伝説の砂の惑星へと向かった人々

映画「DUNE/デューン 砂の惑星」
- ドゥニ・ヴィルヌーヴ Denis Villeneuve -

小説「砂の惑星」
- フランク・ハーバート Frank Herbert -
<ついに公開!>
 1965年に出版された小説「砂の惑星」が映画化されるまで56年が経ちました。様々な映画化の試みことごとく失敗。「呪われた企画」ともいわれましたが、ついに2020年に公開されることになるものの新型コロナの蔓延により、ここでもまた公開にストップが!僕としては、去年の年末最大の楽しみがこの映画の公開だっただけにショックでした。
 そして、2021年映画館で、ついにこの作品を見ることができました。ここまで思いが募ると、逆に出来栄えが心配になりましたが杞憂でした。56年待った甲斐がありました。(僕が原作を読んだのは70年代半ばですが・・・)
 ということで、このページでは、フランク・ハーバートによる原作の小説「砂の惑星」の誕生から、映画化の挫折とデビッド・リンチの失敗。そして、ヴィルヌーヴ監督による最新作をご紹介させていただきます。
 まずは、ヒッピー・ムーブメントの流れによって、ブレイクすることになった原作小説の誕生から始めます。

<小説「砂の惑星 DUNE」>
 この映画の原作となったのは、1965年にアメリカのSF作家フランク・ハーバートが発表した同名のSF小説です。その作品は分厚く、一冊ではなく上中下の3冊から構成されていました。その他にも、続編が次々にライフワークとして発表されています。
「デューン/砂の惑星」(1965年)の他に、「デューン/砂漠の救世主」(1969年)、「デューン/砂丘の子供たち」(1976年)、「デューン/砂漠の神皇帝」(1981年)、「デューン/砂漠の異端者」(1984年)、「デューン/砂丘の大聖堂」(1985年)
 まだ続く予定もあったようですが、1986年に著者が亡くなったため、6部作でシリーズは終了しました。
(2000年以降、息子のブライアン・ハーバートがケヴィン・J・アンダーソンと共著で「砂の惑星」のスピンオフ的な「デューンへの道」シリーズが書かれています)
 文学の世界では、初めて本格的に「エコロジー」の概念を持ちみ、惑星丸ごとの壮大なスケールで生命体系を構築し、さらにそこに新しい宗教・政治体系をも作り上げたことで、この小説はそれまでにないタイプの文学作品として高い評価を受けました。歴代SF小説のベスト10を選ぶと必ず、そこにランクインする永遠不滅の傑作です。
 さらに、1970年代この小説は、作品内に登場するメランジという覚醒作用(予知能力を覚醒させる)のある物質のせいもあり、ヒッピー・ムーブメントを象徴する文学のひとつと言われることになりました。
(ちなみ、「指輪物語」のペーパーバックも同じようにこの時代にヒッピー・ムーブメントの影響によってブレイクしました)

<フランク・ハーバート>
 原作者のフランク・ハーバート Frank Herbert は、1920年10月8日ワシントン州タコマで生まれました。
 少年時代は自然の中で暮らす家族との生活で大自然との共生について学びながら、作家を目指すことを決意。しかし、大学には進学せず、第二次世界大戦にはカメラマンとして従軍。戦後、大学に進学するも好きな科目しか取らず、結局退学することになります。しかし、作家になる夢は捨てずに、新聞社に就職し、政治家のスピーチライターなどの仕事の傍ら作家活動を始めます。(これらの体験が彼の作品の背景にあります)
 生態学、優生学、心理学、政治学、生命科学などを盛り込んだ作品を、1952年ころからSF雑誌に発表し始めた彼は、1956年に初の長編小説「二十一世紀潜水艦」を発表。この作品で、いきなり国際幻想文学賞を受賞し、高い評価を得ました。しかし、2作目はプレッシャーもあり、なかなか書けなかったようです。
 ある時、彼はオレゴン州フローレンスの砂丘についての記事を書くことになり、そのために砂丘や砂漠について調べ始めました。すると、彼はその場所の魅力にはまり、記事そっちのけで研究を開始。その時の研究と体験が、「砂の惑星」の基礎となりました。その場所、オレゴン・デューンは生態系について学べるスポットとして有名な観光スポットになっています。ちなみにその砂丘の大きさは鳥取砂丘の20倍とのこと。と言っても、今回映画の撮影は、ヨルダンなど中東の本物の砂漠で行われているので、もっともっと大きなスケールです!
<小説「砂の惑星」出版>
 こうして、誕生した小説「砂の惑星」は、雑誌に連載されて発表されたものの、その長さが異例だったこともあり、単行本としての出版には、困難が伴いました。何せ彼は当時まだほとんど新人の作家だったのです。そんな彼が書いた分厚い小説を出版する勇気ある出版社はなかなか現れず、10社以上断られ後にやっと出版が実現しました。
 この時期、歴史大河小説と呼べるようなSF小説は、巨匠アイザック・アシモフが書いたローマ帝国の歴史に基づく歴史大河小説「銀河帝国の興亡」ぐらいしかありませんでした。それに対し、1961年発表のロバート・A・ハインラインによる「異星の客」とハーバートの「砂の惑星」は、想像力によって一つの宇宙の歴史をまるごと紡ぎ出した歴史大河小説として新たなジャンルを切り開いたと言えます。
 それまでのSFにおける定番的なスペース・オペラとはまったく異なる「サイエンス・フィクション」作品の誕生でした。ただし、そうした作品が持つ膨大な情報量を従来のSFファンが理解してくれるのか?そこが問題でしたが、幸いなことに、この作品が世に出た1965年以降社会状況は大きく変わろうとしていました。
<価値観革命の年>
 1965年はアメリカにとって、価値観が大きく変わる変革の年でもありました。公民権運動の激化(キング牧師らによる「セルマへの行進」、マルコムXの暗殺事件)、ベトナム戦争の激化と反戦運動の盛り上がり、ケン・キージーによるLSDの実験などサイケデリック・ムーブメントの広がりは、音楽、ファッションなど若者のライフスタイルに大きな影響を与えていました。世代間の対立が深まり、すべての価値観が大きく変わろうとしていました。
 そんな1960年代に登場したカウンター・カルチャー世代の若者たちが、ハインラインの「異星の客」やトールキンの「指輪物語」を熱狂的に支持したように、「砂の惑星」もまた圧倒的なな支持を得ることになります。
 生態系(エコロジー)の問題をいち早く扱ったことでも知られるこの作品は、さらにその先にあるSDG’s(持続化可能な社会を目指す活動)の先駆的な作品でもありました。「循環」はそのキーワードでもあり、この作品の中に何度も現れることになります。
 体内の水をも無駄なく循環させるフレメンの「スティル・スーツ」、サンドウォームを中心とする惑星アラキスの生態系は、まさにその象徴です。原作の小説シリーズでも、この映画で描かれた時代の後、アラキスは環境が改良させれて一度は「緑の惑星」となりますが、再び「砂の惑星」に戻ることが描かれます。物語全体の構造もまた「循環」するようです。(「風の谷のナウシカ」が大きな影響を受けていることは明らかです)

<幻の映画「砂の惑星」>
 「砂の惑星」は、その世界観と現代的なテーマから映画化の企画は早くからあったようです。しかし、そのスケールの大きさから映画化には巨額の製作費が必要なことは明らかでした。そのため、実際に映画化の企画が動くには紆余曲折があったようです。しかし、「スター・ウォーズ」の世界的大ヒットにより、映画業界ではSF映画の一大ブームが起きつつあり、それが企画の後押しをしました。
 こうして元祖カルト映画「エル・トポ」(1971年)の監督アレハンドロ・ホドロフスキーが「砂の惑星」の映画化に本格的に取り組み始めることになります。
 大ヒットしたカルト映画の巨匠として、巨額の費用をかけることが可能になったホドロフスキーは、芸術家としての才能のすべてをかけて、壮大な世界を作り上げようともくろみました。  こうして始まった壮大な企画は、実現に向けてスポンサーも現れ、あのサルバドール・ダリとともに企画の具体化が進みました。そのおかげで、スタッフには超のつく大物たちに白羽の矢が立てられることになり、ダン・オバノンの脚本とギーガー、メビウスなど、大ヒットしたリドリー・スコットのヒット作「エイリアン」のスタッフが参加すると言われ。それにオーソン・ウェルズグロリア・スワンソン、ダリらが出演するという噂など、いろいろな興味深い計画がありました。しかし、あまりにスケールが大き過ぎる計画にプロデューサーが恐れをなして逃げてしまいます。正直、僕もこのまま行っても、この企画は上手くいかなかったような気がします。
 その企画が失敗に終わった顛末は、2013年にドキュメンタリー映画「ホドロフスキーのDUNE」として公開されています。

「ホドロフスキーのDUNE  JODOROWSKY'S DUNE」 2013年 
(監)(製)フランク・パヴィッチ
(製)スティーブン・スカルラータ(製総)ドナルド・ローゼンフェルド(撮)デヴィッド・カバーロ
(出)アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セイドゥー、クリス・フォス、H・R・ギーガー、ブロンティス・ホドロフスキー 
「私にとって映画はビジネスである前に芸術だ。・・・
私にとって「DUNE」は神の降臨だ。芸術と映画の神の降臨だ。新しい視点から精神を解放させるものだ」

アレハンドロ・ホドロフスキー
「傑作を生み出すには狂気のかけらが必要だ。ピンクフロイド、ダリ、オーソン・ウェルズもだ。「DUNE」の狂気は激しすぎた」
ミシェル・セイドゥ―(「DUNE」プロデューサー)

「DUNE」のスタッフには「芸術家の魂」を持つ者しか選ばれませんでした。そのため特殊効果の第一人者ダグラス・トランブルも不合格!
<スタッフ>
メビウス(デザイン・絵コンテ)ダン・オバノン(特殊効果)クリス・フォス(宇宙船などのデザイン)H・R・ギーガー(ハルコネン関連のデザイン)
ピンクフロイド(音楽)マグマ(音楽)らが選ばれました。
<出演予定者>
デヴィッド・キャラダイン(レト公爵)、ブロンティス・ホドロフスキー(ポール)、サルバドール・ダリ(銀河帝国皇帝)、オーソン・ウェルズ(ハルコネン)
ミック・ジャガー(フェイド)、ウド・キア(メンタート)
<小説との違い>
 ラストにポール・アトレイデが死に、彼の魂が他のキャラクターと一体化。「私はポール」と語り出す。(スパルタカスのラストへのオマージュ?)
 ポールの魂は人々と一体化しただけではなく銀河の彼方へと飛んで行き、宇宙そのものと一体化する。
<自由の70年代でも不可能だった作品>
 70年代は急激な世代交代が実現し、コッポラ、ルーカス、スピルバーグらが大作をいきなり撮れる時代でした。
 そんな自由な時代でも、この映画は実現できませんでした。それだけ危険で夢のような作品だったということでもあります。
 しかし、この映画のために作られた分厚いホドロフスキーによる絵コンテ集はその後の映画に大きな影響を与えることになりました。
「スター・ウォーズ」、「ターミネーター」、「レイダーズ」、「プロメテウス」、「ブレード・ランナー」「風の谷のナウシカ」「トレマーズ」・・・
「エイリアン」については、スタッフにクリス・フォス、H・R・ギーガー、ダン・オバノンが参加。デザインにも「DUNE」の影響があります。
その後のSF映画にとって、多くの引用を生み出す「聖書」のような存在になったと言えそうです。

 それでも、80年代はSF映画ならお金をかけてもよい!という映画界の流れがあり、彼の企画を受け継ぐ形で、より具体性があり、実現性のある企画として、デヴィッド・リンチ監督による映画化が実現します。
 デヴィッド・リンチは、ホドロフスキーの「エル・トポ」と同じように「イレイザーヘッド」というカルト・ムービーでその名を知られ、「エレファントマン」という娯楽作品でもないカルト作品が間違って大ヒットしてしまったことで、超大作となる「砂の惑星」の映画化を任されることになりました。しかし、大作映画など縁がなかったインディーズ出身のデヴィッド・リンチにいきなりこの企画は荷が大き過ぎました。
 映画化は可能だったものの、可能にするための妥協がこの原作小説のもつ怪しげな毒気や巨大なスケール感、神話のような世界観を残念ながら失わせることになってしったのです。何せ、今回ヴィルヌーブ監督が原作小説を分けて映画化した長いストーリーを、2時間半を切る長さで完結させるという不可能なミッションに挑戦させられることになったのです。そのために必要だったナレーションの多用が作品を台無しにしてしまうことは必然だったのです。
 今回できた作品を見たリンチ監督は、さぞや悔しがることでしょう。
「砂の惑星 DUNE」 1984年 
(監)(脚)デイヴィッド・リンチ
(製)ラファエラ・デ・ラウレンテス(製総)ディノ・デ・ラウレンテス
(原)フランク・ハーバート(撮)フレディ・フランシス
(特撮)キット・ウエスト(特効)カルロ・ランバルディ、アルバート・ホイットロック
(特メ)ジャンネット・デ・ロッシ(音)ブライアン・イーノ、TOTO 
(出)カイル・マクラクラン、ホセ・ファーラー、ポール・スミス(ハルコネン)、フランチェスカ・アニス、スティング、ディーン・ストックウェル
マックス・フォン・シドー、ブラッド・ダーリフ、リンダ・ハント、ヴァージニア・マドセン、シルヴァーナ・マンガーノ、ショーン・ヤング
エヴェレット・マッギル、ジャック・ナンス、パトリック・スチュワート、リチャード・ジョーダン、ケネス・マクミラン
「エレファントマン」の大ヒットにより、ある意味自由な映画製作を許されての監督作品でした。
しかし、2時間17分という長さで膨大な量の「砂の惑星」をまとめること自体不可能なのは明らかでした。
「ロード・オブ・ザ・リング」や「マトリックス」のように3部作の第一作として製作できれば良かったのでしょうが・・・。
ナレーションの多用による総集編を見ているような作品では、余韻もなにもありません。
特殊効果も現在のレベルとは大違いだったので、その点でもまだ早すぎたようです。 
役者は、地味ながら豪華でその後、有名になった俳優も多く、見ごたえはあります。リンチ・ファミリー俳優も多数出演しています。

<「DUNE/デューン 砂の惑星」完成>
 そして2021年、ついにパート1として「砂の惑星」が公開されました。

「DUNE/デューン 砂の惑星 DUNE」 2020年 
(監)(製)(脚)ドゥニ・ヴィルヌーヴ(アメリカ/カナダ)
(製)メアリー・ペアレント、ケイル・ボイター他
(製総)ターニャ・ラポワント、ジョシュア・グロード他
(原)フランク・ハーバート
(脚)ジョン・スペイツ、エリック・ロス
(撮)グレイグ・フレイザー
(視効)ポール・ランバート
(PD)パトリス・ヴァーネット
(衣)ジャクリーン・ウエスト
(編)ジョー・ウォーカー
(音)ハンス・ジマー
(出)ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、デイヴ・バウティスタ
スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、ゼンデイヤ、チャン・チェン、シャロン・ダンカン=ブルースター、シャーロット・ランプリング
ジェイソン・モモア、ハビエル・バルデム
<時間的問題>
デヴィッド・リンチ版が一本にまとめざるを得なかったところを今回はパート1として分けたので、描き方に余裕があります。
とはいえ、2時間半で前半部を収めるため、様々なシーンはそれぞれ短くまとめられているので、一瞬も目が離せません。
それぞれのシーンが美しかったり、迫力満点だったりしていた実にもったいない!もっと見たいシーンの連発です。
ノーカット版の登場にも期待がかかります。
変な先入観が生まれるかもしれないので、リンチ版は見ないでこの作品を見た方がいいかもしれません。
<音楽・音響>
傑作「ブレード・ランナー2049」のスタッフの多くが今回も参加。
同じスタッフで臨んだ音楽・音響効果は、今回さらにレベルアップしています。
ハンス・ジマーの音楽がまた凄い!普通なら映画を見終わると、その映画の音楽、メロディが残るものですがこの作品にはそれがない!
ある意味、それが究極の映画音楽です。しかし、映画の中のリズム、響きは衝撃的だし、イスラム的なメロディも印象には残ります。
できれば、より音響の良い映画館でご覧ください!
<影響・オマージュ>
1965年の原作出版から56年が過ぎ、その間に生まれた作品の多くが、この小説からの影響を受けています。
そうした作品を思い出させるシーン、明らかにオマージュとも思えるシーンもいろいろありました。
「風の谷のナウシカ」のナウシカの地下実験室とそっくりの緑化研究室が出てきました。
「スター・ウォーズ」の「砂漠の惑星タトウィーン」の住人達、生物たちなどは言うまでもなくアラキスにそっくり。
「トレマーズ」の巨大ミミズのトレマーズと主人公たちが逃げ込む岩場もまた言うまでもなくアラキスのサンド・ワームそのもの。
地獄の黙示録」を思わせるのは、ハルコンネンが治療薬から出てくるシーン。彼はマーロン・ブランドとそっくり!
アラビアのロレンス」でアラブを勝利に導いたロレンスの物語は、この映画の物語の基本になっています。

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