神とは、愛とはを問いかけ続けた巨匠 


- イングマール・ベルイマン Ingmar Bergman -
<イングマール・ベルイマン>
 スウェーデンが生んだ巨匠イングマール・ベルイマン Ingmar Bergman は、スウェーデンの学芸都市ウプサラで1918年7月14日に生まれています。彼の父親はプロテスタント教会の牧師で、クリスチャンとして育てられたことから、彼の映画では「キリスト」や「神の存在」が初期は特に大きなテーマとして描かれることになります。
 1937年、ストックホルム高校に入学し、そこで文学と芸術史を学びますが、ほとんど学校には通わず、学生劇団の活動に熱中していました。
 1942年、彼が書いた戯曲が評価されたことから、スヴェンスク・フィルム・インダスコ社の脚本部に採用されます。
 1944年、彼はヘルシングボルイ劇場の演出主任に就任。自作の脚本「もだえ」が映画化され、1946年「危機」で監督デビューを果たします。彼はこの後、生涯、「映画」と「演劇」二つの表現活動を続けることになります。
 1952年、「不良少女」で、彼の名は知られるようになします。

「夏の夜は三たび微笑む」(1955年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)グンナール・フェッシェル
(音)エリック・ノルドグレン
(出)エヴァ・ダールベック、ハリエット・アンデルセン、ビビ・アンデルセン、ウラ・ヤコブソン、グンナール・ビヨルンストランド
カンヌ国際映画祭詩的ユーモア賞

「第七の封印」(1957年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)グンナール・フィッシェル
(美)P・A・ルンドグレン
(音)エリク・ノルドゴレン
(出)マックス・フォン・シドー、グンナール・ビヨルンストランド、ベント・エケロート
カンヌ国際映画祭審査員特別賞 
<あらすじ>
 十字軍として、中東に遠征したものの戦争に破れて故郷に戻る途中の騎士(マックス・フォン・シドー)が死神(悪魔)に狙われます。騎士は死神にチェスを挑み、その間は死を免れ、「神」や「死」について死神と対話しながら旅を続けることになり、旅回りの一座と出会います。ペストが広まり終末思想が広まる街々を旅する一座は、行き先に困る状況となっていましたが、彼は一座を自分の城に招待しようと旅を共にします。しかし、「魔女狩り」を行うカルト宗教集団も現れ、社会は混沌の度を増し、旅にも危険が伴い始めます。
 旅の一団は無事に城にたどり着きますが、劇団の男は騎士と死神がチェスしている姿を目にして、妻と共に逃げ出していました。死神はついに騎士とその仲間たちにペストをもたらそうとしていました。

 「生と死」、「神の存在」を問いかける物語でありながら、この映画はユーモアたっぷりでコメディー・タッチの「寓話」として楽しめる作品にもなっています。さらには旅回りの一座と騎士とのロード・ムービーにもなっていて、個性あふれる登場人物たちとの旅物語でもあり、カルト集団の登場する場面はかなり怖い「オカルト映画」として見ることもできます。その後も彼の作品がどんどん宗教的、哲学的、精神分析学的な重いものになって行くことを考えると、この作品はもっともわかりやすく楽しめる作品だったのかもしれません。

「野いちご」(1957年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)グンナール・フィッシェル
(音)エリク・ノルドグレン
(出)ヴィクトル・シューストレム、イングリッド・チューリン、マックス・フォン・シド―
 50年間の働きを認められ名誉博士号を与えることになった老医師が自分の人生を振り返り、人生の意味を問う作品。
ベルリン国際映画祭金熊賞

「女はそれを待っている」(1958年)
(監)(脚色)イングマール・ベルイマン
(原)(脚色)ウラ・イサクソン
(撮)マクス・ヴィレン
(出)イングリッド・チューリン、ビビ・アンデルセン、マックス・フォン・シドー、エヴァ・ダールベック
カンヌ国際映画祭監督賞、女優演技賞

「魔術師」(1958年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)グンナール・フィッシェル
(美)P・A・ルンドグレン
(出)マックス・フォン・シドー、イングリッド・チューリン、グンナール・ビヨルンストランド、ビビ・アンデルセン
ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞


「処女の泉」(1960年)
(監)イングマール・ベルイマン
(脚)ウラ・イサクソン
(撮)スヴェン・ニクヴィスト
(音)エリク・ノルドグレン
(出)マックス・フォン・シドー、ビルギッタ・ペテルセン、グンネル・リンドブルム 
カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞
アカデミー外国語映画賞


 16世紀、スウェーデンの田舎に住む農家の娘が教会に行く途中、3人の男たちに暴行され殺害されます。事実を知った彼女の父親は、その3人を殺害するが自らの罪を重さに耐えきれなくなります。そんな中、娘の遺体の下から清らかな泉が湧き出します。


「鏡の中にある如く」(1961年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)スヴェン・ニクヴィスト
(出)ハリエット・アンデルセン、マックス・フォン・シドー、グンナール・ビヨルンストランド
アカデミー外国語映画賞

「冬の光」(1962年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)スヴェン・ニクヴィスト
(出)マックス・フォン・シドー、グンナール・ビヨルンストランド、イングリッド・チューリン


「沈黙」(1962年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)スヴェン・ニクヴィスト
(出)イングリッド・チューリン、グンネル・リンドブルム 
 持病が悪化したために列車を降りた姉と妹とその子。三人は見知らぬ国の見知らぬ街のホテルに泊まることになりました。病と孤独から作家の姉は精神的に不安定になり、酒とオナニーに耽溺していました。そんな姉を嫌う妹は息子を置いて街に出て、夜を共にする男を探し、ホテルに連れ込みます。幼い息子は母親を心配して姉を呼びに行きますが、姉が部屋に入るととこには見知らぬ男が・・・。姉に自分のセックスする姿を見せつけようとする妹に姉は衝撃を受け、倒れてしまいます。
 1960年代、スウェーデンといえば「フリーセックス」の国として有名でしたが、芸術作品としてここまで衝撃的な描写ができる国だったのですから、確かにすごかったのでしょう。ベルイマン恐るべしです!

「神の沈黙」3部作。「神」に「愛とは何か?」を問いかけ続ける人々を描いた作品群は、キリスト教圏内の国々では特に高い評価を受けました。(逆にほぼ無宗教の日本人にはわかりずらい監督だともいえます) 

「仮面/ペルソナ」(1966年)
(監)(製)(脚)イングマール・ベルイマン
(製)ラーシュ=オーベ・カールベルイ
(撮)スヴェン・ニクヴィスト
(音)ラーシュ・ヨハン・ワーレ
(出)ビビ・アンデション、リブ・ウルマン、グンナール・ビヨルンストランド 
世界の映画監督が選んだ世界の映画傑作選(2013年)で13位に選出された名作
<あらすじ>
 突然、舞台上で台詞が出なくなった女優と看護婦が別荘で療養生活を過ごします。言葉が出ない女優に対し、一方的に話しかける看護婦。
 いつしか、彼女は自分の過去に冒した少年たちとの乱交、その時にできた子供の堕胎。その後の後悔について告白してしまいます。
 ところが、女優は彼女の話を手紙に書いていたことを知り、自分は利用されているだけかもしれないと疑い始めます。
 お互いに対し、疑心暗鬼になる二人の関係はしだいに微妙になって行きます。

 「サイコ・サスペンス」、「心理学医療ドラマ」、「多重人格ドラマ」、「前衛舞台劇の映画版」・・・モノトーンで展開されることで、二人の女性の個性、関係性、類似性、同一化・・・が際立っています。見事な演出です!
公開当時は理解困難な作品とされる傾向にあったようですが、今なら多くの人が傑作と認識できるはずです。早すぎた傑作だったのかもしれません。 

「叫びとささやき」(1972年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)スヴェン・ニクヴィスト
(出)ハリエット・アンデルセン、イングリッド・チューリン、リヴ・ウルマン、カリ・シルヴァン
アカデミー撮影賞、カンヌ国際映画祭フランス高等技術委員会賞全米批評家協会脚本・撮影賞 
<あらすじ>
 19世紀末、大邸宅に住む独身の次女が危篤となり、長女、三女が駆けつけてきます。
今にもこの世を去りそうな次女を前に、家族のそれぞれがそれぞれの思いや苦悩を語ります。
苦しみぬいた末、次女はこの世を去り、残された姉妹はお互いの心を通わせます。
ところが死んだはずの次女が、言葉を発し、二人を呼び寄せます。怖がる姉妹に対し、召使のアンナは、部屋に入り次女を抱きしめます。

 前半は赤と白の部屋で展開し、次女の死んだ後半は赤と黒の背景で展開します。
 処女性の白、セックスと血と生命の赤、死の黒・・・鮮烈な色彩のイメージが圧倒的。
 心理学的な台詞は宗教的、北欧的でかなり難解。今だからこそ、ある程度理解できましたが、公開当時見ても絶対寝てしまったはず。
 人生経験がないと、眠くなるのは当然ですよ。とにかく暗いし、笑いはないし、でもラストに驚きの展開がありますから要注意!
 それとあらゆるシーンで目に入る刺繍が豪華!刺繍に興味のある方なら絶対見るべきです。当時、刺繍は富の象徴でもありました。

「ある結婚の風景」(1974年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)スヴェン・ニクヴィスト
(出)ヨルランド・ヨセフソン、リヴ・ウルマン
 テレビ番組として製作された5時間のドラマを映画用に再編集した作品。夫婦による結婚生活の問題を語り合う対話集。
全米批評家協会賞作品・脚本・主演女優・助演女優賞、ゴールデン・グローブ外国語映画賞

「秋のソナタ」(1978年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)スヴェン・ニクヴィス
(出)イングマール・ベルイマン、リヴ・ウルマン
 母親と娘の心理的な葛藤を描いた作品。
ゴールデン・グローヴ外国語映画賞、全米批評家主演女優賞

「ファニーとアレキサンデル」(1982年)
(監)(脚)イングマール・ベルイマン
(撮)スヴェン・ニクヴィスト
(音)ダニエル・ベル
(出)グン・ヴォールグレーン、エヴァ・フレーリング、グンナール・ビヨルンストランド、レナ・オリン、ハリエット・アンデルセン、アンナ・ベルイマン
ヴェネチア国際映画祭国際評論家賞、アカデミー外国語映画賞、撮影賞、美術監督・装置、衣装デザイン賞
 ベルイマン入魂の大作で自伝的な大河ドラマとなっていて、日本ではテレビ用の5時間ヴァージョンが公開されました。世界的にも高い評価を受け、アカデミー賞でも4部門を受賞。この作品により、彼は映画界を去り、その後は舞台監督として活動することになりました。
 しかし、2003年「ある結婚の風景」の後日談ともいえる映画「サラバンド」を完成させ、映画界に復帰。これが遺作となり、2007年7月30日、この世を去りました。

 「神」、「愛」、「性」、「結婚」などのテーマをリアルにドライに描き出すベルイマンの作品群は、ヨーロッパの映画祭だけでなくアメリカのアカデミー賞でも高く評価されました。さらに不思議なことに、キリスト教国ではない日本でも彼の作品は人気が高かく、日本で「ファニーとアレクサンデル」の5時間ヴァージョンが公開されたのも、そのおかげだったといいます。
 もしかすると、「神の不在」に思い悩むベルイマン作品の持つ「無常観」は、決まった宗教を持たないが様々なことに神の存在を感じる日本人にこそ、わかりやすかったのかもしれません。生真面目な日本人には、ベルイマンの様々な問いかけは、ヨーロッパ人よりも抵抗なく受け入れられそうな気がします。
 正直、嫌いな人にはその宗教臭さ、禅問答臭さがつまらないかもしれません。でも、舞台劇のように展開するセリフのやり取りは、見る者を引き込み飽きさせないはずです。
 今までベルイマン作品を観たことがない方も是非一度、彼の作品に挑戦してみて下さい。

「それはいつも無意味な、非常に漠然としたディテールから始まるのだ。思いつきの会話だとかセカセカした言葉のやりとりだとか現在の状況とはまるっきり関係のない曖昧なしかし魅力的な考えだとかによって。それはある時には音楽の楽譜だったり、道路に射し込む光線だったりする!それはだから、消えたり生じたりするうつろい易い印象なのだ。だがそれは美しい夢の中いおけると同時にノスタルジーの感情を後に残すものである。
 それらは無意識の深味から出現する様々に色づいた一本の線に似ている。無限の注意を払いながら、この糸をたぐって行くことで、一本の映画が生まれる。それは複雑な現象に関するもので話を物語るというよりは、ある魂の状態に近い。・・・」

佐藤忠男「世界の映画作家9」イングマル・ベルイマン

<おまけ>
「インテリア」 1978年
(監)(脚)ウディ・アレン
(撮)ゴードン・ウィリス(大御所の撮影がまた見ものです!)
(出)ダイアン・キートン、ジェラルディン・ペイジ、メアリー・べス・ハート、E・G・マーシャル、モーリン・ステイプルトン、サム・ウォーターストーン、クリスティン・グリフィス
 ウディ・アレンがお好きな方は、彼が監督した「インテリア」を見ましたか?
 あえて自らは出演せず、まったくお笑いの要素を取り去って作られたこの作品は、画面のトーンといい物語の基本線といいまさに「イングマール・ベルイマン」へのオマージュたっぷりの作品です。お笑い抜きのパロディ映画というべきなのか?真面目に彼へのオマージュから作ったのかは見てのお楽しみです。
 ちなみに、この映画に姉妹の一人として出演しているメアリー・ベス・ハートは、この後僕の大好きな映画「ガープの世界」(1982年)でロビン・ウィリアムスの奥さんになります!この作品が映画デビューたしく実に初々しいです。

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