- 新たなるロック・スタイルの構築 -

ベック BECK    

この年の出来事 代表作 デビュー 物故者
<もうひとりのベック>
 このアルバムが発表された頃、「やっぱりベックは凄かった!」という見出しを某音楽雑誌で見かけ、「ほう、ジェフ・ベックさん、相変わらずがんばってますな」そう思った僕でした。ところが、それは大きな勘違い、お恥ずかしいかぎりです。(でも、他にも、未だに勘違いしている人はきっといるでしょう)今や、「もうひとりのベック」は、かつての「ギターの神様」ジェフ・ベックを越える存在になろうとしています。

<落ちこぼれのヒーロー>
 マイナー・レーベルから発売されたシングル「ルーザー」という文字通り社会からの落ちこぼれの歌がヒットした時、マスコミは彼のことを「落ちこぼれのオタク系アーティスト」と皮肉半分に呼び、グランジ・ロックの流れが生んだ一発屋程度にしか思っていませんでした。ところが、「ルーザー」を収録したデビュー・アルバム「メロウ・ゴールド」が発表され、さらにこの年、セカンド・アルバム「オディレイ」が発表されるに到り、彼の評価は一気に「ロック界の救世主」「21世紀ロックのリーダー」とまで言われるようになったのです。

<ベックのサンプリングの凄さ>
 ベックのどこがそんなに凄いのでしょうか?
 「オディレイ」では、彼お得意のサンプリングによるミクスチャー・サウンドがフル回転しています。異なるジャンルの音楽、例えばボサノヴァをサンプリングして、ロックと合体させてしまう手法などは実に斬新です。しかし、彼の本当の凄さは、サンプリングされた原曲がまったくわからなくなるほど、サンプリングした曲を徹底的に解体し再利用してしまうことにあります。ここまで来ると、サンプリングという行為は「著作権の侵害に結びつく」という一般的な考え方とは、まったく別次元の行為にまで進化させられていると言えるでしょう。
 例えば、彼は多くの作曲家がピアノを使って、必要な和音を出すのと同じように、バート・バカラックの「サン・ホセへの道」から好きな音または音の組み合わせを持って来てしまうのです。そのうえ、その音が曲の一部となった時、もうそこに原曲の姿はなくなっているのです。ただ、そこには、確かに原曲の「記憶のかけら」ようなものが残っており、それが彼の曲に独自の味わいを持たせているのです。

<ベック、そのライブ感覚>
 さらに彼が凄いのは、この究極のサンプリングによってかき集めた音群を使って、まったく新しい曲を再構築するだけでなく、それを見事なアレンジで再構成することによって、肉体感にあふれたライブ・パフォーマンスをも繰り広げてしまうということです!

<電脳時代のブルースマン>
 コンピューターの発達により、今や音楽を作るには、スタジオもバンドも必要がなくなりました。パソコンとヘッドフォンがあれば、それでよいのです。ベックは、まさにそんな「電脳時代」の申し子です。しかし、彼にはもうひとつの顔がありました。前衛美術界の巨匠を祖父にもつ芸術家ファミリーの一員であったことと、小さな頃からブルースを聴き、ブルース・ギターを弾きながら育ったブルース少年だったということです。彼の作り出す「電脳空間の機械仕掛けの音楽」の基礎となる部分には、生の肉体で発せられ、聞き、感じるものとしての音楽がしっかりと存在していたのです。だからこそ、彼は、アルバムにおいては「エレクトリック・オタク・サウンド」の方法論を貫きながらも、ライブにおいては、肉体感を重視したバンド・サウンドにこだわって行けるのです。

<自らのサウンドへ>
 彼のバンド・サウンドへのこだわりは、この後の作品「ミューテー・ションズ」を経て「ミッドナイト・バルチャーズ」にひとつの形となって現れました。それは「電脳仮想バンドによる疑似ロック・サウンド」を飛び越えた「肉体によるリアル・バンド・サウンド」の復活でした。この変化は進化における「先祖返り」なのか、さらなる進化へのステップなのか?ひとつ言えるのは、彼の作品はどれも素晴らしいが、最近の作品ほど繰り返し楽しめるのは、彼の音楽がより人間の感覚に近づいてきているからだと思います。これを退化と見るか進化と見るか、彼がこの後どう変わって行くのかも含めて、21世紀の楽しみにとっておきたいと思う。(進化と退化に優劣をつけることは無意味なのですが・・・)

<追記-ストーンズはサンプリングの名手だった?>
 サンプリングという手法の登場により、ミュージシャンは自分の音のパレット上に無数の音を置くことが可能になりました。そうなると、いよいよミュージシャンのセンスや生き方自体が問われることになります。そう考えてみると、かつて、ローリング・ストーンズが数多くのミュージシャンを起用し、その演奏の中から優れたギターのリフなどを盗んでいたのは、原始的なサンプリング手法だったと言えるのかもしれません。彼らは演奏のテクニックはいまいちでも、センスと生き方について(サンプリングのテクニック)はピカイチだったと言えるのでしょう。

    アンダーラインの作品は特にお薦めです!
ロック系
"All This Useless Beauty" Elvis Costello
"Being There" Wilco
(オルタナ・カントリー・ロックと言うより、ストーンズのアメリカ版?)
"Billy Breaths" Phish(最後で最強のアメリカン・サイケ・ロック・バンドいよいよ世界へ)
"Bringing Down The Horse" The Wallflowers
(B.ディランの息子率いるバンド。七光りに頼らないのは、さすが!)
"Colossal Head" Los Lobos
(21世紀を予感させる音づくり、彼らがここまで進化するとは!)
"Deadman Walking" V.A.
(同名映画のサントラ盤、N.F.アリ・ハーンB.スプリングスティーンなど)
"Gone Again" Patti Smith (貫禄です)
"Evil Empire" Rage Against The Machine
(ハード・コア・ロック&ラップによるパワフルなアジテーション・バンド)
"Falling Into You" Celine Dion(カナダから登場した歌姫)
"Millions Now Living Will Never Die" Tortoise
(エレクトリックでサイケデリックなアンビエント・サウンド)
"Moseley Shoals" Ocean Colour Scene
(P.ウェラーも参加。ブリット・ポップの本格派バンド)
"New Adventures In Hi Fi" REM
"Now I Got Worry" The Jon Spencer Blues Explosion
"Richard D.James Album" Aphex Twin
"Sheryl Crow" Sheryl Crow
(いきなりストーンズの女性版に変身、格好いい!)
"Tragic Kingdom" No Doubt
"Train Spotting" V.A. (同名映画のサントラ盤。映画とともに大ブレイク)
"Traveling Without Moving" Jamiroquai
(ジャミロクワイの魅力満載!ホワイト・ソウル極上の逸品)
"Waitin' For George" The Freewheelers
"Walking Wounded" Everything But the Girl(打ち込みでもアコースティック?)
トラッド・アイリッシュ系
コモン・グラウンド 魂の大地」 Various Artists(ドーナル・ラニーのプロデュース作品)
"Santiago" The Chieftains
(ケルト音楽のルーツを探る音楽の旅。スリリングで楽しい)
ヒップ・ホップ、ソウル系
"The Day" Baby Face 
"The Don Killuminati : The 7 Days Theory" Makaveli(2 Pac)
"Just Like You" Keb' Mo' (珍しやブルース系フォーク・ミュージシャン)
"Keith Sweat" Keith Sweat(まさにクール&セクシー!)
"New World Order" Curtis Mayfield
(事故から復帰、6年ぶりの作品に皆涙、涙。会心の作品)
"Peace Beyond Passion" Me'Shell Ndegeocello
(女性ファンク・ベーシストのゆったりとうねるリズム)
"The Score" Fugees
(ヒップ・ホップとソウルの見事な融合を果たした重要作品)
"Secret" Tony Braxton
ブラジリアン・ポップ系
バイーアの空のもとでCarlinhos Brown
(チンバラーダを率い、K.ヴェローゾのバックでも活躍。ついにデビュー!)
"Roots" Sepultura (アメリカで活躍、ロックからブラジリアン・ルーツへ)
"Brasil Em Cy" Quarteto Em Cy (ブラジル最高のコーラス・グループの集大成)
アジアン・ポップ系
"Anxiety" フェイ・ウォン(中国、香港が生んだキュートでも芯のあるアイドル)
"Dream Catcher" Sandii 
(アジアン・ポップの歌姫の素敵なダンス・チューンがたっぷり)
"Ratu" Sheila Majid (マレーシアの歌姫、世界に通じるセンスの良さ)
J−ポップ系
アジアの純真」 「これが私の生きる道」 Puffy 
エレクトロ・アジール・バップ」 ソウル・フラワー・ユニオン
(和製チンドン・ロックだが、中身はアカデミックな人民讃歌)
球体の奏でる音楽小沢健二 (まるでアントニオ・カルロス・ジョビンのようだ!)
空中キャンプ」 フィッシュマンズ(日本にもこんなクールなサウンドがあったのです!)
ココロに花を」エレファント・カシマシ
サイエンス」 hide
情熱」 UA (顔も声も、日本人離れしたヴォーカリスト)
Sicks」イエロー・モンキー
"Sweet 19 Blues" 安室奈美江
スチャダラ外伝」 スチャダラパー (日本の日常をラップ化した先駆け的存在)
タイガー・モービル」ハイロウズ
多摩川レコード」 ホフ・ディラン
(グループ名どおり、とぼけているが味わい深いフォーク系)
テクノ・キャバレー」Coba
トゥルー」ラルク・アン・シエル
東京」 サニー・デイ・サービス
ナーコティック・ギター」 花電車 (ボアダムスの系列バンド)
バンザイ」 ウルフルズ (元気の出るロック歌謡の系譜)
Be Loved」「ビート・アウト!」 GLAY
"Fruits" 佐野元春 (佐野さん相変わらずチャレンジを続けています)
モンタージュ」Yen Town Band
"Young Love" Southern All Stars
夢よ叫べ遠藤賢司 (日本のニール・ヤングだ!)



ロック系
Fiona Apple "Tidal"
(18歳とは思えないクールなシンガー・ソングライター)
Jason Falkner "Presents Author Unknown"
Joan Osborne "Relish"
Kula Shaker "K"
Stereolab "Emperor Tomato Ketchup"
ヒップ・ホップ、ソウル系
The Braxtons "So Many Ways"
Maxwell "Urban Hang Sweet"
Spice Girls "Spice"
Total "Total"
ブラジリアン・ポップ系
Carlinhos Brown 「バイーアの空のもとで」
J−ポップ系
globe「globe」
Puffy "amiyumi"


Bill Monroe  9月 9日 脳卒中 84歳
Chas Chandler(Animals)  7月17日 心不全 57歳
John Panozzo(Stix)  7月16日 血管破裂 47歳
Mel Taylor(Ventures)  8月11日 肺癌 67歳
Bernard Edwards(Chic)  4月18日 肺炎 43歳
Brownie McGhee  2月16日 胃癌 80歳
Johnny Guitar Watson  5月17日 心不全 61歳
2 Pac  9月13日 射殺 25歳
Ella Fitzgerald  6月15日 糖尿病 78歳
板谷博  7月30日 自殺 49歳




国連において、CTBT(包括的核実験禁止条約)調印
第22回主要先進国首脳会議(リヨン・サミット)
国連世界食料サミット
原子力安全サミット
<アメリカ>
アトランタ・オリンピック開催、爆弾テロ事件発生
マイアミで旅客機墜落
アメリカ軍、イラクを先制攻撃
ペルー日本大使館人質事件発生
アメリカの天体物理学者、カール・セーガン死去
<ヨーロッパ>
ロンドンで爆弾テロ事件発生、北アイルランド共和軍停戦破棄声明
ローマ教皇「進化論」を認める
イギリスで狂牛病、EUが禁輸措置
ボスニア和平会談
パリ地下鉄で爆発事故
フランスの映画監督、ルネ・クレマン死去
<アフリカ・中東>
イスラエルで連続爆弾テロ
エルサレムでパレスチナ住民とイスラエル軍衝突
アフガニスタン、反政府ゲリラ(タリバン)が首都制圧
アフリカ非核化条約調印
国連ザイールに多国籍軍派遣決議
<アジア>
台湾、総統直接選挙で李登輝氏勝利
スリランカで連続爆弾テロ
インドネシア東部沖で大地震
ミャンマーで民主派大量拘束
ネパールのルンビニ遺跡で釈迦の生誕地発見
モンゴルで大規模草原火災発生
オーストラリアの準州で安楽死法施行
朝鮮の潜水艦が韓国侵入
<日本>
橋本龍太郎内閣発足
東京、大坂におけるHIV訴訟和解へ(国が謝罪)
住専処理法が成立
病原性大腸菌O157患者が6000人を越える
援助交際が社会問題となる

<芸術、文化、商品関連>
スポーツ・ブランド「ナイキ」が大ブームとなる。
女子高生の間で「プリクラ」「ルーズ・ソックス」が大ブームになる


<音楽関連>
DVD(デジタル・ビデオ・ディスク)登場
小室哲哉プロデュースによる安室奈美恵、華原朋美、globeなどが大ヒット
奥田民生プロデュースのPUFFYも大ヒット

<映画>
この年の映画についてはここから!

<1996年という年> 橋本治著「二十世紀」より 2004年11月追記
 薬害エイズ事件が新厚生大臣、菅直人の活躍で大きく進展した年。
「日本の政治が救済するものは、政界・財界・官界と言われるものと、その周辺にたむろする人達だけで、『それをすれば、結果的に日本中が救われるようになる』と思われていた時代は、とうの昔に終わっていた。・・・そこに『今まで通り』を望む人達が”なにか”をしようとしても、自縄自縛に陥るだけである。それが1996年以降の日本なのだ」
「日本の政治が国民のために必要な”なにか”をするものであれば、まず第一に必要なことは、過去の過ちを認めることであるー新しい厚生大臣、菅直人が示したのは、このことだった。・・・」
「バブルの時代、へんな風に踊った人間はいくらでもいたが、切り捨てられるのはその末端だけで、踊り踊らされた根本の歪みは免罪のままである。そのいい加減さを『いい加減』とはしないのが日本の政治なのだから、その後に不祥事がぞくぞくと露見しても不思議ではない」
<作者からのコメント>
 あの時の菅さんの登場は実に新鮮でした。今までだれ一人やろうとしなかった過去の反省と謝罪をしてみせたというだけでも、彼の名は歴史に刻まれるべきでしょう。もちろん、間違ったことを謝るのは、うちの子供たちでもできることなのですが・・・。
 残念なことに、菅さん以降、日本の政治家と官僚は、相変わらず幼稚園児以下の倫理観しか持ち合わせていないようです。だからこそ、ほとんどが無駄の固まりである、ダム、高速道路、新幹線、飛行場、巨大イベント、河口せきなどが、無反省のうちに次々と作られ続けているのです。

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