72時間の出会いと別れに愛をこめて!


「ドキュメント72時間」(NHK)
<I LOVE 「ドキュメント72時間」>
 「ドキュメント72時間」を見ながらビールを飲んだり、涙を流したり、クスクス笑ったりしながら週末を迎える。そして、年末に「朝までドキュメント72時間」を見て一年の終わりをしみじみと感じる。僕にとって、「ドキュメント72時間」はそんななくてなならない存在です。時には、つまらない回もあるけれど、それはそれで楽しめる・・・そこまで愛せる番組になりました。
 毎回、場所も、登場人物も、ナレーターもディレクターも違うのに、なぜか心落ち着けるのは何故でしょうか?もしかすると、共通のテーマ曲である松崎ナオさんの「川べりの家、」のおかげもあるでしょう。(彼女によると、この曲は自分が実際に川べりの家に引っ越したいと思いながら歌っていたら、すぐにできてしまったといいます。名曲らしいメイキングですね)
 でも、それ以上に、このシリーズには全体を通しての何か共通する魅力がある気がします。それは何でしょうか?
 ここで改めて、この番組の魅力について考えてみようと思います。

<「ドキュメント72時間」>
 「ドキュメント72時間」(NHK)とは、日本各地の「人が集まる場所」に、より多く人が集まる時期を狙って、72時間に渡り撮影とインタビューを行うという企画です。ただその場所は、単に人が多くの集まる場所では不十分で、「他にない珍しい場所」であることが重要です。例えば、こんな感じです。

世界最大級の大仏が見下ろす巨大な霊園(「大仏を見上げる霊園で」)
大学生が自治を行う今や日本には失われつつある学生寮(「北の大地の学生寮」)
一日10人もの子供が生まれる産婦人科の病院(出産ラッシュ!日本一の産婦人科」)
眉毛のような「八の字」の模様をもつ猫が住む商店街(「ウワサの猫と商店街」)
朝8時から営業を始める立ち飲みのおでん屋さん(「赤羽おせん屋エレジー」)
小学生から大人までが集まる下町の駄菓子屋(「駄菓子屋 子どもたちの小さな宇宙」)
屋外で食べるしかない港が見えるうどん・そばの自販機(「秋田 真冬の自販機の前で」)
3日で2500もの落し物が集まる名古屋駅の落し物センター(「名古屋地下街・聖なる夜の忘れ物」)
沖縄の歴史を見てきた海が見えるドライブインレストラン(「沖縄 追憶のアメリカンドライブイン」)

 上記の場所は、2015年年末に放送された「朝までドキュメント72時間」で視聴者人気投票トップ9に選ばれた回の撮影場所です。(2015年のベスト9ということ)今回、改めてこの代表作9作を見て「日本人とドキュンメント72時間」というテーマでいろいろと考えてみました。
 2015年に放送された43作品の中で、なぜ上記の9作品が選ばれたのか?より多く視聴者が共感を覚えるのはどの部分なのか?そこには、いくつかの日本人ならではの感性に訴える部分があることに気が付きました。

<日本人と味>
 高級料理ではなくB級グルメですらない味にこだわり、その記憶を求めて集まる人々を撮った作品は、このシリーズの重要なジャンルかもしれません。「自販機のうどん」、「沖縄のスープ」、「赤羽のおでん」、「神戸の駄菓子」はベスト9入りし、他にも2015年制作の中には「久留米のとんこつラーメン」(ここはうちの奥さんがお父さんに昔連れて行ってもらったことがあるそうです!)もありました。
 値段が高い安いにかかわらず、味の記憶に引き寄せられる人々に共感できるのは日本人ならではの感性かもしれません。日本人の味へのこだわりは、「地方」それぞれにもあり、それが意外性のある番組を生み出す原因にもなっています。
 ちなみに「味」関連の番組としては、過去に「鶯谷の真夜中の大衆食堂」「木更津の大盛弁当屋」「アメ横地下のマーケット」「新宿2丁目の深夜食堂」「大阪の串カツ店」「大久保の八百屋さん」「札幌すすきのの24時間お握り屋」などがありました。

<日本人と物>
 大昔から八百万の神をあがめてきた日本人は、すべての物に神の存在を感じることができる珍しい人種です。だからこそ、このシリーズの重要なテーマとして、「物」へのこだわりをあげることができそうです。その象徴的な作品に、「名古屋の忘れ物センター」があります。物へのこだわりが、それぞれの日本人にあるからこそ、ほとんどの人が「落し物」を盗むことなく届けてくれて、その多くが落し主のもとにもどるのです。
 「吹雪の中の自販機」に愛を感じてしまうのも日本人ならではの感性。
 「猫のハチ」に至っては、人間扱いどころか神様扱いしちゃってます。
 他にも、「中古車」、「屋久島の巨木」、「レトロ自販機が並ぶドライブイン」、「秋葉原の古書店街」、「写真プリント店」、「トランクルーム」、「ロケット(イプシロン)」、「渋谷駅舎」・・・などがありました。

<日本人と絆>
 人々の交流の場が失われつつある現代社会だからこそ、人々は心の絆を確認するための場所を求めています。「家族」や「地域」の絆を急激に失いつつある日本では、その場所はいよいよ重要な意味を持つのかもしれません。このシリーズの中でも特に多くの人に感動をもたらし、勇気を与えてくれるジャンルはこのタイプの作品でしょう。「寂しい日本人」にとって、こうした心の交流の場は、テレビでしか見られない貴重な存在になりつつあるのかもしれません。だからこそ、そんな心の交流の場に共感できるのでしょうから。ただし、この番組では、共感が困難な心の交流の場も登場します。でも、そんな違和感を感じる場所でさえ、この番組で見てみると、居心地が良さそうに見えてしまうのですから不思議です。それもまた、このシリーズの面白さの秘密の一つだと思います。
 年に一度、お盆にだけ親族が集まる巨大霊園
 かつては日本中にあった貴重な青春時代を過ごす学生寮
 かつてはどの街にもあった子供たちが集まる駄菓子屋
 他にも、「都心のボウリング場」、「神戸・三宮駅前のパイ山」、「花見の名所(多摩川、上野公園)」、「六本木のケバブ屋」、「海辺のコンテナ・カラオケ」、「日立市の塙山キャバレー」、「下町のダンスホール」、「フィリピンパブ」、「巨大シェアハウス」、「起業家コンテスト会場」、「浅草の深夜営業喫茶店」、「高円寺の銭湯」、「大阪ミナミのアングラ酒場」、「ネット生中継」、「24時間ファミレス」、「地方競馬場」、「東日本大震災の避難所」・・・

<日本人と眺め>
 「味」と「人」だけでなく日本人がこだわる存在として「風景」があります。ただ単に懐かしい味の店だけでは、人が集まるとは限りません。その店には、そこでしか見られない眺めや雰囲気があるからこそ、多くの人が集まるのです。「海」や「山」が見える風景を日本人は誰もが愛する傾向があります。これもまたこの番組ならではの「場所」でしょう。
 海が見える「秋田の自販機」、「沖縄のドライブインレストラン」の他にも、「高尾山」、「屋久島」、「桜の名所」、「最北のバス停」、「恐山」、「湘南海岸」、「原爆ドーム」、「富士山」、「瀬戸内海」、「鳥取砂丘」、「湯沢町のスキー場」、「神宮外苑花火大会」などが過去に登場しています。

<別れと出会いの場>
 この番組の中でも、最も視聴者を感動させる作品が多いのは、やはりこのジャンルの作品でしょう。「生」と「死」という重要な別れの場である「病院」や「お墓」、それに飛行場やバス乗り場、船の上などもまた大切な別れと出会いの場として、多くのドラマを生み出しています。
 「大仏が見下ろす巨大霊園」と「熊本の産婦人科病院」は、その代表的場所です。その他にも過去には、「三宮駅前のパイ山広場」、「関西空港」、「フェリーの船上にて」、「恐山」、「動物病院」、「大病院のコンビニ」、「羽田空港」、「新千歳空港」、「お見合い会場」、「閉鎖される工場にて」、「救急病院」、「谷中霊園」、「東京駅のバスターミナル」、「タクシーの車内にて(東京、札幌)」・・・数多くの作品がありました。

 2015年には初めて「海外編」が制作され、ニューヨークのコインランドリーや大連のスーパーに集まる人々が撮影されました。ただし、期待したほど面白くならなかった気がします。それは、取材班の力量の問題だったのか?取材対象となる人選に問題があったのか?もともと数多く打たないと駄目だからなのか?外国人の感性を日本人である我々は理解しにくいからなのか?いろいろと考えられる気がします。
 でもやはりポイントは日本人として共感しずらいことにあったのかもしれません。日本人の記憶の奥に残る懐かしい何かを感じさせてくれる作品であることを、どこかで我々は求めているのではないでしょうか。
「日本には、いろいろな場所があり、いろいろな人がいるけど、そこには必ず心優しき素敵な人がいる」
 確かにこの番組では編集によって、様々な被写体の中から素敵な人たちを選んで放送しているのでしょう。でも、わずか72時間の収録で、あそこまで物語性のある人々が見つかるなんて・・・それだけで凄いと思います。72時間でそのことを確認できるからこそ、感動し驚かされるのではないでしょうか。

 では、今後、どんな場所で撮影すれば傑作が撮れるのか?もちろんどんなに良さそうな場所を選んでも、どんなに良い時期に撮影が行えても、そこに魅了的な人物が現れなければ番組は成り立ちません。だからこそ、この番組は何が起きるかわからないスリルに満ちていて、当たりが出た時の感動もまた大きいのです。
 以前から気になっていたのですが、このシリーズで、撮影は行われたものの放送されなかったものは、どれだけあるのでしょう?どのくらいの確率で面白い番組として成立しているのでしょう?実は、72時間といわず、もっと長く撮影を行った回もあるとか?そんな裏話も聞きたいような聞きたいですね。非常に気になっています。

<「入りにくい居酒屋」>
 海外編だって、切り口を変えると素晴らしい作品になる可能性もまだまだあるはず。同じNHKの「入りにくい居酒屋」は、「味」と「絆」にこだわることで撮られた「ドキュメント72時間」の海外編であり姉妹編ともいえます。たぶんその収録時間は、36時間ぐらいでしょうか?(「孤独のグルメ」と「ドキュメント72時間」の融合ともいえます)
 女性陣のナレーターの魅力もありますが、それ以上に毎回店のインパクトが強いおかげで、この番組もなかなかに楽しめます。おかげで僕は、最近、毎週欠かさずこの番組をビール片手に見ています。

「ドキュメント72時間」
NHK制作
2006年第1シリーズ放送開始(特別番組枠で本数は年10数本)
2007年で放送終了
2012年第2シリーズ放送開始(ただし、2012年は4本のみ)
2013年(4月から12月まで毎週放送)
2014年、2015年は1月から12月までほぼ通年放送

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