ようこそステージ上のユートピアへ


「アメリカン・ユートピア David Byrne's : American Utopia」
「ストップ・メイキング・センス Stop Making Sense」

- デヴィッド・バーン David Byrne -
<音楽映画の進化>
 1984年に発表された「ストップ・メイキング・センス」は音楽ライブ映画の歴史を変えた傑作と呼ばれました。
 それは、会場にいる観客に向けたコンサートでありながら、映像作品としても楽しめる工夫がなされていたからです。そもそも単にコンサートの映像を撮るだけの作品なら、生でライブを体験する感動を上回れるわけはありません。ならばどうするか?巨大なセット?豪華なステージ衣装?背景に映像を映し出す演出?
 デヴィッド・バーンと監督のジョナサン・デミは、逆にコンサートに必要なものを絞り、ミニマルなスタイルを徹底。背景もなく、セットも最小限、映像もなくライティングによる光の演出のみで、見事な映画に仕上げてみせたのです。
 今回の作品でも、そうした過去の作品でのミニマルな演出方法を基本的には踏襲。さらに楽器をもシンプルかつコンパクトなものにすることで、生の演奏をダンスしたり、歩いたりしながら行うことを可能にしました。その意味で今回のミュージカルは、「歌いながら踊る」のではなく「演奏しながら踊る」演劇という画期的なものになりました。

<ベスト・アルバム・ミュージカル>
 この作品の演奏曲リストを見ると、トーキング・ヘッズ時代とデヴィッド・バーンのソロ時代、36年間の仕事からまんべんなく選曲されていて、ある種ベスト・アルバム・ミュージカルにもなっているとわかります。(リストはアルバムごとに色分けしています)
 その中でも異色なのは、唯一画像を用いた演出がなされているジェネール・モネーのプロテストソングのカバー。ここまで演出はごくごく控え目でしたが、ここにきて黒人への差別を告発したのは、もちろんこの時期アメリカで「ブラック・ライブズ・マター」の運動が活発化していた影響です。
 そして、ここにきて改めて、この作品の演出がスパイク・リーだったことを思い出しました。それだけこの作品で彼は裏方に徹し、余計な演出をしないように控えていたということでしょう。

<脳内から社会へ>
 オープニング曲「Here」で脳内神経系の仕組みを歌うところからスタート。(グレーのスーツと真っ白な髪の毛の彼はマッド・サイエンティストに見えます)
 加齢により、生まれた時の複雑な神経組織の構造がしだいに失われて行くことが歌われます。
 人間が失ってゆく脳内神経系の結びつきは、人類の歴史が失いつつある社会的、経済的、宗教的、人種的な結びつきとも結びついているのでしょうか?
 人間は年をとっても、「人と人」との結びつきや積み上げた知識によって、失われた能力を補うことが可能と言われます。
 同じように人類は、様々な結びつきを復活させることで危機を乗り越えられるのではないか?
 そうこのライブは訴えかけてきます。コロナにより、社会が分断され、民主主義がその価値を失いかけている今、このメッセージは大切です。

<幻のユートピアへ>
 このライブ最高の見どころは、ラストにメンバー全員がステージを降り、観客の中に入る場面です。今や「三密状態」そのものとも言えるこの場面は、コロナ騒動によって失われたコンサート会場にかつて生み出されていたユートピアそのものです。
 バンドメンバーの多様な人種構成や彼らが示した選挙人登録を求めるメッセージは、アメリカの民主主義が生み出した理想社会「アメリカン・ユートピア」を表現しています。
 「芸術」とは、ある時、ある場所に小さな「ユートピア」を生み出し、人々をそこに招き入れてくれる表現活動なのだと思います。
 この作品は、まさにそのユートピアをステージで表現し、体験させてくれた稀有な例として、再び音楽映画の歴史に刻まれることになると思います。
 あなたも是非、この奇跡の会場にお越しください!

「アメリカン・ユートピア David Byrne's : American Utopia」 2020年
(監)(製)スパイク・リー
(製)デヴィッド・バーン
(製総)ジェフ・スコール、デヴィッド・リンド他
(撮)エレン・クラス
(編)アダム・ガフ
(振付)アニー=B・パーソン
(音)デヴィッド・バーン
(出)デヴィッド・バーン
Chris Giarmo(ダンス、メロディカ), Tendayi Kuumba(ダンス)
Angie Swan(Eギター), Bobby Wooten Ⅲ(ベース)
Karl Masfield(Kボード、音楽ディレクター), Mauro Refosco(ドラム、音楽ディレクター)
Tim Keiper(ドラム), Jacqelone Acevedo(ドラム), Daniel Freedman(ドラム)
Stephane San Juan(ドラム), Gustavo Di Dalva(トーキング・ドラム)

曲名  発表年 作曲・作詞 コメント
「Here」  2018年 David Byrne 
Daniel Lopatin
アルバム「American Utopia」収録
「I Know Sometimes A Man Is Wrong」 1989年 David Byrne  アルバム「Rei Momo」収録
「Don't Worry About The Government」  1977年 David Byrne  アルバム「Talking Heads: 77」
「Lazy」  2002年 Darren House
Darren Rock
Ashley Beedle 
英国のエレクトロ・ダンス・デュオX-Press 2
アルバム「Muzikizum」(2002年)からのカバー曲
「This Must Be The Place(Naive Melody)」 1983年 D.Byrne
Christopher Frantz
Jerry Harrison
Tina Weymouth 
アルバム「Speaking In Tongue」収録
インド旅行中ヴァラナシでラジオから聞こえてきた。
なんとも懐かしく泣けてきた。
「Heaven」と共に居心地の良い名曲!
「I Zimbra」  1979年 David Byrne
Brian Eno
Hugo Ball 
ダダイスト、ヒューゴ・ボルの前衛詩を歌詞に引用
アフリカ色を導入した時期の名曲
どうりで何を歌っているかわからなかったはずだ。
アルバム「Fear of Music」収録
「Slippery People」  1983年 David Byrne  アルバム「Speaking In Tongue」収録 
「I Sohld Watch T.V.」  2012年 David Byrne
Annie Clark
Walt Whitman 
アルバム「Love This Giant」収録 
「Everybody's Coing To My House」  2018年 David Byrne
Brian Eno 
アルバム「American Utopia」収録
「Once In A Lifetime」 1980年 D.Byrne
Christopher Frantz
Jerry Harrison
Tina Weymouth
アルバム「Remain In Light」収録
「Glass, Concrete & Stone」  2004年 David Byrne  アルバム「Grown Backards」収録 
「Toe Jam」  2009年 David Byrne
Quentin Cook
オリジナルはThe Brighton Port Authority
(ノーマン・クックのプロジェクト)
「I Think We're Gonna Need A Bigger Boat」収録
「Born Under Punches(The Heat Goes On)」 1980年 D.Byrne
Christopher Frantz
Jerry Harrison
Tina Weymouth 
アルバム「Remain In Light」収録 
「I Dance Like This」  2018年 David Byrne
Brian Eno 
アルバム「American Utopia」収録
「Bullet」 2018年 David Byrne
Brian Eno 
アルバム「American Utopia」収録
「Every Day Is A Miracle」 2018年 David Byrne
Brian Eno
アルバム「American Utopia」収録
「Blined」  1988年 David Byrne
Christopher Frantz
Jerry Harrison
Tina Weymouth  
アルバム「Naked」収録
(トーキング・ヘッズとしてのラストアルバム)
「Burning Down The House」  1983年 David Byrne  アルバム「Speaking In Tongue」収録 
「Hell You Talmbout」 
カバー曲
2013年 Janelle Monae Robinson
Nathaniel Irvin Ⅲ他
オリジナルは、アメリカの黒人女性シンガー
ジャネール・モネイ
アルバム「The Electric Lady」収録
「One Fine Day」  2008年 David Byrne 
Brian Eno
ブライアン・イーノとの2008年のアルバム
「Everything That Happens Will Happen Today」収録
「Road To Nowhere」  1985年 David Byrne  アルバム「Little Creature」収録
「Sonate In Urlauten(UrSonate)」    (P)
Kurt Schwitters
「I Zimbra」に引用されたダダイストのパフォーマンス
(ライブ終了後に会場で流された) 
「Everybody's Coming To My House」    David Byrne
Brian Eno 
Detroit School of Arts Vocal Jazz Ensemble


「ストップ・メイキング・センス Stop Making Sense」 1984年
(監)(脚)ジョナサン・デミ
(製)ゲイリー・ゴーツマン
(製総)ゲイリー・カーファースト
(撮)ジョーダン・クローネンウェス
(編)リサ・デイ
(出)デヴィッド・バーン(Vo,Gu)、クリス・フランツ(Dr)、ティナ・ウェイマス(Bas)、ジェリー・ハリソン(Gu,KeyB)
エドナ・ホルト、リン・マーブリー(Back Vo)、スティーブ・スカルス(Perc)、アレックス・ウェアー(Gu)、バーニー・ウォーレル(KeyB)

曲名  作曲・作詞  収録アルバム  コメント 
「Psycho Killer」  David Byrne
Tina Weymouth
Christopher Frantz 
「サイコキラー’77」
(1977年)
 
「Heaven」  David Byrne
Jerry Harrison 
「Fear of Music」
(1979年) 
天国のようなバーの歌
「Thank You For Sending Me An Angel」
天使をありがとう
David Byrne 「More Songs」
(1978年)
 
「Found A Job」 David Byrne 「More Songs」
(1978年) 
 
「Slippery People」  David Byrne
Tina Weymouth
Christopher Frantz
Jerry Harrison
「Speaking In Tongue」
(1983年)
 
「Burnin' Down The House」  ↑   
「Life During Wartime」  ↑  「Fear of Music」   
「Making Flippy Flop」  ↑  「Speaking In Tongue」
(1983年) 
 
「Swamp」  ↑  ↑   
「What A Day That Was」  David Byrne  「The Chatharine Wheel」
(1981年)
デヴィッド・バーンの初ソロ作より
「This Must Be The Place(Naive Melody)」  David Byrne
Tina Weymouth
Christopher Frantz
Jerry Harrison 
「Speaking In Tongue」
(1983年) 
 
「Once In A Lifetime」  ↑  「Remain In Light」
(1980年)
 
「Genius Of Love」 
by Tom Tom Club
Tina Weymouth
Christopher Frantz
Adrian Belew
Steven Stanley
「Tom Tom Club」
(1981年)
ティナ、クリスの二人中心のプロジェクト
「Girlfriend Is Better」  David Byrne
Tina Weymouth
Christopher Frantz
Jerry Harrison
「Speaking In Tongue」
(1983年) 
 
「Take Me To The River」 
カバー曲
アル・グリーン
Al Green
「More Songa」
(1978年)
ソウル界の大物アル・グリーンのカバー
「Cross-Eyed and Painless」 David Byrne
Brian Eno
「Remain In Light」
(1980年) 
 

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