世界中で愛され続ける魂の歌誕生秘話


映画「ボヘミアン・ラプソディ Bohemian Rhapsody」

- クイーン、ブライアン・シンガー、グレアム・キング -
<期待以上!>
 この映画は、映画の企画発表段階から気になっていました。監督は「ユージュアル・サスペクツ」、「X-men」シリーズのブライアン・シンガーだし、クイーンのドラマチックな歴史には感動エピソードが山ほどあり、傑作になる可能性は十分にありました。
 とはいえ、フレディという強烈な個性を演じられる俳優はいるのか?歌や演奏はどうやって再現するのか?同性愛者としての描写はどこまでやるのか?心配な部分もありました。
 でも公開初日に期待マックスで見ましたが、十分期待に応えてくれました!ブライアン風20世紀フォックスのテーマ音楽から始まるオープニングから怒涛のラストまで、これだけ興奮させられた映画は久しぶりでした。この映画、たぶん何度も見る人が続出し、フレディと一緒に歌う観客も続出するでしょう。11月24日フレディの命日には映画館がさらに盛り上がりそうな気がします。
 思えば、今まで数多くのミュージシャンの伝記映画を見てきましたが、デビューからずっとその死まで見つづけたアーティストの伝記映画はなかった気がします。僕にとってのクイーンは、青春の一部でもあるので、その分思い入れが強く、客観的に見られていない可能性もありますが・・・。

<見たかったライブ・イン・ジャパン>
 クイーンにとって、彼らを最初に評価した日本は特別な国でした。通算で50回以上のライブを行い、日本語の歌まで発表しているだけでなく日本の文化にはまっていたフレディにとって日本は第二の故郷だったのかもしれません。どうやらこの映画には日本でのライブ・シーンもあったようですが、本編ではカットされてしまったようです。(ということは、DVD発売時には日本版のオマケとしてプラスされることになるのでは?)
 今回映画の中に、日本でのライブ映像がないのは残念ですが、映画の中の様々な所で日本への愛が示されています。赤と青の提灯、和食器、ガウン代わりの着物など、フレディが買い集めて持ち帰った品々がいろいろと画面の中に登場しています。
 なぜ、クイーンは最初に日本でブレイクしたのか?
 映画の中でクイーンがBBCのスタジオで「キラークイーン」を演奏する場面があります。彼らはそこで口パクをするよう指示されますが、実はこの時彼らは出演予定のバンドがキャンセルになり、急に代わりで呼ばれたとのことです。それは逆に言うとクイーンの人気は本国イギリスでもまだその程度だったということでもあります。
 しかし、「キラークイーン」がシングルカットされた頃、日本ではすでにクイーンの人気は高く、すぐにチャートのトップに立っています。やはり彼らはどこよりも早く日本でブレイクしていたのでしょう。
 当時、日本ではディープ・パープルレッド・ツェッペリンなどのハードロックが大人気で、アマチュア・ロックバンドのほとんどは彼らのコピー・バンドでした。それに対して、女子のロックファンの多くはマーク・ボラン率いるT-レックスデヴィッド・ボウィなどグラムロックに魅かれていました。昔から日本の女子は、アイドル的な存在が好きでヴィジュアル重視だったのです。彼らの人気はグループ・サウンズの延長線上にあったともいえます。そんな中、クイーンというバンドは、グラムロックのヴィジュアルとハードロックの音色を持つ異色のバンドとして登場したことで、日本のロックファンにいち早く受け入れられたのだと思います。
 ヴィジュアル重視の日本女子独特の美意識は、その後、ヴィジュアル系ロックやゴスロリ・ファッションなど独自の文化を生み出してゆくことになりますが、クイーンのブレイクはそうした日本独特のポップ文化が海外に進出した先駆的な例だったのかもしれません。

<見たかったメイキング映像>
 この映画の中で、最大の見どころは名曲「ボヘミアン・ラプソディ」の録音秘話でしょう。そこだけでも十分に映画を観る価値があります。でも欲を言うと、「ボヘミアン・ラプソディ」のミュージック映像のメイキングも見てみたかった。
 ポップ・ミュージックの歴史において、ミュージック・ビデオの原点となったのは、バンドの演奏ではなくメンバーによるショートコントやプライベート映像を音楽に組み合わせたビートルズだったと言われます。リチャード・レスター監督の「ビートルズがやって来るヤアヤアヤア」はその先駆作でした。
 しかし、多額の予算をかけて、ひとつの楽曲のために独自の映像を作成し、アート作品と呼べるレベルにまで高めたのはこの「ボヘミアン・ラプソディ」が最初だったとも言われています。CGもなく、パソコン上での編集も不可能だった時代、どうすればあの不思議な映像を作り出すことができたのか?たぶんその制作作業は絵的に地味すぎるのでしょうが・・・ちょっと見たかった。

<再現することへのこだわり>
 この映画の素晴らしさは細部にまでこだわった過去の再現によるところも大でしょう。特に凄いのはラストのライブ・エイドの映像です。その場面の撮影は、イギリス南部ドーセット州にあるボービントン空軍基地に作られたセットで行われました。オリジナルのクイーンのライブ映像と見比べて下さい。ウェンブリー・スタジアムの全体像から始まって空撮でよる映像が隅々まで再現されています。フレディが弾くピアノの上に置かれたペプシ・コーラの紙コップの配置までそっくりに再現されていて、再現できていないのはその前に坐るフレディの白いタンクトップから透けて見える乳首の感じぐらいかもしれません。
 この場面の演出で素晴らしいのは、余計な映像処理やカメラの移動などを抑えて、じっくりとクイーンのこの日の演奏を見せてくれているところです。そのおかげで、観客は映画を観ているのではなく、1985年の英国ウェンブリー・スタジアムにタイムスリップして、観客の一人になれるのです。この映画にはロジャー・テイラーとブライアン・メイが最初から最後まで関わっているので、時系列的な部分や会話の内容、衣装や小道具など映像上の嘘を極力減らすことに成功しています。
 音楽監修のベッキー・ベンサムの貢献はわかりにくいものの大きいはずです。映画の中のクイーンの演奏と歌声は、単に出演者が演奏しているわけではなく、フレディ役のラミの声とフレディ本人の声、クイーンの演奏、それにその他の歌手によるコーラスを組み合わせたもののようです。考えてみれば、主役のラミの歌の方がフレディより上手いわけはないのです。

<監督、製作者>
 この映画の監督ブライアン・シンガーは、「ユージュアル・サスペクツ」、「X-men」シリーズ、「ワルキューレ」など、アクション、サスペンス映画を得意とする職人タイプの監督。芸術作品としての傑作を撮るタイプの監督ではないかもしれません。その上、この映画の撮影中に母親の病気で降板したとか、製作者と意見が合わなかったなどの噂もあり、最後はデクスター・フレッチャーが仕上げたそうです。ただし、最も重要なラストのライブ・エイドの場面は撮影初日に行われているので、ブライアン・シンガーの功績はやはり大きかったのでしょう。
 そのそも、この映画には確固たるキャラクターがあり、正直、下手な演出をしなくても良い作品だったのかもしれません。かつて、ブライアン「ユージュアル・サスペクツ」が描いたトルコ系の謎の男、カイザー・ソゼを上まわる男、フレディ・マーキュリーの存在により、この映画は遥かな高みへと昇ることになりました。最高のキャラクターと最高の音楽があり最高のドラマがあるのですから、良い映画にならない方が不思議なくらいです。
 監督の存在が薄くなる中、この映画の製作者グレアム・キングの存在は重要だったようです。当初は映画化に消極的だったらしいロジャー・テイラーとブライアン・メイを説得し、アドバイザーとして撮影開始から最後まで参加させたことは、この映画のリアリズムの実現に大きく貢献したはずです。最後まで難航したというフレディ役選びの作業も大変だったはずです。
 マーティン・スコセッシの「アビエイター」(2004年)、「ディパーテッド」(2006年)、「ヒューゴの不思議な発明」(2011年)、スティーブン・ソダ―バーグの「トラフィック」(2000年)、マイケル・マンの「ALI アリ」(2001年)、ジャン=マルク・バレの「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年)、ベン・アフレックの「ザ・タウン」(2010年)、「アルゴ」(2012年)、マーク・フォースターの「ワールド・ウォーZ」(2013年)、クリント・イーストウッドの「ジャージー・ボーイズ」(2014年)、ロバート・ゼメキスの「マリアンヌ」(2016年)・・・どれも彼が製作、製作総指揮した作品で、名作が目白押しです。ジャンルの多彩さが目立ちますが、「アビエイター」、「ALI アリ」、「ヴィクトリア女王 世紀の愛」、「ジャージー・ボーイズ」は、時代を象徴する人物の伝記映画です。

「ボヘミアン・ラプソディ Bohemian Rhapsody」 2018年
(監)ブライアン・シンガー Bryan Singer(シンガー降板後、製作総指揮のデクスター・フレッチャーが監督)
(脚)(原案)アンソニー・マクカーテン Anthony McCarten
(原案)ピーター・モーガン(ロン・ハワードの傑作「フロスト×ニクソン」の脚本家)
(製)グレアム・キング Graham King、ジム・ビーチ(マイアミ)
(撮)ニュートン・トーマス・サイジェル
(PD)アーロン・ヘイ
(編)ジョン・オットマン
(音スーパーバイザー)ベッキー・ベンサム
(音総)ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー
(衣)ジュリアン・デイ
(出)ラミ・マレック Rami Malek(フレディ)(多くの俳優が候補となりながら、最後まで決まらなかった中、選ばれたのはエジプト系アメリカ人俳優でした。「ナイトミュージアム」に出てます!)
グウィリム・リー(ブライアン・メイ)、ベン・ハーディ(ロジャー・テイラー)、ジョー・マッゼロ(ジョン・ディーコン)
ルーシー・ボイントン(メアリー)、エイダン・ギレン(ジョン・リード)、トム・ホランダー(ジム・ビーチ)、マイク・マイヤーズ(レイ・フォスター)、アーロン・マカスカー(ジム・ハットン)
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伝説のコンサート「ライブ・エイド」について

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