
- カーティス・メイフィールド Curtis Mayfield
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<You're A Winner>
ダニー・ハサウェイが闘いの途中で力つきた悲劇の人とするなら、カーティス・メイフィールドは、傷つきながらも、最後まで力強く闘い抜いた勝利の人と言えるでしょう。どちらの人生も苦しみの連続だったはずでしたが、少なくともカーティスは、死の間際まで神への感謝を忘れませんでした。彼の死は、けっして孤独なものではなかったし、多くの人々に見守られながらの死は、逆に人々に勇気を与えるものだったと言います。僕はこういう人のことを考えるだけで、目頭が熱くなってきてしまいます。
<Born In Chicago>
カーティス・メイフィールドは、1942年6月3日にシカゴで生まれました。多くのソウル系アーテイストたちがそうであるように、彼もまた教会の聖歌隊が音楽活動の原点でした。そのうえ、彼のお祖母さんが、説教師であると同時に、優れたゴスペル・シンガーだったということで、彼にはゴスペルにのめり込む環境と才能が生まれつき与えられていたようです。
そして、これもまた多くのソウル系アーティストがそうであるように、彼もまた10代でゴスペルだけでなく、世俗の音楽にも関わり始め、14歳という若さで、アルファトーンズというR&Bヴォーカル・グループを結成しています。こうしてしばらく、彼は世と俗の音楽を二股かけて、歌うことになるのですが、その中で彼の人生を大きく変える出来事が起きます。それは、彼とともに後にインプレッションズを結成することになるジェリー・バトラーとの出会いでした。二人は、カーティスのお祖母さんが率いていた聖歌隊で知り合い意気投合し、1957年R&Bコーラスの名門グループ、インプレッションズを結成します。
<Impressions>
インプレッションズは、ジェリー・バトラー、カーティス・メイフィールド、それにサム・グッデン、リチャードとアーサーのブルックス兄弟の5人組みのグループで、1958年に発表したデビュー・シングル"For Your Precious Love"がいきなり大ヒットし、当時の主流だったR&Bコーラス・グループの人気者となりました。
しかし、この頃カーティスの存在は、グループ内においてはそれほど重要な位置になかようです。あくまで、メインのヴォーカリストはジェリー・バトラーであり、曲のほとんどはジェリーとブルックス兄弟によるものだったのです。
<Impressions2>
カーティスの存在感が際だってきたのは、グループの大黒柱だったジェリー・バトラーが、ソロとして独立してしまってからのことでした。一時はレコード会社から契約を断られるほどグループは低迷しましたが、しだいに才能を発揮し始めたカーティスのおかげでインプレッションズは、再び上昇気流に乗り始めました。
そのきっかけとなったのが、1961年の「ジプシー・ウーマン Gypsy Woman」のヒットで、カーティス、サムそして新メンバー、フレッド・キャッシュの3人は、それまでのインプレッションズとはひと味違うグループへと成長して行きました。(ジプシー・ウーマンといえば、オリジナルももちろん良いのですが、ファンキーなブーガルーで一時代を築いたフィリピン系ラティーナ、ジョー・バターンのカバーは超お薦めです!この人のお話もそのうち是非と思います)
<People Get Ready>
1963年"It's All Right"のヒットから始まり"Talking About My Baby"、"I'm So Proud"、"I've Been Trying"、"Keep On Pushing"などを次々にヒットさせ、1965年にはカーティス自身にとっても、その後生涯重要な曲として歌い続けることになる名曲"People Get Ready"(ロッド・スチュアートのカバーも有名!)を発売しています。
ソウルというよりも、ゴスペルと言った方がよいかもしれないこの曲は、今やスタンダード・ナンバーとして歌い継がれていますが、1965年という年のことを考えるとき、その歌詞の持つ意味は、ただ単に神への信仰を表しただけのものではなかったと言えるでしょう。
<1965年>
この年、アメリカでは次々と大事件が起きています。ワシントンでは、ヴェトナム戦争に反対する人々による反戦平和大行進が行われました。しかし、ヴェトナムでの闘いはいよいよ泥沼化の様相を呈し、北ヴェトナムへの絨毯爆撃、いわゆる「北爆」が開始されました。
国内では、アフリカ系アメリカ人(黒人)に投票権を与える法律、黒人投票権法(公民権法)が、ついに成立したましが、黒人解放運動の強行派の中心人物だったマルコムXが暗殺され、ロスでは黒人たちによる暴動が勃発、多くの死傷者を出しました。(LAワッツ黒人暴動)
まさにアメリカは混乱のまっただ中でした。カーティスの歌声は、そんな時代の中で静かに人々の間に浸透して行きます。彼は同じ時代に活躍した非暴力による黒人解放の指導者、キング牧師の説教に影響を受けながら、自らのメッセージを発し続けます。
<Curtis Mayfield>
1970年、カーティスは、いよいよソロとしての活動を開始します。デビュー・アルバム"Curtis"は、インプレッションズ時代に比べると、ファンク色が強く、当時人気が高まっていたジェームス・ブラウンやスライの影響を大きく受けたものでした。(特に、アルバム中の代表的ファンク・ナンバー"Move On Up"はイギリスでヒットし、後にポール・ウェラーもカバーしています)
しかし、この当時黒人解放運動の盛り上がりは、すでにピークを越えていました。1968年に、カーティスが敬愛していたキング牧師は暗殺され、公民権運動によって得られた権利をいかして白人社会の中に進出する裕福な黒人層とそれをいかすことができずに、取り残されて行く黒人層への二極化が始まろうとしていました。
そのため、かつて彼が歌っていた"We're A Winner"(1967年)、"People Get Ready"のような前向きな力強い曲は影をひそめ、より社会性を持った現実を見つめる内容へと変わって行きました。
<Back To The World>
1972年に発表された黒人スタッフによる画期的な映画「スーパー・フライ Superfly」のサントラ盤には、テーマ曲の「スーパーフライ
Superfly」、「フレディーズ・デッド Freddie's Dead」など、彼の代表曲が収められています。この映画では、ドラッグ・ディーラー(麻薬密売人)の男が、そこから抜け出そうともがく物語が描かれ、一部ではCIAが黒人解放運動を崩壊するためにばらまいていたという説もある麻薬問題がリアルに描かれていました。
1973年には、ヴェトナムの戦場に送られた黒人兵に地獄からの帰還を呼びかけ、世界の平和を訴えた名盤「バック・トゥー・ザ・ワールド Back To The
World」が発表されています。
1975年のアルバム"There's No Place Like America Today"もまた黒人社会が抱える失業や貧困の問題を真っ正面からとらえた作品でした。アルバム・タイトルは、泥沼化したヴェトナム戦争と長引く不況により過去の栄光を失ったアメリカを皮肉っており、当時ブームとなっていたディスコ・ミュージックとは、まったく別次元の音楽を展開していました。
<忘れられかけた男>
こうした彼の活躍も、黒人解放運動がその目的をしだいに見失っていったのと時を同じくして、しだいに目立たない存在となって行きましたが、ニューソウルのリーダー的存在だった彼の存在はけっして忘れ去られたわけではありませんでした。
1980年代に入ってクラブのDJたちが甦らせたかつての素晴らしい音楽の数々の中にカーティスの音楽もあったのです。そのおかげで、60年代、70年代を知らない若者たちの間にもカーティスの名は知られるようになり、再び彼の存在はクローズ・アップされるようになってきます。しかし、悲劇はそんな時代の流れをぷっつりと断ち切ってしまいました。
<悲劇>
1990年8月14日、カーティスはニューヨークで野外コンサートを行っていました。ところが、コンサートの途中、強風にあおられて突然照明設備を支えていたやぐらが崩れ、彼はその下敷きになってしまったのです。死こそ免れたものの、彼は下半身不随となってしまいました。
1994年リハビリに励むカーティスのためにトリビュート・アルバムが制作された。"All Men Are Brothers〜A Tribute To Curtis
Mayfield"には、アレサ・フランクリン、スティービー・ワンダー、エルトン・ジョン、エリック・クラプトン、レニー・クラヴィッツなどが参加し、このアルバムでカーティスは病院のベッドに横たわりながら"Let's Do It Again"という曲を吹き込みました。
<復活>
そして、1996年ついに彼は奇跡的なカムバックをとげました。誰もが待ちわびたニューアルバム"New World Order"の発表が行われ、そのアルバムがかつての名作にまったく引けを取らない素晴らしい内容であることに、世界中の人々は驚かされました。
それはまるでイエス・キリストの復活のように輝きに満ちていました。そして、その素晴らしい輝きを残した彼は、1999年12月26日クリスマスの翌日に黒人解放運動の聖地、アトランタで静かに永遠の眠りについたのです。彼は死の直前まで、お見舞いに来た人々に、笑顔で語りかけていたと言います。苦しみに満ちた人生でも、彼はいつも神とともに生きていました。だからこそ、喜びとともに、その生を終えたに違いないのです。彼こそが人生の勝者でした!You're A Winner,Curtis!
He always kept on pushin'
He always sang about the future
He called the soldiers back to the world
from hell
He always said "People get ready,all
you need is the faith"
Curtis' dead is not the end of the world
That's the beginning for New World Order
鈴木創作
<締めのお言葉>
「肉体とは別に魂があり、魂は永遠のものでると知らなければならない。この認識を深い信仰にまで高めなければならない。究極的には、愛という神を常に信じない人々に、非暴力というものは縁はない」
マハトマ・ガンジー
E.F.シューマッハー著「スモール・イズ・ビューティフル」より
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