「カプリコン1 Capricon One」 1977年

- ピーター・ハイアムズ Peter Hyams -

<映画史に残る掘り出し物>
 映画界では年に何本かは掘り出し物のB級アクション映画が生まれ、映画ファンの間で話題となり口コミでヒットします。昔と違いレンタル・ビデオ店での掘り起こしも馬鹿に出来ず、DVD化されてから大ヒットとなる場合もけっこうあります。
 先日(2010年9月)TUTAYAからのメールを見ていたら、こんな広告が「面白くなかったらレンタル料金をお返しします!」
 そして、そこで紹介されていたのがここで紹介する映画「カプリコン1」でした。
 1970年代の映画が2010年になってもなお、こうして紹介されるとは!監督のピーター・ハイアムズが聞いたらさぞや喜ぶことでしょう。(ただし、彼にとってこの映画が未だに最高傑作といわれ続けているとなれば、がっかりしてしまうかもしれませんが・・・・・)
 先ずは、なぜこの映画が知る人ぞ知る隠れた名作になっていたのか?その理由から解説したいと思います。

<渋ーい大物俳優たち>
 この映画は、主人公を含めて出演者が日本ではあまり知られていませんでした。そのため、公開時大ヒットとはならず、現在のようにビデオでヒットともなりませんでした。(もちろん、映画の公開当時レンタル・ビデオ店はまだありませんでしたから)
 主人公の宇宙飛行士の3人を演じていたのは、ジェームス・ブローリン、サム・ウォーターストーン、O・J・シンプソンです。
 知名度なら、O・J・シンプソンはダントツかもしれません。ただし、当時アメリカではアメフト界の英雄として超有名人でしたが日本ではまったく無名の存在でした。(彼の名前が日本でも知られるようになったのは、なんといってもあの殺人事件以降のことです)
 ジェームス・ブローリンも当時はいいことろまでいっている俳優でした。特に、1973年の作品「面影」では主人公のクラーク・ゲーブルを演じ一躍スターへの道を歩みかけていました。でも、残念ながらいい男ではあっても、スター性がなかった。彼はこの後も活躍を続け数多くの作品に出演しますが、結局ブレイクすることなく大物脇役としての地位に甘んじています。(ちなみに、彼の奥さんはバーブラ・ストライサンドです)
 サム・ウォーターストーンもまた脇役として活躍を続ける名優の一人で、ウディ・アレン作品には数多く出演しています。でも、地味な役者さんなだけに印象は薄いはずです。主役としては、カンボジアの内戦を描いたローランド・ジョフィの名作「キリング・フィールド」での主演が忘れられません。
 そして、もうひとりの主人公として宇宙飛行士たちを助ける新聞記者を演じていたのは、「マッシュ」(1970年)「ロング・グッドバイ」(1973年)などで有名なエリオット・グールドです。味のある役者として現在でも大物脇役として活躍する彼は、最近では「オーシャンズ11」に出演、マフィアのボスをコミカルに演じています。しかし、トレードマークともいえる髭もあり昔からイケメン俳優ではなく、通好みのロバート・アルトマン作品での活躍もあり、知名度も高いとはいえませんでした。
 NASAの側、悪役を演じるハル・ホルブルックも通好みの脇役俳優です。「大統領の陰謀」でのディープ・スロート役など、地味な役どころがほとんどですが、最近になってもショーン・ペンの傑作「イン・トゥ・ザ・ワイルド」(2007年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされるなど活躍は続いています。
 女優でも、「ウィークエンド」(1976年)などで主役も演じているブレンダ・バッカロとパニック映画大作「エアポート’75」(1974年)、ヒッチコックの「ファミリー・プロット」(1976年)などで当時絶好調だったカレン・ブラック二人の大物演技派が出演しています。
 その他、ラストのラスト近くのヘリコプターとのチェイス・シーンに登場する複葉機のパイロットを演じているテリー・サバラスもいます。僕も大好きだった刑事ドラマ「刑事コジャック」で知られる彼の人気はスキンヘッドの強面にも関わらず大変なものでした。しかし、ドラマ以外で彼は映画などで活躍することはできず、その後は忘れられています。
 こう見ると、確かにこの映画当時の人気俳優、大物脇役をずらりと並べた作品でしたが、いかんせん知名度、スター性、その後の活躍、どれもいまひとつの人々ばかりでした。

<ピーター・ハイアムズ>
 もうひとつ監督の問題もあります。この映画の監督、そして脚本も担当したピーター・ハイアムズは当時34歳。彼はテレビ局でヴェトナム戦争についてのドキュメンタリー番組などを手がけていましたが、映画監督を目指していて、自ら脚本を書いたテレビ・ドラマ「Good Night My Love」を演出。それが高く評価されたことで1973年「破壊!」の監督に抜擢されました。警察官を主人公にしたその映画は、地味ながら良質の警察ドラマとして高く評価されました。そして、二作目の作品として彼には大幅な制作費アップが約束されることになり、この映画が誕生したのでした。
 自ら脚本も手がけたこの映画は、評価も高く興行的にもヒットし、その後も彼は現在まで作品を取り続けることができています。
 ジーン・ハックマン主演の「カナディアン・エクスプレス」(1990年)、ビリー・クリスタル主演の「シカゴ・コネクション」(1986年)、ショーン・コネリー主演の「アウトランド」(1981年)、ジャン=クロード・バンダム主演の「タイム・コップ」(1994年)、「2001年宇宙の旅」の続編という脅威の二番煎じ「2010年」・・・どれも地味な役者で手堅くヒット作にまとめ上げる手腕を評価されたものばかりです。脚本も書け、撮影も得意で自ら製作も担当できる彼は、映画界から確実にヒットを生む便利屋扱いされてしまったようにも思えます。
 「カプリコン1」はそんな彼の映画界での地位を決定づけた作品となったのかもしれません。良いような、悪いような・・・・・・。

<この映画の魅力>
 この映画が観客を驚かせたのには理由があります。この映画は様々な面において高いレベルにある珍しい作品なのです。
 それは優れたアイデアに基づく政治映画ともいえます。今でも多くの人が疑いをもっているアポロ11号による月面着陸中継。それが実はスタジオ内に作られた月面そっくりのセットで撮られたインチキ映像だったとしたら・・・?この発想を見事に膨らませることで、この映画は「権力が生み出す真実」の危うさを描いて見せました。こうした内容の作品は、ネット社会となった現在では、様々なバリエーションで作られていますが、当時は画期的なものでした。
 もうひとつ、この映画は宇宙開発の中心となっているNASAの内部を限りなくリアルに描き出したドキュメンタリー的を要素をもつ映画でもあることです。当初、この映画はNASAの全面協力を得て、実際の宇宙基地を用いて撮られていました。だからこそ、この映画の宇宙服や基地内部には本物そっくりのリアル感があるのです。ところが、撮影が終盤にかかる頃、NASAの関係者がラッシュ・フィルムを見てビックリ、NASAが悪者になっているじゃないですか!大人気ないNASAは、その後、撮影への協力を拒否。実は、監督も製作者もそうなることを恐れていて、撮影前からNASAには脚本を見せていなかったそうです。結局、その後の撮影を続けるため、ロケット発射台の巨大セットが製作されることになりました。
 そして、この映画のもつもうひとつ重要な魅力としては、アクション映画としての面白さを忘れるわけにはゆきません。ブレーキを壊された新聞記者コールフィールドの車が街の中を暴走する場面のカーアクションが先ず見ごたえがあります。この場面は、カーチェイス映画の元祖と言われるスティーブ・マックウィーンの「ブリット」それにアカデミー作品賞受賞作「フレンチコネクション」、両作品でカーチェイスを担当したドライバー、ビル・ヒックマンが担当。彼がバンパーの下にカメラを取り付けた状態で平均時速100キロでロングビーチの街中を走ることでこの場面が撮影されてのだそうです。(フィルムの早回しもCGも用いられてはいません)
 それ以上にすごいのが、主人公が乗る旧式の農薬散布用複葉機と最新鋭ジェット・ヘリとのチェイス・シーンです。時間的にはわずか10分程度のシーンではありますが、このシーンは映画最大の見せ場でもあるため、カリフォルニアのモハベ砂漠を舞台に酷暑の中、8ヵ月にわたる撮影が行われました。そこにどんなアクションを盛り込むかは、アクロバット専門のパイロット、フランク・トールマンが担当しています。彼は、ジョージ・ロイ・ヒルによる飛行機映画の傑作「華麗なるヒコーキ野郎」(主演はロバート・レッドフォードとスーザン・サランドン)でも、アクロバット飛行の第一人者として活躍した人物です。そして、彼らのアクロバット飛行をより多角的に撮影するためヘリコプターの床下にカメラマンが宙吊りになり撮影が行われたといいます。この場面だけでも十分に見ごたえがあり、今でも文句なしに楽しめるはずです。

 さてこれ以上説明するとどんどん面白みが薄れてしまうので、後は映画をご覧ください!もし、面白くなかったら、TUTAYAさんからお金を返してもらって下さい。それにしても、最近は映画公開前に様々な情報が流出してしまい、「掘り出し物」と出会う機会がずいぶん減った気がします。何の予備知識ももたずに見るのが、こうした映画の場合非常に重要なのかもしれません。じゃあ、このサイトは不要ってこと?

<あらすじ>
 人類初の火星着陸に向けてヒューストンでは火星探査ロケット、カプリコン1の発射準備が進んでいました。ところが打ち上げの直前になって3人のパイロットは急にロケットから降ろされ、別の場所へと連れて行かれます。その間、無人のロケットは火星に向けて打ち上げられていましたが、彼らは砂漠の中の巨大な格納庫に連れて行かれ、そこで彼らの上司ケロウェイ博士(ハル・ホルブルック)から説明を受けます。
 彼によれば、宇宙船の生命維持装置に不具合が見つかったとのこと。しかし、月面着陸成功以降、宇宙開発に向けた国民の関心は低下の一途をたどっていたため、ここでの中止はNASAの存在を脅かす事態を生み出しかねない。そこで、君たちにはここにある火星を再現したセットで着陸の場面は演じて欲しい、ということでした。
 こうして、偽の火星への着陸を行うことになった彼らは、疑問を感じながらも命令に従います。ところが、本物のカプリコン1は火星からの帰路、大気圏への再突入時に耐熱装置が故障したためにカプセルが消滅するという最悪の事故が起きてしまいます。そうなると、宇宙船の乗組員が生きていては困ることになります。このままでは自分たちは殺されてしまう。そう考えた彼らは、基地からの脱走を決行します。
 ちょうど同じ頃、新聞記者のコールフィールドはNASAに勤める友人から、おかしな情報を聞かされます。そのうえ、その友人が突然行方不明になってしまったことから、彼はその裏に何か重要なことが隠されていると察知し、その調査を開始。すると何者かによって、彼は命を狙われてしまいます。誰がなぜ、なんのために彼の命を奪おうとしたのか?

「カプリコン1」 1977年
(製)ポール・N・ラザルス3世
(監)(脚)ピーター・ハイアムズPeter Hyams
(撮)ビル・バトラー Bill Butler
(美)アル・ブレナー Al Brenner
(音)ジェリー・ゴールドスミス Jerry Goldsmith
(出)エリオット・グールド、ジェームス・ブローリン、ブレンダ・バッカロ、カレン・ブラック、ハル・ホルブルック、サム・ウォーターストーン、O・J・シンプソン、テリー・サバラス

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