今をまた生きる  Die and Let Live

「ALL YOU NEED IS KILL オール・ユー・ニード・イズ・キル」

- ダグ・ライマン Doug Liman、エミリー・ブラント Emily Blunt -

<ワン・アイデアあれば>
 死ぬとその瞬間、ある過去のポイントに時間が逆戻りし、再び同じ時間を生きる新たな人生が始まる。ただし、その時、過去の記憶は残っている。そんな能力を身に着けてしまった主人公が、到底勝てるはずのない異星人との戦闘に向かい、そこで何度も何度も命を失いながら、少しずつ戦闘能力をアップさせ、さらに協力者たちと出会い、ついには異星人を倒す可能性を見出す。
 「タイム・ループ」というSFならではのアイデアから生まれたこの単純な物語だけで、この映画は実に見ごたえのある面白い作品になりました。素晴らしいアイデアがひとつでもあれば、それだけでどんなジャンルの作品も成功させられる。この映画もまたそんな素晴らしい「ワン・アイデア」から生まれた作品です。元々、そのアイデアは原作者である日本人作家、桜坂洋さんが生み出したものですが、それを見つけ出したハリウッドの専門家も抜け目がない。
 しかし、その「ワン・アイデア」を物語として、破綻なく映像化するには、かなり脚本を練る必要があったはず。脚本担当のひとりクリストファー・マッカリー Christpher McQuarrie が、ブライアン・シンガーの出世作「ユージュアル・サスペクツ」(1995年)でアカデミー脚本賞を受賞している作家です。なるほど!彼は「ミッション・インポッシブルⅤ」の監督を担当する予定です。
 なぜ、死ぬたびに主人公はファレル曹長率いるJ分隊に配属されるところに戻るのか?
 (たぶん死の瞬間、彼はそれ以前で最も近い意識を失った時点に戻るのではないでしょうか?)
 なぜ、ラストで彼はブリガム将軍に呼び出される時点に戻るのか?
 (タイム・ワープ能力の大元である異星人を倒したことで、彼らの作戦が始まる時点で主人公が意識を失っていた最短地点がそこだったから?)
 誰か、この映画で何回主人公が死ぬか?カウンターかなにかで数えてみませんか。僕が思うに50回ぐらいは死んでいると思うのですが・・・。
 でも、生き返るとわかっていても、何度でも死ぬことが平気になれるでしょうか?
 逆に、死ぬことに喜びを見出すようになってしまう場合もあるかも?
 突っ込みどころ、悩みどころ満載の映画です。これもまた面白い映画の条件のひとつではあります。

<機動スーツ>
 物語の基本となる「タイム・ループ」のアイデアに匹敵するこの映画におけるヴィジュアル面でのもうひとつ重要なアイデアは機動スーツ(The Exosuit)の存在です。「エイリアン2」に登場した作業用ロボット・スーツは今や現実のものになりつつありますが、この映画の機動スーツはその進化系。
(1)「ドッグ Dog」はスタンダード・タイプでバランス良く能力をもつ万能タイプのスーツ
(2)「タンク Tank」は火力と防御力を重視した戦闘用のスーツ
(3)「グラント Grunt」は機動性を重視することで、格闘や移送作戦に向くスーツ
 実際にはそれぞれの隊員が細かくスペックを変えているようで、50以上撮影に使用されたようですが、これらを装着した部隊がずらりと並ぶ空港の場面は壮観です。

<美しき戦いの女神たち>
 「エイリアン」のリプリーこと、シガニー・ウィーバーから始まった戦う美女の系譜があります。
 「ターミネーター」のサラ・コナーこと、リンダ・ハミルトン
 「マトリックス」のトリニティこと、キャリー・アン・モス
 「バイオハザード」のアリスこと、ミラ・ジョボヴィッチ
 「キル・ビル」のザ・ブライドこと、ユマ・サーマン
 今や、アクション映画に欠かせない存在となりつつある「戦う美女」が輝くには、決まり事があると思います。
 先ずはその見た目、筋肉質な細マッチョの肉体を持ち、それを強調した衣装を身にまとうこと。黒のタンク・トップにヘソだしは定番スタイル。決して、女性的なラインを強調してはいけません。その点では、「トゥーム・レイダース」のアンジェリーナ・ジョリーは、ギリギリアウトかなあ?
 そして、もう一つ重要なのが、一人で心に重荷を抱えた孤高の存在であること。けっして恋人がいてはいけません。いたとしても、彼は映画の中で死ぬことになるはずです。そんなわけで彼女は、他人を信用したりしません。もし信用するとすれば、自分の子供かな?
 それはかつて任侠映画で高倉健が演じたヤクザや「ジャッカルの日」の殺し屋を演じたエドワード・フォックス、「ブラック・レイン」の松田優作、古くは「カサブランカ」のハンフリー・ボガートなど、孤高のヒーローたちに近いといえます。思えば、そんな孤高のヒーローが、男性よりも女性の方がリアリティーをもつ時代になったのが21世紀なのかもしれません。そんな「美しき戦う美女」たちの系譜に「ヴェルダンの美女」ことリタ・ヴタスキを演じたエミリー・ブラント Emily Blunt も加わることができました。これまで「プラダを着た悪魔」で知られてはいても、アクション映画には出演したことのない彼女をこの映画に抜擢した製作陣の判断も見事だと思います。

<タイム・ループ>
 SF映画に「タイム・ループ」という新たなアイデアを持ち込んだことで、この映画は大きな魅力をもちました。しかし、このアイデアはSF的、科学的なアイデアというよりも、ゲームの世界における常識的な概念なので決して目新しいとはいえません。
「ゲーム・オーヴァーになっても、そのたびにスキルアップすることでより強い敵を倒し、最後にはラスボスにたどりつく」
 この作品の監督ダグ・ライマンはインタビューでは、この映画における宇宙人の侵略というSF的設定は自分にとっては、どうでもよかったと言い切っています。彼にとっては、「人がもし人生を何度でもやり直すことができるとしたら、どう生きようとするのか?」が問題であって、SF的設定でなくても良かったのかもしれません。
 思えば、スコット・フィッツジェラルド原作の映画「ベンジャミン・バトン数奇な人生」(監督はデヴィッド・フィンチャー)も、「タイム・ループ」ではなくて「タイム・リワインド」もののSF映画でした。「人は人生を逆向きに生きることになったら、どんな生き方を選択するのか?」
 この映画の原作者は続編を執筆中とのことで、Part2もありそうです。
 ただし、僕が思うに、パート2は宇宙人との次なる戦争ではなく恋人との恋愛成就までの過程を描いてみてはどうでしょう?タイトルは当然「All You Need Is Kiss」
 もちろん死ぬと過去に戻る設定は、「キス」で戻ることに変更します。

「ALL YOU NEED IS KILL」 2014年
(監)(製総)ダグ・ライマン Doug Liman
(1996年インディーズ作品「スウィンガーズ」で注目を集め、「ジェイソン・ボーン」シリーズの大ヒットで成功を収めた。他の作品としては、2005年「Mr.& Mrs.スミス」、2008年「ジャンパー」、2010年「フェアゲーム」があります)
(脚)クスストファー・マッカリー、ジェズ&ジョン=ヘンリー・バターワース
(原)桜坂洋
(製)アーウィン・ストフ、トム・ラサリーほか
(撮)ディオン・ビーブ(2005年ロブ・マーシャル監督の「SAYURI」でアカデミー撮影賞受賞)
(美)オリバー・ショール
(編)ジェイムズ・ハーバート(ガイ・リッチー作品の常連編集者、あのテンポの良いカットのつなぎがこの作品では十二分に生かされています)
(衣)ケイト・ホーリー(2013年ギレルモ・デル・トロ監督「パシフィック・リム」)
(視覚効果)ニック・デイヴィス(クリストファー・ノーラン監督の2008年「ダークナイト」、「ハリー・ポッター」シリーズ、「チャーリーとチョコレート工場」)
(音)クリストフ・ベック(2013年「アナと雪の女王」)
(出)トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、ブレンダン・グリーソン、ジョナス・アームストロング、トニー・ウェイ

20世紀映画劇場へ   トップページへ