海中アクション映画新時代の幕開け


「アクアマン Aquaman」

- ジェームズ・ワン James Wan -

<単独ヒーローもの>
 クリストファー・リーヴの「スーパーマン」以降、アメコミのヒーロー映画は、時代ごとに製作され、それぞれヒットしてきましたが、「バットマン」以降、ダークサイドをもつ複雑な人間性を盛り込むことで、単なるヒーロー・アクションとは一線を画した映画が作られるようになりつつあります。「ブラック・パンサー」は、その集大成的作品として高い評価を得ることになり、アカデミー賞を3部門で獲得。近い将来、このジャンルの作品がアカデミー作品賞を獲得する時代が来ることかもしれません。(一応「バードマン」がアカデミー作品賞を受賞していますが・・・)
 考えてみると、これまでも「怪獣映画」「怪物映画」「特撮映画」などの歴史においては、主役を一つに絞った「単独もの」にこそ、魅力的な作品が多いと言えます。それぞれのキャラクターをより奥深く描ける「単独作品」こそが結局最高傑作であることは、多くの映画を観れば明らかでしょう。「フランケンシュタイン」、「キングコング」、「ゴジラ」、「バットマン」、「ブラック・パンサー」など。多くの続編がしだいに新鮮さを失い、適役のキャラクターに頼らなくては作品が成立しなくなることも、映画の歴史から明らかです。(ジョーカーのような魅力的なキャラクターが登場することは例外的と考えるべきです)
 ここで取り上げる「アクアマン」も単独ヒーローもののヒット作です。ただし、この作品のキャラクターの場合、心の中に隠された「ダークサイド」はほとんどなさそうです。
 ではそのヒットの理由は?

<突っ込みどころ満載ですが・・・>
 この映画のお話は正直言って突っ込みどころ満載です。ラブ・ストーリーとしての結末は、ある程度読めちゃうし、敵役のブラックマンタはライバルにしては物足りないキャラクターだし、そもそもオープニングの潜水艦内の銃撃戦は潜水艦映画でやってはいけないことです。(潜水艦の中で銃を撃つのは、壁に穴をあけて沈没させるか、弾丸が跳ね返ってどう飛ぶかわからないことからやってはいけない禁じ手と言われています)
 アメコミ的と言えばそれまでですが、・・・ただし、その後の水中アクションの新鮮さ、キャラクターの豊富さ、陸上アクションのスピード感は、予想以上のできでした。あとはそこにギリシャ神話から基本的な骨組みをいただいて、「愛のおとぎ話」が作られています。少なくとも、「潜水艦もの」でも「ダイビングもの」でも「自然観察もの」でもなかった今までにない新たな海中娯楽映画が生まれたことだけは確かです。
 人はまだ自由自在に空中を飛ぶことはできません。しかし、水中ならすでにそれは可能なので自由なアクションシーンが演出できます。これがCGの発展により可能になりました。それに宇宙開発の盛り上がりに比べると、海中の開発はクストーの時代からそれほど進歩していない感もあります。そこには、まだまだ謎が多く独自の世界をそこに創造することが可能です。その意味では、海はまだまだ大きな可能性が広がる場所なのです。
 水族館が大好きで、ダイビングやシーカヤックにはまっていたことのある僕としては、このジャンルから今後も新たな作品が誕生することを期待したいと思います。

<水中映画>
 「アクアマン」はアメコミのキャラクターですが、水中で活動することが災いし、これまで影の薄い存在でした。思えば、石森章太郎の「サイボーグ009」シリーズでも、水中でその能力を発揮するサイボーグ008ことピュンマは、9人の中で最も地味なキャラクターでした。出番が限られる水中キャラはどうしても地味な存在にならざるを得なかったのでしょう。では映画の歴史の中で、「水中映画」と呼べるジャンルは存在するでしょうか?
 先ずは「アクアマン」とは異なるジャンルである潜水艦映画を見てみましょう。


<潜水艦映画の名作>
 「潜水艦映画に駄作なし」という映画界のことわざがあります。ご存知でしょうか?
 数は少ないのですが、潜水艦映画には名作が多いのは事実です。映画界の大物たちの多くがこのジャンルに挑戦しています。
 それだけやりがいのあるジャンルであり、密室劇として、サスペンス映画として、この上ない題材であることは確かなようです。
 考えてみると、名作の宝庫と呼ばれる「ボクシング映画」も、密室劇であり、サスペンス映画であり、時間限定のドラマチックな物語になりうる存在です。
 戦争映画における「潜水艦映画」は、スポーツ映画における「ボクシング映画」のような存在だと僕は思います。
 ここで潜水艦映画の名作をご紹介します!
「海の牙」  1946年 ルネ・クレマン  フランス 巨匠ルネ・クレマンの作品カンヌ国際映画祭冒険探偵映画賞 
ナチス高官を逃がす潜水艦内の悲劇の物語
「眼下の敵」 1957年 ディック・パウエル  アメリカ ロバート・ミッチャム、クルト・ユルゲンス主演アカデミー特殊効果賞
潜水艦映画の名作中の名作 
「深く静かに潜航せよ」 1958年 ロバート・ワイズ  アメリカ クラーク・ゲイブル、バート・ランカスター主演
日本軍の駆逐艦と米潜水艦との戦闘
「イエローサブマリン」  1968年 ジョージ・ダニング
ジャック・ストークス 
イギリス ザ・ビートルズの音楽によるアニメ映画 
「原子力潜水艦浮上せず」 1978年 デヴィッド・グリーン アメリカ 沈没した原子力潜水艦の救出作戦
チャールトン・ヘストン主演の定番パニック映画 
「Uボート」  1981年 ヴォルフガング・ペーターゼン ドイツ アカデミー監督賞にもノミネートされた潜水艦映画の傑作 
「レッドオクトーバーを追え!」 1990年 ジョン・マクティアナン  アメリカ ショーン・コネリー主演アカデミー音響効果編集賞 
ジャック・ライアン・シリーズの軍事サスペンス映画
「クリムゾン・タイド」  1995年 トニー・スコット アメリカ デンゼル・ワシントン主演
第三次世界大戦の危機、米軍原子力潜水艦はどう乗り切るか? 
「U-571」 2000年 ジョン・モストウ  アメリカ マシュー・マコノヒー主演アカデミー音響賞
暗号解読装置「エニグマ」を巡る攻防を描いた潜水艦物の快作 
「K-19」  2002年 キャスリン・ビグロー  アメリカ ハリソン・フォード、リーアム・ニーソン主演
1961年ロシアの原潜が起こした事故を題材としたサスペンス映画 
「ローレライ」  2005年 樋口真嗣  日本  原爆投下を阻止するために爆撃機の基地に向かう日本の潜水艦
福井晴敏の小説「終戦のローレライ」を映画化 
「ライフ・アクアティック」  2005年 ウェス・アンダーソン  アメリカ クストーがモデルともいえる海洋冒険家のファンタジー冒険映画
ただし、本物の海中ではないので・・・・ 

 傑作ではなくても、それぞれ見ごたえのある作品が並びます。ではそれ以外に水中を舞台にした映画はあるのか?
 ジャック・イヴ・クストーの「沈黙の世界」から始まった「海中ドキュメンタリー映画」はその代表的存在です。(クストーの伝記映画「海へのオデッセイ」は、陸上のクストーのシーンばかりで魅力的ではありませんでしたが・・・)
 リュック・ベッソンは、海が大好きな映画監督として「グラン・ブルー」で世界的ブレイクを果たしました。そして、彼の海への愛情を注ぎ込んだドキュメンタリー映画が名作「アトランティス」です。(かつてスキューバ・ダイビングのインストラクターになろうかと思っていた時期もあった僕にとって、忘れられない作品です)
 リュック・ベッソンと並ぶ海好き監督としては、名作「アビス」があります。歴史的だヒット作品「タイタニック」もまた水中シーンの魅力なくしては語れません。さらにそのドキュメンタリー映画の「タイタニックの秘密」(2003年)、海中ドキュメンタリーの「深海への挑戦」(2014年)は、彼の海好きがなせるわざでした。
 アカデミー作品賞を受賞したギレルモ・デル・トロの「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)も、オープニングの水中映像の美しさが忘れられません。
 映画史に残る赤字を生んだケヴィン・レイノルズの超大作「ウォーター・ワールド」(1995年)も、後半に登場する巨大な海中都市遺跡のシーンが僕は大好きです。
 「崖の上のポニョ」の水中シーンもアニメながら素晴らしいものがあります。「アクアマン」の中の車と津波の追いかけっこの場面は、どう考えても「崖の上のポニョ」からの引用に思えました!
 「パイレーツ・オブ・カリビアン」の中でもわずかながら印象的な水中シーンがあります。
 
<海中映像>
 この映画では、これまで見られなかった水中アクションシーンが次々に登場しますが、その多くはこれまで技術的に不可能だった映像です。CG技術の向上により、水中ならではの水に揺れる髪の毛や光の変化が可能になったことは重要。さらにこの映画ではワイヤー・アクションが上手く使われていて、それが海中ならではの浮遊感を生み出しています。
 監督のジェームズ・ワンは、これまでこのタイプの映画はまったくなかっただけにゼロから作り上げたようなので、この映画は今後の水中アクション映画の基本になるのかもしれません。

<多彩なキャラクター>
 この作品の見どころとして注目したいのは、豊富なサブ・キャラクターの存在です。
 敵役のオーム王子やブラックマンタは、もちろんですが、それ以外のサブ的なチョイ役キャラクターにも魅力的な存在がいます。「甲殻王」ブライアンという「カニ男」。大量に現れて船を襲うトレンチ軍団。(半魚人とエイリアンの合体のような衣装なデザインが実に印象的です!)アーサーが騎乗することにもなる超巨大海中生物カラゼン。(声がなんとあの「サウンド・オブ・ミュージック」のジュリー・アンドリュース!)
 その他にも、巨大な戦闘用のタツノオトシゴや古代の魚竜のような戦闘生物など、魅力的な生物が次々に現れ、海洋生物好きにはたまりません!こうした多彩なキャラクターや生物は、「アクアマン」のコミックス・シリーズの中で登場してきた中から選びだされたものです。
 アメコミものの強みは、こうした原作シリーズに登場している既存のキャラクターを好きなように選び、時には改変することができることです。そうすることで、すでに持っているその作品の世界観を広く奥深く使ながら、個性的で深みのあるキャラクターやリアルでありながら想像を超えた独自の世界を生み出すことが可能になるのです。
 「ブラック・パンサー」はその成功例だったといえます。たとえその世界がリアルさに欠けていても、ファンタジーとしてしっかりと構築された世界でさえあれば、観客はそこに感情移入することが十分に可能になるのです。

「アクアマン Aquaman」 2018年
(監)(ストーリー)ジェームズ・ワン James Wan
(製総)(ストーリー)ジェフ・ジョンズ
(製)ピーター・サフラン、ロブ・コーワン
(脚)デイヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック
(脚)(ストーリー)ウィル・ビール
(撮)ドン・バージェス
(美)ビル・ブルゼルスキー
(編)カーク・モッリ
(衣)キム・バレット
(視効)ケビン・マキルウェイン
(音)ルパート・グレグソン=ウィリアムズ
(出)ジェイソン・モモア Jason Momoa、アンバー・ハード Amber Heard、ウィレム・デフォー Willem Dafoe
ニコール・キッドマン、ジュディー・アンドリュース(カラゼンの声)
パトリック・ウィルソン(オーム王)、ドルフ・ラングレン、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、ルディ・リン、テムエラ・モリソン

現代映画史と代表作へ   トップページヘ