捧げた異色のアルバム)
"Partners In Crime" Rupert Holms (AORの代表的ヒット作)
"Rose" Bette Midler (ジャニスをモデルにした映画「ローズ」のサントラ盤)
"Rust My Never Sleeps" Neil Young ("Hey Hey,My My"収録)
"Second Edition" Public Image Limited
"Setting Sons" The Jam
シーク・ヤブーティー Sheik Yerbouti」 Frank Zappa(ザッパ最大のヒット作)
失われた愛の世界」 The Bee Gees
"The Wall" Pink Floyd  
"Wave" Patti Smith
"You Are Only Lonely" John David Souther
ソウル系
"Off The Wall" Michael Jackson
「危険な関係 Risque」Chic
黙示録Earth,Wind & Fire
"Journey Through The Secret Life Of Plants" Stevie Wonder
ヒップ・ホップ系
"Sugarhill Gang" Sugarhill Gang (元祖ラップ「ラッパーズ・ディライト収録)

"Show Case" Black Uhuru
"Survival" Bob Marley
"Forces Of Victory" Linton Kwesi Johnson(ダブ・ポエットの第一人者)
サルサ系
"Soy La Ley" Pete El Conde Rodriguez
"Maestra Vida" Ruben Blades
"Tierra Musica Y Sentimiento" Tito Valentin
"Solo" Willie Colon(ソロ・デビュー作、スケールの大きな作品)
"Popeye El Marino" Adalberto Santiago
(ファニアを代表するヴォーカリストのソロ・アルバム)
ブラジリアン・ポップ(MPB)系
サンバの宴」Beth Carvalho
"Gal Tripical" Gal Costa(トロピカリズモのミューズ、その最高傑作)
ある夜」 Ivan Lins
J−ポップ系
悲しいほどお天気 荒井由実
真空パック」シーナ&ザ・ロケッツ(「ユー・メイ・ドリーム」収録)
セクシャル・バイオレットNo.1」桑名正博
"Solid State Saviver" YMO
10ナンバーズ・カラットSouthern All Stars
天然の美近田春夫
TOKIO」沢田研二
東京ロッカーズ」(和製パンク・バンドのオムニバス)
熱狂・雷舞!」沢田研二
ファイアー・クラッカーYMO(海外向け12インチがブレイク!)
微笑みの法則」柳ジョージ&レイニーウッド
マラッカ」 Panta & Hal (和製骨太ロックの最高傑作)




ロック系
Brian Adams "Give Me Your Love"
The B-52's "The B-52's"
Cabaret Voltaire "Mix-Up"
The Cure "Three Imaginary Boys"
Eurythmics "The Tourist"
Fabulous Thunderbirds "Girls Go Wild"
Gang Of Four "Entertainment !"
The Human League
「人類零年」
Joe Jackson "Look Sharp"
James Blood Ulmer "Tales Of Captain Black"
Joy Division "Unknown Pleasure"
The Knack "Get The Knack"
Lucinda Williams "Ramblin'"
The Madness "One Step Beyond"
Orchestral Manoeuvres In The Dark "Electricity"
The Pop Group "Y"
Pretenders
"Pretenders"
Pat Benatar 「真夜中の恋人たち」
Ricky Lee Jones"Ricky Lee Jones"
The Specials "The Specials"
Simple Minds "Life In A Day"
U2 "Three"
J−ポップ系
アレキサンダー・ラグタイム・バンド「ARB」
越 美春「おもちゃ箱第一幕」
P-Model  「イン・ア・モデル・ルーム」


 Sid Vicious (Sex Pistols)    2月 2日  薬物中毒  21歳 
 Lowell George(Little Feet)   6月29日  心不全  34歳
 Jimmy McCulloch (Wings)    9月27日  心不全   26歳
 Demetrio Stratos (Area)   6月13日  白血病  34歳
 Donny Hathaway    1月13日  自殺   33歳
 Minnie Riperton    7月12日  癌  31歳
 Van McCoy    7月 6日   心不全  35歳
 Charlie Mingus    1月 5日  心臓麻痺  56歳
 Nino Rota    4月10日  凝血  68歳
 



国連インドシナ難民対策会議
WHO天然痘の根絶を宣言
国際金相場が急騰
<アメリカ>

米中国交正常化
スリーマイル島放射能漏洩事故発生
米ソSALT U基本合意成立
イランの米国大使館占拠事件発生
エルサルバドル政変
ソモサ体制をサンディニスタたちが倒し、ニカラグア革命成立
<ヨーロッパ>
サッチャー女史、英国首相に就任(超保守派内閣成立)
ソ連、アフガニスタンに侵入(カルマル政権樹立)
<アフリカ・中東>
エジプト・イスラエル中東和平条約調印
イラン革命、ホメイニ氏によるイスラム教主導の政権へ
OPEC原油値上げを決定
ウガンダ、アミン大統領の独裁政権崩壊
ジンバブ=ローデシアに黒人政権成立、ジンバブエ誕生
<アジア>
ヴェトナム軍、プノンペンを攻略
中国軍、ヴェトナムを攻撃(カンボジア問題)
韓国、釜山で暴動発生
KCIA部長の金載圭、朴大統領を射殺
<日本>
東京サミット開催(第5回主要先進国首脳会議)

<芸術、文化、商品関連>
「カチアートを追跡して」ティム・オブライエン著(全米図書賞)
「テムズ河の人々」ペネロピ・フィッツジェラルド著(ブッカー賞受賞)
「利腕」ディック・フランシス著(英国推理作家協会賞受賞)
「針の眼」ケン・ウォレット著(エドガー賞)
エズラ・ヴォーゲル著「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」発表される
小説「風の歌を聴け」で村上春樹デビュー
SONYが「ウォークマン」を発売
テレビ・アニメ「機動戦士ガンダム」放映開始


<音楽関連(海外)>
シュガー・ヒル・レーベル設立
ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズがシュガーヒル・ギャングに対し、「ラッパーズ・ディライト」での「グッド・タイムス」盗用の訴訟を起こす。
(それまで野放し状態だった他人の曲のサンプリングが問題となる)
2トーン・レーベルを中心に「スカ」ブームが起きる
YMOによるテクノポップ・ブーム
ニューヨークで反核コンサート「ノー・ニュークス」開催
<音楽関連(国内)>
日本国内でもパンク・バンド、テクノ・バンドが急増

<映画>
この年の映画はここから!
Apocalypse Now  (監)フランシス・F・コッポラ(音)Carmin Coppola、F.F.コッポラ(カンヌ映画祭パルムドール、国際批評家連盟賞受賞)
Manhattan  (監)ウディ・アレン(音)Dick Hyman(ウディ・アレンの代表作)

[1979年という年] 橋本治著「二十世紀」より 2004年11月追記
 「小さなウサギ小屋に住む仕事中毒患者」という日本人に対するレポートが発表される。
 インベーダー・ゲーム、ウォークマン、ノーパン喫茶の登場。
「『心の時代』という当時の流行語は、社会構造の変革を表すものではなかった。既存の社会秩序はそのままに温存して、『そこから少しだけ逃げ出したい』という願望を肯定する程度のものだった」
「インベーダー・ゲームとウォークマンは、やがてコンピューター・ゲームと携帯電話という、二十世紀末日本の最大産業へと発展する」
「社会の中で、人は公然と自分自身の孤立を表明して、しかし悩まない。悩む理由がない。悩む必要が分からない。社会は、その基本構造を変えないままにあって、人の孤立は、もう当たり前になっていた。その『社会の中の逃避』は、1979年に始まる」

<作者からのコメント>
 当時の僕はウォークマンにいち早く飛びついた人間でした。通学、旅行などに、常に僕はウォークマンを持ち歩いていたものです。それは音楽を聴くためというよりは、生活を自ら演出するための道具でした。しかし、それはあくまで自己満足の範囲であり、それ以上でも以下でもありませんでした。
 ちなみに今の僕はウォークマンのたぐいは一切持ち歩いていません。旅に出ても、音楽より車内のお客さんのおしゃべりを聞く方が楽しくなりました。それにどうしても音楽が聴きたくなれば、頭の中には再生できる音楽がたっぷりあるので、思い出して口ずさむことにしています。
                                  

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