「100語でわかる色彩 Les 100mots de la couleur」

- アマンディン・ガリエンヌ Amandinme Gallienne -
<青 Bleu Blue>
 古代ヨーロッパで意味を持つ色は、赤、黒、白の3色だけでした。
 「青」は、古代ローマを襲った蛮族が身体を染めた色として恐れられていました。
 12世紀、キリスト教の絵画で空が青で描かれるようになり、聖母マリアの外套の青色と共に認知されるようになった。
 14世紀、「青」を生み出す花「パステル」は、金にも匹敵する高価な存在で「金青」と呼ばれ、赤に代わる色になります。
 15世紀、王・貴族が「青」の装束を身に着けるようになります。1563年に創設された王の護衛隊、フランス衛兵隊の制服は青に定められ、「ロイヤル・ブルー」と呼ばれることになりました。
 インドでは、「愛の神クリシュナ」の肌は青だが、不幸を招く色とされ、青い衣類は避けられてきました。
 中国では、毛沢東が藍染め(インディゴ)の人民服を着用。藍染めが大人気となります。
<インディゴ(藍)>
 インディゴは、「大青(タイセイ)」の葉から採取する染料のこと。アジア、アメリカ、アフリカの熱帯、温帯に生息します。摘み取った葉を果実、木炭、尿の発酵物の中に数日間漬けておく。すると黄色い液体となり、そこに布を浸す。それを引き上げ空気にふれさせると酸化して綺麗な青になります。この染め方は、パステル染めの20~30倍の染色力をもっています。
 イタリアのジェノヴァで青く染めた綾織りの木綿生地は1870年頃、アメリカに衣料品をの染るため大量に輸出されるようになります。リーバイ・ストラウスは、それを鉱山労働者用の作業着に利用することを考え、そこからジーンズが誕生しました。ジェノヴァのGenesの英語読みは、そのまま「ジーンズ」として流通することになり今に至ります。
<赤 Rouge Red>
 14世紀以降、ローマ法王と枢機卿の衣の色は、神への忠誠を誓うという意味で「赤」が使用されるようになりました。そうしたこともあり、16世紀までは「赤」は男性のための色でした。
 「赤」のための染料「カイガラムシ」は非常に高価でそれを使えるのは上流階級だけでした。それに対し、安価な苺で染めた生地は大衆向けでした。
 意外なことに、太陽を赤で描くのは世界でもアフリカの一部と日本人ぐらいのようです。
 中国では、結婚式の衣装は赤が使われ、招待客の衣装も、会場の装飾も赤が基本です。
 「赤」は、血の色、大罪の色、命の炎の色、地獄の炎の色、能力、権力、愛情、過ち、禁止を示します。
<黄 Jaune Yellow>
 黄色は、ヨーロッパではあまり好まれていない色です。
 権力と富の象徴でもある黄金色は光、喜び、生命などを表しますが、黄色は衰退、秋、病気のイメージ。
 さらに聖書の中でイエス・キリストを裏切ったとされるユダの服は黄色と書かれていることから、裏切りと拒絶のイメージも持たれています。
 キリスト教の影響が弱まりつつあったルネサンス以降、その明るさが評価されるようになります。さらに19世紀印象派の時代となって、やっと黄色の人気が高まり、絵画への使用が増えます。
 インドでは、幸福の色。(カレーの色でもあります)
 僧服の色であり、仏教の色でもあります。 
<オレンジ Orenge>
 可視光スペクトルで赤と黄の中間にある色。
 14世紀パレスチナから十字軍によって輸入されたオレンジの皮がその名の由来とされています。
 熱、明るさ、輝き、陽気、エネルギーなどの象徴。 
<緑 Vert Green>
 緑色は、ヨーロッパでは「偶然を象徴する色」とされています。
 スポーツ競技場、運、幸運、危険、狂人が着る色のイメージ。
 ニュートンの発見により、緑が赤の補色としてクローズアップされることになりました。「赤」が禁止の示すのに対し、「緑」は「自由」「許可」を示すことになります。
 こうして、19世紀以降は世界的なイメージでも、自然、植物、天国をイメージさせる人気色となりました。 
<グレー Gris Gray>
 悲しさ、老い、知恵、知性などを象徴する色。
 無彩色の中でも最もニュートラルな色。そのため隣り合う色の見え方を変えない重要な色です。
 どんな色とも調和し、混ぜることで無限の色を生み出すことができ、様々な色のつなぎ役となる色です。 

「チコちゃんに叱られる」見ました?
 すべての色が混ざるとそれはグレーになる。
 だから、部屋のほこりは灰色に見える。(実際は、カラフルな糸くずがほとんどを占めている)
 それにしても木村多江さんの悲しい演技はさすがでした。
<黒 Noir Black>
 暗い色であり、目立たないこともあり、人気色ではなか、ったが、15世紀ヨーロッパで流行。
 プロテスタントのよる宗教改革によって、質素で地味な黒、白、グレー、茶が主役となったためでした。
 尊敬、節制の色として、司法官、聖職者、公吏が着用するようになりました。 
<白 Blanc White>
 白は色の一つです。(ただし、スペクトル中には存在しません)
 生、死、純粋さ、衛生、道徳、清らかさなどをイメージさせます。
 17世紀までは、白は喪の色でした。
 19世紀になって、ウエディングドレスの色になりました。それまでは赤が主流でした。 
<栗色 Marron>
 風景の中に多くある色ですが逆に愛されない色。
 土や泥のイメージから、汚れ、不純、貧困のイメージが強い。
 ナチス突撃隊の制服、修道服の色であることもイメージを悪くしている。 
<紫 Violet>
 緋色(紫)染料はローマ帝国とビザンツ帝国時代に絶頂期を迎えました。
 現在では紫は黄色に次いで人気がない色と言われています。
 憂鬱、悲しみ、複雑、不思議な力、超自然などのイメージです。  

<彩度 Saturation>
 「彩度」は、「明度」、「色相」と共に「色の三属性」のひとつ。「色度測定」(カラリメトリー)に必要な要素。
 「色の鮮やかさの度合い」であり「刺激純度」もしくは「色の質」ともいう。
 放射やプリズムを通した純粋な色を100%とします。それに対し、純白、グレーの彩度は0%。したがって、白を混ぜることで彩度は低下してゆきます。(淡い色の代表であるパステル・カラーがそれ)
 彩度100%の黒を混ぜると、彩度を下げずに「明度」を下げることができます。
 視覚的には、「鮮やかな色」は手前に見え、「くすんだ色」は奥まって見えます。

<色相 Tonalite>
 「色相」は色の三属性のひとつで、一般的に「色」と呼ぶのはこの「色相」のことです。
 特定の波長が際立っていることによる変化。目にうつる可視光スペクトルの両端の赤と紫をつなぐとスペクトルの色相環ができる。
 色相環で表される色は彩度が最も高い純色で、ある色の補色を知りたければ、色相環の反対側にある色がそれです。
 1666年、ニュートンが考えた最初の色相環には、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色しかありませんでした。
 1839年、シュヴールが羊毛の染色向けに作った色相環は72色でした。
 1905年、マンセルの色相環は、基本となる赤、黄、緑、青、緋色の5色とそれをさらに20に細分化した色から構成されます。
<可視光スペクトル Spectre Visible>
 人間の目で見ることが可能な色の領域のこと。
 (380ナノメートル)紫、群青、青、シアンブルー、青緑、緑、黄橙、橙、橙赤、赤(730ナノメートル)

<シェヴルール Chevreul>
 ミシェル=ウジェーヌ・シェヴルールはフランスの化学者で、色彩の対比性を明確化した人物。彼はフランス国立カーペット・タペストリー工場の工場長で、そこではゴブラン織りのタペストリーが作られていました。彼はそこで織物において様々な色を作り出す、色の組み合わせを研究。青と黒の影を表現することに苦労したのをきっかけに「対比の法則」を明確化することに成功しました。
「音楽における音程(インターバル)や和音(コード)と同様に、色調はそれ自身で存在しておらず対比によってのみ存在する。目が隣接する二つの色を認識するとき、変化して見える」

「シェヴルールの色彩の法則の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。偶然の賜物ではないだけに尚のこと素晴らしい」
ヴィンセント・ファン・ゴッホ

<明度 Luminosite>
 「明度」は、白から黒までの間のグレーの割合で測定されます。「輝度要因」とも呼びます。
 物体表面での反射によって発する総エネルギーのことでもあります。
 漆黒の反射率は0%で、純白は100%です。(地上には存在しませんが、「ブラックホール」はまさに反射0の存在)
 2014年、カーボンを用いた「ベンタブラック」が開発され、光の吸収率99.96%を実現しました。現在、その独占使用権はインド系イギリス人アーティスト、アニッシュ・カプーアが所有しています。
<原色>
 絵画における三原色は、「赤」、「黄」、「青」。
 印刷における三原色は、「マゼンタ」、「イエロー」、「シアン」。
 テレビなどのスクリーン映像のおける三原色は、「赤」、「緑」、「青」。(三つ合わせると白光)

<鮮やかな色 Vive>
 「鮮やかな色」とは、黒味のない高彩度の色のこと。

<淡い色 Claire>
 「淡い色」とは、彩度が低く明度が高い色のこと。パステル・カラーはその代表的な存在。
 白の割合が高いが、多少の黒を含むこともある。
<パステル Pastel>
 明るさと彩度と濃さを抑えた淡い柔らかな色彩の中間色をパステルと呼びます。
 「パステル」はもともとは草本植物の名前。柔らかで淡い青色の染料が採れます。フランス南部トゥールーズ、カルカソンヌ、アルビ一帯で栽培されていました。
 画材のパステルの名前の由来とは異なります。そちらはパスティーユ(ドロップス)から来ています。

<桿体と錐体>
 ヒトの網膜の中には、桿体と錐体の2種類の光受容体がある。桿体は光の刺激に対し非常に敏感に反応するため、弱い光の下でも、ものが見えるように働く。桿体の働きによってものの形が見えはするが、色はついていない。
 錐体は光量が十分な時に機能し、色の区別も可能。桿体と錐体が同時に機能するのは、昼と夜の間、黄昏時だけです。映画で有名な「マジック・アワー」が美しく感じられるのは、両方の受容体が機能し、その景色をよりリアルに見られているからなのです。

<誘引現象>
 シュヴルールによって定義された現象。
 並んだ似た色を混同してしまうのが削減機能。(赤の隣に黄色があると、赤っぽさがマイナスされオレンジ色っぽく見える)
 その逆に、より色を強めるのが区別機能。(赤の隣に青があると、赤はより赤っぽく見える)
 この二つの性質はどちらも二つの色調間の差を縮めようとして働くので誘引現象と呼ばれます。

<同時対比>
 視覚が色の対比を強調しようとする現象のこと。
 青の背景に置かれたオレンジ色は、赤い背景上に置かれたオレンジに比べ、よりオレンジが強まって見える。オレンジと青は色相環上で遠い位置(補色に近い)にあるために違いが大きい。そのため、より違いが強調されることになります。ある色を置くと、光感知細胞が網膜上にかってに補色を生み出してしまうことになります。

<色の調和>
 色彩の調和を作るには、色相環を利用するのが有効です。
 2色配色なら、色相環の向かい合う補色関係にある2色は調和がとれている。3配色の場合は、正三角形をなす3色。4色なら四角形、6色なら六角形が有効とされます。(ただし、そこに色がつく部分の形の違いが加わると、これまた条件は違ってくるようです。
「一つの色調は一つの色でしかないが、二つになれば調和になる。それが人生というものである」
マティス「芸術に関するエクリ」

「スペクトルの色の帯は赤道のようなものだ。黒と白は両極点である。(球体の中心に位置する)グレーは基本五色相である白、青、赤、黄、黒から等距離にある」
パウル・クレー「現代アートの理論」 

<ハーモニー Harmonie>
 色彩において全体に統一感をもたせる方法をカラーハーモニー(色彩調和)といいます。
(1)色相が同じか近い色を合わせる。
(2)彩度や明度をそろえる。
 補色関係にある色は彩度が一緒でもケンカしてしまう。しかし、大きな面積の基調色と少しの補色にしてバランスを変えると両方の色を目立たせること可能になる。または補色関係にある色でも明暗をつけることで同時対比の効果を弱めることができる。

<バランス>
 色の構成では、面積、間隔、空白と塗りつぶし、奥行き、動きを定めることでバランスをとることが可能になります。どこに視線をひきつけるのか、どう解釈させたいか、どこを強調したいのかを考えながら選択することが重要です。
 水平のコンポジションは重さを感じさせます。
 垂直のコンポジションは軽さと奥行きの効果をもたらします。
 対角線はダイナミックな動きを生み、絵の中心へ視線を導きます。

<配色 Proportion>
「一平方メートルの青は、一平方センチメートルの青より青い」
マティス
 配色の効果を確認するには、より大きな色を用いて、その効果を確認する必要があります。

 色はどんな色であれ無条件に美しい。ただし、調和の取れない配色や不協和音を奏でる配色というものは存在する。色彩の評価とは、表現の自由に属するものであり個人的で主観的な部分が左右する。色の評価は個人に任されるとしても、色には美を授ける力があるという点に異論を唱える者はないだろう。

<リズム Rhythme>
 色彩の調和を創造する上で、リズムの概念は重要な要素である。それぞれの色の彩度、明度、色相を調整しながら、色と色の間の距離を等しくすればリズムは安定する。
 色を選び、選んだ色を配置し、それらの色の明るさに変化を持たせることにより、つけたいリズムを全体にもたらすことができる。  


<印象派の絵画と色>
 印象派の色使いは、明るい色調が中心ですが、これはチューブ入りの合成絵具の誕生によって初めて可能になったといえます。
 1839年に出版されたシュヴールの色彩の比較性を明らかにした理論も、印象派の画家たち、とくに新印象派の画家に大きな影響を与えました。中でも点描法で有名なジョルジュ・スーラは光の法則を実践した画家でした。光を最大限に表現するためにスーラが用いた技法とは、混色せずにキャンバスにプリズムの「純色」のみを小さな点で並置させて色を分割するというものでした。この点描では同時対比の法則が作用し、視覚混合により光と色を最大限に表現することができる。

「色彩は目で見る音楽である。色と色は音符のようにつながっている」
ドラクロワ

<イヴ・クライン>
 デッサンも色調の揺れもない。あるのは完全に統一された色のみ。いわば、支配色が絵全体を埋め尽くしている。私は色を個別化しようと試みた。それぞれの色が生きる世界というものがあると考えるに至ったからだ。私の望みは色の世界を表現すること。
 私の作品は、完全なる平静さの中にある絶対的なまとまりという概念も表現している。抽象的な概念が抽象的な方法で表現される。このことから、私は抽象画家に分類されることとなった。

イヴ・クライン

<形と色の関係>
 いずれにしても、鋭い色は尖った形状でより響(黄の三角形)、深みのある色合いは丸い形状でよりその効果が強くなる(青の円)。しかしながら、形と色の不一致を、不調和ととらえてはならない。むしろ、sぽうした不一致が、新たな可能性や意外性のある調和を生むのである。
「芸術、特に絵画における精神的なものについて」カンディンスキー

 カンディンスキーは、黄色はトランペットの音といったよに、色と、音や音色とを結びつける「色聴」とも言える感覚を備えていた。そのため、彼の作品は、色彩とリズムとジオメトリーの対比の規則に従い構成されている。
 黄色は発散し見る者に近ずく。
 青色は求心運動によりみる者から遠ざかる。

「色彩が豊かさを持てば、形は充実する」
セザンヌ

<色の歴史>
 私たちの祖先は色に関して私たちとは違う概念や解釈を待っていた。変化したのは私たちの感覚器官ではなく、知識、語い、想像力、感情をも含めあらゆるものを働かせる現実に対する私たちの認識のしかたが時流とともに変わってきたのである。つまり、色彩には歴史がある事実を認めざるを得ない。

<画材 Meteriaux>
 16世紀初め、「油絵具」が発明され、キャンバスに塗り重ねることができるようになり、グラッシや透明技法が可能になりました。
 18世紀、「ソフトパステル」が人気となりますが、パレットでの混色はできませんでした。
 19世紀、合成染料が発明されます。より強い発色が可能になりました。
 1960年、フェルトペンが登場。

<色彩による絵画の判別>
 その絵が1666年のニュートンのプリズムの発見と色相環以前のものであるかどうか。ランプの時代の作品なのか、電気照明の発明以後の作品なのか。時代錯誤に陥ることなく絵画を正しく評価するには、その作品が作られた時代の色彩の理論と分類はどうであったかを明らかにする必要があろう。

<色が象徴するイメージの歴史>
 色の象徴性は、時代とともに形成され定着していく。社会における思想や価値観が変化すれば、新たな象徴性が生まれる。その場合、もともとある象徴性が消えてなくなるかと言うと、そうではない。アンビバレンスが生まれる所以がそこにある。

 色の象徴性は、社会によって異なり、同じ色が他の国では、まったく逆のものを象徴する場合すらある。ある色がいい色と認められてその色を使うことは、広い意味で文化の問題である。
 それに各自の体験、家族や個人の文化が加わる。これらの文化的環境が色彩への関り方に影響を与える。
 色彩を理解するには、細やかな神経と謙虚さをもってすることが必要だ。色彩は文化や教育にあまりにも深く根を下ろしているために、色の嗜好を国際化することは不可能である。 


<参考>
「100語でわかる色彩 Les 100mots de la couleur」
 2017年
(著)アマンディン・ガリエンヌ Amandinme Gallienne
(訳)守谷てるみ
白水社

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