- アダルベルト・アルバレス Adalberto Alvarez -

<ブエナヴィスタ・ソシアルクラブのおかげで>
 映画「ブエナヴィスタ・ソシアルクラブ」の大ヒットによって、キューバ音楽は20世紀末に50年ぶりに世界の注目を浴びることになりました。しかし、あの映画で取り上げられた音楽は、あくまで古き良き1950年代のポップスの再現であり、キューバにはそこから育ってきた現代キューバ音楽というべきポップスがちゃんと存在しています。それも、あの映画で取り上げられていた「ソン」を基礎とする本格的キューバン・ダンス・サウンドです。アメリカの植民地としての歴史とキューバ革命という激動の時代をくぐり抜けてくる中で、キューバのミュージシャンたちは、さまざまな障害にぶつからざるをえませんでした。そんな激動の時代の流れの中でも、キューバ伝統の音楽「ソン」はしっかりと受け継がれ、1980年代に入り、再び世界進出を目指すことのできるアーティストが現れました。その代表格が、アダルベルト・アルバレスです。

<革命前夜>
 アダルベルト・アルバレスは、1948年キューバの首都ハバナに生まれました。彼が生まれた当時、キューバはまだアメリカの植民地でハバナの街はカリブに浮かぶ一大リゾートであり、ラスヴェガス以上の歓楽地でした。(映画「ゴッド・ファーザーPART3」では、ちょうどそんな時代、革命前夜のハバナの街が登場していました)そして、音楽においても、ハバナは世界の中心地の一つであり、この街からマンボチャチャチャなど、世界を制覇したダンス音楽が次々に生まれていました。
 しかし、キューバの国民にとって、この時代は決して幸福な時代ではありませんでした。この国は、サトウキビと売春、そして音楽の一大生産地としてアメリカに支配され、搾取され続けていたのです。

<革命と音楽>
 しかし、1958年の大晦日、ついにキューバ国民の怒りが爆発します。キューバ革命の勃発です。フィデル・カストロ率いる革命軍は、あっという間に首都ハバナを制圧、キューバはアメリカからの独立を宣言すると同時に国交を断絶しました。それでもしばらくは、音楽の世界において、ラジオの電波などを通じた交流は続き、パチャンガが国境を越えて両国でブームになる現象も起きてはいましたが、革命政権の方針が共産主義国家として固まるに連れ、ミュージシャンたちの活動はしだいに限られた範囲に狭められて行きました。
 それまでプロとして活動していたミュージシャンたちは、国民に娯楽としての音楽を提供する国家公務員となりました。当然、公務員たるもの、公序良俗に反する歌は御法度になるわけで、歌詞の内容はおのずと限られた「お堅い」ものになって行きます。そして、かつてアメリカなどで活躍していた優れたミュージシャンたちは、肩身の狭い思いをせざるをえなくなって行きました。ブエナヴィスタ・ソシアルクラブのメンバーは、まさにそんな人々でした。それ以外にも、ソノラ・マタンセーラセリア・クルーズアルセニオ・ロドリゲスなどのミュージシャンたちは、アメリカへの亡命の道を選んだのでした。

<革命以後の音楽>
 こうして、かつて1970年代に入り世界のダンス音楽の最先端をいっていたキューバ音楽は、すっかりその勢いを失っていました。そんな中、アダルベルトは、1977年に13人の仲間とともにキューバ音楽のもう一つの中心地サンティアゴ・デ・クーバで、ソン・カトルセを結成し活動を開始します。
 1980年のデビュー・アルバム"A Bayamo en Coche"はキューバ国内で大ヒッしますト。そして"Son Como Son"(1982年)、「14の輝ける星」(1983年)を発表したところでアダルベルトはバンドから独立し、「アダルベルト・アルバレスと彼のソン」を結成、ハバナへの進出を果たしました。彼の心の中には、ハバナへの進出、キューバのナンバー1バンドになるという夢があったのです。

<キューバン・サルサのニューサウンド>
 一時は「キューバ危機」のような危険な時期もありましたが、しだいにアメリカとキューバの関係は雪解けが進み、彼の音楽もその影響でより現代的なニューヨーク・サルサやシンドラムなどのテクノロジーを積極的に取り入れたものになって行きました。とはいえ、その根本には多くのキューバのミュージシャンたちが忘れかけていたキューバ音楽のルーツ「ソン」についての理解がしっかりとありました。だからこそ、彼の音楽は、キューバ伝統のソンを現代に見事に甦らせたと言われたのです。
"Adalberto Alvarez y su Son"、"El Regreso de Maria"、「ジプシー娘と結ぶ夢」、"Fin de Semana"と次々に発表されたアルバムはどれも素晴らしい作品に仕上がっており、彼の人気は海外でもしだいに高まって行きました。
 それまでも、キューバからはイラケレロス・バンバンオルケスタ・レベなどの大物バンドが登場していましたが、今ひとつ都会的センスに欠けていたため、海外での人気には結びついていませんでした。しかし、アダルベルト・アルバレスのサルサには、都会的センスはもちろんメレンゲなど人気のリズムをいち早く取り入れる時代の先取り感覚も活かされており、なにより彼の作る曲自体の素晴らしが光っていました。

<キューバン・サルサの未来は?>
 21世紀に入ったキューバは、今や観光を一つの基幹産業とするべく新たな歴史の1ページを開きつつあります。そして、その中でキューバ音楽が重要な位置を占めることになるのは当然のことでしょう。アダルベルト・アルバレスを中心とするキューバのミュージシャンたちが、ポピュラー音楽の世界で再び栄光の時代を向かえることはあるのでしょうか?

<締めのお言葉>
「ほら、いわゆる革命ってのはメカニカルなもんでしょ。計画された・・・。もしそれを企てれば、その人がケガをする。革命は自然に起こるんだ。いいかい、気にかけるのはただ、激しく。純粋な戦いだ。わかるかい?キューバ革命のようなタイプの革命じゃない。全世界がこの革命に飲み込まれるんだ」
スティーブン・デイヴィス著「ボブ・マーリー〜レゲエの伝説〜」より

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