- アイルランドから、ロックの故郷へ -

U 2      

この年の出来事 代表的な作品 デビュー 物故者
<1980年代後半を代表するロック・バンド>
 1980年代後半、世界のロック・シーンで最も活躍したバンドは?
その問いにU2と答えることに異議を唱える人は、ほとんどいないでしょう。あえて対抗馬をあげるなら、アメリカにおけるR.E.M.の活躍が目を引くことくらいでしょう。そして、その頃の彼らの最高傑作と言えるのが、この「ヨシュア・トゥリー」です。

<混乱の国、アイルランドが生んだヒーロー>
 U 2は、いまだ独立問題が解決しない混乱の国、アイルランド出身のバンドです。そしてそのことは、ビートルズのメンバーのうち3人がアイルランド系だったこととは、比べものにならないほど、彼らの音楽性に大きな影響を与えています。このアルバムにおさめられている曲にも、アメリカによるエルサルバドル、ニカラグア侵攻への痛烈な批判、南アフリカのアパルトヘイトに対する抗議の曲などがあり、彼らの政治に対する積極的な姿勢が現れています。

<ヨシュア・トゥリー>
 彼らはこのアルバムをひっさげ、アルバム・タイトルになっている「ヨシュア・トゥリー」の立つ国、アメリカへと旅立ちました。ヨシュア・トゥリーとは、アメリカ南部の砂漠地帯に立つ木で、枯れ木のようでありながら大地にしっかりと根を張ったその風貌から「不老不死の木」とも呼ばれているそうです。その名の元「ヨシュア」は、旧約聖書に登場する偉大な予言者の名前で、彼は110歳まで生きたと書かれています。(今ではそれほど珍しくはないのですが)

<ロックの故郷へ>
 もともと、彼らのアメリカン・ツアーは巨大な市場であるアメリカ大陸を制覇することが目的ではなかったようです。それは、ロックの故郷への巡礼の旅、自分たちのルーツを探る旅でした。だからこそ、彼らはツアーにおいて、B.B.キングボブ・ディランメンフィスホーンズなど、ルーツ・サウンドの大御所たちとの共演を各地で行なっています。(このツアーのライブ録音は、このアルバムの次に発表されたアルバム「魂の叫び」で聴くことができます)

<アイルランドこそロックのルーツだ>
 ここで興味深いのは、この頃から彼らの故郷、アイルランドこそ「ロックの故郷」であるとする歴史的解釈がずいぶんと語られるようになっていたことです。
 ロックの原型であるロックン・ロールは、R&Bやブルースに代表される黒人音楽とブルーグラスに代表される白人のカントリー・ミュージックがミックスされてできたというのは、今や「定説」です。しかし、さらにそのルーツをたどってゆくと、黒人音楽はアメリカ南部で生まれたジャズの原型となった奴隷たちがアフリカから持ち込んだ音楽へと至ります。そして、もうひとつの流れ、カントリーは、多くの白人たちがやって来たイギリス、ヨーロッパの音楽、トラッドへとへと行き着くのですが、さらにそのルーツをたどると、その先にはイギリスだけでなく、フランス、イタリア、スペインなどにいまだその影響を与え続けている謎の文化、ケルト文化へとたどり着くのです。そして、このケルト文化の中心地であり、今もその文化を色濃く残している国こそ、U 2の故郷「アイルランド」なのです。

<孤高の存在を維持する力>
 このアルバムで、彼らはあの砂漠に立つ「ヨシュア・トゥリー」のように神懸かり的な伝説の存在、孤高の存在としての地位を築いきました。しかし、彼らが本当に優れていたのは、その後も彼らが、巨大なプレッシャーに潰れることなく21世紀まで活躍を続けることです。
 彼らは、青い鳥を探しに出かけたヘンゼルとグレーテルのように、自分たちの故郷、アイリッシュ・サウンドの宝物「アイリッシュ魂」をアメリカの旅の中でも見つけたのかもしれません。彼らはこうして世界中を旅しながら、自らの音楽を常に再発見し続けているのでしょう。それこそが彼らのパワーの源かもしれません。

<追記- アイリッシュ系アーテイストの大活躍>
 U 2の大活躍は他の多くのアイリッシュ系アーティストたちに世界進出のチャンスを与えるという、重要な役目を果たしたことも忘れるわけにはいきません。
Enya "Watermark" , The Pogues "If I Should Fall Grace…"
Hothouse Flowers "People" , Van Morrison "Poetic Champion Compose"(元々有名でしたが・・・)
Sinead O'Connor "I Do Not Want What…" これ以外にもクラナドウォーター・ボーイズオイスター・バンドなどが、この時期いっきに世界中の注目を集めることになりました。かく言う僕もまた、この時期、アイリッシュ・サウンドの魅力にすっかり魅せられてしまったひとりです。

関連するページ
U2 ヴァン・モリソン
(アイリッシュ・ソウル)
チーフタンズ
(アイリッシュ・トラッド)
ポーグス
(アイリッシュ・パンク)
エルヴィス・コステロ
(ニューウェーブ)

     アンダーラインの作品は特にお薦め!

ロック系
"Bring The Family" John Hiatt (渋い大人のロック!)
"Cloud Nine" George Harrison(甦った元ビートルズ)
"Document" R.E.M (どの作品も良いが僕はこれが一番好き!)
"Faith" George Michael
"Get Rhythm" Ry Cooder (ライの作品中、ロック系の最高傑作)
"Live,Love,Larf & Loaf" French,Frith,Kaiser,Thompson
"Life" Neil Young
"Live For Ireland" Various Artists
"Nothing Like The Sun" Sting
"Men And Woman" Simply Red
"One Way Home" Hooters (若き日のディランのような活きの良さ)
パーマネント・ヴァケイション Permanent Vacation」 Aerosmith
"Poetic Champions Compose" Van Morrison
(どのアルバムも良いが、このアルバムは大好きです)
"Robbie Robertson" Robbie Robertson(ザ・バンドの要、さすがのソロ作)
"Sentimental Hygiene" Warren Zevon
(破滅の縁から帰還した男、これぞロック・アルバム!)
"Sex & Drugs & Rock & Roll" Ian Dury (これまたロックだぜ!)
"Solitude Standing" Suzanne Vega
ユーロポップ系
"Shopping" 3 Mustaphas 3(謎の疑似アラビック・ポップ・バンド)
"Gipsy Kings" Gipsy Kings(フランス産ワールド・ミュージック初の大ヒット)
"Re Niliu" Caravi (イタリア南部のトラッド・バンド、アラブの影響もあり)
ソウル、ファンク、ラップ系
"Acid Tracks" DJ Pierre,Earl Smith,Herb Jackson
(アシッド・ハウス、レイブ・カルチャーの先駆け大ヒット)
"Bigger and Deffer" L.L. Cool J
"Bad" Michael Jackson
"Hot,Cool & Vicious" Salt'N' Pepa
"Sign Of The Times" Prince (プリンスの有り余る才能は2枚組へ)
"Guilty" James Robinson
"Trying To Live My Life Without You" Otis Clay
(本国よりも日本で大受け、正調ソウル!)
"Unlimited !" Roger(このアルバムでザップ・グループがブレイク!)
"Trouble Over Here" Trouble Funk
"Yo! Bum Rush The Show" Public Enemy

"Roots Radics Rockers Reggae" Bunny Wailer
(ボブの戦友、レゲエ界の隠遁者のナチュラル・ハイな作品)
"Rhythm Killers" Sly & Robbie(独特のリズムで一時代を築く)
サルサ系
"Algo Diferente" Mario Ortiz
"Back To Work" Sonora Poncena
"Breaking The Rules" Luis P. Ortiz
"Disparand Salsa !"Hermes Manyoma
"The Entertainer2"Rubby Haddock(サルサのかっこよさ全開!)
"i Ahora Es Cuando Eh !" Orquesta Broadway (お洒落なサルサ)
"Keeping Cool !" Gilbert Santa Rosa(クールにきめてます)
"Let It Loose" Gloria Estefan & Miami Sound Machine
"30 Aniversario" Tommy Olivencia Y Su Orquesta
(プエルトリコの名門バンドの30周年記念アルバム)
"Today,Tomorrow & Always" El Gran Combo
(この頃のサルサは、本当に充実してました!)
メレンゲ系
"La Musica" Wilfrido Vargas(メレンゲ界の仕掛け人)
その他のラテン系
これがズークだ Pini Pou」 Kassav
(フランスを中心に大ヒットしたズークの代表的ヒット作)
"Malavoi Au Zenith" Malavoi (マルチニークの最高峰のライブ!)
アフリカン・ポップ系
"Soro" Salif Keita (驚異のヴォーカリストに世界中がびっくり!)
"Kaira" Toumani Diabate
(マリの伝統的弦楽器コラ奏者による新しいサウンド)
"Homeless" Ladysmith Black Mambazo
(南アを代表するアカペラ・コーラス隊、P.サイモンが世界に紹介)
ライブ・イン・オランダFranco Et Le T.P.O.K.Jazz
イスラム圏のポップス
"En Concert A Paris" Nusrat Fateh Ali Khan
"Abdel Aziz El Mubarak" Abdel Aziz El Mubarak
(スーダンのゆったりとしたダンス・バンド。他のアラブ諸国でも人気)
アジアン・ポップ系
我只在乎爾」 テレサ・テン
(「時の流れに身をまかせ」収録の北京語アルバム)
カランカン」 ニニン・メイダ(インドネシアで大ヒット)
J−ポップ系
Exitentialist A Go GoThe Beatniks
カップルズ Couples」 ピチカート・ファイブ
クリスタル・ナハトPANTA
グルーヴィン」久保田利伸
Get Wild」TMネットワーク(小室哲哉在籍)
Psychopath」Boowy
Star Light」光GENJI(デビュー曲)
バンドネオンの豹あがた森魚
(この作品からあがた森魚にはまってしまいました)
Hippies」小泉今日子
ヒューマン・システム」TMネットワーク
Made In Island久保田麻琴と夕焼け楽団
リクエスト」竹内まりや





ロック系
Guns N' Roses "Appetite For Destruction"
Happy Mondays "Squirrel And G-Man Twenty-Four Hour Party People Plastic Face Carnt Smile"
Primal Scream "Sonic Flower Groove"
Sinead O'Connor "The Lion And The Cobra"
Swing Out Sister "It's Better To Travel"
ソウル、ラップ、ファンク系
Bobby Brown "King Of Stage"
Glenn Jones "Glenn Jones" (打ち込み系ソウル・ブーム到来)
N.W.A. "Dopeman"
Public Enemy "Yo ! Bum Rush The Show" ,
Terence Trent D'Arby "Introducing The Hardline According To TTD" ,
J−ポップ系
コレクターズ「僕はコレクター」
Buck-Tick「Back-Tick」
ブルーハーツ「ブルーハーツ」(「リンダ・リンダ」が大ヒット
レピッシュ「パヤパヤ」
ローザ・ルクセンブルグ「ぷりぷり」


Fred Astaire  6月22日 肺炎 88歳
Snakefinger  7月 1日 心不全 38歳
Paul Butterfield  5月 4日 薬物の過剰摂取  44歳
Danny Kaye  3月 3日 心不全 74歳
Jonny Martin(Mighty Clowd Of Joy)  2月 6日 心筋梗塞 46歳
Clifton Chenier 12月12日   ?   62歳
Scott La Rock(Boogie Down Productions)  8月25日 射殺 25歳
Peter Tosh (元Wailers)  9月11日 射殺 42歳
Carlton Barrett(元B.マーリーのバック)  4月   射殺 ?歳
Ismael Rivera  5月13日 心不全 55歳
Jaco Pastoriusジョニ・ミッチェル参照)  9月21日   ? 35歳
Woody Herman 10月29日 心臓病 74歳
Alfred Lion(ブルーノート・レーベル・オーナー)  2月 2日   ? 78歳




国連人口白書、世界の人口が50億人を越えたことを発表
第13回主要先進国首脳会議ヴェネチア・サミット
<アメリカ>
米ソがINF(中距離核兵器)全廃条約調印
ロスアンジェルス大地震
アメリカの株式が86年に続き大暴落(ブラック・マンデー)
石油会社テキサコ倒産
ミスター・ポップ・アート、アンディー・ウォーホル死去
<ヨーロッパ>
ソ連でペレストロイカ(改革)が本格化
イギリスの作家、アリステア・マクリーン死去
<アフリカ>
南ア、ザンビアに侵攻
アンゴラ内戦拡大(南アが介入)
<アジア>
スリランカ人種紛争、コロンボで爆弾テロ事件
フィリピンで国軍が反乱
マカオ返還交渉調印チベットで独立要求の反乱
韓国、金大中氏復権
<日本>
竹下内閣成立
日米戦略防衛構想協定調印
円高加速一時139円に
国鉄が分割民営化、JR発足
東芝がココム違反、ジャパンバッシング強まる
安田火災海上がゴッホの「ひまわり」を53億円で落札する
石原裕次郎死去

<芸術、文化、商品関連>
「メンフィスへ帰る」ピーター・テイラー著(ピューリツァー賞受賞)
「ムーン・タイガー」ペネロピ・ライヴリー著(ブッカー賞受賞)
俵万智「サラダ記念日」が大ヒット
「ノルウェイの森」が大ヒットし、村上春樹ブーム到来
映画「となりのトトロ」大ヒット、スタジオ・ジブリが本格的ブームになる
DKNY(ダナ・キャラン・ニューヨーク)がマイクロファイバー製ジャージ製品を発売
「バブル」「ボディコン」「朝シャン」が流行語となる


<音楽関連(海外)>
"Acid Tracks"ヨーロッパで大ヒット、アシッド・ハウス、レイブ・カルチャー盛り上がる
グラミー賞に「ニュー・エイジ・ミュージック部門」が登場
(ウィンダム・ヒル・レーベルが静かに人気上昇)
<音楽関連(国内)>
BOOWY絶頂期に解散
ブルーハーツがインディーズ盤で3万枚売上てメジャーへ
日比谷屋音でのラフィンノーズのコンサートで観客3名が圧死
「HIROSHIMA '87〜'97 PEACE CONCERT」開催(被爆者擁護施設設立のための資金を集めるため)出演者は、安全地帯、佐野元春、ブルーハーツ、ストリート・スライダース、宇崎竜堂、尾崎豊、渡辺美里、バービー・ボーイズ、岡村靖幸、南こうせつ、久保田利伸、ツイスト、白井貴子、ハウンド・ドッグなど・・・。ロック界の成熟により大きな野外ライブが可能になる

<映画>
この年の映画についてはここから!

[1987年という年] 橋本治著「二十世紀」より 2004年11月追記
 1月、東京証券取引所の平均株価が2万円台の大台に乗る。2月、NTTが株式上場、買い手が殺到し値がつかず。同月、公定歩合が2.5%へ引き上げられ低金利時代が始まる。こうして、バブルが始まった。なぜ、バブルが生まれたのか?
「日本製品は良質で安い - だから、日本製品の輸入を野放しにすると、欧米の国内産業に打撃がでる。これを回避する方法が一つだけあった。それは、貿易の支払いを円建てにすることである」しかし、それは
「日本が輸出品に対して円建ての決済を迫るということは、『こっちは高級品を売ってるんだ、買いたきゃ分際を考えて買え』と言うことに等しい。こんな屈辱を”先進国”が呑めるわけがない。そして、それに関連してもうひとつ、日本にそれを言うだけの度胸と頭がなかったからである。・・・」
 結局日本は、輸出過剰のペナルティーを輸入で償う「内需への転換」方針をとる。
「それは、限界に達した世界経済と、既に役目を終えた銀行救済のために生まれた。『バブル』とは、破綻の先送りだったのである」

<作者からのコメント>
 要するに、破綻しかけていた世界経済を救済するために「バブル」は始まったということなのでしょう。日本人はどこまでもお人好しです。(単にずるいだけか?)
 とは言っても、それで甘い汁を吸い、なおかつ痛みも感じずにバブルの崩壊を乗り切った連中もいるわけです。世の中を動かすシナリオについて情報を握る人間はどこまでも有利にできているということです。しかし、情報を握って一喜一憂して生きることにどれだけの価値があるのか?そのことについて、問いかけようとする教育も倫理もマスコミもいなかったことこそ、バブル一直線に走った日本にとって最大の不幸だったと思います。

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