- ダニー・エルフマン Danny Elfman -
<カルト映画のカルト音楽作家>
ダニー・エルフマンは、ティム・バートン、ガス・ヴァン・サント、サム・ライミ作品の多くで音楽を担当している作曲家です。三人の監督に共通するのは、いずれもカルト的なマイナー作品からスタートして、メジャーへと活躍の場を広げた異色の監督たちです。
ティム・バートンは、「シザ―・ハンズ」や「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」などからスタートしたダークでマニアックなカルト映画の人気者。ガス・ヴァン・サントは、「マイ・プライベート・アイダホ」や「カウガール・ブルース」などでブレイクした同性愛者であることをカミングアウトしている青春映画の巨匠。サム・ライミは、「死霊のはらわた」、「ダークマン」など、スプラッタ・オカルト映画からデビューして「スパイダーマン」でブレイクした監督。
ダニー・エルフマンは、マイナーだったこれらの監督の作品にほぼほぼ最初から関わることで、それぞれの監督たちの作品の世界観を表現してきた作曲家だったわけです。なぜ、彼がそうした役割を担うことになったのでしょうか?
<ダニー・エルフマン>
ダニー・エルフマン Danny Elfman は、1953年5月29日アメリカ、ロサンゼルスに生まれています。1976年に結成されたポスト・パンクとして登場したニュー・ウェーブのバンド、オインゴ・ボインゴのリーダー&シンガーとして活動を開始。1981年にはメジャー・デビューし、それから1990年代まで活動しています。
オインゴ・ボインゴが活動を始めた1970年代末は、パンクの時代が一段落し、新たなムーブメント、ニュー・ウェーブの時代が始まろうとしている時期でした。この時期に活躍していたアーティストは、セックス・ピストルズ、エルビス・コステロ、XTC、クラッシュ、スペシャルズ、ジャパン、パティ・スミス、ラモーンズ、テレヴィジョン、プリテンダース、PIL、マッドネス、ポップ・グループ、ギャング・オブ・フォー、ブームタウン・ラッツ、ジャム、…etc. そしてポリス。
パンク・ロックが一瞬にしてその歴史を追えたのに対し、彼らの多くは「パンク」として登場して以降、そのスタイルを独自の方向に変えることで新たなスタイルを見出したといえます。「パブロック」、「エスニック」、「レゲエ」、「スカ」、「テクノ」、「ダブ」、「ジャズ」、「アバンギャルド」・・・様々な音楽スタイルがこの時期にロックと融合しました。
オインゴ・ボインゴもそんな時代に登場したバンドのひとつでした。テクノっぽいファンク、スカっぽいファンクでちょっと変態っぽい歌詞が特徴的な存在でした。彼らの「Little
Girl」という曲は、「ロリコンのアンセム」なんて言われ方もしているようです。その独特の世界観が注目を集めることになり、彼に映画音楽のオファーが来るようになります。
最初に彼が映画の音楽に関わったのは、自分の兄リチャード・エルフマンのお馬鹿でシュールなミュージカル映画「フォービドゥン・ゾーン」(1980年)でした。その後、何本かの映画の音楽を彼は担当しますが、「独身SaYoNaRa ! バチェラー・パーティー」(1984年)、「ときめきサイエンス」(1985年)とC級コメディー映画ばかりでした。そしてティム・バートンのデビュー作となった日本未公開の「ピーウィーの大冒険」(1985年)もまたそんな作品のひとつでした。
どうやらティム・バートンは、もともとがオインゴ・ボインゴのファンだったようです。だからこそ、彼はメジャー・デビュー作品となった「ピーウィーの大冒険」にダニー・エルフマンを誘ったのでした。ただし、これも偶然とは思えませんが、この映画の主演俳優ピーウィー・ハーマンは、後に児童ポルノ所持の罪で逮捕されることになります。やはり、ティムの周辺は怪しい雰囲気に満ちていたようです。とはいえその後、彼はコメディー映画の巨匠?カール・レイナーの「サマー・スクール」(1987年)、ロバート・デニーロのヒット作「ミッドナイト・ラン」(1988年)など、A級コメディ映画の音楽を任されるまでになって行き、知名度はどんどんアップしてゆきます。
<奇妙な世界へようこそ!>
ダニーの盟友となったティム・バートンはその後、当初のB級コメディー映画からどんどんスケールアップし、「ビートル・ジュース」(1988年)のヒットにより、いよいよメジャーな監督の仲間入りを果たすことになります。そして、ティム・バートンの出世と共にダニーもまた活躍の幅を他の大物監督の作品へと広げて行くことになります。
彼にとって、初めてのコメディではない作品はやはりティム・バートンの「バットマン」(1989年)でしたが、大物監督たちとの出会いにより、彼の作品の幅は一気に広がることになります。そして、ホラー映画界の巨匠サム・ライミの「ダークマン」(1990年)、ウォーレン・ビーティの「ディック・トレイシー」(1990年)、ティ・バートンの「シザ―・ハンズ」(1990年)と続き、「誘う女」(1995年)からはガス・ヴァン・サント作品にも関わるようになります。
以下に彼が音楽を担当している映画をリスト・アップしました。ティム・バートンの作品のほとんどがそうなのですが、「奇妙な世界」を舞台にした映画(その多くはコメディ)といえば、彼に声がかかる、そんな映画界の流れができていたかのように彼への仕事のオファーは急激に増えることになりました。けっしてポップではない彼の不思議な音楽は、ティム・バートンが描き出す不思議な作品にはぴったりなのかもしれません。「チャーリーとチョコレート工場」の中のウンパルンパの歌はまさにその好例でしょう。ティム・バートン作品以外でも、「ディック・トレイシー」、「メン・イン・ブラック」シリーズ、マーベル・コミックの映画化作品(「スパイダーマン」、「ハルク」、「アベンジャーズ」シリーズ・・・)、ヒッチコックのリメイク作品、そしてファンタジー・アニメ作品の数々などは、まさにそんな奇妙な世界を舞台にした作品です。
マイナーでオタクでカルトな映画作家たちが、時代の変化に乗って次々とメジャー進出を果たす中、彼らの映画のための音楽を提供できる作曲家は既存の作曲家たちの中にはいませんでした。なぜなら、それまでの映画音楽作家たちは、正式な音楽教育を受けた真面目な正統派の作曲家たちばかりだったからです。そんな中、たまたま映画界とのつながりをもったダニーは、それまでの映画音楽の作曲家たちとは異なる世界の出身でした。そのおかげで、彼は「奇妙な世界」を創造しようとする映画作家たちに求められる存在になり得たのです。そして世界の映画ファンがオタク化してきた時代の流れによって,いつの間にか彼自身もまたメジャーな映画音楽作家になってしまった。そう考えられると思います。
思えば彼と仲がいい、21世紀映画音楽界の巨匠ハンス・ジマーが、「ラジオスターの悲劇」で有名なバグルスのメンバーだったのも、決して偶然ではなかったはずです。
<ダニー・エルフマンの代表作>
<ティム・バートンの作品>
「バットマン・リターンズ」(1992年)、アニメ「ナイト・メア・ビフォア・クリスマス」(1995年)、「マーズ・アタック!」(1996年)、「スリーピー・ホロウ」(1999年)、「Planet
of the Apes 猿の惑星」(2001年)、「ビッグ・フィッシュ」(2003年)、「チャーリーとチョコレート工場」(2005年)、アニメ「ティム・バートンのコープス・ブライド」(2005年)、「アリス・イン・ワンダーランド」(2010年)、「ダーク・シャドウ」(2012年)、アニメ「フランケン・ウィリー」(2012年)、「ビッグアイズ」(2014年)、「アリス・イン・ワンダーランド/秘密の旅」(2016年)
<ガス・ヴァン・サントの作品>
「グッドウィル・ハンティング」(1997年)、「サイコ」(1998年)、「ミルク」(2008年)、「永遠の僕たち」(2011年)、「プロミスト・ランド」(2012年)
<サム・ライミの作品>
「シンプル・プラン」(1998年)、「スパイダーマン」(2002年)、「スパイダーマン2」(2004年)、「スパイダーマン3」(2007年)、「オズ はじまりの戦い」(2013年)
<バリー・ゾネンフェルドの作品>
大ヒットSFコメディ「メン・イン・ブラック」(1997年)、「メン・イン・ブラック2」(2002年)、「メン・イン・ブラック3」(2012年)
テイラー・ハックフォードの「黙秘」(1995年)、「プルーフ・オブ・ライフ」(2000年)
ブライアン・デ・パルマの「ミッション・インポッシブル」(1996年)
ピーター・ジャクソンのホラー・コメディ「さまよう魂たち」(1996年)
レス・メイフィールドのディズニー映画リメイク作「フラバー」(1997年)
ウェイン・ワンの「地上より何処かへ」(1999年)
ブレット・ラトナーの「天使がくれた時間」(2000年)、「レッド・ドラゴン」(2002年)
ロバート・ロドリゲスの「スパイキッズ」(2001年)、「スパイキッズ2」(2002年)
ロブ・マーシャルの「シカゴ」(2002年)
アン・リーの「ハルク」(2004年)、「ウッドストックがやって来る!」(2009年)
ピーター・バームの「キングダム/見えざる敵」(2007年)
スティーヴン・J・アンダーソンのSFファンタジー・アニメ「ルイスと未来泥棒」(2007年)
ティムール・べクマンベトフの「ウォンテッド」(2008年)
ギレルモ・デル・トロの「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」(2008年)
マックGの「ターミネーター4」(2009年)
シェーン・アッカ―のファンタジー・アニメ「9<ナイン> 9番目の奇妙な人形」(2009年)
ポール・ハギスの「スリー・デイズ」(2010年)
ショーン・レヴィの「リアル・スティール」(2011年)
デヴィッド・O・ラッセルの「世界にひとつのプレイバック」(2012年)、「アメリカン・ハッスル」(2013年)
サーシャ・ガヴァシの「ヒッチコック」(2012年)
クリス・ウェッジのファンタジー・アニメ「メアリーと秘密の王国」(2013年)
ロブ・ミンコフのファンタジーSFアニメ「天才ピーボ博士のタイム・トラベル」(2014年)
ロブ・レターマンの「グースバンプス モンスターと秘密の書」(2015年)
ジェス・ウェイドンの「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015年)
ザック・スナイダーの「ジャスティス・リーグ」(2017年)
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