- アート・ファーマー Art Farmer -

<アート・ファーマー>
 アート・ファーマー Art Farmer は、1928年8月21日アイオワ州のカウンシル・グラフで生まれました。彼には双子の兄弟アディソンがいて、彼もまたジャズ・ミュージシャンとして活躍。ベーシストとして、彼の代表作となったアルバム「モダン・アート」で共演もしています。
 彼の活躍はライオネル・ハンプトンの楽団での演奏から始まっています。ソロとしての活動は、1953年にプレスティッジと契約し、初リーダー作を発表してからのことになります。
 1957年から1958年にかけては、ジャズ・ピアニスト、ソニー・クラークのアルバムに参加。彼の代表作のひとつであるアルバム「クール・ストラッティン」(1958年)にもトランペッターとして参加しています。
 1959年から1962年にかけては、テナーサックス奏者ベニー・ゴルソンとの双頭ジャズ・コンボ、ジャズテットに参加し、6枚のアルバムを発表しています。その前身となったベニー・ゴルソンとの共演アルバム「モダン・アート」(1958年)は、彼の代表作となりました。そして、これ以後彼はトランペットをフリューゲルホーンに持ち替えるようになります。
 さらにこの頃から彼は活動の中心をヨーロッパに移し、1968年から1970年にかけては、オーストリアのウィーンに住んでいました。当時、多くのジャズ・ミュージシャンたちが仕事を求めてヨーロッパに移住していましたが、麻薬を必要としない彼にとってヨーロッパは天国ののような土地でした。
 1980年代に入ると、彼はジャズテットを再結成。1990年代には、トランペットとフリューゲルホーンの中間となる新しい楽器フランペットに挑戦しています。

<モダン・ジャズ黄金世代>
 彼と同じ1928年生まれとその前後の世代は、モダン・ジャズの黄金世代ともいえます。1926年生まれには、マイルス・デイヴィスジョン・コルトレーン。1927年生まれには、スタン・ゲッツ、ウォルター・ビショップ・Jr、リー・コニッツ。彼と同じ年生まれには、キャノンボール・アダレイ、エリック・ドルフィー、ハンプトン・ホーズ、ホレス・シルバー、ケニー・ドリュー。1929年生まれには、チェット・ベイカー、バリー・ハリス、ビル・エヴァンス。1930年生まれには、クリフォード・ブラウン、オーネット・コールマン、ソニー・ロリンズ、トミー・フラナガン。
 こうしたキラ星のごときアーティストが、その後1950年代にモダン・ジャズの黄金時代を築くことになります。もしかすると、ジャズ史に残る名盤の半分は、この世代のミュージシャンが生み出したものかもしれません。
 そんな黄金世代の中でアート・ファーマーはかなり地味な存在かもしれません。でも彼のクセのない趣味の良い音楽は、ジャズ初心者にはぴったりで飽きずに何度でも聞くことができると思います。僕自身、ジャズを聞き出したばかりの頃、彼のアルバム「アート」と「モダン・アート」の二枚を飽きずに何度も聞いた覚えがあります。

<聞きやすくクセのない音楽の秘密>
 そうした彼の音楽のもつ聞きやすさは、彼の真面目な性格によるところも大きいでしょう。彼と同世代のミュージシャンたちの多くがアルコールや麻薬に溺れてゆく中、彼はそうした生活に陥ることはありませんでした。マイルス・デイヴィスが麻薬を買うために楽器を質屋に入れてしまい演奏できなくなった時、彼はマイルスに自分のトランペットを貸したといいます。
 さらにもうひとつ、彼の優しいサウンドを象徴するのは、1960年代以降、彼が用いることになったフリューゲルホーン Flugelhornの存在です。
 トランペットという楽器は、管の部分がほとんど円筒の筒状になっていますが、それに対してフリューゲルホーンは管全体が三角錐状になっていて、ラッパの部分も大きめの形をしています。そのために、フリューゲルホーンは音質がまろやかで奥の深い音がでるためにバラード系の曲にぴったりの楽器といえます。(逆にリズムを強調するパワフル、ダンサブルな曲には向かないことになりますが、・・・)この楽器の音質は、アート・ファーマーの得意とする音楽にぴったりでした。
 さらに1960年代は、ポップス界の大御所バート・バカラックがこの楽器を使用して独特の音楽を生み出し、黄金時代を築いた時期でもあります。1960年代半ば、この楽器は時代を象徴する楽器でもありました。

<代表作>
「When Farmer Met Gryce」 1954年
 アルトサックス奏者、ジジ・グライス Gigi Gryceとの共演作。ジジのアルトサックスはファーマー同様クセがなく、ファーマーにとって相性がぴったりの組み合わせでした。初期の活動を代表するアルバムです。

「2 Trumpets」 1956年
 彼と同じ人気トランペッター、ドナルド・バード Donald Byrdとのトランペット・バトル・アルバム。
 ジャッキー・マクリーンのアルトサックス。バリー・ハリスのピアノ。ダグ・ワトキンスのベースにアート・テイタムのドラムという豪華なバックも聴き所です。

「モダン・アート Modern Art」 1958年
 作曲家としても有名なサックス奏者ベニー・ゴルソンとの共演作。ベースは双子の兄弟アディソンで、ドラムスはデイヴ・ベイリー。そして、ピアノはビル・エヴァンスという豪華な顔ぶれです。この後ゴルソンとのコンビ、ジャズテットが誕生することになります。ファンキーなゴルソンのアルトサックスとムーディーなファーマーのトランペットが見事に絡み合い彼の代表作となりました。

「アート Art」 1960年
 地味ながらお洒落であきのこない彼らしいバラード・アルバムの傑作。初心者にお勧めの決して聞き飽きることのないアルバムです。スウィング・ジャーナル誌が選んだ「20世紀ジャズ永遠の愛聴版ランキングでは、多くの名盤に混じり49位にランクインしています。

「アート・ファーマー・ライブ・アット・ハーフノーツ」 1963年
 ジム・ホールのギターとスティーブ・スワローのベースというのは、下記のライブ映像と同じメンバー。(ドラムスはウォルター・パーキンス)スタジオ録音盤とは違うホットな演奏と観客との一体感を楽しめるコンサートの録音ならではの作品です。

「Sing Me Softly of the Blues」 1965年
 スティーブ・スワローのベースとポール・ラ・ロッカのドラムスというのは、下記のライブ映像と同じメンバー。それにスティーブ・カーンのピアノを加えたバンドによるカーラ・ブレイ作品のカバー・アルバム。もともとリズムセクションの二人は、カーラのバックでも活躍していただけにカーラの世界を見事に作り変えて聞かせてくれます。

<「ライブ・イン・イングランド・1964」>
 彼のライブ映像として、1964年にイギリスで行われたスタジオ・ライブの映像があります。そこで彼が吹いているのは、フリューゲルホーンです。トランペットとは異なる音色をお楽しみいただけます。そのライブのお勧めには、彼の演奏以外にもうひとりの主役とも言えるギタリストのジム・ホール Jim Hall の素晴らしいギタープレイがあります。ビル・エヴァンスとの共演作「アンダーカレント」(1959年)でも有名なジャズ・ギターの第一人者の奏でるギターの優しい音色は、フリューゲルホーンの奥の深い音色と見事に融合しています。ドラムを担当しているピート・ラ・ロッカ Pete La Rocaは、ソニー・ロリンズの名盤「ヴィレッジ・バンガードの夜」(1957年)でも有名なドラマー。ベース担当のスティーヴ・スワロー Steve Swallowは、カーラ・ブレイの名盤「ライブ!」でもベースを弾いていて、ラ・ロッカとは、ポール・ブレイのバンドでもコンビ組んでいる名コンビです。
<演奏曲目>
「Sometime Ago」
1963年のアルバム「インターアクション」収録
「Darn That Dream」
1957年発表の名盤「モダン・アート」収録
「I'm Getting Sentimental Over You」
1963年のライブ・アルバム「アート・ファーマー・ライブ・アット・ハーフノーツ」収録
「Petite Belle」
1965年のカーラ・ブレイのカバーアルバム「Sing Me Softly of the Blues」収録
「Bag's Groove」
元々はミルト・ジャクソン作曲のスタンダード・ナンバーで多くのミュージシャンが演奏している曲

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