インタビュー集「知の逆転」より

- ジャレド・ダイヤモンド、ノーム・チョムスキー、吉田真由美 -

<「知の逆転」より>
 以前、NHKで「知の逆転」というタイトルのインタビュー番組が放送されました。世界最高峰の知性といわれる様々なジャンルの専門家たちが、人類の今後について提言を行うという内容でした。登場したのは、ジャレド・ダイヤモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マーヴィン・ミンスキー、トム・レイトンなど。
 ここでは、そこで語られていた印象的な発言をもとに、このサイトなりの未来予想としてまとめてみようと思います。インタビューの詳細については、NHK出版新書として発売されている「知の逆転」(インタビュー吉田真由美)を参考にしています。新書版ですので、手軽に読めます。是非、ご一読ください。

<ジャレド・ダイヤモンド>
 ジャレド・ダイヤモンド Jared Diamond は、生物学、進化生物学、生物地理学の専門家。主な著書には「銃・病原菌・鉄」、「セックスはなぜ楽しいか?」「文明崩壊」など。 彼は現在の世界の経済地図は、なぜ南北ではっきりと別れているのか?白人優位の人種対立の原因は何なのかについて、こう語っています。
「西欧の成功というものは、いくつかの幸運な地理的条件が偶然重なったから成り立ったのであって、ヨーロッパ人の生来の能力が他の地域の人々よりも優れていたのではない。・・・」
 けっして白人が頭が良かったからとかキリスト教が優れた宗教だったから、とかいう理由ではないということです。最も重要な要因は、人種でも宗教でもなく地理的条件であると断言しています。そうなると、文明の崩壊というのもまた、そうした「地理的条件」を破壊することから始まると考えられます。ではその地理的条件とは何でしょうか?

<先進国と後進国、その境界線とは何か?>
(1)現在の地理的条件
 気候、地形の特徴が地域産業の種類や成功、不成功を決める。(農産物、石油などの産出物があるなしなどの影響)
(2)歴史的な地理的条件
 石油の産出、農業の発展、港湾の誕生・・・そうした歴史が現在にまで影響を及ぼしている。(一次産業の有利さを二次産業、三次産業に生かす)

<文明崩壊の条件とは?>
(1)環境に対する取り返しのつかない人為的な影響(化石燃料の消費による地球温暖化はその代表的な例)
(2)気候の急激な変動
(3)敵対する近隣諸国との対立(戦争、軍事費の無駄使い)
(4)友好国からの疎遠
(5)環境問題に対する誤った対処

 歴史的には、過去に多くの国が発展とともに森林伐採をしすぎて国を崩壊に導いたといわれていますが、現代では地球全体がその暴挙を繰り返しつつあります。さらに地球全体における経済格差が(3)(4)の問題を悪化させています。環境問題と経済格差の問題が今や地球全体を崩壊へと導きつつあるといえます。

「現在のように消費量の格差がある限り、世界は不安定なままです。ですから安定した世界が生まれるためには、生活水準がほぼ均一に向かう必要がある。たとえば日本がモザンビークより100倍も豊かな国であるということがなくなり、全体の消費量が現在より下がる必要があります。・・・」
ジャレド・ダイヤモンド

 では、世界の経済格差を減らすことはできるのか?生物学者でもある彼はここで人類=人間という種についての根本に迫ります。

「ゴリラとチンパンジーの遺伝子の違いは全体の2.3%。ところが、人間とチンパンジーではそれが1.6%しかない!」

 ということは、人間とチンパンジーは動物としての本質がほぼ同一だということになります。そして、その親戚といえるチンパンジーという種については、こんなことが明らかになっています。

「・・・チンパンジーのオスたちが近隣のチンパンジー・グループを殺すために、ひそかに偵察に出かけるという方法を取っていることが明らかにされていました。人間の暴力性は、チンパンジーのそれに似ていると言えるでしょう。」

 チンパンジーと変わらない人間たちは、こうした生物としての暴力性を戦争や犯罪以外の分野にももちこむことで文明を築きあげていったといえます。その中でも、現在世界に最も大きな影響を与えている分野として「経済(市場経済)」という文化があります。
 ここからは経済の問題について、ノーム・チョムスキー先生に語っていただきます。

<ノーム・チョムスキー>
 ノーム・チョムスキー Noam Chomsky は、現代社会を動かしている「市場経済」に対して、その根本的な問題点をあげています。市場経済を動かすシステムは、そもそも予測不可能であると彼は説明します。
<市場経済も根本的な問題点とは?>
「たとえばあなたが私に車を売るとします。市場システムではあなたと私の双方にとって納得の行くような取引をするわけです。その際、他の人にとってどれだけコストがかかるか(損害があるか)ということは計算に入らない。しかし実際には他の人にもコストがかかってくるわけです。(交通渋滞、大気汚染、原油価格の上昇・・・)こうした外部性は予測不可能です。」

 その上、そのシステムを動かす人間がチンパンジーと大差ない暴力性に基づいているなら、種としての幸福など追求できるはずはありません。そんな人類が生み出した市場原理に社会をまかせることほど危険なことがあるでしょうか。

「そもそも市場原理が破壊的なので、企業というものがデザインされたのです。企業自体がもう既に市場原理に反しているのです。」

 さらに面白いことに現代の先進国の企業の多くは国家的プロジェクトによって動いていて、市場原理に忠実に動く唯一の業界だと彼は指摘しています。特にアメリカは軍事産業、医療産業などを中心にそうした実質的な国営化が最も進んだ国であると彼は語っています。

「唯一市場原理だけで動いているのが、金融部門です。だから何度も破綻する。市場原理だけでは破綻は避けられません。金融部門はほぼ10年ごとに大きな危機に見舞われています。」
 金融以外の産業はほとんど国家的なプロジェクトに守られているという点で、アメリカは実は社会主義国と変わらないともいえます。しかし、その金融業界をもアメリカは守ろうとしていたため、オバマは大統領選挙の公約で銀行が危険な金融商品を販売することを規制する、と宣言しました。ところが、大統領に就任したオバマ大統領は、なかなかそれを実行できずにいます。利益の大きい危険な金融商品を売りたい銀行は、国の規制に対し抵抗し続けているのです。(2013年)

「負債というのは一種の幻想です。負債額は高いけれども耐えられないものではない。『経済成長』があれば克服できるものです。・・・では財政赤字の中身は何でしょう。半分は軍事予算です。・・・あと半分はヘルスケア・プログラム(健康保険費)です。ヘルスケア・プログラムは民営化されていて、おそろしく効率が悪い。」
 要するに、軍事費を減らせばそれだけでも大幅な改善が見込めるはずなのです。それができないほど、人類は戦争にどっぷりはまってしまっているのです。
 なぜ自由主義諸国のリーダーであったはずのアメリカが旧ソ連のようなことになってしまったのか?どうやら、それはかつてソ連が権力の集中によっておかしくなったのと理由は同じだったようです。ソ連においては「権力欲」がそうした事態の原動力となりました。それに対し、アメリカにおいては自由だからこそ勝ち組に富が集中し、そのために彼らが権力も手中に収めてしまうことになったのです。

「問題は民主主義の限界ということです。人類にとって、核の脅威や環境破壊よりも問題かもしれない。
 アメリカは世界中で最も自由な国のはずですが、国内で力の不均衡がある。情報システム、メディア、広告などが、ほんの一部の手に集中しているのです。・・・
 先の(2010年)中間選挙を見てください。当選した共和党議員の大部分が、地球温暖化を否定しています。主要委員会の若いリーダーは、『そんなことが起こるわけがない。神が許すわけがないから』と言ったのです。
 自由国家では、国内の支配がごくわずかの巨大なパワープレーヤーに集中してしまいがちになる。しかもアメリカでは3分の1が聖書に書いてあることを文字どおり信じている。この二つが一緒になると、たいへん危険なことになります。」


 こうして、権力と富の集中がアメリカを動かしているわけですが、そのアメリカという国自体も富と権力(そして核)をどの国よりも持てる国なわけです。そして、その持てるモノを使うことで、アメリカがさらに多くのモノを集めようとするのも必然的なことです。核兵器はそんなアメリカの持つ最大の切り札です。

「アメリカが考えているのは「核抑止」ではなく「核支配」です。本音を明かすべきだ。本音で「核抑止」を言うなら、イランの核武装準備を支援しなければならないのに、本音が「核支配」だからそうしない。」

「アメリカの軍事基地こそが「核拡散防止」を妨げているのだということを忘れないで下さい。核の脅威を実際に減らす最も良い方法は、非核武装地帯を設けることです。アフリカ連合は、さんざん議論をつくしてやっとアフリカ全体の非核武装地帯化に合意したのですが、実行に移せなかった。アメリカが反対したからです。」

 イラクでもベトナムでもアフガニスタンでもアメリカは同じく自国の国益を守るためと、その国の民主主義を守るためという理由で戦争を始めています。共産主義、テロリズム、核兵器、化学兵器の拡散を防ぐため・・・。
 またアメリカは、直接自分で手を下さずにCIAなどの組織を経由して軍事政権など右派親米の組織や政権を金銭的、軍事的に支援して傀儡政権を作ることも行ってきました。そのために育てられた組織の中に、皮肉なことにあのアルカイーダもありました。
 それはアメリカがもつ唯一の価値基準であり、「世界の警察」がかかげる「正義」に基づく行為でした。しかし、その価値基準はほんとうに絶対的なものなのか?それを用いるアメリカ側の基準が間違っていたことは20世紀の歴史が証明しています。そして、それに対する天罰のようにアメリカは世界中に敵を作ってしまいました。

「イラクに何が起こったかを目撃したあとで、もしイランが核兵器を開発しないとしたら、彼らはまともじゃない」

 チョムスキーはこうした自分本位の価値基準の押し付けをする存在こそが「偽善者」であるとしています。アメリカの正義=偽善であるというわけです。

「偽善者とは自分に課す基準と他人に課す基準が違う人のことだ」

 今改めて歴史を振り返るとき、アメリカがベトナム、イラク、アフガニスタンで行った戦争は、他国における市民の虐殺であり、侵略戦争そのものだった。そう気づいたからこそ、オバマ大統領によるシリア攻撃に対し多くのアメリカ国民が「ノー」といったのでしょう。

「アイゼンハワー、ケネディ、ブッシュ、レーガン、クリントン・・・みなミロシェビッチやスハルトと同じ犯罪者だ」
 もう少しでオバマ大統領もその仲間入りを果たすところでした。いやまだ、そうなる可能性は十分にあります。

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