<20世紀とは?>
20世紀とは、いかなる時代だったのか?振り返ってみると、それは「マッチョの世紀」だったという言い方ができそうです。「20世紀」から浮かぶ多くのイメージ、「戦争」「スポーツ」「自然破壊」「宇宙開発」「原子力」、そして20世紀を代表する音楽、「ロック」もまたマッチョをイメージさせる言葉ではないでしょうか?
そんな20世紀にさよならを告げる年、1999年を代表するアルバムとして、僕はステレオ・ラブの「ミルキー・ナイト Milky Night」を選んでみました。なぜなら、彼らのアルバムこそ「さらば20世紀、ようこそ21世紀へ」という未来への展望にぴったりの作品に思えるからです。とは言っても、彼らの作品からかいま見える未来は、明るさと希望に満ちたものではあっても、繊細でガラスのように壊れやすいものにも思えます。
21世紀は「マッチョ」ではなく、もっとデリケートな女性的、母性的な時代になるのではないか?と言うより、そうならなければならないような気がします。(この部分を書いたのは2000年でした。しかし、2001年そんな望みを吹き飛ばす事件が起きてしまいました。残念ですが、人類は世紀を越えても、やはりそうは変わらなかったようです)
<ステレオラブのサウンド>
ステレオラブのサウンドがもつ最大の特徴は何か?それは、彼らの音楽が何物にも属していないということかもしれません。もちろんジャンル的にロック、ファンク、ボサノヴァ、プログレ、テクノ・・・どれにも属さないというだけではなく、それは国籍や民族、宗教、性別など音楽以外のあらゆるジャンル分けに対しても、無所属だということです。(実際、彼らのアルバムには英語の曲だけでなく、フランス語の曲も収められています)
ある意味では、彼らの生み出す音そのものが大地から離れてしまっていると言ってよいのかもしれません。と言っても、彼らの音楽が宇宙的だとか、コンピューターによって生み出された電脳空間を漂っているようだとかいうわけではありません。それは、あらゆるものから自由であると同時に、よるべきところもない微妙な立場の音楽だということです。
それは、かつてジョン・レノンがかつて「イマジン」で歌った「架空の世界」を想い出させます。その世界は、やはり想像の中にしか存在しえないのでしょうか?(アメリカで同時多発テロ事件が起きてから、この曲の放送がアメリカ国内のラジオで自粛されてたそうです。何故?・・・何のためにこの曲は作られたのでしょうか?)
<同じ志の仲間たち>
同じような世界観を共有するトータスやジム・オルークも、その独自の世界観を維持してゆくために毎回手を変え品を変え新しいチャレンジを行っています。それはまるで変化がなければ彼らの世界は維持できないかのようです。もちろん、彼らはただ闇雲に変化し続けているわけではありません。そこには、「温故知新」というキーワードがしっかりと存在しています。彼らの音楽には、新しいスタイルであっても、懐かしい音楽のエッセンスがたっぷりと盛り込まれているのです。新鮮さと懐かしさの絶妙なバランスをとるため、彼らはまるで自転車をこぐように休むことなくチャレンジを続けているのです。彼らの音楽が前衛的でありながらポップでもあるのは、そんな努力のおかげなのではないのでしょうか。
<ステレオラブ>
ステレオラブは、1991年にティム・ゲイン Tim Ganeとレティシア・サディエール Laetitia Sadier夫妻を中心としてイギリスで結成されました。(僕は最初てっきりアメリカだと思ってました)
他のメンバーは、メリー・ハンセン Mary Hansen、アンディー・ラムゼイ Andy Ramsay、モーガン・ロッテ Morgan Lhote。女性3名、男性2名という珍しい構成のオルタナ系ギター・バンドとしてスタートしました。その後彼らは現代音楽やボサ・ノヴァ、初期のテクノ、映画音楽など、あらゆるジャンルの音楽を取り込みながら、それをちょっとレトロな感覚で料理することで独特な音楽を生み出すようになってゆきました。
<シカゴ勢との交流開始>
1996年、彼らはジョン・マッケンタイア(トータス)にプロデュースを依頼し、シカゴでアルバム「エンペラー・トマト・ケチャップ」の録音を行いました。ここから彼らのシカゴ派とのつきあいが始まるのですが、それは同時に最新のコンピューターを使ったハードディスク・レコーディングによるアルバムづくりとの出会いでもありました。(シカゴ派のミュージシャンは、トータス、ガスター・デル・ソル、ジム・オルーク、ウィル・オールダム、シー&ケークなど)
<ハードディスク・レコーディング>
1997年の「ドッツ&ループス」は、そんな彼らのハードディスク・レコーディングが生んだ代表作となりましが、この作品でプロデューサーもつとめたジョン・マッケンタイアが所属するトータスも翌年ハードディスク・レコーディングによる傑作「TNT」を発表、この手法は、ひとつのピークを向かえています。
とは言っても、それはどうやら内容的なピークであると同時に肉体的、精神的な疲労のピークでもあったようです。スタジオでのセッションで録音する通常のやり方に比べ、ハードディスク・レコーディングは、コンピューター処理に要する時間があまりに長く、倍ははかかると言われています。それだけに完璧な作品を作り上げるための疲労は、たいへんなものだったようです。もちろん、それは肉体的な疲労だけではないでしょう。画面に釘付けになって、キーボードをたたいているより、スタジオでギターをかき鳴らし、ドラムをたたきまくるほうが楽しいに決まっているのですから・・・。
<バンド・サウンドへのこだわり>
そんなわけで1999年、彼らが発表したアルバム「ミルキー・ナイト Milky Night」は、がらりと手法を変えて、バンド・サウンドを中心としたアルバムになりました。もちろん、だからといって彼らのサウンドが、ハードディスク・レコーディング以前の作品に戻ったというと、けっしてそうではありません。ハードディスク・レコーディングでやれるだけのことをやってみたからこそ見えてきたバランスのとれた手法が、そこには取り入れられ、さらに新しいサウンドが展開されているのです。
<21世紀型ポップスの誕生>
こうして生まれた彼らのアルバムは実に楽しいポップスに仕上がっていました。
「理想的なポップ音楽とは、キャッチーなメロディーやリズムによって、聴く者の耳をとらえ、予想外の展開で聴く者を捕らえて離さない」
文学ならスティーブン・キングの小説、スポーツならイチローが出場するシアトル・マリナーズの試合、映画ならクウェンティン・タランティーノの作品と言えば、分かりやすいでしょうか?
それはある意味で「温故知新にもとづくプログレッシブなロック」と呼ぶことができるかもしれません。古きを尊び、新しきを知る、そして前へ前へと進化を続けることで生まれたポップスにおける王道、それがステレオ・ラブのサウンドではないかと思うのです。
<20世紀が終わるにあたって>
ここまで20世紀後半50年の音楽を聴いてきたわけですが、僕が思うに、やはりこの時代は、戦後生まれの世代が生み出したロックという音楽を中心とする時代であり、その影響のもとで各国のミュージシャンたちがそれぞれ独自のポップスを築き上げていった時代だったと言えるような気がします。(もちろん、その基礎にはR&Bがあり、アフリカから連れてこられた黒人たちの音楽があるのですが・・・)しかし、その後半の20年は、あまりに強すぎたロックのインパクトから抜け出そうと試行錯誤を繰り返した時代でもあったと言えそうです。
<微生物ハンター>
2000年、ステレオラブは21世紀初のアルバムを発表しました。アルバム・タイトルは「マイクローブ・ハンターズ The First Of The Microbe Hunters」。実に格好良い作品でした。「最初の微生物ハンター」って、もしかしたらルイ・パスツールのこと?
<締めのお言葉>
「微生物狩りに関しては、何一つとして正規な方法がないことほど確かなものはない、コッホとパスツールとの仕事のやり方の違いが、そのもっともいい例証であり、さながら幾何学の教科書といった冷徹さがあった・・・彼には何か人間離れのした公明で正しいところがあった。・・・しかし、パスツールはどうだっただろう!この人は、その頭脳からたえず正しい理論や間違った推測が案出されてくるという血の気の多い暗中模索家であった。・・・かってに火がつけられてしまって大めんくらいの村の花火大会といった具合に、それらの考えは射出されるのだ」
ポール・ド・クライフ著「微生物の狩人」より
ロック系
"By Your Side" The Black Crowes (正統派サザンロック)
"come on die young" mogwai (ジャケットも不気味だが中身も不気味な世界)
"Finger Painting" The Red Crayola (60年代から活躍するサイケの超老舗)
"Live On Two Legs" Pearl Jam
"Midnite Vultures" Beck (バンド・サウンドにこだわったこれまた傑作)
"Mister Dreamsville 夢の旅人" Hirth Martinez (玄人向け、ベテラン久々のアルバム)
"The Soft Bulletin" The Flaming Lips (ちょっぴり甘く切ないグランジ・ポップ)
"Stereotype A" Cibo Matto (ショーン・レノンまで加わった脱日本グループ)
"Summerteeth" Wilco (南部風カントリー・ロックの21世紀型最高峰)
"Synchronized" Jamiroquai (ホワイト・アイド・ソウルの21世紀型最高峰)
"Teatro" Willie Nelson (ダニエル・ラノワと大御所ががっぷり四つに組んだ作品)
"Up Up Up Up Up Up" Ani DiFranco (ぶっ飛び女性アーティストの代表格)
テクノ・ハウス・インドア・ポップ系
"Black Foliage" The Olivia Tremor Control (インドア・ポップ系の代表格)
"Eureka" Jim O'Rourke (プロデュースなどでも大忙しの時の人)
"Interscope" Nine Inch Nails
"Niun Niggung" Mouse On Mars
"Programmed" Innerzone Orchestra
"Snowbug" The High Llamas (アイルランド出身のショーン・オヘイガンが所属)
ユーロ・ポップ、トラッド系
"Os Amores Libres" Carlos Nunez
「夢魔」 Meret Becker
ヒップ・ホップ・ソウル系
"2001" Doctor Dre
"Fanmail" TLC
"Mary" Mary J. Blige
"Tonight" Silk
レゲエ系
"Good Ways" Sizzla
"Next Millennium" Bounty Killer
ブラジリアン・ポップ
「プレンダ・ミーニャ・ライブ」 Caetano Veloso
"Fabrication Defect" Tom Ze (トロピカリズモ運動の隠れたヒーロー久々の登場)
"Omelete Man" Carlinhos Brown
「チタンス・第2章」 Titas
アフリカン・ポップ系
「ショキ・ショキ」 Femi Kuti (あのフェラ・クティの息子が登場!)
アジアン・ポップ系
"Swan Song" Nusrat F. Ali Khan (20世紀を代表するヴォーカリストの遺作)
J・ポップ系
「ark」「ray」ラルク・アン・シエル
「On The Street Corner 3」 山下達郎 (アカペラ・ブームの原点復活)
「ジャンプ・アップ」スーパーカー
「Discovery」 Mr.Children
「ドミノ」 山崎まさよし
「9 9/9」 Tokyo No.1 Soul Set
「Viva la Revolution」ドラゴン・アッシュ
「First Love」宇多田ヒカル
「Fever Fever」Puffy
「冬の十字架」 忌野清志郎&Little Screaming Revue(パンク「君が代」)
「Mugen」サニー・デイ・サービス
「無罪モラトリアム」 椎名林檎(時代は変わった、そう実感させてくれる凄い人!)
「LOVE マシーン」 モーニング娘 (ミニモニ、プッチモニなど増える増える・・・)
「Return Of The Red T」 Audio Active
ロック系
Looper "Up A Tree"
The Webb Brothers "Beyond The Biosphere"(ジミー・ウェブの息子たち)
J・ポップ系
クラムボン 「名小路浩志郎」
Dusty Springfield(ブルーアイド・ソウル) 3月 2日 乳癌 59歳 Dennis Brown(レゲエ) 7月 1日 死因不明 42歳 Doug Sahm(テキサス・ロックの大御所) 11月18日 心臓発作 58歳 Rick Danko(ザ・バンド) 12月10日 不明 56歳 Scatman John(懐かしのスキャットマン!) 12月 3日 癌 57歳 Amalia Rodrigues(ファドの女王) 10月 6日 肺癌 79歳 Charlie Bird 12月 2日 癌ン 74歳 Curtis Mayfield(元インプレッションズ) 12月26日 不明 57歳 Grover Washington Jr. 12月17日 心不全 56歳 Mel Torme 6月 5日 脳卒中 73歳 Milt Jackson 10月 9日 肝臓癌ン 76歳 嘉手苅林昌(琉球サウンドの大御所) 10月 9日 肺癌 79歳 淡谷のり子 9月22日 老衰 92歳 池田貴族 12月25日 肝臓癌 36歳 ダニー飯田(パラダイスキング) 7月 5日 ? 65歳 西岡恭蔵 4月 3日 自殺 50歳 村下孝蔵 6月24日 脳内出血 46歳
コンピューター2000年問題の対応に世界が追われる
<アメリカ>
NY株初の1万ドル突破、アメリカの好景気が本格化
コロラド州の高校で武装した生徒による無差別殺戮
<ヨーロッパ>
ユーゴスラビア連邦セルビア共和国コソボ自治州へNATOが空爆
ヨーロッパの統一通貨ユーロ実現へ向けて、スタート
<アフリカ・中東>
トルコでマグニチュード7の大地震発生(死者3万人を越える)
<アジア>
北朝鮮核ミサイル疑惑、農作物の不作による飢餓深刻化
台湾でもM7.6の大地震発生
<日本>
日米ガイドライン関連法が成立
日銀ゼロ金利政策を導入
東海村核燃料加工工場で爆発事故発生
キレる子供急増、「学級崩壊」が多発
ストーカー事件、警察による不祥事の多発
「日の丸」「君が代」法制化、国旗国家法成立
ピルを医療用医薬品として正式承認
日本国内で初の脳死臓器移植実施
日本の中田、セリエAのペルージャで大活躍
<芸術、文化、商品関連>
「恥辱」J・M・クッツェー著(ブッカー賞受賞)
「待ち暮らし」ハ・ジン著(全米図書賞)
NTTドコモがiモードサービス開始
ソニー、ロボット犬「AIBO」発売
<音楽関連>
MP3の登場で音楽の著作権侵害が可能になり、大きな問題となる
日本国内でゴスペル・ブームが本格化
モーニング娘「LOVEマシーン」が大ヒット
槇原敬之が覚醒剤取締法違反で逮捕される
パンク「君が代」の発売禁止に対抗し、自主制作盤で忌野清志郎「冬の十字架」発売される。
北海道で日本人ロック・アーティスト中心の野外音楽フェスティバル「Rising Sun」がスタート
<映画>
この年の映画についてははここから!
<1999年という年> 橋本治著「二十世紀」より 2004年11月追記
1999年は「民族問題の年」でもあった。
ユーゴスラビアのコソボ自治州では、セルビア人によるアルバニア系住民の虐殺が行われていて、1999年には「NATO空軍による爆撃」という事態になった。この年のもうひとつの「民族紛争」は、インドネシアからの東ティモールの独立である。
「二十世紀は、19世紀以来の帝国主義の影を曳いていた。帝国主義はまた、それ以前の長い人類の歴史から生み出された歪みだった。それを克服するために、「二十世紀一杯」という時間が必要だったーそれを教えるのが、東ティモールとユーゴスラビアの『民族問題』でもあろう。その問題が起こるということは、『長い間の歪みが、やっと解決の方向へ進み始める』ということでもあるのだ。既に『解決済み』と思われていた問題を、改めて『正式なる解決』へ導くには、やはり血が流されなければならないのかもしれない。・・・」
「一方、日本はどうだったのか?ミッチー・サッチー騒動以後の日本にあるのは、「ミレニアム・カウントダウン」の騒ぎである。・・・その日本の1999年の夏から目立ち始めるのは、2000年日本の”主役”ともある若者達の”凶行”である。20世紀日本の最後にも、やはり血の色は訪れるのだ」
<作者からのコメント>
20世紀は結局「帝国主義の時代」でした。そこから独立してもなお、経済的、政治的にその影響下から脱することのできない国々は、お互いに殺し合う内戦もしくは「民族紛争」に至るか、逆にその怒りを「テロ」という形で表現するか、もしくはおとなしく植民地としての地位に甘んずるかの判断を迫られたのです。ちなみに共産主義国家を目指すという選択肢は、この世紀を越えることができなかったようです。では21世紀はいかなる世紀になるのか?
現段階では「帝国主義の終焉による混沌の時代」なのかもしれません。混沌の時代ではあっても、大きなエネルギーをもつ流れが生じた時、そこには再び秩序が生まれるはずです。しかし、そのエネルギーをもつ流れが生じるまでは、この混沌は続くのでしょう。
では、その流れとはいったいどんなものか?もしかすると、それは国境や民族や宗教を越えた「地球人としての共通認識」の誕生なのではないだろうか?そんなことを思います。ネットはうまくするとそこで大きな役割を果たし事ができるかもしれません。
かつて宗教が人々の魂を救うことが可能だったように、それに代わる精神的な柱的存在が現れるかどうか?そこに人類の未来はかかっているように思います。
「地球教」とでも呼べるような意識が世界中に広まることを願いたいものです。