
- しなやかで、したたかなブラック・ミュージックの総決算
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ローリン・ヒル Lauryn Hill
<20世紀ポップスの総決算>
「20世紀ポップスの歴史は、そのままアフロ・アメリカンの音楽史であり、その進化の歴史であった」
ブルース、ラグタイム、ゴスペル、ジャズ、R&B、ソウル、ファンク、ラップ、ゴーゴー、ヒップ・ホップ、ハウス…etc.新しもの好きで、目立ちたがり屋のアメリカの黒人たちが、次々に生み出すポップスの新しい波は、常にアメリカだけでなく世界のポップス・シーンをリードしてきました。そして、20世紀最後のスタイルとして、この年世界中で大ヒットしたのが、ローリン・ヒルの「ミスエデュケーション」でした。
とは言っても、けっして彼女の作品は今までになかった新しいスタイルというわけではありませんでした。それは、ジャズ、ゴスペル、ソウル、レゲエ、ヒップ・ホップなど、過去に作り上げられてきたブラック・ミュージックの現時点における究極の総決算サウンドというべきでしょう。別の意味で、このアルバムが新しかったのは、この作品が「売らんかな的な」作品ではなかったにも関わらず、世界中で大ヒットしたことかもしれません。
<フージーズとボブ・マーリー>
ローリン・ヒルは、ヒップ・ホップ・トリオ「フージーズ」の紅一点としてデビューしました。他の二人のメンバーがカリブの最貧国と言われるハイチからの移民であったこともあり、グループ名は「REFUGEE(避難者、亡命者)」から取られました。そのせいもあり、彼らのサウンドは、ヒップ・ホップの世界では珍しくカリビアン・サウンドの影響が大きかったと言えます。当然彼女も、その影響を受けており、彼女はジャマイカで行われたボブ・マーリーのトリビュート・コンサートにも出演しているし、「ミスエデュケーション」でも、彼の曲を基に独自の解釈でヒップ・ホップ的再構築を行っています。それどころか、彼女のだんなさんは、なんとあのボブ・マーリーの息子の一人なのです!
<誰よりもクールなサウンド>
しかし、「ホット」なカリビアン・サウンドの影響を受けているにも関わらず、彼らのアルバムは、他のどのヒップ・ホップ作品よりも「クール」でした。そして、そして、このクールさは彼女のソロ・デビュー作「ミスエデュケーション」でも変わっていません。このアルバムの発表当時まだ22歳だった彼女が、なぜこうも「クール」なのでしょうか?それは、時代のせいなのでしょうか?
<クールの秘密>
20世紀という時代を考える時、それは「白人による有色人種の支配とそこからの解放の時代」と見ることもできるかもしれません。奴隷たちの「嘆き」から「ブルース」が生まれ、神への「祈り」から「ゴスペル」が生まれ、つかの間の「喜び」から「ジャズ」が生まれ、魂の「解放」のために「ソウル」が生まれてきたのです。しかし、その結果得られたはずの「人種平等」が表面的な法律上のものにすぎなく、本質的なものではなかったことが分かる中で、再び新たな「闘い」のために「ラップ」が生まれました。こうして、70年代のディスコ・ブーム以降、ブラック・コンテンポラリーという「魂(ソウル)のないソウル」の登場により死にかけていたブラック・ミュージックは再び息を吹き返しました。
フージーズは、そんなブラック・アメリカンの苦闘の歴史をしっかりと心に刻みつけ、そこから自分たちの音楽をスタートさせています。だからこそ、あの独特の「クール」さが生まれたに違いありません。
<クール&ビューティーな女性たち>
さらに、この「クール」さは、同じ時期に活躍している女性アーティストたちにも共通して見られる特質です。エリカ・バドゥ、カサンドラ・ウィルソン、ミシェル・ン・デゲオチェロ、トレーシー・チャップマンなどジャンルは皆違いますが、それぞれがみな「クール」であり、同種のテイストを持っています。
さらに言うなら、彼女たちの存在自体が、これまた20世紀を代表する出来事「女性差別からの解放」を象徴しているのかもしれません。残念ながら、未だにブラック・アメリカンのサウンドには、あからさまな「女性蔑視」の曲が多いと言わなければならないでしょう。特に、男性主導のラップの世界では、「暴力」と「女性蔑視」の歌詞が満ちあふれています。(かつては、権力との闘いだったラップのテーマが、いつしか身内同士の抗争へとと変わってゆく姿は、寂しい限りです。この傾向は21世紀に入り変わりつつあるようですが、・・・)
新しい時代のサウンドは、男性的な文化からはたぶん生まれないでしょう。ローリン・ヒルのサウンドは、愚かな男性たちには到底不可能なしなやかさとクールさを持っているように思えます。

ロック系
"Acme" The John Spencer Blues Explosion
"Angels With Dirty Faces" Tricky
(映画俳優としても活躍、ダークなテクノ系ロックは独特の魅力)
"Ca Va" Slapp Happy
(60年代から活躍する幻のボヘミアン・バンド、健在ぶりをアピール)
"Camoufleur" Gastr Del Sol
"Deserter's Song" Mercury Rev
"Hello Nasty" Beastie Boys
"Into The Sun" Sean Lennon
(レノン&ヨーコの愛息、独自のスタイルで活躍)
"Mr.Love Pants" Ian Dury(イアン・デューリー最後の傑作アルバム)
"Mutation" Beck(かなりサイケ色濃厚、渋い仕上がりはさすが!)
"Painted From Memory" Elvis Costello & Burt Bacharach
(ポピュラー音楽の基本にかえったコステロ、バカラックも魅力復活)
"Royal Albert Hall Live 1966" Bob Dylan
(ザ・バンドをバックにした、幻のコンサートついに復活!)
" The Story of the Ghost " Phish (静かでファンキーなアルバム)
"TNT" Tortoise(シカゴ音響派とは何ぞや?なんだポップじゃないの!)
"Up" REM(着実に発展を続けるロック界の大黒柱)
"XO" Elliot Smith
アイリッシュ・ケルト系
"Donal Lunny Coolfin" Donal Lunny Coolfin
(アイリッシュ音楽界のドン、ついにバンド・デビューを果たす)
ソウル・ラップ・ファンク系
"Mos Def & Talib Kweli Are Black Star" Black Star
"The Love Movement" A Tribe Called Quest
"Moment Of Truth" Gang Star
"The Nu Nation Project" Kirk Franklin(ネオ・ゴスペルの雄)
"A Rose Is Still A Rose" Aretha Franklin
ブラジリアン・ポップ系
"Afrosick" 宮沢和史
"Astronauta Tupy" Pedro Luis e A Parede
(ブラジルのストリート感覚満載!リズムの洪水)
"Fabrication Defect:Com Defeito De Fabricacao" Tom Ze
(トロピカリズモの中心人物、久々の復活アルバム)
"Omelete Man" Carlinhos Brown
(MPBの風雲児、パーカッションの奇才のセカンド・アルバム)
「チタンス・第二章」 Titans
サルサ系
"Tibiri Tabara" Sierra Maestra
(歴史と伝統のキューバン・サルサの大御所)
アフリカン・ポップ系
"ONB" Orchestre National de Barbes
アジアン・ポップ系
「Afrochic」宮沢和史
"Cindai" Siti Nurhaliza
「ハウリング・ウルフ」登川誠仁
J−ポップ系
「アウト・ラウド」ブンブン・サテライツ
「嘘とロマン」及川光博
「Automatic」宇多田ヒカル
「ギヤ・ブルース」 ミシェル・ガン・エレファント(ジャパニーズ・モッズ・バンド)
「クムイウタ」Cocco
「K.K.K.K.K.」カヒミ・カリィ
「Corkscrew」黒夢
「コージー」 山下達郎(完璧なる達郎ワールド、ひさびさの登場)
「Sakura」 サザン・オールスターズ(相変わらず元気です!)
「さよならセシル」小島麻由美
「3×3×3」ゆらゆら帝国
「私小説」 鈴木祥子
"Jet CD" パフィー(子供から大人まで納得のポップ・ヒロイン)
"Super A" ボアダムス
(世紀末日本のロックの凄さは、彼らのような存在が証明している)
「77デイズ」ケムリ
「つつみ込むように…」 Misia(上手い、確かに、上手いけど、何か物足りない)
「長い間」 Kiroro (キロロは良いスキー場です!)
「ニューロック」バッファロー・ドーター
「ファミリー Family」スガ・シカオ
"Fun-key LP" スチャダラパー(今や日本のラップの基本です)
「ペイパー・ドライバーズ・ミュージック」 キリンジ
(ユーミン+スティーリー・ダン、なかなかしゃれた音づくり、歌詞もOK)
「ゆず一家」ゆず
「ラヴァー・ライト」Sakura

ロック系
Rufus Wainwright "Rufus Wainwright"
(ゲイの美しいセンスが生きた独自の世界)
Sean Lennon "Into The Sun"
ソウル・ファンク・ラップ系
N'dea Davenport "N'dea Davenport"
J−ポップ系
朝日美穂 「オニオン」
宇多田ヒカル「Automatic」
河村隆一「Shine」
椎名林檎 「歌舞伎町の女王」(凄い!日本は完全に女性の時代です)
トライセラトプス「トライセラトプス」
The Brilliant Green "The Brilliant Green"
Misia "Mother Father Brother Sister"


Carl Wilson(ビーチボーイズ) |
2月 6日 |
肺癌 |
51歳 |
Frank Sinatra |
5月15日 |
心臓発作 |
82歳 |
Linda McCartney(元ウィングス) |
4月17日 |
癌 |
56歳 |
Junior Wells |
1月15日 |
癌 |
63歳 |
Betty Carter |
9月26日 |
癌 |
69歳 |
Hide |
5月 2日 |
自殺 |
33歳 |
吉沢元治(ジャズ・ベーシスト) |
9月12日 |
肝臓癌 |
67歳 |
淀川長治(映画評論家) |
11月11日 |
心不全 |
89歳 |
ストークリー・カーマイケル(黒人運動家) |
11月15日 |
前立腺癌 |
57歳 |

地球温暖化防止ブエノスアイレス会議
第24回主要先進国首脳会議(バーミンガム・サミット)
<アメリカ>
ケニア、タンザニアのアメリカ大使館が同時爆発テロの標的となる
クリントン大統領の不倫疑惑が発覚
NY株史上2番目の下げ幅を記録
中米をハリケーンが襲い、死者不明が3万人を越える。
ブラジルで森林火災(3万平方キロ焼失)
マグワイアが大リーグホームランの新記録70本を達成
<ヨーロッパ>
ロシアの通貨、ルーブルが急落し取引停止に、全閣僚が解任される
北アイルランドで和平合意、しかし、すぐに爆弾テロ事件発生
ダイムラー・ベンツがクライスラーと合併
総選挙でドイツ社会民主党が勝利、シュレーダー政権誕生
サッカーWカップ・フランス大会でフランスが初優勝
<アジア>
インド、パキスタンが地下核実験を実施
インドネシアで暴動発生、スハルト大統領が辞任に追い込まれる
パプア・ニューギニアで津波災害
中国長江、東北区で大洪水
韓国大統領に金大中氏が就任
韓国で日本の大衆文化解放が始まる
北朝鮮、弾道ミサイルを発射
<日本>
NPO法成立
和歌山のカレー毒物混入事件発生
山一証券前会長ら証券取引法違反で逮捕される
黒沢明監督死去
長野冬季オリンピック(ジャンプ団体が金メダル)
パラリンピック開催
<芸術、文化、商品関連>
「アムステルダム」イアン・マキューアン著(ブッカー賞受賞)
「チャーミング・ビリー」アリス・マクダーモット著(全米図書賞)
映画「タイタニック」がアカデミー賞11部門独占
ジョナサン・アイヴ、デザインによるアップル社「i
Mac」発売

ユニクロ原宿店オープン
<音楽関連>
グラミー賞にラテン・ロック/オルタナティブ部門が新設される(ラテン系ポップス・ブーム本格化)
宇多田ヒカルを筆頭にMisia、Sugar SoulなどR&Bアーティストのブーム到来
<映画>
この年の映画についてはここから!
<1998年という年> 橋本治著「二十世紀」より 2004年11月追記
「1998年、不良債権の処理に苦しむ銀行への公的資金投入ーすなわち税金による穴埋めが決定した。大蔵省が銀行全体の不良債権額を76兆7千億円と発表したのが1998年の1月。その二週間後、大蔵省金融検査部の検査官が過剰接待を受けていたことが判明した。・・・『ノーパンしゅぶしゃぶによる過剰接待』は、この流れの中に登場する」
「・・・『社会人になる』ということは『豊かな日本人になる』ということで、だからこそ、その『豊かさ』が崩れてしまったらどうなるのか?金に置き換えられていた人間関係の未熟さが一気に吹き出るだけである」
「だから、バブルがはじける1990年代になって、その不自然さが一挙に露呈する。オウム真理教の事件は、その一方の典型であり、もう一方の典型となるものが、1998年の和歌山県に起こった、毒物カレーの事件である」
「その退廃を非難できる日本人がどれだけいるのか?愚劣な事件が連発するまでの間、日本人は『東大の法学部を出て大蔵官僚になる』ということを第一位とする競争社会を肯定し続けてきたのである。1998年、そのなれの果ては、下着をつけない若い女から、嬉々としてしゃぶしゃぶを食べさせてもらっていた。ここに凝縮されるものは、日本人の哀れである」
<作者からのコメント>
オウム真理教事件と毒物カレー事件、これほど「世紀末日本」を感じさせる事件はないでしょう。「神」と「金」、唯一信じていたものを失った時、人はどうなってしまうのか?
21世紀に入って、同種の事件はいよいよ珍しくなりつつあります。こうしたねじれた価値観の誤りに気づくのは、オリンピックなどスポーツに感動した時、そして震災や台風被害の中、必死で生きようとする人々の姿を目にした時、それぐらいかもしれません。
少なくとも自分の子供達にだけは、そんな価値観をもたせたくありません。親として子供達に感動を与えられる生き方をしなければ・・・。
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