- リデンプション・ソング 贖いの歌 -

ジョン・レノン John Lennon

この年の出来事 代表的な作品 デビュー 物故者
<危険な年>
 1980年は実にいやな年でした。それは、僕個人の経験だけでなく、世界全体にとっても、キューバ危機以来最も暗く危険な年でした。前の年から続いたイランのアメリカ大使館占拠事件とソ連のアフガニスタン侵攻から始まり、イスラム過激派の指導者ホメイニ氏の登場により、ついにイラン・イラク戦争が始まりました。
 アメリカでは、ハト派のカーターからタカ派のレーガンへと大統領が交代。
そして、モスクワ・オリンピックのボイコット問題では、いよいよ日本も不穏な世界の動きに巻き込まれることになり、オリンピックへの不参加を決めました。
 この年、全世界は核戦争勃発という最悪のシナリオに、あとわずかのところまで近づいていました。
 そのうえ、何故かこの年は異常に多くのアーティストが亡くなった年でもありました。もちろん、死因は自殺ばかりではないのですが、これも時代を覆った重苦しい雰囲気の一因となったことは確かです。

<ジョン・レノン、復活と死>
 この年12月8日、ジョン・レノンの暗殺事件は、そんな暗い一年にとどめをさすかのように起きました。
 しかし、「ダブル・ファンタジー」という十年ぶりのアルバムが発表された直後でなかったら、彼の死はあそこまで人々を悲しませることにはならなかったかもしれません。1975年にアルバム「ロックン・ロール」を発表して以来、彼は息子ショーンの子育てに専念するため、音楽の世界から離れ、すっかり過去の人になっていました。それが、ショーンの「パパは、昔ビートルズだったの?」という問いかけによって、再び活動を再開、このアルバムが生まれました。
 「スターティング・オーバー」という再スタートにぴったりの曲から始まるこのアルバムは、ジョン・レノンの新たな伝説の始まりとなるはずだったのです。それだけに、彼の突然の死は世界中の多くの人々に大きな衝撃を与えました。

<ダブル・ファンタジー>
 とはいえ、残念ながらこのアルバムは、ジョン・レノンにとって最良の作品であるとは言えないかもしれません。ジョンの作品のうち、「スターティング・オーバー」や「ウーマン」は確かに素晴らしい曲ですが、あまり印象に残らない曲が多いのも確かです。かえって、オノ・ヨーコの「Kiss Kiss Kiss」「Hard Times Are Over」のほうがよほどインパクトのある仕上がりになっています。しかし、それでもなお「ダブル・ファンタジー」は作品の評価を越えて光り輝いています。それはたぶん、彼の存在がミュージシャンの枠を越えた存在、究極のパフォーマーだったことの証明なのでしょう。世界平和のためにオノ・ヨーコと行った「ベッド・イン」など数々のパフォーマンス、「子育て」に専念することで、それを重要な創造行為に高めたこと、アッという間に鉛筆一本で素晴らしい絵を書き上げる才能など、彼は生き方そのものが「素晴らしいパフォーマンス」でした。その意味でも、彼のミュージシャンとしての復活は、新たなパフォーマンスの始まりであり、音楽作品としてだけ評価する訳にはいかなかったのです。しかし、この「復活」というパフォーマンスが、もうひとつのパフォーマンス「暗殺」のきっかけになってしまうとは。運命とは、なんと皮肉なことでしょう!

<ジョン・レノンの死>
 ジョン・レノンの死は、ロック界最大のカリスマの死であるだけでなく、ロック文化圏に住む人々にとって、ひとつの時代の終わりを示すものだと思った人が世界中にどれだけいたでしょう。こうして20年以上が過ぎた今、改めて考えてみると、あの重苦しい年「1980年」は、ジョンの死による「贖い」(あがない)によって、かろうじて最悪の事態を免れたのではないのだろうか?僕にはそう思えます。そして、今の僕があの頃のように「ペシミスト」ではなくなったのも、彼のおかげなのかもしれないとも思います。あの当時、聴く度に暗い思いになった「スターティング・オーバー」も、今は僕にとって「さあ、がんばるぞ!」という元気を与えてくれる曲になりました。あれからもう20年が過ぎたとは!我ながら年をとったはずだ。(まさか、2000年に再びデジタル・リマスタリングによって、このアルバムがヒットするとは!)

関連するページ
ジョン・レノン&オノ・ヨーコ
(前編)
ジョン・レノン&オノ・ヨーコ
(後編)
ザ・ビートルズ



ロック系
"Against The Wind" Bob Seger& The Silver Bullet Band (大ヒットアルバム、でも日本では受けず)
"Arc Of A Diver" Steve Winwood
(ホワイト・ブルース・ヴォーカルの先駆け、復活のソロ・アルバム)
"Back In Black" AC/DC
"Black Sea" XTC
エノラゲイの悲劇」 Orchestral Manoeuvres In The Dark
"For How Much Longer…" The Pop Group
(過激なアバンギャルド・ファンク、でもレジデンツの方が先だったかも)
"Freedom Of Choice" DEVO
"The Game" Queen
"Glass House" Billy Joel
"Gaucho" Steely Dan
禁じられた夜」 REO Speedwagon
モダン・ヴォイス」 Daryl Hall & John Oates
"Mondo Bongo" Boomtown Rats (アフロ系ファンク)
"Night Clubbing" Grace Jones
"One For The Road" The Kinks (格好良いライブ・アルバム!)
"Peter Gabriel V" Peter Gabriel(P.ガブリエル時代の到来)
"Panorama" The Cars
"Quiet Life" Japan
ラジオスターの悲劇」The Buggles
"The River" Bruce Springsteen (2枚組にロック・ロール満載)
"Remain In Light"Talking Heads"
(アフロ系ファンクの金字塔!SF的歌詞も斬新だった)
"Sandinista" The Crash
"Solid Gold" Gang Of Four
"Shadows And Light" Joni Mitchell
ソウル、ファンク系
"Are You Glad To Be In America" James Blood Ulmer
(ジャズ・ファンクの新しいスタイル、ラフトレイドから発売)
"Blues Brothers" Blues Brothers(サントラ)
(R&Bに愛を込めて。映像とセットで必要です)
"Crawfish Fiesta" Professor Longhair
(ニューオーリンズ・ファンクの生き神様)
"Defunkt" Defunkt
"Go All The Way" The Isley Brothers
"Good Times" Chic (N.ロジャースはプロデューサーとしても活躍)
"In Performance" Donny Hathaway

"Bass Culture" LKJ
"I Wah Dub" Dennis Bovell
(ダブ、ポエトリー・リーディングによる新たなレゲエスタイルの登場)
"Sinsemilla" Black Uhuru
"Uprising" Bob Marley
"ASWAD Showcase" ASWAD
サルサ系
"Ya Yo Me Cure" Jerry Gonzalez
"Looking Out For Numero Uno"Robert Roena
"Folklorico Tropical" Conjunto Canayon
(プエルトリコをリードしたTHレーベルのハウス・バンドの代表作)
"Maestra Vida" Ruben Blades
(ヒスパニックのある家族の歴史物語、まるで映画のような世界)
ジャズ系
アーバン・ブッシュマン」 Art Ensemble Of Chicago
ブラジリアン・ポップ(MPB)系
輝く愛のために」Antonio Carlos & Jocafi
"Realce"Gilberto Gil
(サンバの時代からMPBの時代へ)
イスラム圏のポップス
連れてって…恋人よ」 Magida El Raumi
(フェイルーズ以後のアラブ歌謡を代表する女性歌手)
J−ポップ系
軋轢フリクション(ジャパニーズ・パンクの最高峰!)
アンジェリーナ佐野元春
1980XPanta & Hal鈴木慶一プロデュースの傑作ロック)
On The Street Corne
r
" 山下達郎
(「ライド・オン・タイム」のヒットで可能になった究極のヴォーカルアルバム。達郎のライフワークかも)
カメラ=万年筆Moon Riders (ヌーベルバーグ映画へのオマージュ)
タイニー・バブルスSouthern All Stars
大都会」 クリスタル・キング(歌謡ロック、演歌ロック?)
ダウン・タウン」EPO
ダンシング・オール・ナイト」もんた&ブラザース
"Blood Line" 喜名昌吉&チャンプルーズ(R.クーダーと共演!)
ぶっちぎり」横浜銀蝿
ラプソディーRCサクセション
ランナウェイ」シャネルズ
流線型80荒井由実
ロマンティーク」大貫妙子




ロック系
Adam & The Ants "King Of The Wild Frontier"
Bauhaus "In The Flat Field"
Bow Wow Wow "See Jungle! See Jungle!"
Brian Adams "Give Me Your Love"
Christopher Cross 「南から来た男」
Def Leppard "On Through The Night"
The Drutti Column "The Return Of The Drutti Column"
Echo & The Bunnymen "Crocodiles"
The Feelies
"Crazy Rhythms"
Huey Lewis & The News "Huey Lewis & The News"
Iron Maiden 「鋼鉄の処女」
Killing Joke "Killing Joke"
Psychedelic Furs "Psychedelic Furs"
Q-Tips "Q-Tips"
Sonic Youth "Sonic Youth" (オルタナへの橋渡し役となったノイジー・ロック)
The Selector "To Much Pressure"
Stray Cats "Stray Cats"
U2 "Boy"
UB 40 "Signing Off"
ファンク、ラップ系
Zapp "Zapp"
The Sugerhill Gang "The Sugarhill Gang"(ラップ時代の到来を告げた作品)
ブルース
Robert Cray "Too Many Cooks" (ブルース新時代のヒーロー)
サルサ系
Adalberto Alvarez(ソン・カトルセ) "A Bayamo en Coche"
J−ポップ系
アナーキー 「アナーキー」
佐野元春 "Back To The Street"
サンディー「イーティン・プレジャー」
ハウンド・ドッグ「ウェルカム・トゥー・ザ・ロックンロール・ショー」
ヒカシュー「ヒカシュー」
プラスティックス「ウェルカム・プラスチックス」
リザード「邪都戦士バビロン・ロッカー」
ルースターズ「ルースターズ」
山下久美子「バスルームから愛をこめて」


John Lennon  12月 8日   射殺 40歳  
Vladimir Vyssotski  7月25日 心不全 42歳
Ian Curtis(Joy Division)  5月18日 自殺 23歳
Keith Godchaux(Grateful Dead)  7月23日 オートバイ事故  32歳
Tommy Coldwell(Marshall Tucker Band)  4月28日 交通事故 30歳
Bon Scott(AC/DC)  2月19日 窒息死 33歳
Tim Hardin 12月29日 心臓麻痺 39歳
John Bonham(Led Zeppelin)   9月25日 窒息死 33歳
O.V.Wright 11月16日 心臓病 41歳
Amos Milburn  1月 3日 脳卒中 52歳
Proffeser Longhair  1月30日 心臓病 61歳
Cartola 11月30日 72歳
Vinicius De Moraes  7月 9日 肺水腫 66歳
Gabby Pahinui 10月13日 心臓病 59歳
木田高介ジャックス  5月18日 自動車事故 31歳 




※上記文章内の事件を参照のこと
第6回主要先進国首脳会談(ヴェネチア・サミット開催)
国連世界婦人会議(婦人差別撤廃条約署名)
<アメリカ>
ヴォイジャー1号土星に再接近、探査成功
<ヨーロッパ>
ポーランドで自主管理労組「連帯」結成
ユーゴの指導者、非同盟諸国のリーダー、チトー死去
フランスの哲学者ジャンポール・サルトル死去
イギリスの映画監督アルフレッド・ヒッチコック死去
<アフリカ・中東>

ジンバブエ共和国完全独立
ナミビアに白人自治政府発足
エチオピア・ソマリア紛争再燃
<アジア>
インドで総選挙、ガンジー内閣成立
中国ヴェトナム国境紛争発生
韓国で光州事件発生
韓国、全大統領就任
<日本>
大平総理大臣の死により鈴木内閣成立
校内暴力、家庭内暴力が急増
日本車が生産台数世界一になる

<芸術、文化、商品関連>
「薔薇の名前」ウンベルト・エーコ著(伊)
「ソフィーの選択」ウィリアム・スタイロン著(全米図書賞)
ガープの世界」ジョン・アーヴィング著(全米図書賞)
「死刑執行人:殺人者ケリー・ギルモアの物語」ノーマン・メイラー著(ピューリツァー賞受賞)
「通過儀礼」ウィリアム・ゴールディング著(ブッカー賞受賞)
映画「アメリカン・ジゴロ」のヒットでアルマーニのスーツがブームになる
向田邦子が「思い出トランプ」で直木賞を受賞
ナムコ「パックマン」発売
ルービック・キューブが大ブームになる
西友の「無印良品」ブランド展開開始


<音楽関連(海外)>
チャーリー・パルミェーリがN.Y.からプエルトリコへ帰る
ニューロマンティック、ジャングル・ビート、ファンカラティーナがブームに
<音楽関連(国内)>
山口百恵引退・結婚(「しあわせになります」の言葉を残し、三浦友和と結婚)
佐野元春が「アンジェリーナ」で華々しくデビュー
その他、ルースターズ、ヒカシュー、プラスチックス、サンディー、リザード、アナーキー、ハウンド・ドッグ、山下久美子がデビュー。RCサクセションがアルバム「ラプソディー」でブレイクし、山下達郎が「ライド・オン・タイム」でブレイク。ニューミュージックの時代からJ−ロックの時代への転換点だったのかもしれません。
日本初のレンタル・レコード店、東京三鷹市にオープン

<映画>
この年の映画についてはここから!                                                      

[1980年という年] 橋本治著「二十世紀」より 2004年11月追記
「日本人にとっての1980年は、『山口百恵引退の年』である。・・・一人の歌手の婚約、引退が、なぜそれほど大事となったのか?それは、彼女の引退が、『近代日本人にとっての理想の達成と終焉』を告げるものだからである。
「『新しい女の時代』に、山口百恵は少しも新しくなかった。山口百恵の新しさは、新しさが主流になろうとする時代に、平気で”古さ”を掲げたことだった。(この年、日本初の女性向け就職情報誌『とらばーゆ』が創刊されています)
「山口百恵とはなんだったのか?彼女は、『貧しさから抜け出すことと、愛を得て幸福になることはイコールである』という、それまでの日本人の常識ーあるいは幻想、または理想を、公然と達成してしまった最初の人物である。・・・(と同時に最後の人物でもある)」

<作者からのコメント>
 山口百恵は、アイドル歌手の歴史上唯一「女の色気」で人々を魅了したと言えます。それも単に安っぽい「色気」ではなく、女性が少女から大人へと変身する際に発する繊細で強烈な「色気」でした。そう考えると、彼女の結婚、引退は当然の帰結であり、そうでなければならなかったのかもしれません。僕と弟が昔使っていた部屋には、今でも山口百恵の大きなパネル写真が飾ってあります。

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