旅を続け歌い続ける20世紀最高の詩人

「ボブ・ディランの21世紀」

- ボブ・ディラン Bob Dylan -
<ノーベル文学賞>
 2016年10月、ノーベル文学賞がボブ・ディランに授与されることが発表され、世界中が驚かされました。ただ彼のファンの多くは受賞は当然と思いつつも、彼が素直に賞を受け取るだろうか?と疑っていたはずです。何せ、ボブ・ディランというアーティストは、昔から周囲の期待を裏切ることで新たな歌を生み出してきたアーティストなのです。案の定、彼は授賞式を欠席しました。さすがは、ボブ・ディラン!と思ったら、結局、賞を受け取り記念のライブを行うとのこと。昔も今も彼の行動を予測することは困難なのです。
 今回、ボブ・ディランのノーベル賞受賞のニュースを知った人の多くは、その賞を長年活躍してきたことへの功労賞であると思ったはずです。21世紀に入ってからの彼の活動は、ファン以外にはほとんど知られていなかったでしょうから、それは無理もないことです。今やボブ・ディランは伝説のシンガーであり、過去の人だと思われているのですから。
 実は、僕も同じように考えていました。90年代のアルバムは買っていたものの、21世紀に入ってからは、ドキュメンタリー映画「ノー・ディレクション・ホーム」や劇映画「アイム・ノット・ゼア」、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」などの作品を見るぐらいになっていました。
 しかし、今回、「ボブ・ディランの21世紀」(湯浅学著)を読んでビックリしました。21世紀に入ってからのボブ・ディランは、新作アルバムで英米初のナンバー1となり、毎年90回程度のコンサート・ツアーを行い、もうひとつの才能である画家として個展を開き、数多くの未発表録音を世に送り出し、アルバムでグラミー賞を受賞しただけでなく映画音楽でアカデミー歌曲賞を受賞。20世紀の頃の彼以上に働き続けているのです。「ご苦労様でした」なんて失礼この上ない話です。

<古くて新しい音楽>
 彼がまだまだ老いぼれていないのは、新たな曲を生み出し続けているだけではありません。彼が残した過去の曲も未だに輝きを放ち続けています。ライブで歌われる彼の1960年代の曲は、21世紀の彼の新曲と並べてもまったく古さを感じさせないはずです。そのことを、日々証明し続けているのが、21世紀のボブ・ディランです。

 61年のディランと2001年のディランに断層はあるだろうが、それを確実に”同じ人間の歌”として納得させてしまえる”流れ”の中にディランはいる。その”流れ”を作り出せたことこそ稀有である。情報や噂や知識がそれを支えているのではない。不在によって存在を示したのも今は昔、あくまでも音楽、歌を絶やさぬ生身のボブ・ディランが人々を説得し続けているだけなのだが。

 いかにボブ・ディランが忙しく働き続けているのか。ボブ・ディラン研究の日本における第一人者、湯浅学の「ボブ・ディランの21世紀」を参考に書き出してその凄さを証明したいと思います。もちろん、以下に並べるのはその仕事の一部にすぎません。それでも、同世代のアーティストたちに較べて、いかに忙しいか、その「ワーカホリック」ぶりに驚かされるはずです。
 70歳を過ぎてなお、毎年90回近いコンサートを行い世界を旅するアーティストが他にいるでしょうか?

「ひとつの歌はひとつの歌として、それだけで歩いてゆける。ぼくは歌をつくる人と言われるけれど、詩というのはそれ自体がはだかの人格なのだ」
ボブ・ディラン

<膨大な作品の数々>
 もうひとつ、21世紀のボブ・ディランについて特筆すべきことがあります。それは彼が残した膨大な録音が、次々と世に送り出されていることです。スタジオでのセッションだけでなく曲作りのための会話が消されずに残されていることも凄いのですが、それをすべて世に出そうというのですから・・・凄い!プロデューサーの先見の明に脱帽です。いつかこの録音は価値をもつだろうという信念がそうさせたのでしょう。録音する方もする方なら、それを買うファンもまた大したものです。売れるからこそ、そんな6枚組や9枚組のボックス・セットが作られるのですから。
 恐るべしボブ・ディランとそのファンたち!

 ポップスやロックの場合、一応の完成を見た時点でそれまでのやりそこねやボツ・テイクなどは処分されてしまうことが多い。予算の関係でやりくりの一環として捨てられることもよくあることだ。しかしボブのように、いつ何時、傑作が生まれるかわからない、それを知る者は地上にはいない人の場合はとりあえずまあ、テープ回しっぱなしにしておこう、ということがままあるわけだ。ボブはスタジオに入る前に曲の構成をガッシリ固めておくタイプではない、と制作陣も納得していたからそうなっていたのでもあろう。

2000年
 1月  母親のベアトリス・ラットマンが死去(25日) 
 3月 北米・ヨーロッパ・ツアー(全82公演) 
 5月  シングル「Things Have Changed」(映画「ワンダー・ボーイ」)
写真集「Dylan In Woodstock」(撮影)エリオット・ランディ 
 8月  グレイトフル・デッドのトリビュート・アルバム「Stolen Roses」に「Friend of the Devil」(Live)を提供
ランブリン・ジャック・エリオットのトリビュート・アルバム「The Ballad of Ramblin' Jack」にR.J.エリオットとのデュエット曲「Acne」を提供 
 9月  ヨーロッパ・北米・ツアー(全35公演)
2001年
 2月  日本・オセアニア・北米・ヨーロッパ・ツアー(全71公演)
来日公演を前に日本企画として「ボブ・ディラン・ライブ!1961~2000」発売
 3月 「Things Have Changed」がアカデミー歌曲賞受賞 
 4月  ザ・バンドの名盤「Rock of Ages」に未収録だったボブ・ディランとの共演部分4曲が追加され再発される 
 5月  60歳の誕生日(24日)
「Return to Me」(ディーン・マーティンのカバー)をテレビ・ドラマ「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」に提供
 9月 オリジナル・アルバム「Love & Theft」発売
ハンク・ウィリアムズのトリビュート・アルバム「Timeless」に「愛しているから」を提供 
10月 北米ツアー(全35公演)
2002年
 1月 北米ツアー(全18公演) 
 2月  アルバム「Love & Theft」がグラミー賞最優秀コンテンポラリー・フォーク・アルバム受賞 
 4月  ヨーロッパ・ツアー(全29公演) 
 8月 北米ツアー(全60公演)
ニューポート・フォーク・フェスティバルに37年ぶりに出演
 9月 ジョニー・キャッシュのトリビュート・アルバム「ジョニー・キャッシュ・トリビュート」に「Train of Love」を提供 
11月 「ザ・ローリング・サンダー・レビュー The Rolling Thunder Revue 1975」(ブートレッグ・シリーズ第5集)通常盤2枚組
2003年
 1月  映画「ボブ・ディランの頭のなか Masked and Anonymous」サンダンス映画祭で公開される 
 2月 オセアニア・ツアー(全11公演) 
 4月 アルバム「ゴスペル・ソングス・オブ・ボブ・ディラン」にメイヴィス・ステイプルズとのデュエット曲「ゴナ・チェンジ・マイ・ウェイ・シンキング」を提供
北米ツアー(全23公演) 
 7月 北米ツアー(全31公演) 
 9月 写真集「Young Bob」(撮)ジョン・コーエン 
10月 ヨーロッパ・ツアー(全33公演) 
11月 ダグ・サームの名盤「The Genuine Texas Groover」(再発)に未発表音源5曲を提供 
2004年
 2月  北米ツアー(全33公演) 
 3月 ニューヨークのアポロ劇場70周年記念コンサートでサム・クックの名曲「A Change Is Gonna Come」を歌う 
「アット・フィルハーモニック・ホール Bob Dylan Live 1964」(ブートレッグ・シリーズ第6集)通常盤2枚組
 ロックへの移行直前のフォーク・シンガー、ボブ・ディランによるライブ録音)
 6月 北米・ヨーロッパ・ツアー(全78公演) 
10月 「ザ・ソングス・オブ・ウォーレン・ジヴォン Enjoy Every Sandwich」に「反逆者」(ライブ)を提供
自伝「ボブ・ディラン Bob Dylan Chronicles Vol.1」刊行 
2005年
 3月  北米ツアー(全81公演) 
 8月  アルバム「ライブ・アット・ガスライト Live At Gaslight 1962」発売(グリニッジビレッジのライブハウスでのライブ録音) 
「ノー・ディレクション・ホーム:ザ・サウンドトラック」(ブートレッグ・シリーズ第7集)通常盤2枚組
 9月 ドキュメンタリーノー・ディレクション・ホーム No Direction Home」テレビで公開(監督はマーティン・スコセッシ) 
10月  「ボブ・ディラン・スクラップブック 1956-1966」発売(チラシ、ポスター、実筆歌詞の複製、インタビューCDなど)
ヨーロッパ・ツアー(全31公演) 
2006年
 2月  「ノー・ディレクション・ホーム」グラミー賞最優秀長編ミュージック・ビデオ賞 
 4月 北米、ヨーロッパ・ツアー(全98公演) 
 5月 XMサテライト・FM「テーマ・タイム・ラジオ・アワー」(ボブ・ディランがパーソナリティー)放送開始(2009年4月15日まで続く)
 番組では、ロックやフォークだけでなくジャズ、ソウル、スタンダード、カントリー、ラテンなどもかけていました。ある日、番組宛の質問にこんなのがありました。
「この番組は昔の曲、古い曲ばかりかけていますが、新しい音楽はかけないのですか?」
それに対しボブはこう答えたそうです。
「新しい音楽はあんまりかからないな。なぜなら過去の曲のほうが新しい曲よりたくさんあるから」
(確かにそのとうりです!)
 7月 写真集「Thin Wild Mercury : Touching Dylan's Edge」(撮)ジェリー・シャッツバーグ
 8月 シングル「Rollin' and Tumblin'」発売
オリジナル・アルバム「モダン・タイムズ Modern Times」発売(「欲望」以来の全米ナンバー1獲得)
「Bob Dylan : The Collection」i Tunesで配信開始(オリジナル・アルバムすべてとレア&未発表音源42曲を含む)
10月  写真集「Forever Young : Photographs of Bob Dylan」(撮)ダグラス・R・ギルバート
DVD「ディラン・スピークス Dylan Speaks」(1965年12月3日の記者会見の録音を記録した映像) 
2007年
 2月 アルバム「モダン・タイムス」がグラミー賞最優秀ソロ・ロック・ボーカル・パフォーマンス賞、ベスト・コンテンポラリー・フォーク・アメリカン・アルバム賞
 3月 ヨーロッパ・北米・オセアニア・ツアー(全98公演) 
 5月 映画「ドント・ルック・バック Don't Look Back」DVD化(D・A・ペネベイカー監督作品のドキュメンタリー) 
10月 ベスト・アルバム「Dylan」発売(61曲収録) 
11月  映画「アイム・ノット・ゼア I'm not there」公開(トッド・ヘインズ監督作品) 
12月  アルバム「ニューポート・フォーク・フェスティバル 1963-1965 Newport Folk Festival」発売 
2008年
 2月 ヨーロッパ・南米ツアー(全17公演) 
 4月  ピューリッツァー賞特別賞受賞 
写真集「ボブ・ディラン写真集 時代が変わる瞬間 Real Moments」(撮)バリー・ファインスタイン
 5月 北米・ヨーロッパ・ロシア・ツアー(全84公演) 
 6月  ロンドン・ハルシオン・ギャラリーにて絵画展「The Drawn Blank Series」開催 
 7月  写真集「Bob Dylan : Through The Eyes of Joe Alper」(撮)ジョー・アルパ― 
10月 「テル・テイル・サインズ Tell Tale Signs 1989-2006」(ブートレッグ・シリーズ第8集)通常盤2枚組(未発表曲、未発表テイク集)
11月 「追憶のハリウッド’60s もうひとつのディラン詩集 Hollywood Foto-Rhetoric」(ボブ・ディランの詩と写真集) 
2009年
 1月  スコットランドのエジンバラ・シティ・センターで絵画展「The Drawn Blank Series」開催 
 3月 ヨーロッパ・ツアー(全33公演) 
 4月  オリジナル・アルバム「Together Through Life」発売(ディランにとって初の英米ナンバー1) 
 7月  北米ツアー(全31公演) 
10月  北米ツアー(全33公演)
クリスマス・カバー・アルバム「クリスマス・イン・ザ・ハート Christmas in the Heart」発売
12月  ウディ・ガスリーのドキュメンタリー番組「The People Speaks」に「ド・レ・ミ」を提供 
2010年
 2月  ホワイトハウスで開催された公民権運動記念コンサートで「時代は変わる」を歌う
ロンドン・ハルシオン・ギャラリーにて絵画展「The Drawn on Canvas」開催  
 3月  日本・韓国ツアー(全15公演) 
 5月  ヨーロッパ・北米ツアー(全87公演) 
 7月  イタリア・トリノにて絵画展「The Drawn Blank Series」開催 
 9月 コペンハーゲン国立美術館にて絵画展「The Brazil Series」 
10月 「ザ・ウィットマーク・デモ The Witmark Demos 1962-1964」(ブートレッグ・シリーズ第9集)通常盤2枚組(音楽出版社向けのデモテープ)
「ボブ・ディラン・モノ・ボックス The Original Mono Recordings」(モノラル盤のCD化9枚組) 
11月 日本・六本木ヒルズumuにて絵画展「The Drawn Blank Series」開催 
2011年
 4月 アジア・オセアニア・ツアー(全17公演)
アルバム「ボブ・ディラン・イン・コンサート : ブランダイス・ユニバーシティ Brandeis University 1963」発売
 5月  70歳の誕生日(24日) 
 6月  ヨーロッパ・中東・北米ツアー(全39公演) 
 9月 ニューヨーク・ガゴシアン・ギャラリーにて絵画展「The Asia Series」開催 
10月 ヨーロッパ・ツアー(全33公演) 
2012年
 4月  南米・ヨーロッパ・北米ツアー(全86公演) 
 5月  オバマ大統領より大統領自由勲章を授与される 
 9月 オリジナル・アルバム「テンペスト Tempest」発売 
11月 ニューヨーク・ガゴシアン・ギャラリーにて絵画展「Revisionist Art」開催 
12月  「The 50th Anniversary Collection」CDR4枚組(1962年のライブやアウトテイクなどを収めたもの) 
2013年
 2月  イタリア・ミラノのPalazzo Realeにて絵画展「The New Oreans Series」開催 
 4月 「テーマ・タイム・ラジオ・アワー」日本での放送開始
北米ツアー(全55公演) 
 8月 ロンドン・ナショナル・ポートレイト・ギャラリーにて絵画展「Face Value」開催
「アナザー・セルフ・ポートレイト Another Self Portrait」(ブートレッグ・シリーズ第10集)通常盤2枚組
(1970年のアルバム「セルフ・ポートレイト」前後の未発表録音、ライブ録音)
10月 ヨーロッパ・ツアー(全35公演) 
11月  「The Complete Album Collection Vol.One」発売(オリジナル・アルバム47枚のボックス・セット)
ロンドン・ハルシオン・ギャラリーにて絵画展「Mood Swings」開催
「50th Anniversary Collection : 1963」発売アナログ盤6枚組(ライブやスタジオ録音のアウト・テイク集)
<ボブ・ディランのアナログ録音作品>
「ニール・ヤングもそうだが、ボブも、ライン経由の音が少なく、マイクの数も最小限と思われるスタジオ・ライブ録音主体の人の録音はやはりアナログ盤での聴取が優先されてしかるべきだと思う。・・・」
湯浅学
2014年
 3月 デンマーク・コペンハーゲンにて絵画展「Face Value」開催 
 6月 ヨーロッパ・オセアニア・北米ツアー(全73公演) 
11月 「ザ・ベースメント・テープス・コンプリート The Basement Tapes」(ブートレッグ・シリーズ第11集)通常盤2枚組 )デラックス版は6枚組
(ザ・バンドとの共演による伝説のアルバム完全版)
12月 「50th Anniversary Collection : 1964」発売アナログ盤9枚組(ライブやスタジオ録音のアウト・テイク集) 
2015年
 2月 カバー・アルバム「シャドウズ・イン・ザ・ナイト Shadows In The Night」(スタンダード曲のカバー集)「枯葉」、「君よいずこ?」など収録 
 4月 北米・ヨーロッパ・ツアー(全47公演) 
 5月 オハイオ州ヤングスタウンにて絵画展「Face Value」開催 
10月 ヨーロッパ・ツアー(全41公演) 
11月  「ザ・カッティング・エッジ The Best of the Cutting Edge 1965-1966」(ブートレッグ・シリーズ第12集)通常盤2枚組 ) 
1965年から1966年3月までのセッションを時系列で録音、デラックス版は6枚組)
2016年
 4月 日本ツアー(全16公演)
日本独自企画5枚組ベスト「ディラン・リヴィジテッド-オールタイム・ベスト」
ルイジアナ州ニューオーリンズ美術館にて絵画展「The New Orleans Series」開催
 5月  カバー・アルバム「Fallen Angels」(カバー・アルバム「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」の続編)「Young at Heart」、「Come Rain or Come Shine」などを収録 
 6月  北米ツアー(全30公演)
写真集「Bob Dylan A Year And A Day」(撮)ダニエル・クレイマー
10月  北米ツアー(全29公演) 
野外フェス「The Desert Trip」に出演
スウェーデン・アカデミーがノーベル文学賞をボブ・ディランに授与すると発表(13日)
11月  ロンドン・ハルシオン・ギャラリーにて絵画展「The Beaten Path」開催
「The 1966 Live Recordings」(1966年のライブ録音を36枚組のセットで発売!) 
12月 ノーベル賞授賞式を欠席 

「ボブ・ディランは働き者です。ボブ・ディランはわざわざ語りません。ボブ・ディランはあまり出かけないようです。・・・」
湯浅学「あとがき」より

<参考>
「ボブ・ディランの21世紀」
 2017年
(著)湯浅学
音楽出版社

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