
「ザ・コミットメンツ The Commitments」 1991年
- アラン・パーカー Alan Parker -
<アラン・パーカー>
クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング「ティーチ・ユア・チルドレン
Teach Your Children」が懐かしい「小さな恋のメロディー」(1970年)、ジョディー・フォスターのデビュー作となった異色のミュージカル「ダウンタウン物語」(1976年)、ニコラス・ケイジ、マシュー・ブロデリックの出世作となった「バーディー」(1985年)、アイリーン・キャラを一躍スターに押し上げた青春ダンス映画「フェーム」(1980)、ピンク・フロイドの名作「ザ・ウォール」の映像化作品「ピンク・フロイド・ザ・ウォール」(1982年)マドンナが主役をかって出て話題となったミュージカル映画「エビータ」(1996年)これらいずれ劣らぬ名作の数々に共通しているのは何か?それは、どの映画もイギリス人監督アラン・パーカーの作品だということです。(「小さな恋のメロディー」のみ脚本です)
音楽にこだわり続ける名匠アラン・パーカー、彼の作品の中で最も好きな作品はどれか?そう聞かれたら、僕はまよわず「ザ・コミットメンツ」(1991年)を選びたいと思います。
大スターが出ているわけでもないし、大ヒット曲が生まれたわけでもなく、アカデミー賞などの映画賞に輝いたわけでもありませんが、この監督にとって小品とも言えるこの作品ほど愛すべき作品はないような気がするのです。
彼は1944年2月14日イギリスのロンドンで生まれました。広告業界で500本以上のCMを手がけた後、テレビのライター、演出家とし活躍。1970年に「小さな恋のメロディー」の脚本で注目され、1974年のテレビ・ムービー「The
Evacuees」で国際エミー賞を受賞。映画監督としてのデビューは、1976年の「ダウンタウン物語」。この作品は子供たちが演じるギャング映画という異色の内容で、ここで大人もびっくりのお色気を披露したのがジョディ・フォスターでした。
2作目の「ミッドナイト・エクスプレス」(1978年)は一転して大人向けの映画。トルコを舞台に政治的駆け引きと文化の違いに翻弄される主人公が刑務所から脱獄するハードな社会派アクション映画でした。(ただし、この映画でのイスラム社会の描き方が偏見に満ちていたことには、大いに疑問を感じました)
ブロードウェイ・ミュージカルのスターを夢見る若者たちの青春を描いた「フェーム」(1980年)、ピンクフロイドの傑作アルバムの映画化という異色作「ピンクフロイド ザ・ウォール」(1982年)、ヴェトナム戦争の後遺症に悩む青年の悲劇の物語「バーディ」(1985年)、怪しい世界に巻き込まれる不思議なハードボイルドもの「エンゼル・ハート」(1987年)、有名なエメット・ティル殺害事件の捜査を行った刑事たちの物語「ミシシッピー・バーニング」(1988年)、そしてこの「ザ・コミットメンツ」の後には、マドンナを主役に大ヒット・ミュージカルを映画化した「エビータ」(1996年)とヒット作、問題作、話題作を連発。80年代から90年代にかけて、最も旬の監督だったといえるでしょう。
<ザ・コミットメンツ>
コミットメンツのメンバーは、ジョーイ・ザ・リップ役のジョニー・マーフィー以外は、全員役者としては素人で、ミュージシャンとしても、一流のプロといえるのは、コーラス隊のメンバーの一人マリア・ドイルぐらいでした。(彼女は、当時ホット・ハウスフラワーズのメンバーでした)しかし、そんな素人軍団が本気でミュージシャンを目指してみせたからこそ、そこにリアリティーが生まれ、感動も生まれたのです。まして、彼らが挑んだのは、バンド・サウンドとしては、最も難度が高いとも言えるR&Bだったのです。
彼らが選んだ曲も、またけっして簡単な曲ではありませんでした。それは誰もが知っているごまかしのきかない名曲ばかり、ウィルソン・ピケットの「ムスタング・サリー」「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」にアル・グリーンの「テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー」、それにあのオーティスの不滅の名曲「トライ・ア・リトル・テンダーネス」ンなど。ところが、彼らは見事にそれらの曲を自分のものにしてみせたのです。
特に、ほとんどカバーされることのないオーティスの「トライ・ア・リトル・テンダーネス」をほれぼれするような歌声で歌いきったヴォーカリストのアンドリュー・ストロングには驚かされました。なんとこの時、彼はまだわずか16歳だったというのです!
「俺たち、アイリッシュはヨーロッパの黒人だ!」という作品中の名文句を聞くまでもなく、彼らの音楽を聴けば、恐るべしアイリッシュ・スピリット!と感嘆せずにはいられません。
<アイルランドの文化>
世界一ストリート・ミュージシャンが多い街と言われるアイルランドの首都ダブリン。しかし、本当に凄いのは、この街のストリートではなく、それぞれの家族において音楽のしめる存在の大きさかもしれません。
音楽とダンス、そしてサッカーとパブ、この4つの存在がアイルランドの人々の生活にしめる割合は、我々日本人の常識の枠を越えています。そのことは、アイルランドを舞台にしたドキュメンタリーや映画を見ると良くわかるのですが、この小さなバンドの物語もまた、アイルランドにおいては、それほど珍しくはないお話なのかもしれません。
そして、どこにでもいる素人バンドでも、あそこまで見事に輝くことができるのだということを、ある意味ドキュメンタリーのように描いたからこそ、この映画は永遠の輝きをもつことができたのでしょう。
<コミットメンツの時代>
この作品は地味な小品ではありましたが、ちゃんと商売としては成り立つよう計算されたものでした。そうでなければアラン・パーカーのような大物が監督するわけはないのです。1980年代後半、静かに世界中に広がったアイルランド音楽、ケルト音楽のブーム、U2、エンヤ、ポーグス、ヴァン・モリソン、ウォーター・ボーイズ、クラナド、チーフタンズ、ホットハウス・フラワーズらの大活躍、これらの追い風なくして、この作品の映画化はなかったかもしれません。
それと主人公の妹役にオーディションで選ばれた女優と観客などチョイ役で出演した役者たちがこの映画を通じて知り合い結成されたバンドが後にアイルランドを代表する人気バンドになります。なんとザ・コアーズがそうです。
<映画「バーディー」について>
それにしても、アラン・パーカー監督の音楽センスの良さには、いつも感心させられてしまいます。彼の作品は、それぞれがバラバラなジャンルに属しているにも関わらず、みなぴったりの音楽を与えられています。それは、監督自身の音楽に関する趣味の幅広さからくるものなのでしょう。
中でも、カルト的な人気をもつ彼の代表作のひとつ「バーディー」におけるピーター・ガブリエルの起用は、さすがとうならせるものがありました。特に、映画の中で精神を病んでしまった主人公が、鳥の視点になって、街の中を飛び回る有名なシーンの音楽と映像は、麻薬を使わないトリップとも言えるほどぶっ飛んだものです。あそこまで、狂気に迫るとは、・・・。このシーンを見るだけでも、「バーディー」は見る価値ありでしょう。
「ザ・コミットメンツ The Commitments」 1991年公開
(監)アラン・パーカー Alan Parker
(製)ロジャー・ランドルー・カトラー、リンダ・マイルズ
(製作総指揮)Armyan Bernstein,Tom Rosenberg
(脚本)ディック・クレメント Dick Clement、Ian
La Frenais、ロディ・ドイル
(撮)ゲイト・タッターサル
(出)ロバート・アーキンズ、マイケル・エイハーン、アンジェリナ・ボール、マリア・ドイル、デイブ・フィネガン、ブロナー・フィネガン・・・etc.
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