汎アフリカン・エクスプロイテーション・ムービー誕生


「ブラック・パンサー Black Panther」&「クリード チャンプを継ぐ男 CREED」

- ライアン・クーグラー Ryan Coogler -
<新たなるマーベル・ヒーロー>
 「バットマン」、「スパイダーマン」など、アメコミ・ヒーローものは、その質の高さもあり、けっこう見てきました。ただし、アベンジャ―・シリーズがあまりに多くのヒーローを生み出し、乱立状態になってしまったため、最近は食傷気味になっていました。そこに新たなヒーローが誕生し、久々の傑作と評判になりアメリカで大ヒット。ケンドリック・ラマ―のテーマ曲もカッコイイし、今までのヒーローとは違うという噂。ということで、久々に映画館に見に行ってきました。おまけに、息子の解説付きで「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」も事前に見てから行きました。
 結果、期待以上に面白かったです。で、どこが面白かったのかというと・・・・。その魅力を分析します。

<俳優の魅力>
 この映画の魅力のひとつ、それは登場人物のほとんどがアフリカ系であるという新鮮さとそれぞれのキャラクターの魅力にあります。
 ブラック・パンサー(ティチャラ)を演じるチャドウィック・ボーズマン Chadwick Bosemanは、まさにこの役にピッタリです。彼は、2013年の「42 世界を変えた男」では黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを演じ、2014年の「ジェームズ・ブラウン 最高の魂をもつ男」ではあのジェームス・ブラウンを演じて、歌い踊った俳優です。アフリカ系アメリカ人にとって、この二人を越える英雄は、他にモハメド・アリキング牧師ぐらいかもしれません。この映画の成功により、いよいよ彼は「ミスター・アフリカン・アメリカ」的存在になりそうです。
 そして、そんな主人公のライバルとなる最強の敵を演じたのが、この映画の監督ライアン・クーグラーのひぞっこ俳優でもあるマイケル・B・ジョーダンです。バスケットボール界の英雄マイケル・ジョーダンの名前を持ち、モハメド・アリに次ぐ?ボクシング・ヒーローでもあるアポロ・クリードの息子を演じた俳優です。「クリード」のために作られた美しく強靭な肉体は、この映画のための準備だったかのようです。適役である彼が主人公以上に強そうに見えることで、この作品はより面白くなりました。
 ティチャラの恋人役には、スティーブ・マックィーン監督作品「それでも夜は明ける」で主人公と恋に落ちる奴隷を演じてアカデミー助演女優賞を獲得したルピタ・ニョンゴ。彼女は、2014年に「ピープル誌」で「世界でも最も美しい女性」にも選ばれている女優でもありますが、ハル・ベリーのような白人に近い美人女優とは異なり、彼女は「ブラック・クール・ビューティー」の典型的な美しさをもつよりアフリカ的な存在です。同じように強さと美しさをもつ存在としては、女戦士部隊「ドーラ・ミラージュ」を率いる隊長オコエを演じるダナイ・グリラも同じようなタイプの印象的な存在です。
 「アフリカン・ビューティー」といえば、ティチャラの母親役アンジェラ・バセットは、まさにレジェンド級の「ブラック・ビューティー」の象徴的存在です。黒人監督ジョン・シングルトンの「ボーイズン・ザ・フッド」(1991年)でデビューし、マルコムXの伝記映画スパイク・リーの「マルコムX」(1992年)にも出演し、「TINA ティナ」(1993年)ではアレサ・フランクリンと並ぶ黒人女性シンガー、ティナ・ターナーを演じました。さらにテレビムービーの「ローザ・パークス物語」(2002年)では、公民権運動における英雄ローザ・パークス(バス・ボイコット運動で有名):を演じています 。美しさと強さを合わせもつ黒人女優です。
 大物俳優と言えば、呪術師ズリを演じたフォレスト・ウィテカーでしょう。クリント・イーストウッド監督の「バード」(1988年)では伝説的ジャズ・ミュージシャンのチャーリー・パーカーを演じてカンヌ映画祭男優賞を受賞。「ラスト・キング・オブ・スコットランド」(2002年)では、狂気の大統領アミンを演じてアカデミー主演男優賞を獲得しています。その他にも、「ハリケーン」(1986年)、「プラトーン」(1986年)、「グッドモーニング・ベトナム」(1987年)、「プレタポルテ」(1994年)、「スモーク」(1995年)、「ゴ-ストドッグ」(1999年)、「バンテージ・ポイント」(2008年)、「大統領の執事の涙」(2013年)、「ローグワン」(2016年)、「メッセージ」(2016年)・・・彼の出演作は名作が目白押しです。
 ウカビ役のダニエル・カルーヤは、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の「ボーダーライン」の後、アカデミー作品賞のダークホースとの言われた「ゲットアウト」では主人公を演じ、今や話題の俳優です。

<ライアン・クーグラー>
 この映画の監督ライアン・クーグラー Ryan Coogler は、1986年5月23日アメリカ西海岸のオークランドに生まれています。学生時代、自主製作映画をサンダンス映画祭に出品し、高い評価を受け、「フルートベール駅で」(2013年)で監督デビュー。
 その後、ボクシング映画の名作「ロッキー」の後日談をアポロ・クリードの息子を主人公にして脚本化。それをシルベスター・スタローンに持ち込み、「クリード チャンプを継ぐ男」を撮って、一躍、世界的にその名を知られることになりました。
「クリード チャンプを継ぐ男 CREED」 2015年
(監)(原)(脚)ライアン・クーグラー
(製総)ニコラス・スターン
(脚)アーロン・コヴィントン
(撮)マリス・アルベルチ
(PD)ハンナ・ビークラー
(編)マイケル・P・ショーヴァ―、クローディア・カステロ
(音)ルートヴィッヒ・ヨーランソン
(出)マイケル・B・ジョーダン、シルベスター・スタローン、テッサ・トンプソン、フィリシア・ラシャド

 アポロに実の奥さん以外の女性との間に息子がいたというのはありそうなこと。そこから生み出された子とロッキーの物語を監督のクーグラーは脚本化して、「ロッキー」を終わらせたスタローンに持ち込みました。その出来映えに感心したスタローンは、出演しただけでなく自ら製作も兼ねて映画化が実現しました。
 しかし、本当にこの映画が面白いのは、そうした脚本の良さ以上に、試合映像の圧倒的な迫力にあります。チャンバラ映画のタテのように専門家がパンチの撃ち合いを細かく演出。その演出に答えられるように相手のボクサーには一流のプロ・ボクサーが選ばれています。そんな本物のボクサー相手に本気で殴り合っても大丈夫なように、クリード役のマイケル・B・ジョーダンは肉体改造から始めました。その後の猛特訓により、彼はプロと遜色のないボクサーに変身していました。(この肉体が「ブラック・パンサー」でも大きな効果を発揮します)
 さらに今までのボクシング映画と違い、この映画の試合のカメラはめいっぱいボクサーに迫っていて、殴り合いの迫力をリアルに映し出しています。それはしっかりと作られたパンチの応酬にリアリティーがあるからこそ可能になったといえます。そのうえ、この映画のカメラは、ラウンド全体を長回しで収めるなど、とにかくカメラマンが大活躍!試合の映像を見ていて、カメラマンのフットワークが見たいと思いました! 

<クール・ブラック>
 製作側にとって、「クリード」の大ヒットによって世界的な存在になっていたとはいえ、まだ2本しか映画を撮っていない監督にマーベルの新作を任せるというのは大きな賭けだったはずです。それでも、アフリカ系マーベル・ヒーローの監督に黒人監督を選ぶのは賢明な選択でした。(一昔前ならスパイク・リーが選ばれていたかもしれませんが・・・)
 他にもこの映画の衣装デザインを担当したルース・カーター Ruth Carter もやはりアフリカ系アメリカ人です。ブラック・パンサーのコスチューム、女性戦士部隊ドーラ・ミラージュの赤い甲冑などのクールで美しいデザイン、各部族の個性的な衣装の数々はアフリカの様々な民族衣装を参考に部族ごとの個性に合わせて選ばれています。特に滝での決闘の際、美しい衣装を着て岩の踊り場、ひな壇?に並ぶ人々の美しく多彩な衣装は、まるで豪華なミュージカル・レビューを見ているような豪華さです。
 音楽を担当しているのはスウェーデン出身のルートヴィッヒ・ヨーランソンですが、アフリカ系アメリカ人ミュージシャンのケンドリック・ラマ―が参加し、クールなアフリカン・ポップ・サウンドが追加されています。そして、コモンのアルバムなどにも参加しているジャンベ奏者ジャバリ・エグザムが参加し、格闘シーンでは彼のパーカッションに合わせて撮影が行われたそうです。アフリカの民族楽器を背景音楽に使用したしたハリウッド映画は、今までなかったと思いますが、この作品にはその必然性があります。この映画の世界観を生み出した重要な存在としてこのアフリカン・リズムがあったと思います。
 ラップ・ミュージシャンとして初めてピュッリツァー賞を受賞した「21世紀のボブ・ディラン」ともいえるケンドリック・ラマ―らの参加によって、ブラック・スプロイテーション・ムービーがブームとなった1970年代以降久々の「黒いくてクールなエンターテイメントの傑作」が誕生することになりました。

<歴史的な設定の魅力>
 マーベル・シリーズに原作者のスタン・リーが「ブラック・パンサー」を登場させたのは1966年のことでした。そして、それはその年に公民権運動の展開に不満を持つ黒人の若者たちが立ち上げた武装闘争のための黒人解放組織「ブラック・パンサー党」が誕生したことに合わせてのものでした。同じ時代、日本でも全学連が武力革命を目指して誕生していたわけですが、彼らをヒーローにしたマンガも映画も日本では生まれませんでした。
 それに比べると、暴力革命を志向していたグループの名前をアニメ・ヒーローに使うという発想が当時のマーベル(スタン・リー)の「若さ」や「過激さ」を感じさせます。
 ティチャラの父親がオークランドで、弟を殺してしまった事件の日。それはたぶん、1991年に起きたロドニー・キング殺人事件を発端に起きたロサンゼルス暴動の年当たりと考えられます。この年は1970年代にブラック・パンサー党が失速し、崩壊して以降、下火になっていた黒人解放運動が再び燃え上がったピークの年でもありました。たしか、その部屋にはパブリック・エネミーの大ヒットしたセカンド・アルバム「パブリック・エネミーⅡ It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back 」(1988年)のポスターが貼ってあったはず。(たぶん)彼らの曲をテーマ曲として作られたスパイク・リーの大ヒット作「Do The Right Thing」の公開も同じ1988年。黒人解放運動の中心的人物の一人だったマルコムXの伝記映画「マルコムX」が公開されたのがロサンゼルス暴動の年1992年でした。こうした時代背景をこの映画は上手く織り込んでいるわけです。

<新たなアフリカのイメージ>
 未だに世界中のほとんどの人々はアフリカと言えば、草原と砂漠、もしくはジャングルに貧しい黒人たちが細々と暮らしているか、銃を持ってトラックに乗りクーデターや民族浄化の戦闘を繰り返す野蛮な民族というイメージしかないかもしれません。しかし、アフリカの西部に位置する大国ナイジェリアなどは、都会化が急激に進み、中国、インドに続く巨大な国になりつつあります。その急激な発展はあまり知られていない気がします。
 かつて1970年代のアメリカでは「黒いジャガー」や「スーパー・フライ」などのブラック・スプロイテーション・ムービーに対し、黒人たちが自らのアイデンティティーとそれまでなかった誇りを感じていました。それから40年たち、「ブラック・パンサー」はアメリカだけでなくアフリカ大陸でも大ヒットして、世界的なブラック・スプロイテーション・ムービーの時代を生み出すかもしれません。もちろん、その時は、もう「ブラック・スプロイテーション・ムービー」というある意味差別的ないい方はもうなくなるでしょう。(黒人観客層を意識して(利用)することで作られた「黒人による黒人のための娯楽映画」のこと)
 この映画のもうひとつの魅力は、今までのマーベル・ヒーローものとは異なるスケールの大きなパラレル・ワールド世界の存在です。中盤以降の展開は、「マーベル・シリーズ」というよりも、「スター・ウォーズ」のスピンオフを思わせる壮大なスケールのSFテイストになっています。一見地味な主人公にもかかわらず、見出したら予想外の超大作になり驚かされるはず・・・。

「ブラック・パンサー Black Panther」 2018年
(監)(脚)ライアン・クーグラー
(脚)ジョー・ロバート・コール
(原)スタン・リー、ジャック・カービー
(製)ケヴィン・ファイギ
(撮)レイチェル・モリソン
(視効)ジェフリー・バウマン
(PD)ハンナ・ビークラー
(衣)ルース・カーター
(編)マイケル・P・ショーバー、クロ―ディア・ケステロ
(音)ルーヴィット・ヨーランソン
(音監)デイブ・ジョーダン
(出)チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、マーティン・フリーマン、ダニエル・カルーヤ、アンジェラ・バセット、フォレスト・ウィテカー
<あらすじ>
 国連での演説の際に起きたテロ攻撃によって命を落とした国王ティチャカの後継者となるため、その息子ティチャラは母国ワカンダの部族の長と共に儀式にのぞみます。予想外の挑戦者が現れたものの、彼はそのライバルを倒し、王となります。
 ところが、その頃、イギリスの博物館からワカンダのヴィブラニウムでできた遺物が盗まれ、それが秘密裏に売られようとしていることがわかります。ヴィブラニウムが外部に流出し、その秘密が明らかになると今までのようにワカンダは世界から隠れて存在することは不可能になってしまう。そこでティチャラは自らその売買の現場に行き犯人を逮捕しようと考えます。
 韓国の釜山で現場に潜入したティチャラは、そこで宿敵のユリシーズ・クロウを発見し、激闘の後、その逮捕に成功します。しかし、留置場に謎のグループが侵入し、クロウを奪われてしまい、そのグループの中にワカンダの印を持つ者がいたことがわかります。それは誰なのか?
 前国王が長く隠してきた秘密である悲劇的な事件が、長い時を経て新たな展開を見せ始めようとしていました。 

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