「アメリカン・グラフィティ American Graffiti 」 1973年

- ジョージ・ルーカス George Lucas -

<時代を越えた青春ドラマ>
 この映画は、1960年代初めのアメリカにおける青春像をとらえたノスタルジーに満ちた作品です。しかし、そこで展開される物語は時代を越えて若者たちを魅了する普遍性をもっていました。だからこそ、1974年から1975年にかけての公開当時、日本に住む僕にとってもこの映画はひとつの青春の大切な思い出と成り得たのでしょう。大学に入学するため独り東京へと旅立った日に飛行機の窓から見た下界の風景は未だに忘れられません。そう、映画のラスト・シーンで主人公が白いサンダーバードを見下ろすシーンといっしょでした。
 まさに青春の1ページという感じでした。・・・

<1962年という年>
 しかし、この映画をもう一度見てみると、ここで再現されている1962年という年がある意味非常に象徴的な存在であったことに気づかされます。というわけで、改めてこの映画を音楽の方から、見てみたいと思います。
<ロックン・ロールの名曲たち>
 さてこの映画では、当時のヒット曲がなんと41曲も使われています。どれも懐かしのロックン・ロール・ヒットなのですが、それをひとことで「ロックン・ロール」というジャンルでくくってしまうのは、ジャンル分け的にちょっと問題があるのかもしれません。
 「ロック・アラウンド・ザ・クロック」ビル・ヘイリーと彼のコメッツ、「悲しき街角」デル・シャノン、「ザットル・ビー・ザ・デイ」「メイビー・ベイビー」バディー・ホリー、それにチャック・ベリーの「オールモスト・グロウン」「ジョニー・B・グッド」、このあたりはまさにロックン・ロールの名曲ばかりです。
<ロックン・ロールではない名曲たち>
 しかし、その他の曲の多くはロックン・ロールというよりも「ドゥーワップ」という呼び名が相応しい曲でした。「恋は曲者」フランキー・ライモン&ティーンネイジャーズ「瞳は君ゆえに」フラミンゴス、「トゥ・ジ・アイル」ファイブ・サテンズ、「恋の特効薬」クローバーズ、「涙のチャペル」オリオールズ、「Goodnight Well It's Time To Go」スパニエルズ、そして、「オンリー・ユー」プラターズなどは、どれも黒人ドゥーワップ・グループの曲です。そして、「シックスティーン・キャンドルズ」クレスツ、「ヒーズ・ザ・グレイト・インポスター」フリート・ウッズは、白人ドゥー・ワップ・グループです。
 その他には、ニューオーリンズ系R&Bの黒人二人、ファッツ・ドミノの「エイント・ザット・ア・シェイム」にリー・ドーシーの「ヤーヤー」。サザン・ソウル時代の偉大なる裏方ブッカー・T&The MG'sの「グリーン・オニオンズ」。それに当時サーフ・サウンドの人気者として登場したばかりのビーチ・ボーイズの「サーフィン・サファリ」「オール・サマー・ロング」(この曲は泣けました)など、どれもロックン・ロールの枠からははみ出しているように思えます。
 ロックン・ロールというのは、実はこういった様々な音楽の総称だったのかもしれません。

<1960年代前半という時代>
 1960年代前半のアメリカでは、白人と黒人はまだまだ別々の社会を形成していました。学校はもちろんのこと、劇場や野球場のほとんどは、白黒別々の席であり、トイレも水飲み場も別々だったのです。だからこそ、謎のDJ、ウルフマン・ジャックは当時実は黒人DJなのではいかというふうに言われたりもしたのです。(実際、そうだったわけですが)その意味では、ロックン・ロールの世界だけが一足早く白黒混合時代に突入していたと言えるのかもしれません。(実際、この映画には、黒人がまったく出ていなかったはずです。あの街にとって、人種問題はまだまだ余所の街の出来事だったのでしょう)
<時代の変わり目だった頃>
 1959年「アメリカの死」と呼ばれたバディー・ホリーの事故死以降、時代は着実に変わろうとしていました。アトランタでは、スタックスからオーティス・レディングがデビューし、デトロイトではモータウンがヒットを飛ばし始めてるなど、R&B、ソウルの時代が着実に始まりつつありました。そして、イギリスからビートルズがデビューしたのが、この1962年です。そう考えると、1962年は「ロックン・ロール最後の年」であり、それは同時にロックン・ロールとともにあった1950年代の「古き良きアメリカが終わった年」でもあったのです。
 実は、ボブ・ディランの「風に吹かれて」が発表されたのも1962年でした。そして、この曲に象徴される公民権運動の高まりは翌1963年にワシントン大行進という歴史的なデモ行進へと発展して行くのです。
 アメリカの片田舎の小さな街が、この巨大な歴史のうねりに巻き込まれて行くのは、もうすぐ先のことだったのです。

<「アメリカン・グラフィティ2」>
 そのことを明らかにするために作られたかもしれない後日談とも言える作品、それが「アメリカン・グラフィティ2」でした。この映画の存在は、第一作に比べほとんど知られていないと言ってよいでしょう。この作品では、登場人物の若者たちが、反戦運動やベトナム戦争に巻き込まれて行く姿が描かれ、あののどかだった日々との大きなギャップに驚かされます。

<ジョージ・ルーカスの出世作>
 ジョージ・ルーカスは1944年5月14日、カリフォルニア州のモデストという町に生まれました。父親はオフィス機材の小売店を経営していました。高校生の頃、カーレースに夢中になり、プロのレーサーを目指しましたが、競技中の事故により膝を痛め、レーサーになることを断念。カレッジでは美術を専攻するものの興味がもてずに中退。その後、8ミリ映画にはまり、南カリフォルニア大学USCの映画科に入学。この頃から自主制作映画を本格的に作り始めます。(ちなみに、この頃彼が最も影響を受けた映画監督は黒澤明だということです)F・F・コッポラの助監督を勤めた後、学生時代に作った作品のリメイクでついに彼はデビューを果たすことになりました。その映画「THX1138」は、映画界では高い評価を得ることができましたが、かなり難解な近未来SFだったこともあり、ヒットはしませんでした。
 そんな彼がまだ若手の監督だったフランシス・F・コッポラのプロデュースよって撮ることになったこの作品に対し、公開当時映画会社はまったくヒットを期待していなかったと言われています。ところが、蓋を開けてみると、この作品は若者を中心に大ヒットし、この後ルーカス、コッポラがアメリカ映画界の中心となって行くきっかけになりました。その意味では、この映画を製作した彼らにとってだけでなくアメリカ映画界にとっても、この映画は時代の変わり目となった重要な作品だったということになるわけです。

<その後の若者たち>
 そうそう余談ですが、この映画のラスト近くに主人公の一人ジョンとカーレースをするカウボーイ・ハットの若者、これが今をときめくハリソン・フォードです。彼にとっても、この映画は一流俳優になるきっかけとなった重要な作品だったわけです。
 主人公の一人ロン・ハワードもまた今やアメリカを代表する映画監督の一人になりました。(「アポロ13」、「バック・ドラフト」など)
 ついでながら、主人公の一人、おませな女の子キャロルを演じたマッケンジー・フィリップスは、ママス&パパスのメンバー、ジョン・フィリップスの娘です。
 そして、この映画を撮った監督ジョージ・ルーカスは自らの夢でもあったSF映画の大作「スター・ウォーズ」を撮ることになるのでした。

「アメリカン・グラフィティ American Graffiti 」 1973年
(監)ジョージ・ルーカス George Lucas
(製)フランシス・F・コッポラ Francis Ford Coppola
(脚)ジョージ・ルーカス、グロリア・カッツ Gloria Katz、ウィラード・ヒュイック Willard Huyck
(撮)ハスケル・ウェクスラー Haskell Wexler
(出)リチャード・ドレファス Richard Dreyfuss、ロン・ハワード Ronny Howard
   ポール・ル・マット Paul Le Mat、チャーリー・マーチン・スミス Charlie Martin Smith
   シンディー・ウイリアムス Cindy Williams、キャンディー・クラーク Candy Clark
   マッケンジー・フィリップス Mackenzie Phillips、ウルフマン・ジャック Wolfman Jack
   ボー・ホプキンス Bo Hopkins、ハリソン・フォード Harrison Ford

<あらすじ>
 1962年、カリフォルニアの小さな田舎町が舞台。高校を卒業し、それぞれの道を歩みだそうとしている若者たちの一晩の出来事を追った青春群像劇。将来について思い悩む若者たちに一歩踏み出す勇気を与えてくれたのは、ラジオから聞こえてくるウルフマン・ジャックのおしゃべりとロックン・ロールでした。ケネディー暗殺前でまだアメリカが希望に満ちていた幸福な時代とその後の暗い未来が見事に再現されています。
 主役の男子4人は、大学に入るため旅立とうとしていたカート(リチャード・ドレイファス)。カートと同じく東部の大学に入学するために旅立つ予定だが、恋人との別れに悩むスティーブ(ロン・ハワード)。スティーブに借りた車のおかげで彼女ができてご機嫌のテリー(チャーリー・マーチン・スミス)。街のドラッグ・レース・チャンピオンで皆の憧れの存在、ビッグ・ジョン(ポール・ル・マット)



「燃えよドラゴン」の大ヒットで世界中でカンフー映画ブーム
「エクソシスト」の大ヒットで世界中でオカルト映画ブーム

「愛の嵐」(監)(脚)リリアーナ・カバーニ(脚)イタロ・モスカティ(撮)アルフィオ・コンティーニ(出)ダーク・ボガート、シャーロット・ランプリング
「ウィークエンド・ラブ A Touch Of Class」(監)メルヴィン・フランク(出)ジョージ・シーガル
(グレンダ・ジャクソンがアカデミー主演女優賞受賞)
映画に愛をこめて アメリカの夜La Nuit Americaine」(監)(出)フランソワ・トリュフォー(音)Georges Delerue(出)ジャクリーン・ビセット、ジャン・ピエール・オーモン(映画への愛を込めて!)
「エクソシスト」(監)ウィリアム・フリードキン(原)(脚)ウィリアム・ピーター・ブラッティ(撮)オーエン・ロウズマンほか(出)マックス・フォン・シドー、リンダ・ブレア
戒厳令Etat de Siege」 (監)コスタ・ガブラス(製)ジャック・ペラン(音)Mikis Theodorakis(K.ガブラス監督の硬派クーデター映画)
「かもめのジョナサン」 (監)(脚)ホール・バートレット(原)(脚)リチャード・バック
「北国の帝王 Emperor of the North」(監)ロバート・アルドリッチ(出)リー・マーヴィン、アーネスト・ボーグナイン、キース・キャラダイン
「最後の晩餐」(監)マルコ・フェレーリ(出)マルチェロ・マストロヤンニ(カンヌ映画祭国際批評家連盟賞受賞)
「ジーザス・クライスト・スーパースターJesus Christ, Superstar」(監)ノーマン・ジェイソン
(アンドレ・プレヴィン、ハーバード・スペンサー、アンドルー・ロイド・ウェバー編曲)
「ジャッカルの日」(監)フレッド・ジンネマン(原)フレデリック・フォーサイス(脚)ケネス・ロス(出)エドワード・フォックス、ミシェル・ロンスデール
「シンデレラ・リバティーCinderella Liberty」(監)マーク・ライデル(音)John Williams (出)ジェームス・カーン、マーシャ・メイスン
(マーク・ライデルは、この後「ローズ」を監督。ジャニスの伝記映画)
「スケアクロウ」(監)ジェリー・シャッツバーグ(脚)キャリー・マイケル・ホワイト(主)ジーン・ハックマン、アル・パチーノ(カンヌ映画祭パルムドール受賞)
「スティング The Sting」(監)ジョージ・ロイ・ヒル(編曲)Marvin Hamlischアカデミー歌曲、編曲賞(出)ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、ロバート・ショー(アカデミー作品、監督賞受賞、ラグタイムとスコット・ジョップリンの存在を知らしめた作品)
「Save The Tiger」(監)ジョン・G・アビルドセン(ジャック・レモンがアカデミー主演男優賞受賞)
「セルピコSerpico」(監)シドニー・ルメット(音)Mikis Theodorakis (警察内不正暴露モノ、若きアル・パチーノの出世作)
「007/死ぬのは奴らだLive and Let Die」(監)ガイ・ハミルトン(出)ロジャー・ムーア、ヤフェット・コットー
(音)P.マッカートニー&リンダ・マッカートニー&ジョージ・マーティン(「リブ・アンド・レット・ダイ」が大ヒット)
ダラスの熱い日(監)デヴィッド・ミラー(脚)ダルトン・トランボ(出)バート・ランカスター、ロバート・ライアン、ウィル・ギア
「追憶 The Way We Were」(監)シドニー・ポラック(音)Marvin Hamlisch アカデミー作曲、編曲賞(バーブラ・ストライサンド主演・歌)
「デリンジャー」(監)(脚)ジョン・ミリアス(撮)ジュールス・ブレンナー(音)バリー・デヴォーソン(出)ウォーレン・オーツ、ベン・ジョンソン
ハーダー・ゼイ・カム(監)(製)(脚)ペリー・ヘンゼル(出)ジミー・クリフ(ボブ・マーリーとともにレゲエ・ブームの火付け役となった作品)
パピヨンPapillon」(監)フランクリン・J・シャフナー(脚)ダルトン・トランボ(原)アンリ・シャリエール(音)Jerry Goldsmith (スティーブ・マックウィーンの大脱獄もの)
ビリー・ザ・キッド21才の生涯 Pat Garrett and Billy the Kid」(監)サム・ペキンパー(音)ボブ・ディラン
「ペーパー・チェイス The Paper Chase」(監)リチャード・ブルックス(出)ティモシー・ボトムズ(アカデミー助演男優をジョン・ハウスマンが受賞)
「ペーパー・ムーン Paper Moon」(監)ピーター・ボグダノビッチ(出)ライアン・オニール(テイタム・オニールがアカデミー助演女優賞受賞)
「ママと娼婦」(監)ジャン・ユスターシュ(出)ベルナデッド・ラフォン、ジャン・ピエール・レオ(カンヌ映画祭グランプリ
「ミツバチのささやき」(監)(脚)ビクトル・エリセ(脚)アンヘル・フェルナンデス=サントス(出)アナ・トレント
「燃えよドラゴン Enter The Dragon」(監)ロバート・クローズ(音)Lalo Schifrin (ブルース・リーの伝説はここから始まった)
「ルシアンの青春」(監)(脚)ルイ・マル(脚)パトリック・モディアノ(撮)トニノ・デリ・コリ(音)ジャンゴ・ラインハルト(出)ピエール・ブレーズ、オーロール・クレマン

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(監)(原)(脚)山田洋次(脚)朝間義隆、宮崎晃(音)山本直純(出)渥美清、浅丘ルリ子
「恍惚の人」(監)豊田四郎(原)有吉佐和子(脚)松山善三(撮)岡崎宏三(出)森繁久弥、田村高広、高峰秀子、乙羽信子
「戦争と人間 第三部 完結篇」(監)山本薩夫(原)五味川純平(脚)武田敦、山田信夫(出)滝沢修、高橋悦史
「仁義なき戦い」(監)深作欣司(原)飯干千一(脚)笠原和夫(撮)吉田貞次(音)津島利章(出)菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫
「青幻記 遠い日の母は美しく」(監)(脚)(撮)成島東一郎(原)一色次郎(脚)平岩弓枝、伊藤昌輝(出)田村高広、賀来敦子、山岡久乃
「津軽じょんがら節」(監)(脚)斉藤耕一(脚)中島丈博(撮)坂本典隆(音)高橋竹山、白川軍八郎(出)江波杏子、織田あきら、中川三穂子
「股旅」(監)(脚)市川昆(脚)谷川俊太郎(出)小倉一郎、尾藤イサオ
「四畳半襖の裏張り」(監)(脚)神代辰巳(原)永井荷風(撮)姫田真左久(出)宮下順子、江角英明、山谷初男

菊田一夫(作家、原作者)死去(65歳)



国際通貨危機
<アメリカ>
ウォーター・ゲイト事件の波紋全米へ拡がる
キッシンジャー国務長官就任
ヴェトナム和平協定調印(アメリカ軍の撤退完了)
<中南米>
チリで軍事クーデター、アジェンデ政権倒れる
<ヨーロッパ>
東西ドイツが同時に国連加盟
パブロ・ピカソ死去
<中東、アフリカ>
第四次中東戦争の勃発により、石油危機
<アジア>
金大中事件発生、韓国国内で学生運動激化
<日本>
円為替変動相場制に移行
オイル・ショックで石油買い占め騒動
日本で、金大中氏誘拐事件発生

<芸術、文化、商品関連>
「モモ」ミヒャエル・エンデ著(独)
「セポイの反乱」ジェイムズ・G・ファレル著(ブッカー賞受賞)
「キマイラ」ジョン・バース著(全米図書賞)
「リンガラ・コード」ウォーレン・キーファー著(エドガー賞)
イッセイ・ミヤケがパリ・コレクションにデビュー
映画「コフィー」主演のパム・グリアの影響でアフロ・ヘアーなど独特のファッションが人気になる
ビックの「使い捨てライター」登場(フランス)
テレビ・アニメ「ドラエモン」放送開始
<音楽関連(海外)>
ソウル・トレイン」全米ネットで放映開始
タイの民主化運動をリードするバンド、カワランがスラチャイ・チャンティマートーンらによって結成される
<音楽関連(国内)>
四畳半フォーク・ブーム
チューリップの「心の旅」がナンバー1になる。(フォークでもロックでもないポップ・バンド初のナンバー1は、「ニューミュージック」時代を到来を告げるもので、この後オフ・コース、アリスなどが後を追って活躍しることになります)
この年の音楽については、ここから!

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