「ドリーム・ガールズ Dreamgirls 」 2006年

- ビヨンセ・ノウルズ、ジェニファー・ハドソン、ジェイミー・フォックス、エディー・マーフィー -

<モータウンと「ドリームガールズ」>
 映画「ドリームガールズ」は、アメリカで初めて黒人の手によって立ち上がられた巨大企業にまで成長したモータウンとそのトップ・スター、シュープリームスの物語を下敷きにした作品です。元々がブロードウェイなどで上演されたミュージカルの映画化だったこともあり、映画版もミュージカルと芝居が組み合わされた作りになっています。(実はこのミュージカルは、十年ぐらい前に日本に来ていて、僕はそれを東京で見ました。残念ながら、ほとんど忘れてしまったのですが・・・)
 このサイトではすでに、マーサ&ザ・ヴァンデラスホランド- ドジャー-ホランドスティービー・ワンダーマイケル・ジャクソンテンプテーションズダイアナ・ロス(シュープリームス)、マーヴィン・ゲイを取り上げているので、それらを読んでいただければ「ドリームガールズ」を二倍は楽しめるのではないかと思います。ここでは、モータウンの物語とレインボー・レコードの物語を比較しながら「ドリームガールズ」の魅力に迫ってみたいと思います。

<モータウンのアーティストたちとの比較>
 この映画の登場人物たちは、モータウンのアーティストたちの人物像を組み合わせてできています。それぞれの登場人物と現実のアーティストたちを比べて見ましょう。
(カーティス・テイラーJr)
 ジェイミー・フォックス演じる主人公のひとりカーティスは、当然モータウンの社長、創設者のベリー・ゴーディーのことです。それにしても、この二人は顔までそっくりです。良くも悪くも、この人がもっとも本人に近く描かれているようです。
 映画の中で、キング牧師の「私には夢がある・・・」のレコードの話がでてきます。これは実際にあった話で、彼はモータウン初期の頃、このレコードでかなりの利益を得ています。当時のモータウンは、黒人による黒人のための黒人音楽のレコード会社として、人種差別をなくすため積極的に活動する企業としても知られていました。ただし、白人を逆差別するということはなく、社内には白人も多くいました。モータウンではいち早く人種の壁がとりはずされていたわけです。ただし、しだいにベリー・ゴーディーによる利益追求の姿勢が目立つようになると、人種差別がないのは利益を追求するために必要だっただけのことと思われることにもなるのですが・・・。
 後半に描かれるベリー・ゴーディーの映画に対する異常なこだわりも、事実にのっとっています。ベリー・ゴーディーは音楽界での成功に満足すると、次なる目標としてハリウッドの制覇をもくろみ、本社をデトロイトからLAに移してしまいました。そのおかげで、多くのミュージシャンがモータウンを離れることになりました。
 ダイアナ・ロス主演の映画「マホガニー物語」は、当初イギリスの巨匠トニー・リチャードソンが監督をしていましたが、ベリー・ゴーディーの度重なる口出しに起こったリチャードソンが監督を降りてしまったそうです。ただし、映画「クレオパトラ」のモデルとなった黒人ミュージカル映画「ウィズ」でダイアナ・ロスが子供のはずの主人公ドロシーを演じることになったのは、ダイアナ・ロス自身の希望だったそうで、ベリー・ゴーディーは反対だったのだそうです。(映画とは逆)

(ディーナ・ジョーンズ)
 ビヨンセ・ノウルズ演じるこの映画の主人公は、当然ダイアナ・ロスです。ただし、ダイアナ・ロスに関しては、この映画まったく事実とは違う描き方をしています。もちろん、この映画はドキュメンタリーでも、伝記映画でもないので、ダイアナに似ている必要などまったくないのですが、実際はもう一人の主役であるエフィーのわがままな性格こそダイアナそのものなのです。最悪の性格の持ち主はダイアナで、それでいて彼女は独立後も活躍を続け、逆に彼女に追い出されたフローレンス・バラード(エフィー)は若くして惨めな死を迎えることになります。なんと現実の理不尽なことか!
 ディーナは最初はヴォーカリストとして、それほど魅力的な存在ではなく、最後に実力を発揮するという設定でしたが、確かにビヨンセの歌は後半になればなるほどパワフルになり、魅力的になってきた気がします。そのあたりは、さすがは一流の歌手というところでしょう。しかし、才色兼備とは、彼女のこと。エフィーじゃなくても嫌になるかもしれません。

(ジェームス・アーリー)
 エディー・マーフィー演じるジェームス・アーリーは、基本的にはモータウン最初の男性ヴォーカリスト、マーヴ・ジョンソンがモデルといえそうです。でも彼もまたモータウンのいろいろな人物像が混ぜ合わされた存在です。
 シュープリームスは当初、知り合いだったテンプテーションズが採用される際、彼らの妹分として契約してもらっています。その点では、エディ・ケンドリックスもモデルのひとりでしょう。(ルックスもかなり近い)後にヴェトナム反戦を訴えて、社会的な歌を出そうとしてカーティスに反対されるところでは、歴史的名盤「What's Goin' On」を発表したマーヴィン・ゲイがモデルになっています。彼がトレード・マークにしていたニット帽をかぶった姿も登場しています。女たらしでありながら政治にも関心をもつあたりは、ちょっと矛盾している感じですが実際マーヴィンはそんな矛盾な人物像でした。(女性問題を抱えるヒーローは他にも多く、サム・クックマーティン・ルーサー・キング牧師など様々です)
 それにしてもエディー・マーフィーはたまに、こうしてシリアスな映画に出た方がいいんじゃないでしょうか。コメディー映画ばかりで、こっちも見飽きた気がします。

(C・C・ホワイト)
 キース・ロビンソンが演じていたエフィーの弟であり作曲家のC・Cは、H-D-Hことエディー・ホランド、ラモン・ドジャー、ブライアン・ホランドをモデルにしているのでしょう。モータウンのナンバー1・ソングライター・チームだったH-D-Hは、どんどんポップ路線、ディスコ路線へと向かうモータウンの方向性に嫌気がさし、再三の引止め工作にも関わらず、モータウンから独立し新レーベルを立ち上げました。結局彼らはモータウンのような成功を収めることはできませんでしたが、それもまたモータウンからの圧力のせいだったのかも?
 ちなみにモータウンの場合、他にもいいろなソングライター・チームがあり、彼らは決められたアーティストに曲を提供するのではなく、常にコンペを行ないがら競い合っていたということです。ヒットを連発していた影には、やはり社内でも厳しい闘いがあったということでしょう。
 C・C・ホワイトはエフィー(ジェニファー・ハドソン)の弟という設定でしたが、ベリー・ゴーディーにも姉がいて、やり手のビジネスウーマンとしてレコード会社の社長になっています。そして、ベリー・ゴーディー自身も、初めは作曲家としてスタートし姉のおかげで仕事をもらっていました。したがって、この役はベリー・ゴーディーでもあるわけです。

(エフィー・ホワイト)
 ジェニファー・ハドソン演じるエフィーこそ、この映画の主人公であり、モータウンのすべてを象徴する存在です。したがって、彼女の役は多くの人物像から成り立っています。
先ず最初にシュープリームスの創設者でもあり、非業の死を迎えることになったフローレンス・バラードがあげられます。ベリー・ゴーディーがダイアナ・ロスをシュープリームスのメイン・ヴォーカルに抜擢すると決めたことから、彼女は栄光の座を追われ、精神的不調からついにはメンバーからはずされてしまいました。その経緯をマスコミに知られたくないモータウンは彼女をモータウンの歴史からも消し去ろうとし、当然ソロ活動にも圧力がかけられることになります。この圧力から逃れることができなかった彼女は精神的に追い詰められ、アルコールや薬物に走ることになります。そして、36歳という若さでこの世を去ることになりました。ある意味、この映画でも現実は隠されているわけです。
 この映画で秘書として雇われてモータウンに入り、その後エフィーに変わってドリームスに入る女の子がいました。これは同じように秘書として雇われたものの、その後コーラスで歌うようになり、ついにはモータウン最初のスーパー・スターとなった女性ヴォーカリスト、マーサ・リーヴスのことでしょう。彼女こそ、初期モータウンにおける最も優れたヴォーカリストでした。マーサ&ザ・ヴァンデラスは、次々にヒットを飛ばし、アメリカを代表するスターに成りつつありました。しかし、ベリー・ゴーディーはシュープリームスの方が、これからのアメリカ人(白人)には受けると判断。マーサを切り捨てました。そういうわけで、マーサ・リーヴスもまたエフィーなわけです。
 モータウンにとって初めてのナンバー1ヒットとなった「マイ・ガイ」を歌った歌手、メリー・ウェルズもまたエフィーです。モータウンで最初のスターということもあったのか、彼女のわがままはひどいもので、録音はさぼる、コンサートには遅れると常にモータウンの問題児だったそうです。彼女が録音をさぼったおかげで、ある日マーサ・リーヴスに録音のチャンスが訪れ、そこからマーサ&ザ・ヴァンデラスが生まれたともいわれています。そして、彼女の風貌がまたエフィーことジェニファー・ハドソンにそっくりです。見た目のエフィーは文句なしにメリー・ウェルズでしょう。ちなみに、彼女は「マイ・ガイ」をヒットさせてすぐモータウンから独立しましたが、まったくヒットに恵まれず、その結果をみた多くのアーティストたちはその後モータウンからの独立を考えなくなったといわれています。
 エフィーが妊娠していることを隠していたというお話がありました。この部分はもしかすると、モータウンの副社長でもあったミラクルズのスモーキー・ロビンソン夫妻のことかもしれません。彼女の妻クローデッドは実は同じミラクルズのメンバーでしたが、コンサート・ツアー中に何度も妊娠し、それを隠していたのです。理由は、彼女が妊娠していることがわかれば、彼女自身だけでなくスモーキーもツアーからはずされるかもしれないと心配したからでした。そんな妻のことを心配しながら、スモーキーは歌い続けていたわけです。後に、あのボブ・ディランが、スモーキー・ロビンソンこそ世界一の作詞家だと絶賛しましたが、その美しい詞の陰には、そんな妻への思いがこめられていたのかもしれません。
 さらにまだいます。モータウンと契約していたもの、若手のスターたちに先を越され、思うようなプッシュをしてもらえず、ついに自ら別のレコード会社へと移籍したアーティストの中でも唯一、後に大成功をおさめたアーティストがいます。グラディス・ナイト&ザ・ピップスです。彼らはモータウンでもそこそこのヒットは出し、その実力は認められていましたが、マーサ・リーヴス・タイプのソウルフルなスタイルがモータウン向けではないこ考えられたのか、ほったらかしにされていました。そんな彼らにブッダ・レコードからの誘いがあり、もともとモータウンとの契約に反対していたグラディス自らが移籍を望んだこともあり、モータウンを去る決断をしました。彼女のその決断は見事に吉と出て、その彼らは「夜汽車よジョージアへ」という大ヒットにより、夢の大スターになることができたのです。エフィーの独立は、そんなグラディスの活躍を思わせます。
 ジェニファー・ハドソンは、この映画の演技でアカデミー助演女優賞をとりましたが、歌手としてそんなに凄いかといえば、どうでしょうか?熱唱ばかりだったので、圧倒する力は確かにありましたが、それだけなら他にもアメリカにはいくらでもいるように思えます。これ一発で終わらなければ良いのですが。

(ダサダサの白人歌手)
 モータウンのヒット曲をギター片手に笑えるほどソフトに歌っていた白人のアイドル歌手。あれはまさにパット・ブーンです。当時は、ああやって黒人のR&Bを白人向けにリメイク・ヒットさせることで人気を得る白人アイドルが多く、その代表格がパット・ブーンだったわけです。

<夢の映画>
 「現実とは異なる幸福な夢」を見せてくれるのが「映画」の使命なのだとしたら、「ドリーム・ガールズ」は「夢見る女の子」の物語であると同時に、確かに観客に「幸福な夢を見せてくれる映画」でもあります。しかし、モータウンにおける実際の物語のことを思うと、「夢だからこそ描けた出来すぎの物語」でもあるようです。
 そうはいっても、ダイアナ・ロスがどんなにわがままで嫌な奴だろうが、ベリー・ゴーディーがいかにお金の亡者だろうが、シュープリームスの歌を初めとするモータウンの歌の数々がその魅力を失うことはありません。もしかすると、魅力的な歌というものは、歌い手が人間的に悪い奴の方が、かえって輝いて聞こえることもあるかもしれません。そんなことさえ考えさせられます。 
 かつて、伝説のブルースマンであるロバート・ジョンソンは悪魔に魂を売り渡し、その代わりに誰にも出来なかったギターのテクニックを手に入れたといわれました。残念ながら、悪魔に近い人間ほど、人間のサガを魅力的に歌えるものなのかもしれません。それはちょっと不公平にも思えますが、もしかすると神様は彼らの魂を救うために、その才能を与えてくれたのかもしれない、そうも思えます。神様のバランス感覚は我々の想像を超えているのかもしれませんから。

「ドリーム・ガールズ Dreamgirls」 2006年(日本公開2007年)
(監)(脚)ビル・コンドン Bill Condon
(製)ローレンス・マーク Laurence Mark
(製総)パトリシア・ウィッチャー Patricia Whitcher
(衣装)シャレン・デイヴィス Sharen Davis
(編集)ヴァージニア・カッツ Virginia Katz
(振付)ファティマ・ロビンソン Fatima Robinson
(音楽)ヘンリー・クリーガー Henry Krieger
(作詞)トム・アイン Tom Eyen
(出) ジェイミー・フォックス Jamie Foxx
    ビヨンセ・ノウルズ Beyonce
    ジェニファー・ハドソン Jennifer Hudson
    エディー・マーフィー Eddie Murphy
    ダニー・グローヴァー Danny Glover

20世紀映画劇場へ   トップページへ