1915年

- 大陸移動説とプレートテクトニクス -

<奇跡の惑星、地球>
「宇宙とは、その存在を認知することのできる人類がいるからこそ存在している」
 そんな考え方があります。ビッグバンにより誕生した宇宙は、今我々が生きている宇宙の他にもあるかもしれません。しかし、その宇宙の存在を認知することのできる生命体が存在しなければ、それは存在しないことと同義ではないか?そう考えることもできるわけです。人類が獲得した物事を客観的にとらえる「認知能力」というものは、宇宙の存在をも左右する重要な力なのかもしれないのです。
 21世紀に入ってもなお、地球以外の星に生命体が存在するという証拠も、可能性も見つかってはいません。ということは、宇宙には知的生命体は我々だけという可能性もあるわけです。宇宙には無数の星があるのだから、生命体が存在する星は無数にあるはずだ、という考え方もあるでしょう。そのため、地球から宇宙に向けて信号を発信したり、その逆に他の星からの信号をキャッチして分析するという作業が長く続けられています。しかし、残念ながら未だに他の星からの返答はありません。もしかすると、本当に人類は宇宙において孤独な存在なのかもしれません。実はこのことは、地球という惑星についての研究が進めば進むほど言われるようになってきたことです。なぜなら、地球という惑星が現在のような生命にあふれた存在になれたのは数々の偶然の積み重ねによる奇跡の結果だったと思えるからです。
 こうして地球が奇跡の惑星であることがわかってきたのもまた、20世紀に入ってからのことでした。地球が「水の惑星」であることが、生命を生み出した最大の原因と言われますが、実はそれだけでは生命は誕生しなかったかもしれません。海の存在以上に、生命にとって陸地の存在もまた大きかったことが最近になって明らかになりました。
 地球が現在のようになったのは、地球がまるで生き物のように自ら変化を繰り返しながら生命が生きやすい環境へと改造を行ってきたからですが、それには地球に誕生した生命たちの協力もまた不可欠でした。それらの奇跡の中でも特に重要だったのが地球のもつ特殊な構造、「動く大陸」の存在です。他の惑星にはない、この不思議な構造のおかげで地球は一つの生命体のように息づき、そこに多用な生命を育むことが可能になったのです。

<「大陸移動説」>
 1915年気象学者であり、極地探検家でもあったドイツ人、アルフレッド・ウェゲナーは「大陸と海洋の起源」という歴史的著書を発表しました。「大陸移動説」という当時の世界を驚かせた理論がそこに書かれていましたが、大陸の形と生物相の類似、それと大陸移動を裏付ける測量データから推測した彼の理論は大きな論争を巻き起こし、支持する意見も多かったもののその後しばらくすると忘れられてしまいました。それは、「大陸移動説」には根本的な問題点があったからです。
 確かに、アフリカ大陸と南アメリカ大陸の形はパズルのようにピタリとはまりそうです。それに、大陸の接点になりそうな場所に住む多くの生物種が類似しているのも明らかでした。しかし、最も重要なこと、なぜ大陸が離れていったのか?その原因がまったくわからなかったのです。こうして、ウェゲナーの「大陸移動説」は証明されることのないまま、過去の存在になっていったのでした。
 そして、それから40年の時が流れ、ついに彼の説が再評価される時が訪れます。1950年代になって、大陸移動の謎が少しずつ解け始め、1962年に発表されたプレート・テクトニクスの理論によって、ついに大陸移動説の正しさが証明されたのです。その後、大陸の移動がもたらした驚くべき効果も明らかになります。
 大陸が動く原因、実はそれは大陸を動かしただけでなく地球に豊な生命をもたらしす重要な原因でもありました。ここではその謎に迫ってみたいと思います。それでは先ず地球の誕生から話を始めてゆきましょう。

<十兆個の中の生き残り>
 地球誕生の物語は、1948年にジョージ・ガモフが発表したビッグバン理論が認められるようになってから、その研究がスタートしたといっていいでしょう。宇宙の誕生(ビッグバン)は、今から150億から200億年前と推定されています。その後、今から46億年ほど前、ビッグバンによって生まれた宇宙の片隅、銀河系の内部で太陽の数倍の質量をもつ大きな星が爆発しました。
 その星はガスや塵となって拡散しますが場所によっては、それが渦を巻くように集中、小さな塊を形成します。するとその塊は重力によって周りの物質を引き寄せ始めます。これが原始太陽となり、周りには後の惑星の元となるガスや塵たちが集まり始めます。これらの雲状物質を原始惑星雲と呼びます。この原始惑星雲はしだいに回転速度を速めつつ、一つの平面に集まり始めます。しだいにそれは冷えてゆき、ガスや塵だったもの(気体)が物質(粒子)へと変わり始めます。そして、その粒子がさらに渦を巻くように集まり始め惑星の元となる塊(微惑星)ができ始めることになります。なお、この時どんなガスが集まってその星ができたのかによって、その星の運命は大きく左右されることになります。
 当初、微惑星は十兆個程度はあったといわれています。したがって、それらがさらに衝突、合体を繰り返しながら勝ち抜き戦を行い、ついに現在太陽系に存在する惑星が誕生したというわけです。したがって、地球は十兆個の微惑星の中から勝ち残った奇跡の存在としてその歴史のスタートをきったわけです。

<水の惑星になるための奇跡>
 原始地球は周りの微惑星を吸収しながらしだいに大きくなっていったわけですが、当時はその衝突時の熱により惑星全体がドロドロのマグマ状態でした。もし、微惑星の衝突がさらに続いていたとしたら地球の温度はマグマが蒸発してしまうほどの温度に達していたかもしれません。そうなれば地球はガスでできた惑星になっていたはずです。(木星のような)そうなれば当然生命は誕生しなかったでしょう。まわりに存在する微惑星が多すぎなかったおかげで地球はマグマの状態を保つことになり、その後少しずつ冷却過程が進むことになります。この時、地球の周りの膨大な水蒸気圧は200気圧にも達していたため、水蒸気はあとわずかで液体化、すなわち雨に変わる状態にありました。
 ただし、この時、上空の雲を直撃する太陽からの紫外線によって水蒸気は水素と酸素に分解され、軽い水素は宇宙空間に飛び去る過程も繰り返されていました。したがって、この状態が長く続いていたら、地球からは水素のほとんどが失われてしまい、水をつくることができなくなっていたはずです。(こうして、水をすべて失ってしまったのが金星だといわれています)しかし、地球の温度はそうなる前に水蒸気が液化する温度まで下がってくれました。こうして、地球はある時点から突然「雨の時代」に突入することになりました。(まるで「ノアの箱舟」の大洪水のように)そして、それが収まった時、地球は一時的な小康状態を迎えます。内部はマグマ、その周りを薄い地殻、その周りを海が覆い、そのうえに水分を失った二酸化炭素の層がかかっている。それが当時の地球でした。同じ太陽系内の金星、火星、水星にも同じように「水の惑星」になる可能性はありましたが、大きさ(質量)と太陽からの距離(エネルギー)がそれぞれ異なっていたため三つの惑星に海は誕生しないか、生まれてもその後消えてしまいました。

<灼熱地獄から脱出できた奇跡>
 ここでさらなる問題が発生します。今や誰もが知っている地球温暖化問題最大の原因は、二酸化炭素濃度の上昇とされています。そして、この時代の地球は二酸化炭素によって目一杯保温状態にあったわけで、マグマによって温められた海は冷めることなく温まり、ついには蒸発してしまったはずなのです。なぜ、そうならずにすんだのか?地球には二酸化炭素を地上から消してしまう能力があったからなのです。それはどうやって?
 二酸化炭素は水と混じりやすく地球に誕生した海に溶け込みました。そして、その二酸化炭素は海水中の物質と反応して沈殿。それはしだいに地中へと潜ってゆきマグマによって溶かされた後、火山の噴火口から再び二酸化炭素となって放出されることになります。これで一つの循環ができますが、これだけでは二酸化炭素はグルグル回っているだけで、大して減ったことにはなりません。
 しかし、上記の過程が繰り返される中で、マグマから噴出した岩石(玄武岩)と海水が反応し新しい種類の岩石、花崗岩が生まれることで劇的な変化が生じることになりました。花崗岩は玄武岩とは異なり、比重が軽くマグマの層の上に浮かぶようにして、地球上に大陸を形作り始めたのです。そして、この大陸が二酸化炭素を取り込んでできた石灰岩の集積場所となりま始めます。当然、二酸化炭素は石灰岩に閉じ込められる形で地中に貯め込まれることになりました。こうして、二酸化炭素の濃度は劇的に減ってゆき、温室効果が弱まって地上の温度も下がってゆくことになりました。地球に生命が誕生する準備がいよいよできました。ただし、この時地表を覆っていたのは、まだ現在の大気とは違いました。窒素が主成分で酸素はまだなかったのです。地上に酸素が現れ、現在の大気成分に近づくためには新たな主役である生命の誕生そして植物の登場が必要となります。地球という惑星は巨大な熱源であるコアの上に浮く大陸がプレートテクトニクスの原理によって動かされながら大気の調整や温度調節を行い生命にとって最適な環境を整えてくれるという奇跡に守られた星なのです。

<締めのお言葉>
「これまでの進化のプロセスを見ても明らかなように、地球環境の大枠を決めているのは、大気、海、海洋底、大陸、マントルとの間で行われている物質循環なのである。そうした大枠を見ないで、地球の表面だけを見ていたのでは、結局、”母なる地球”の偉大さを理解できないことになるだろう」

松井孝典著「宇宙誌」より

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