ビートとライムを探求し続けた部族の物語


- ア・トライブ・コールド・クエスト A Tribe Called Quest -
<1990年代ニュースクール>
 このサイトでは、ヒップホップの歴史を1980年代のその誕生から21世紀までをいくつかに分けてまとめています。ただし、1990年以降ニューヨークを舞台にしたニュースクール系のアーティストたち、ア・トライブ・コールド・クエストやデ・ラ・ソウルなどの部分は抜け落ちていました。
 パンクロックのブームから登場したニューヨークのトーキングヘッズパティ・スミスのようなアート系のアーティストと似たテイストをもつニュースクール系は、個人的にも好きだったのですがその部分は情報不足もあり、書いていませんでした。しかし、ドキュメンタリー映画「ビーツ、ライムス&ライフ」を参考にやっとその部分を書くことができそうです。そこに描かれているア・トライブ・コールド・クエストとその仲間たちの90年代ヒップホップシーンについてまとめてみます。

<探求する部族の誕生>
 Q-ティップことマカール・ファリードとファイフ・ドーグことマリク・イザーク・テイラーは、ニューヨーク市郊外のクイーンズで育った幼馴染でした。彼らの少年時代、1980年頃はヒップホップの第一期黄金時代でした。二人は、LLクールJやRUN-D.M.C.などに憧れ、9歳でラップを始め、そこにビート担当のジャロビことジャロビ・ホワイトも参加。さらにブロンクスの高校で出会ったアリ・シャヒームをDJとして迎えて音楽活動を開始します。
 当時彼らが通う高校には、ジャングル・ブラザースのメンバー、マイクGもいて意気投合。さらに彼の伯父さんDJレッドアラートから、様々なことを学んだだけでなく、デビューのチャンスももらうことが出来ました。こうして、彼らは高校時代に早くもステージやラジオでデビュー。すぐに彼らにはレコード会社から契約のオファーがあり、35万ドルいう高額での契約がなされました。
 Q-ティップという優れた才能は、デビュー当初から飛びぬけていましたが、その先鋭的な音作りをわかりやすく聞き手に伝えたファイフの凡人ならではの役割もまた重要でした。彼らはその微妙なバランスによって成功を収めたのかもしれません。

<デビュー、即ブレイク>
 1990年彼らはデビューアルバム「People's Instinctive Travels and The Paths 0f Rhytm」を発表しました。(発売時の日本語タイトルは「ヒップ・ホッパーズQ軍団の大冒険」。意外と良いタイトルだったように思います)彼らが選んだグループ名は、A Tribe Called Quest(探索を続ける部族)。その名は、彼らの音楽性にピッタリでした。
 彼らは当時の他のヒップホップのグループとは異なり、あえてアフリカの伝統的衣装のダシーキを着用。マッチョで悪ぶった一般的なヒップホップのファッションとの差別化を計りました。曲の内容も、ヒップホップの王道である警察やライバル・グループに対するディスりとは異なり、ダンス音楽として楽しむためのハッピーなものを指向しました。するとそうしたスタイルが受け、彼らは一気にブレイク。(ニューヨークの街には合っていたと言えます)
 彼らは同じスタイル、同じ世代の仲間たちであるジャングル・ブラザース、デ・ラ・ソウル、クイーン・ラティファ、コモン、ブラック・シープらと共に大きな枠組みのコラボレーション・グループ「ネイティブ・タン」を結成。ニューヨークを中心に一大ムーブメントを展開しました。当時の一般的なスタイルだったギャングスタ・ラップの対極に位置する存在のため、ディスられることもありましたが、だからこそヒップホップの新たな時代を切り拓く存在となりえました。

<内部分裂>
 彼らにとっては予想外のいきなりのブレイクでしたが、その原動力だったQ-ティップが追求する音楽性に対し、グループの他のメンバーの心は複雑でした。ビート担当だったジャロビは、ファースト・アルバム発売後には、早くもグループから脱退してしまいます。彼はQ-ティップの完璧主義や思想性について行けなかったといいます。
 そんなQ-ティップの完璧主義は、2ndアルバムではミキシング・エンジニアのボブ・パワーと共にさらなる傑作を生み出すことになりました。しかし、当時その録音作業は完璧を求めて延々と続き、マネージャーが強制的にストップさせなければ終わらなかったかもしれません。
 こうして誕生した2作目のアルバム「The Low End Theory」(1991年)の特徴は、何といっても黒人音楽のオールド・スタイルであるジャズを本格的にサンプリングした最初のヒップホップ作品だったことでしょう。「Verses From The Abstract」におけるジャズ界の大御所ロン・カーターのベース。「Vibes and Stuff」でのグラント・グリーンのギター。それに曲のタイトルもズバリの「Jazz (We've Got)」など、レトロなジャズを飾りとして使うのではなく、元ネタがわからないほどに解体することで、まったく新たな音源として使用されています。
映画の中のインタビューでQ-ティップは、ジャズとヒップホップの共通性についてこう語っています。

オヤジが言うとおり、ビバップに似てる
フリースタイルもジャズの即興と同じ
その場のノリに合わせライミングする
メロディーを抜き、パターンで変化させ即興でやるのが基本だ
ジャズなら誰かがソロで奏でたらメロディーを探して応じる
MCならリリックだ。


<崩壊と再生と終焉>
 Q-ティップの完璧主義と前作の成功により、3作目のアルバムもまた大仕事となりました。そのアルバム「Midnight Maruders」(1993年)ではサンプリングのための著作権料の予算が大幅に膨れ上がり、当初の録音全体の予算に達してしまったといいます。それだけ膨大な曲を再利用したアルバムだったわけです。
 このアルバムの制作中、持病の若年性糖尿病が悪化していたファイフは肉体的にも精神的にもグループの活動について行けなくなり、治療のためアトランタへと引っ越してしまいます。こうしてグループは、実質的に解散状況となってしまったものの、レコード会社との契約や経済的な理由もあり、3年かけて4枚目のアルバム「Beats, Rhymes And Life」(1996年)を完成させます。この段階でQ-ティップとファイフの関係は修復不能な状態になり、その板挟みとなっていたアリもつき合いきれなくなっていました。
 1998年のアルバム「The Love Movement」を完成させるとグループは解散を発表し、Q-ティップはソロ活動を開始。それに比べ、ファイフはその後も体調は回復どころか悪化してしまい、音楽活動は困難な状態となりました。
 2008年、ファイフの経済的な問題と体調の一時的回復もあり、グループは再結成ライブを行うことになります。20年ぶりに4人のメンバーがそろい「ロック・ザ・ベルズ・ツアー」に参加。ところがツアー中、体調がすぐれないファイフと完璧主義者のQ-ティップが再び対立し、心無いQ-ティップの対応に怒ったファイフはケンカの後にツアーを途中で降りてしまいます。これで二人は絶縁状態に入ります。彼の体調はいよいよ悪化し、腎臓の機能がどんどん弱まり、ついには移植が必要な状態になってしまいました。結局、彼は妻の片方の腎臓を提供してもらうことで辛うじて生き延びました。
 それから18か月後、手術の成功により健康を回復したファイフは、2010年に開催されたサマーソニックに出演するため日本へとやってきました。そして、再びオリジナル・メンバー4人による再結成ライブが実現することになりました。

 探求を続ける部族のメンバーとして活動を始めた4人も20年を超える歳月を経て、異なる道へと向かわざるを得なくなりました。
 ファイフは体調を維持しながら、大好きなバスケットのスカウトマンとして働くことが生きがいといいます。ジャロビは家族と共にレストランを営業中。Q-ティップとアリは、それぞれ音楽活動を継続しています。
 2016年契約上最後の一枚となったアルバム「We Got It From Here,Thank You 4 Your Service」が発表されていますが、ほとんど話題にはなりませんでした。

<参考>
ドキュメンタリー映画「ビーツ、ライムス&ライフ : ア・トライブ・コールド・クエストの旅」 2011年
Beats, Rhymes & Life : The Travels of A Tribe Called Quest
 
(監)マイケル・ラパポート Michael Rapaport(アメリカ)
(製)エドワード・パークス、フランク・メル他(製総)ダン・バークス、ザック・フリー他
(撮)ロバート・ベナヴィデス Robert Beravides
(編)レニー・メシア
(出)ア・トライブ・コールド・クエスト他 
曲名  演奏  作曲・サンプリング曲  収録アルバムなど 
「8Million Stories」  ア・トライブ・コールド・クエスト
A Tribe Called Quest
(以下ATCQ)
Kamaal Fareed(K F)
Ali Shaheed Jones-Muhammad
(ASJ-M)
Malik Izaak Taylor(MIT)
Skeffington V. Ahelm
アルバム
「Midnight Marauders」収録
(MM)
「I Left My Wallet In El Segundo」  ATCQ  KF,ASJ-M  アルバム
「People's Instinctive Travels
and The Paths of Rhytm」収録
(PIT&PofR)
「We Can Get Down」  ATCQ KF,ASJ-M,MIT アルバム「MM」収録
「Bonita Applebum」  ATCQ  KF,ASJ-M 
William H. Allen
Roy Ayers
他 
アルバム「PIT&PofR」収録
「Can I Kick It ?」 ATCQ 「Walk On the Wild Side」
by Lou Reed 
アルバム「PIT&PofR」収録 
「Check The Rhime」  ATCQ KF,ASJ-M 
「Baby, This Love I Have」
by Minnie Riperton

「Love Your Life」
by Average White Band
アルバム「The Low End Theory」収録
(LET)
「Jazz (We've Got)」  ATCQ  KF,ASJ-M 
Kaper Bronislau他 
アルバム「LET」収録
「Buggin' Out」  ATCQ KF,ASJ-M  アルバム「LET」収録
「Mr. Muhammad」  ATCQ KF,ASJ-M 
Maurice White
アルバム「PIT&PofR」収録
「Oh My God」(Remix)  ATCQ  KF,ASJ-M 
「Who's Gonna Take The Weight」
by Kool & the Gang 
アルバム「MM」収録
「Lyrics To Go」  ATCQ  KF,ASJ-M 
Grover Washington Jr. 
アルバム「MM」収録
「Footprints」  ATCQ  KF,ASJ-M 
「Sir Duke」 by Stevie Wonder 
「Think Twice」 by Donald Byrd
アルバム「PIT&PofR」収録
「Butter」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT他 アルバム「LET」収録 
「Clap Your Hands」 ATCQ KF,ASJ-M 
Bob James, Arthur Neville
George Porter Jr.
アルバム「MM」収録
「Electric Relaxation」  ATCQ  KF,ASJ-M 他
「Mystic Brew」 by Ronnie Foster
アルバム「MM」収録
「Good Lives Through」 ATCQ  KF,ASJ-M,MIT  アルバム「MM」収録 
「Crew」 ATCQ KF,ASJ-M,MIT  アルバム「Beats , Rhymes & Life」
収録(BRL)
「Excursions」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT  アルバム「LET」収録 
「A Ward Tour」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT   アルバム「MM」収録 
「Baby Phife's Return」  ATCQ KF,ASJ-M,MIT   アルバム「BRL」収録 
「Find Away」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT  
「Dubnova」 by TOWA TEI 
アルバム「The Love Movement」収録
「Life Is Better」  Q-Tip  KF, R. Grasper   
「Youthful Expression」  ATCQ KF,ASJ-M,MIT  アルバム「PIT&PofR」収録 
「Stressed Out」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT   アルバム「BRL」収録 
「The Chase, Part 2」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT 
Steve Arrington 
アルバム「MM」収録 
「Midnight」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT他
「Spinnig Wheel」 by Lonnie Smith
(Blood ,Sweat & The Tears)
 
アルバム「MM」収録
「Ham' N' Eggs」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT
「Nappy Dugout」 by George Clinton 
アルバム「PIT&PofR」収録
「Get A Hold」  ATCQ  KF,ASJ-M,MIT
「The Visit」 by Cyrkle 
アルバム「BRL」収録 
<使用されている他のアーティストの曲> 
「Third Rock」  Pure Essence Steve Walter  
「Ain't Hip To Be Labeled A Hippie」  デ・ラ・ソウル
De La Soul
Paul Huston
Vincent M. Mason
Kalvin Mercer
 
「African Cry」  The New Birth  Ann B. Borgan他   
「Buddy」 De La Soul  Nathanil R. Hall , KF他  
「Death Rap」  Mango's Kool Out Crew  P. Brown, T. Rainey他  
「Sucker M.C.'s(Kool Groovel)」  RUN-D.M.C. Darryi Mastthews他   
「Ah Get Up」  James Pants James Singleton  
「 Inside My Love」  ミニー・リパートン
Minnie Riperton
Minnie Riperton   
「Daylight」 Yesterdays New Quintet William H. Allen他  
「On The Run」  ジャングル・ブラザース
Jungle Brothers
   
「Black Is Back」     
「The Promo」  ↑     

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