- デイヴ・グルーシンDave Grusin -

<映画音楽界を代表するジャズ・ミュージシャン>
 ジャズ界と映画界、両方で活躍を続ける作曲家、ピアノ・キーボード奏者、指揮者でもあるデイヴ・グルーシンは、日本ではそれほど高い知名度とはいえないかもしれません。しかし、映画音楽の世界では、映画「ミラグロ 奇跡の地」でアカデミー作曲賞を受賞するなど、アカデミー賞の常連候補として有名な大物作曲家です。さらに、アメリカを代表する作曲家ジョージ・ガーシュインの曲を編曲し直して録音したアルバムでグラミー賞を獲得するなど、編曲者としても活躍しています。ジャズ畑のミュージシャンとも共演が多い、ピアニスト、キーボード奏者としての活躍もあるアメリカの音楽界を代表する大御所の一人、デイヴ・グルーシンを特集します。

<ジャズの本場へ>
 デイヴ・グルーシンDave Grusin は、1934年6月26日コロラド州のリトルトンで生まれました。父親は東ヨーロッパのラトビアからの移民でバイオリニストでした。家庭環境のおかげもあり、子供の頃から音楽に親しんでいた彼はボールダーにあるコロラド州立大学のピアノ科に進みます。その後、ジャズの魅力にひかれた彼は、ジャズの本場ニューヨークにあるマンハッタン音楽学校に入学します。
 その頃、彼は当時人気のポップス歌手アンディ・ウィリアムスと知り合い、彼の出演するテレビ番組「アンディ・ウィリアムス・ショー」で指揮者とピアニストを担当することになりました。その後、彼はテレビの音楽を幅広く手がけることになり、ロサンゼルスへと仕事の場を移します。ユニバーサル・スタジオのドラマを中心に、彼は日本でも放映された「刑事バレッタ」や「刑事コロンボ」シリーズの第一作「殺人処方箋」(1968年)の音楽なども手がけています。
 さらに彼はニューヨークにいた当時、ブロードウェイのミュージカル「レット・イット・ライト」の作曲を担当した際、その演出を担当していたマイク・ニコルズと知り合い、彼からのオファーにより、映画「卒業」(1967年)の音楽を担当することになりました。この映画は大ヒットとなり、テーマ曲などを提供したサイモン&ガーファンクルは一躍注目を浴びることになりましたが、それ以外の音楽を担当した彼もまた映画界での仕事に関わるようになってゆきます。

<映画音楽>
 彼が生み出した映画音楽の質は高く、多くの作品がアカデミー賞の候補作になっています。それらアカデミー作曲賞のノミネート作を並べてみると、
「天国から来たチャンピオン Heaven Can Wait」(1978年)(ウォーレン・ビーティ主演のアメラグ&ゴーストものの感動作)
「チャンプ The Champ」(1979年)(ジョン・ヴォイト主演の親子の愛情を描いたボクシングものの感動作)
「黄昏 On Golden Pond」(1981年)(ヘンリー&ジェーン・フォンダとキャサリン・ヘップバーン主演の感動の名作)
「トッツィー Tootsie」(1982年)(ダスティン・ホフマン主演のコメディ映画、この映画のテーマ曲「It Might Be You」がアカデミー主題歌賞にノミネート)
「ミラグロ 奇跡の地 The Milagro Beanfield War」(1988年)(ロバート・レッドフォード監督の感動作、この作品で念願のアカデミー作曲賞受賞!)
「恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ The Fabulous Baker Boys」(1989年)(ミシェル・ファイファー主演のミュージシャンを主人公にした音楽映画の傑作)
「ハバナ Havana」(1990年)(ハバナを舞台にしたロバート・レッドフォード主演のラブ・ロマンス大作)
「ザ・ファーム 法律事務所 The Firm」(1993年)(トム・クルーズ主演の法廷ものサスペンス映画の名作)

 アカデミー賞にノミネートはされなかったものの、彼の代表作としては他にも素晴らしい作品があります。
「愛すれど心さびしく The Heart is a Lonely Hunter」(1968年)(聾唖者の青年アラン・アーキンの悲しい恋の物語を描いた名作)
「ミネソタ大強盗団」(1972年)(フィリップ・カウフマン監督によるニューシネマ西部劇の伝説的名作)
「出逢い The Electric Horseman」(1979年)(ロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダ主演、時代遅れのカウボーイを主人公としたラブロマンス)
「レッズ Reds」(1981年)(ウォーレン・ビーティ監督・主演による激動のロシア革命を舞台にしたアメリカ人ジャーナリストの伝記映画)
「グーニーズ The Goonies」(1985年)(リチャード・ドナー監督の冒険アクション映画、シンディ・ローパーの主題曲もヒット)
「虚栄のかがり火 The Bonfire of the Vanities」(1990年)(ブライアン・デ・パルマ監督作品、トム・ウルフの原作を基にした名声を追いかけるジャーナリストの物語)

 ラブ・ストーリーあり、実録歴史大作あり、冒険アクションあり、法廷サスペンスあり、音楽映画ありと実に幅広い映画の音楽を担当しているのですが、ジャズ・ミュージシャン志向のわりには、ジャズ的な音楽は意外に少ないといえます。映画は映画と割り切った仕事をしていたのでしょう。内容で作品を選ぶというよりも、ロバート・レッドフォード、ウォーレン・ビーティ、シドニー・ポラックなど、監督たちとの関係から作品を選んでいたようでもあります。

<編曲者、ミュージシャンとして>
 映画音楽の作曲家としての仕事とは別に彼はプロデューサー、編曲者としても数多くの仕事をこなしています。その中でもやはりジャズ系ミュージシャンとの共演は多く、ジェリー・マリガン、メル・トーメ、ペギー・リー、リー・リトナー、クインシー・ジョーンズ、アル・ジャロウなどがいます。
 その他、ロック・ポップス系のアーティストとしては、ジェームス・テイラーセルジオ・メンデスポール・サイモンとも共演しており、特にビリー・ジョエルとは「52nd Street」や「ナイロン・カーテン The Nylon Curtain」、二つの傑作アルバムに編曲者として参加しています。

<An Evening with Dave Grusin>
 2010年10月26日彼の集大成ともいえるライブが行われました。演奏は、75人編成のヘンリー・マンシーニ・オーケストラ。彼はピアノを弾いたり、指揮をしたりと大忙しです。豪華なゲスト・ミュージシャンを迎えて、素晴らし演奏が展開されました。そこで演奏されたのは、以下の曲でした。

 「クール Cool」は、アメリカを代表する作曲家レナード・バーンスタイン作曲のミュージカル「ウエストサイド物語」から。この演奏には、名盤「クリスタル・サイレンス」で有名なヴァイブ奏者のゲイリー・バートンGary Burtonがゲストとして参加。オリジナル以上にクールな演奏を聞かせてくれます。
 「マリア Maria」は、同じく「ウエストサイド物語」から。こちらには、ジョン・セカーダ Jon Secada が、ヴォーカルで参加しています。
 「Makin' Whoopee」は、映画「恋のゆくえ ファビュラス・ベイカーボーイズ」の主題歌です。この曲を歌うのは、今や大御所的存在の女性ヴォーカリスト、パティ・オースチン Patti Austin です。
 「アイ・フィール・プリティ I Feel Pretty」もまた「ウエストサイド物語」からの一曲。この曲にはフルート奏者のネストール・トレス Nestor Torresが参加しています。
 「ポーギー&ベス・メドレー Porgy & Bess Medley」では、ジャズとクラシックの融合を実現させたアメリカを代表する作曲家ジョージ・ガーシュインの名曲「Bess you is My Woman」と「I Love You,Porgy」が演奏されています。彼はガーシュインに捧げるアルバム「The Gershwin Connectin」(1991年)を発表しています。
 「It Might Be You」は、映画「トッツィー」の主題歌。この曲もパティー・オースチンが歌っています。
 「黄昏メドレー "On Golden Pond "Medley」は、彼の代表作のひとつ映画「黄昏」の音楽をメドレーで演奏したもの。ヘンリー・フォンダの遺作であり、キャサリン・ヘップバーンとともにアカデミー主演男優賞、女優賞を獲得した感動の名作が、音楽と共によみがえってきます。
 「Somewhere」も、「ウエストサイド物語」からの代表曲で、ここではパティ・オースチンとジョン・セカーダがデュエットしています。
 「ムーン・リバー Moon River」は、ご存知ヘンリー・マンシーニの代表作。この曲には、ヘンリー・マンシーニの娘モニカ・マンシーニがヴォーカルで参加しています。
 「アメリカ America」も、「ウエストサイド物語」からの曲。この曲にはトランペット奏者のアルトゥーロ・サンドヴァル Arturo Sandoval が参加。パワフルな演奏を聞かせています。なお、「ウエストサイド物語」の曲については、彼が1997年に発表したアルバム「Dave Gruisin Presents : West Side Story」において、彼が編曲した曲がもとになっています。 

<参考>
「サントラ音盤大図鑑」
The Illustreted Guide To Original Sound Track Discs
(編集)岩橋順一郎
1999年 洋泉社

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