- フランソワーズ・アルディー Francoise Hardy -

<さよならを教えて>
 フランソワーズ・アルディーといえば、なんと言っても1973年に世界的大ヒットを記録した「さよならを教えて」でしょう。フレンチ・ポップ界の奇才セルジュ・ゲーンズブールのエスプリにあふれた詞とお洒落で明るいサウンドは未だにその輝きを失っていません。
 当然僕もこの曲は大好きですが、彼女の本当の魅力に気がついたのは、テレビのテーマ・ソングとしてリヴァイヴァル・ヒットした「もう森へなんか行かない」(録音は1968年)を聴いてからでした。
 そしてもうひとつユーミンのファンなら、彼女のアルバム「ミスリム」に入っていた「私のフランソワーズ」で歌われているのが、このフランソワーズ・アルディーであることをご存じでしょう。

<もう森へなんか行かない>
 この曲を覚えている人は、たぶん脚本家、山田太一のファンに違いないでしょう。1978年頃に放映されていたTBSのテレビ・ドラマ「沿線地図」のテーマ曲として使用され、当時静かなフランソワーズ・アルディー・ブームを呼んだのがこの曲なのです。(ちなみに、もう一曲「私の騎士」と言う曲も挿入歌として使用されていました)
 山田太一といえば、あの「ふぞろいの林檎たち」では「いとしのエリー」、「岸辺のアルバム」ではジャニス・イアンの「ウィル・ユー・ダンス」をテーマ曲に用いるなど、その音楽センスは、本業の脚本家としての仕事に負けず劣らず素晴らしいものがあります。特に、ジャニス・イアンについては、彼が重要なテーマとして取り上げることが多い「青春時代からの自立の物語」にぴったりの選択でした。(思うに、山田太一さんの脚本は、すべて「自立」に関わる物語だと思います。青年、女性、高齢者、障害者、中年サラリーマン・・・あらゆる人々の自立の物語がテーマではないでしょうか?)
 そして、このフランソワーズ・アルディーについてもまた彼の重要なテーマのひとつ「自立する女性の物語」にぴったりのアーティストと言えるでしょう。(彼女は、ジャニス・イアンの曲「スターズ」を自らのアルバムのタイトル曲としてカバーしたこともあります)

<自立する女性>
 それにしても「自立する女性」なんて、ずいぶん使い古された言葉になってしまいました。今時「自立する女」なんて当たり前で、「自立する男」の方がよっぽど貴重な存在になろうとしている世の中なのですから・・・。しかし、彼女が活躍し始めた当時、その言葉は今よりずっと魅力的な響きをもっていて、「ウーマン・リブ」という言葉がもつ「男と対等に闘う女」のイメージとは違う「静かな大人の女性」というイメージは、彼女にぴったりでした。
 今思うと、ちょうどこの頃、「結婚しない女」(ジル・クレイバーグ主演)、「アリスの恋」(ポール・マザースキー監督)、「歌う女、歌はない女」(アニエス・ヴァルダ監督)など、女性の自立を扱った映画がヒットしていたことも、時代を象徴する出来事でした。

<正調パリ・ジェンヌ>
 フランソワーズ・アルディーが生まれたのは1944年1月17日のこと。下町のど真ん中、オマール街のアパートに生まれた生粋のパリ・ジェンヌです。歌手としてのスタートは18歳の時で、デビュー曲「男の子、女の子」は200万枚を売り上げる大ヒットとなり、一躍彼女は時の人となりました。当時のフレンチ・ポップの世界は、ロックの影響を受けて誕生した新しいポップス<イエイエ>の大ブームにわいていました。彼女も、シルビー・バルタンらのアイドルたちの仲間入りをし、ファッション雑誌「エル」の表紙をモデルとして飾ったり、「グランプリ」などの映画に出演するなど人気アイドルとしての活躍を繰り広げました。

<大人の女性への転換>
 しかし、もともと名門のソルボンヌに籍を置いたこともある才女だった彼女にとって、そんなちやほやされるばかりのアイドルとして生活は満足できるものではありませんでした。そんな時、彼女は同じ歌手であり、作曲家、俳優でもある男性、ジャック・デュトロンと出会い恋に落ちます。そして、二人の間にはトマという男の子が産まれ、この関係は長く続くことになりました。しかし、彼女は彼とはけっして結婚しようとはしませんでした。彼女はあくまで一人で生きて行く道を選んだのです。そして、そんな生活の中から、彼女は自らの生き方をテーマとしたシンガー・ソングライターとしての活動を始めます。
私の詩集」(1969年)、「私生活」(1973年)、「夜のフランソワーズ」(1974年)、「星空のフランソワーズ」(1977年)
 彼女は、ほとんどの詞を自分で書くようになり、どの作品も彼女の生き方とともに生まれた優れた作品集となりました。

<私のフランソワーズの魅力>
 彼女の魅力は、けっして「自立した女性」として自己主張するのではなく、淡々と青春や恋、人生について歌う、その嘘偽りのなさにあります。ひとりぼっちの部屋で、自分の愚かさを思いだして悔しがったり、恋人の裏切りに涙をながしたり、それでもけっして恨み節にならないさらりとした力強さが素敵なのです。
 こういう女性は、男性の理解を超えていて、まったく別次元の人類に思えます。
中島みゆき、矢野顕子、椎名林檎、アニー・ディフランコ、アラニス・モリセット、フェイ・ウォン、ビョーク、ジョニ・ミッチェル、k.d.ラング、シンニード・オコーナー、エリカ・ヴァドゥ・・・
 今や世界中どこの国に行っても、そんな魅力的な女性がいる時代になってきました。しかし、パリという世界でも指折りの古い女性文化のある街(ファッション・デザイナーのシャネルはまさにその先駆けでした)は、そんな優れた女性アーティストを時代に先駆けて誕生させたのです。
 それがフランソワーズ・アルディーだったと、僕は思います。

<女性論になってしまいました>
 どうも、優れた女性アーティストのことを語ろうとすると、女性論がでてきてしまいます。それだけ彼女たちは語りたくなるような、個性的な魅力を持っていて、それは女性であるということと結びついているということなのでしょう。とにかく、彼女のようにさりげなく自立しているタイプの女性が、僕は好きだというのは確かなようです。
 「じゃあ、あんたの奥さんもそのタイプなのかって?」
 そういえば、うちの奥さんは、フランソワーズ・アルディーと並ぶフランスを代表する美女、モナリザに似ているとよく言われます・・・本当ですよ。

<締めのお言葉>
自己実現者とは?
・創造的である
・絶え間なく物事を新鮮に賞味する
・現実に対する敏腕な知覚力を備えている
・たいていの人間よりも多くの愛情深い人間関係が可能
・孤独を楽しむ
・人間に対し突発的に立腹したり愛想を尽くしたりする
・否定的な物事に注意を強いられるのを嫌がる
・否定的なるものに、いつまでもこだわることはしない

「至高体験」 コリン・ウィルソン著

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