<ブラックからホワイトへ>
ヒップ・ホップは、ブラック・アメリカンによって生み出された新しい都市文化だったわけですが、かつて50年代、60年代にR&Bやブルースが世界中の若者たちを魅了したように、このブームは1980年代白人の若者たちの間に急速に浸透して行きました。ロックの歴史においては、60年代にビートルズやローリング・ストーンズのような白人のロック・ヒーローが登場することによって、いっきにその流れがメインストリームへと広がっていったわけです。これもまた、20世紀のポップス史における典型的な発展過程のひとつと言えるでしょう。
<ビースティー・ボーイズ登場>
そして、ヒップ・ホップの世界において、白人のヒーローとして登場したのが、このビースティー・ボーイズだったわけです。彼らは、もともとハードコア・パンク・バンドとしてスタートしていただけに、それまでのヒップ・ホップ・チームとはひと味もふた味も違っていました。彼らが好んでサンプリングしたのは、ソウルやファンクだけではなく、L.ツェッペリンやCCRなどロック系のサウンドでした。したがって、それはロック色の強いヒップ・ホップ・サウンドと言うより、ヒップ・ホップを導入したロックと言うべきものからスタートしていたのかもしれません。
<怖い者知らずの悪ガキたち>
このサウンド・スタイルが、時代が求めているものだったことは、すぐに明らかになりました。その証拠に彼らのデビュー作は、全米No.1へ到る最短記録を作ってしまいました。勢いに乗る彼らは、まさに怖い者知らずでした。それは、かつてローリング・ストーンズがツアーにおいて数々の武勇伝を残したのといい勝負でした。ホテルの部屋をメチャクチャにして追い出されるのは日常茶飯事で、彼らのわがままぶりは、手に負えないものだったようです。
しかし、そうかと思えば、チベットの独立を支援するチャリティー・コンサートを自らの手で開催するという進んだ考えも持っていました。それだけではなく、自分たちのレコード会社を設立して、雑誌まで発行したり、服飾のオリジナル・ブランドまで起こしてしまうなど、やることなすことが、ブームのきっかけになって行きました。それはまるで、かつてのビートルズのようでした。こうして、彼らは1986年のデビュー以来、ノン・ストップで活躍を繰り広げてきましたが、ほぼ定期的に発表されるアルバムこそ、彼らの評価を確実に上げる最大の表現方法であったことを忘れてはいけないでしょう。
<イル・コミュニケーション>
1994年に発売されたこのアルバムは、彼らの評価をワンランク高めた傑作であり、90年代型ポップ・ミュージックを代表する作品と言うことができるでしょう。
このアルバムにおいて、彼らはサンプリングによる従来のヒップ・ホップ・サウンドに、生のバンド演奏を重視したロック・サウンドを大幅に導入し、バンドとしての存在感をより強調することに成功しています。これは、あくまでも肉体性を追求しようとする彼らの意志の現れであり、それは多くの聴衆がロックに求めている根本的な部分でもありました。
そのうえ、中国の支配からの独立を目指すチベットの人々との関わり、チベット仏教への共感から、彼らはかつてビートルズがインドにこだわったように、チベットの音楽を自らのサウンドに導入しています。これもまた、ロックの持っている根本的な部分「反権力」の姿勢にこだわる彼らならではのやり方かもしれません。
<ロックの王道を行く?>
僕は、彼らのサウンド・スタイル、ライフ・スタイルこそ「ロックの王道」だと思います。その意味で、同じ時期に活躍していたニルヴァーナやパール・ジャムなどのグランジ系バンドたちよりも、彼らのほうがずっと「ロック的」であったとも思っています。そして、そんな一貫した姿勢を持っているからこそ、デビューから10年たった今でも、彼らは悪ガキぶりとストリート感覚を忘れることなく、「ロック的ヒップ・ホップ」のイノベーターとして活躍を続けているのではないでしょうか。
アンダーラインの作品は特にお薦め!
ロック系
" A Live One " Phish (最強のライブ・バンド初ライブ・アルバム)
"Brutal Youth" Elvis Costello (ひさびさのパワー全開ロック・アルバム!)
"Cracked Rear View" Hootie & The Blowfish(デビュー欄参照)
"Dookie" Green Day
"Downward Spiral" Nine Inch Nails (暗い!しかし、これが現実か)
"From The Cradle" Eric Clapton
(アンプラグドの大ヒットで実現可能になったブルース大好きアルバム)
"Give Out But Don't Give Up" Primal Scream
(ルーツ系ロックン・ロール・アルバムでいよいよ超一流へ)
"Hell Freezes Over" Eagles (14年ぶりの再結成アルバム)
"Latin Playboys" Latin Playboys
"Monster" REM (英米ともにNo.1を獲得したモンスター・アルバム)
"No Quarter" Jimmy Page & Robert Plant
(ツェッペリンのエッセンスが復活、中近東趣味満載!)
"Music For The Jilted Generation" The Prodigy
"Orange" The Jon Spencer Blues Explosion
(パンキッシュでノイジーなブルース・ロックにヒップ・ホップまで導入、強烈!)
"Protection" Massive Attack
"Second Coming" Stone Roses(ツェッペリン風の力強いバンドサウンド)
"Smash" Offspring
"Super Unknown" Soundgarden (ヘビメタ系グランジ・バンドの大ヒット作)
"Turbulent Indigo 風のインディゴ" Joni Mitchell
"Vitalogy" Pearl Jam(盟友カート・コバーン亡き後、制作され大ヒット)
"Voodoo Lounge" Rolling Stones
(ドン・ウォズのプロデュースで久々の好アルバム。ダリル・ジョーンズがベース)
"Walk On" Boston(最も寡作なバンドの究極のギターサウンド)
カントリー系
"American Recordings" Johnny Cash
(カントリー界の大御所が、シンプルで力強い歌の世界を展開)
ヒップ・ホップ、ソウル系
"Illmatick" NAS
"Brother Sister" The Brand New Heavies
(アシッド・ジャズ系バンドからポップチャートをにぎわすバンドへ)
"Crazy Sexy Cool" TLC (クールでポップなセカンド・アルバム)
"Doggy Style" Snoop Doggy Dog (ギャングスタ・ラップの代表作)
"Enter The Wu-Tang" Wu-Tang Clan
(メソッドマン、プリンス・ラキームなどを輩出した謎の武闘派グループ)
"My Life" Mary J.Blige (デビューの欄参照)
"Mystery Lady" Etta James (ビリー・ホリデイのカバー・アルバムでグラミー賞受賞作)
"U" Boyz UMen (全米ナンバー1に輝いた大ヒット作)
ブラジリアン・ポップ系(MPB)系
"Rose And Charcoal" Marisa Monte
「チャシャ猫の微笑み」 Gal Costa
(プロデューサーにアート・リンゼイを向かえ、新しいスタイルにチャレンジ)
"Ao Vivo" Maria Bethania
(94年リオでのライブ、優れたヴォーカリストとしての本領発揮)
「カオスのマンギ・ビート」 Chico Science & Nacao Zumbi
(北東部レシーフェから登場した打ち込みリズムと肉体的リズムの混合新世紀サウンド)
アフリカン・ポップ系
"Vanhu Vatema チムレンガ・インターナショナル" Thomas Mapfumo And The Blacks Unlimited (ジンバブエの闘志が、よりワールドワイドなポップスへ)
アジアン・ポップ系
「ウチナー・ジンタ」大工哲弘
「極東サンバ」 The Boom (アジアを飛び越えブラジルへ!)
"Balls Under The Red Frag" Cui Jian
(中国を代表するだけでなく、世界でも超一流の本格派ロック!)
"Dream Catcher" Sandii(アジアの歌姫これもまたご機嫌な一枚)
「恋のパズル」「夢遊」「背影」「天空」 Faye Wong (絶好調!)
J−ポップ系
「Atomic Heart」 Mr. Children (90年代前半を代表する人気バンド)
「Innocent World」 Mr.Chldren
「歌姫」中森明菜
"Girly" カヒミ・カリィ
「風の歌を聴け」オリジナル・ラブ
「孤独の太陽」桑田佳祐
「今夜はブギー・バック」スチャダラパー、小沢健二
「この世で一番キレイなもの」早川義夫
「ジャガー・ハード・ペイン」イエロー・モンキー
「素敵な匂いの世界」斉藤和義
「空と君のあいだに」中島みゆき
「テクノドン」YMO
「東京の空」エレファント・カシマシ
"Dragon" 電気グルーブ(日本を代表するテクノ・チーム)
"DA.YO.NE." イースト・エンド×ユリ
(日本語ラップをメジャーに押し上げた記念すべき大ヒット作)
「ファーマシー」槇原敬之
"Midnight Parade" ラブ・タンバリンズ
"Life" 小沢健二 (オザケン人気頂点へ、独自の歌世界が楽しい)
"Love Or Nothing" 中島みゆき(ギターが格好いいロック・アルバム)
ロック系
Cardigans 「エマーデイル」
G Love & Special Sauce "G Love & Special Sauce"
(ライブ一発録りのダイナミックさ、ワイルドさが受け大ヒット)
Hootie & The Blowfish "Cracked Rear View"
(サウス・キャロライナ出身の白黒混合ブルース・ロック・バンド、95年最大のヒット作となった)
Jeff Buckley "Grace"
(1stでラスト、伝説のシンガー・ソングライター、ティム・バックリーの息子)
BECK "Mellow Gold"
(ローファイ・サウンドのヒーロー、世紀を越える存在になるとは!)
OASIS "Definitely Maybe"
(90年代版ビートルズとも言えるブリット・ポップの人気バンド)
Portishead "Dummy"
Tortoise "Tortoise"(シカゴ音響派の中心バンド、アバンギャルド・ポップ)
ヒップ・ホップ・ソウル系
The Notorious B. I.G. "Ready To Die"
Fugees "Blunted On Reality" (ローリン・ヒルを擁するチーム)
NAS "Illmatick"
Mary J. Blige "My Life" (ヒップ・ホップを取り入れたR&Bシンガーの草分け)
Moodymann "Moody Trax"
Dan Hartman
(Edgar Winter Group)3月22日 脳腫瘍 43歳 Dino Valente
(Quick S.M.Service)11月16日 ? 54歳 Fred "Sonic" Smith (MC5) 11月 4日 心不全 45歳 Frankie Kennedy (Altan) 9月19日 癌 38歳 Harry Nilsson 1月15日 心臓病 52歳 Kurt Cobain (Nirvana) 4月 8日 猟銃自殺 27歳 Lee Brilleaux (Dr.Feelgood) 4月 8日 喉頭癌 41歳 Nicky Hopkins 9月 6日 胃癌? 50歳 Papa John Creach (Jefferson Airplane) 2月22日 心臓、呼吸器障害 76歳 Cab Calloway 11月18日 合併症 86歳 Carmen MacRae 11月10日 呼吸器疾患、卒中 72歳 Dinah shore 2月24日 癌 76歳 Eric Gale (Stuff) 5月25日 ? 55歳 Henry Mancini 6月14日 肝臓癌 70歳 Lee Alen (R&B Sax) 10月18日 癌 67歳 Robert White
(Motownのギタリスト)10月27日 冠状動脈手術による合併症 86歳 Antonio Carlos Jobim 12月 8日 心不全 67歳 Garnett Silk 12月10日 ガス爆発事故 28歳 Cheb Hasni 9月29日 射殺 26歳 Jimmy Miller
(IslandのProducer)10月22日 肝臓病 52歳 チャー坊(村八分) 4月25日 ? 43歳
第20回主要先進国首脳会議(ナポリ・サミット)
国連の対南ア制裁全面解除
<アメリカ>
ハイチで軍事政権設立、アメリカ軍がハイチに進駐
北米自由貿易協定(NAFTA)発効
カリフォルニアで大地震
ワールドカップ・サッカーアメリカ大会開催
<ヨーロッパ>
アイルランド共和国軍、停戦宣言発表でアイルランド紛争休止(1995年まで)
ユーロ・トンネル開通(イギリス-フランス間)
ボスニアのセルビア人勢力、全面戦争宣言(ボスニア紛争深刻化)
ルーブルが大暴落、ロシア経済が大幅に後退
<アフリカ・中東>
イスラエルとヨルダン平和条約に調印
イスラエルのラビン首相とPLOのアラファト議長にノーベル平和賞
ネルソン・マンデーラ氏、南アフリカ大統領に就任
<アジア>
スリランカで大統領候補が爆殺される
北朝鮮の金日成氏死去、金正日が後継となる
<日本>
社会党、村山富市内閣が発足
新生党、民社党が解散、新進党結成
いじめによる自殺者が急増
第12回アジア競技会広島で開催
中華航空エアバス墜落事故(名古屋)
関西空港開港(レンゾ・ピアノによるデザイン)
女性宇宙飛行士向井千秋、コロンビア号で宇宙へ
イチローが200本安打達成
作者、鈴木創、アラスカでザトウクジラに遭遇
<芸術、文化、商品関連>
イギリスのグラフィック・デザイン集団「トマト」世界的な活躍
大江健三郎氏がノーベル文学賞を受賞
辺見庸著の究極の食を追うルポルタージュ「もの食う人びと」発表
「ねじまき鳥クロニクル」(村上春樹著)
ソニー「プレイステーション」発売
<音楽関連(海外)>
2パックがスタジオで狙撃される
アルジェリアのオランで歌手シェブ・ハスニが暗殺される(イスラム過激派による)
<音楽関連(国内)>
チャゲ&飛鳥が日本人アーティストとしては初めてと言える本格的なアジア・ツアーを敢行
「今夜もブギー・バック」小沢健二&スチャダラパー、「DA・YO・NE」 EAST & ENDxYURIのヒットで、ラップが一気に大衆化
巨大ディスコ、ジュリアナがブームに
<映画>
この年の映画についてはここから!
<1994年という年> 橋本治著「二十世紀」より 2004年11月追記
1994年の日本を一言で言ってしまえば、「一体あれはなんだったんだ?」である。
「リクルート事件」「佐川急便事件」から続く政治不信がピークに達し、総選挙で自民党が大敗、野党に転落した。
「自民党から派生した新党さきがけと新たに登場した日本新党、それに「歴史的大敗」を喫した社会党、さらに公明党、民社党、社民連の既存政党と、民主改革連合なる一会派とによって、連立政権が誕生した。首班の総理大臣は、かつて自民党に籍を置いていた日本新党の党首、細川護煕である。そして、ここから「新しい日本の政治」は始まらない。始まるものは、めまぐるしく変わって覚えきれないほどの、自民党以外の政党の離合集散と改編なのである」
<作者からのコメント>
1994年夏、僕は知り合いに誘われてアラスカ・ホエール・ウォッチング・カヤック・ツアーに参加しました。一週間近く無人島でテント生活をしてアンカレッジに戻ると、日本の総選挙で自民党が敗れ、日本新党の細川氏が総理大臣になったというニュースが飛び込んできました。
この時、多くの人が今度こそ日本の政治は変わるかもしれないと思いました。それがわずか一年で夢と消えるとは・・・。期待が大きかったぶん、その失望感も大きかったものです。その後、小泉総理誕生の際にも同じように期待感が高まったものですが、それもまた・・・。でも、あきらめたら、それで終わりなのです。