フェミニズム映画 歴史と代表作 |
<フェミニズム映画の時代>
2015年以降、性差別の解消を求めたり、男女平等のために闘う女性たちが主人公の映画が増えています。
さらに言うと、女性監督も急増していて、アクション映画やドキュメンタリー映画など様々なジャンルで活躍しています。
この傾向は、2017年以降さらに勢いを増しています。
そもそも「フェミニズム映画」っていつ頃から登場したのだろう?
それはどう定義するべきなのだろう?
なぜ、ここにきて急に勢いを増しているのだろう?
そんなことを考えながら、過去の作品を振り返り、リストアップしてみました。
そして、それらを振り返りながら、「フェミニズム映画」の変化と社会の変化も書き加えてみようと思います。
作品を選び出した基準はあくまで個人的なものですが、フェミニズム的視点かつ客観的視点(すいません著者は男性です)で選んだつもりです。
女性監督の作品、時代を象徴する女優の作品、実際の事件やスキャンダルに関する作品を重点的に選びました。
マイク・ミルズ監督の映画「カモン・カモン」の中で朗読されている文章です。
「母たち:愛と残酷さについて」(著)ジャクリーン・ローズより
"Mothers: An Cruelty" by Jaqueline Rose
母性とは我々の文化において、完全な人間とは何かという葛藤を埋める場所だ。
母親は個人や政治の失敗、あらうゆる問題への究極の生贄であり、
すべてを解決するという不可能な任務を負っている。
我々は母親に社会や我々自身の最も厄介な重荷を押し付けている。
母親は人生の困難な暗部に直面せざるを得ないのだ。
なぜ物事を明るく無垢にするのが母親の役目なのか
<1930年代:女性たちの憧れ>
映画が誕生した当初から女性が主人公の作品は存在しました。それは映画を観る観客の多くが男性だったことを考えれば当然のことです。
しかし、当時の映画の女性像は男たちの求める女性像に沿うものだったとも言えます。
そのため、主役を演じる女優たちは美しくか弱い存在でなければならず、男性に守られる存在として描かれていました。
キングコングの手の中で泣き叫ぶフェイ・レイはその象徴でした。
しかし、1920年代にアメリカが経済的繁栄を迎えると、女性たちが労働者として社会に進出し始めます。
そうなると、彼女たちのためのファッションがココ・シャネルのようなデザイナーによって提案され始めます。
そして、映画の中にも女性たちが憧れるような新しい女性像が登場し始めます。
そうした役柄を演じることで、女性たちのアイドル的存在となったのが、
マレーネ・ディートリッヒ、グレタ・ガルボ、ヴィヴィアン・リー、キャサリン・ヘップバーンのような強い女性像を演じる女優達でした。
「嘆きの天使」 1930年 (監)ジョゼフ・フォン・スタンバーグ(出)マレーネ・ディートリッヒ この映画の後、彼女はドイツからアメリカへと渡り、ヒトラーによる帰国命令も無視。 「上海特急」 1932年 (監)ジョゼフ・フォン・スタンバーグ(出)マレーネ・ディートリッヒ クイーンやマドンナらも憧れる美の象徴でもあったディートリッヒの代表作 「ニノチカ」 1939年 (監)エルンスト・ルビッチ(出)グレタ・ガルボ 21世紀の今も多くの女性ファンがいる美の象徴的存在 「風と共に去りぬ」 1939年 (監)ヴィクター・フレミング(出)ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲイブル レッド・バトラーとの結婚よりも領主としての人生を選んだ「強い女性」の象徴的存在。
ただし、人種差別が当たり前の時代の映画であることも事実なので要注意!「フィラデルフィア物語」 1940年 (監)ジョージ・キューカー(出)キャサリン・ヘップバーン 自立した働く女性像の代表的存在としてリスペクトされる女優の代表作
<1950年代~1960年代:大戦がもたらした影響>
女性たちの社会的地位を大きく変えた事件として、二つの世界大戦があります。二度の世界大戦、特に第二次世界大戦では多くの男性が職場を離れて戦場に向かい、その多くが二度と戻りませんでした。その空白を埋めるため、多くの女性たちが様々な職場に進出することになりました。
しかし、戦争が終わり男性が母国に戻り始めると、女性たちは再び仕事を失い、彼女たちは家庭の主婦に戻されることになりました。これが1950年代から60年代にかけての状況でした。
「カルメン故郷に帰る」 1951年 (監)木下恵介(出)高峰秀子 戦後の自由で自立した新しい女性のモデルともなったキャラクターを生み出しました。 「安宅家の人々」 1952年 (監)久松静児(出)田中絹代、乙羽信子 水木洋子脚本による大きな酪農園を営む女性の苦難の物語 「にごりえ」 1953年 (監)今井正(出)淡島千景、久我良子 明治時代を生きた女性たちの物語で原作は樋口一葉 「乳房よ永遠に」 1955年 (監)田中絹代(脚)田中澄江(出)月丘夢路、葉山良二、森雅之 乳癌により両乳房を失った女性が短い命を短歌と恋にかける田中絹代の代表作 「悲しみよこんにちは」 1957年 (監)オットー・プレミンジャー(出)ジーン・セバーグ(原)フランソワーズ・サガン フランスを代表するアイドル作家による新たな女性像を生み出した小説の映画化。 「悲しみは空の彼方に」 1959年 (監)ダグラス・サーク(出)ラナ・ターナー フェミニズム、人種問題までも視野に入れた巨匠ダグラス・サークの傑作 「女が階段を上る時」 1960年 (監)成瀬己喜男(出)高峰秀子 水商売で働く女性をリアルに描いた女性映画の巨匠、成瀬己喜男の名作 「5時から7時までのクレオ」 1962年 (監)アニエス・ヴァルダ(出)コリンヌ・マルシャン 自由で自立した女性像を生み出したフランスの女性監督の代表作 「チャルラータ」 1964年 (監)サタジット・レイ(出)マダビ・ムカージ 文学に目覚めた女性を描いたインド映画の巨匠によるフェミニズム映画 「裸足のイサドラ」 1969年 (監)カレル・ライス(出)ヴェネッサ・レッドグレープ 伝説的女性ダンサー、イサドラ・ダンカンの伝記映画
<1970年代:反体制派の時代>
戦後のベビー・ブーマー世代の子供たちが大人になり、親たちの世代に反抗し始めたのが1960年代末のことでした。
彼女たちの世代が中心で盛り上がりを見せたのが、「ウーマンリブ運動」です。映画界では、ジェーン・フォンダ、バネッサ・レッドグレープはその象徴的女優でした。
1970年代の終わりに、男性よりも強い女性ヒーローが登場します。それまでもテレビの世界では「バイオニック・ジェミー」(1976年)や「チャーリーズ・エンジェル」(1976年)のような存在はありましたが、1979年公開の「エイリアン」のリプリーはその後の女性アクション・ヒーローものの原点となりました。そして、1980年代以降、女性たちの戦いの映画が様々なジャンルで誕生します。
それは、現実世界で家庭内で闘う主婦だったり、職場の労働問題に挑む闘士だったり、セクハラやレイプに立ち向かう女性だったりと多様化して行きました。
「WANDA/ワンダ」 1970年 (監)(脚)(出)バーバラ・ローデン 夫に捨てられ職を失い、居場所を失った女性が強盗犯と逃亡することになることに・・・
ヴェネチア国際映画祭最優秀外国語映画賞受賞作
しかし、母国アメリカでは完全黙殺されたフェミニズム映画の先駆作「愛の嵐」 1973年 (監)リリアーナ・カバーニ(出)シャーロット・ランプリング 戦争・ナチズムを背景に生まれたねじれた愛の物語
女性監督リリアーナ・カバーニの出世作「流されて」 1974年 (監)リナ・ヴェルトミュラー(出)マリ・アンジェラ・メラ―ト 無人島を舞台に展開する究極の女と男の対決のドラマ
女性監督リナ・ヴェルトミュラーのブレイク作品「サンダカン八番娼館」 1974年 (監)熊井啓(出)栗原小巻、田中絹代 戦時中、南方の娼館で働かされていた女性たちの悲劇の物語 「エマニエル夫人」 1974年 (監)ジュスト・ジャカン(出)シルビア・クリステル 女性のためのポルノ映画という新しいスタイルで世界的ブレイクとなったヒット作 「アリスの恋」 1974年 (監)マーティン・スコセッシ(出)エレン・バースティン、ジョディ・フォスター シングルマザーの恋と自立を描いたスコセッシの出世作でジョディ・フォスターのデビュー作 「ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」 1975年 (監)シャンタル・アケルマン(出)デルフィーヌ・セイリグ ベルギーの女性監督によるフェミニズム映画の代表作 「愛のコリーダ」 1975年 (監)大島渚(出)松田英子 男根の切除により伝説となった究極の愛の物語 「歌う女歌わない女」 1977年 (監)アニエス・ヴァルダ(出)テレーズ・リオタール 女性の自立を描き続けたアニエス・ヴァルダの代表作 「アニー・ホール」 1977年 (監)ウディ・アレン(出)ダイアン・キートン 男たちを振り回す自由な女性像を描いたアカデミー作品賞受賞作 「ジュリア」 1977年 (監)フレッド・ジンネマン(出)バネッサ・レッドグレープ、ジェーン・フォンダ 二人の闘う女性の友情を描いた第二次大戦下の実録映画 「結婚しない女」 1978年 (監)ポール・マザースキー(出)ジル・クレイバーグ 結婚しないことを前向きに捉える新しい女性像を描いた作品 「エイリアン」 1979年 (監)リドリー・スコット(出)シガニ―・ウィーバー 男性の役割だったモンスター退治を初めて女性が行ったSF大作 「ノーマ・レイ」 1979年 (監)マーティン・リット(出)サリー・フィールド 労働運動の女性闘士を描いた実録映画。
サリー・フィールドはこの作品などで「闘う強き女性」を演じる名優となりました。「マリア・ブラウンの結婚」 1979年 (監)ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(出)ハンナ・シグラ 大戦末期から10年混乱のドイツを生きた女性の物語
<1980年代:ウーマンリブ運動の停滞>
1970年代はウーマンリブ運動が急速に盛り上がり、それなりに結果を生み出しましたが、1980年代にはそれが停滞。
再び女性たちは男性社会で耐える状況に追い込まれることになります。
そんな中、男性社会と闘うことはないものの女性として自立して生きようとする姿が共感を得たのがメリル・ストリープでした。
けっして美人ではない彼女はこの後、アメリカを代表する名女優に成長します。
そして、レイプの被害者が加害者を訴えるという重い作品に体当たりで挑んだジョディ・フォスターもまた大女優へと成長します。
「グロリア」 1980年 (監)ジョン・カサベテス(出)ジナ・ローランズ マフィア相手に一人戦うおばさん女性ヒーローを描いた新たなジャンル映画の誕生 「フランス軍中尉の女」 1981年 (監)カレル・ライス(出)メリル・ストリープ 二人の女性の人生を交差させながら描いた女性映画の傑作 「ガープの世界」 1982年 (監)ジョージ・ロイ・ヒル(出)ロビン・ウィリアムズ、グレン・クローズ LGBT、フェミニズムについて本格的に描いた娯楽作品として衝撃的でした。
原作はジョン・アーヴィング「フラッシュ・ダンス」 1983年 (監)エイドリアン・ライン(出)ジェニファー・ビールス ダンサーとしての人生をとるか?妻として生きるか? 「風の谷のナウシカ」 1984年 (監)宮崎駿 アニメの世界にお姫様ではない新しいタイプのヒロインが誕生 「愛と哀しみの果て」 1985年 (監)シドニー・ポラック(出)メリル・ストリープ アフリカで生きた女性農園主の苦難と愛の日々 「告発の行方」 1988年 (監)ジョナサン・カプラン(出)ジョディ・フォスター レイプ被害者による訴訟を描いた画期的な法廷作品
<1990年代:名作・ヒット作の多様化>
1990年代に入ると女性視点からの映画はさらに多様化します。
女性版「明日に向かって撃て」とも言える「テルマ&ルイーズ」、DVに苦しんだソウル界の女王の人生「TINA ティナ」、女性のスポーツ映画「プリティ・リーグ」、女性権力者の生涯を描いた大作「エヴィータ」・・
女性監督ジェーン・カンピオン、サリー・ポッターのブレイク。
中国系アメリカ人の女性たちを描いた「ジョイ・ラック・クラブ」、スペイン映画「オール・アバウト・マイ・マザー」など欧米文化の外からも名作が誕生しています。
「テルマ&ルイーズ」 1991年 (監)リドリー・スコット(出)ジーナ・デイヴィス、スーザン・サランドン 普通の女性が暴走し男性を叩きのめす痛快フェミニズム映画の傑作
二人の主演女優はフェミニズムの象徴的存在として活躍して行きます。「おもいでぽろぽろ」(アニメ) 1991年 (監)高畑勲 都会で一人暮らしをする女性が故郷へ里帰りし、自分を見つめ直す物語 「プリティ・リーグ」 1992年 (監)ペニー・マーシャル(出)ジーナ・デイヴィス、マドンナ 女子プロ野球チームと監督の活躍を女子選手目線のスポーツ映画として描いた名作 「オルランド」 1992年 (監)サリー・ポッター(出)ティルダ・スウィントン 男性から女性へと性転移し永遠の生命を得た英国貴族の波乱の人生 「ピアノ・レッスン」 1993年 (監)ジェーン・カンピオン(出)ホリー・ハンター ピアノによって自立して行く女性の人生を描いたフェミニズム映画の傑作 「TINA ティナ」 1993年 (監)ブライアン・ギブソン(出)アンジェラ・バセット ソウルの女王として活躍しながら家庭では夫からのDVに苦しんだティナ・ターナーの伝記 「ジョイ・ラック・クラブ」 1993年 (監)ウェイン・ワン(出)ニンナ・ウェン、キュウ・チン、チャイ・チン 中国系アメリカ人4人の母親とその娘たちの苦難の人生を描いた大河ドラマ 「いつか晴れた日に」 1995年 (監)アン・リー(出)エマ・トンプソン ジェーン・オースチンが描いた父を失い母親と暮らし始めた3人娘たちの物語 「エヴィータ」 1996年 (監)アラン・パーカー(出)マドンナ アルゼンチンの独裁者ペロンの妻の波乱万丈の成り上がり人生 「ジャッキー・ブラウン」 1997年 (監)クエンティン・タランティーノ(出)パム・グリア ブラック・エクスプロイテーション映画の女王に捧げられた映画 「タンゴ・レッスン」 1997年 (監)サリー・ポッター(出)ティルダ・スウィントン フェミニズム映画の巨匠による実在のタンゴ・ダンサーとの恋の物語 「オール・アバウト・マイ・マザー」 1999年 (監)ペドロ・アルモドヴァル(出)セシリア・ロス 息子を事故で失った母親の再生の物語。
ベティ・デイヴィス、ジナ・ローランズ、ロミー・シュナイダーに捧げられた女性への讃歌
<2000年代:積極的に生きる女性たち>
21世紀に入ると女性たちは、男女平等を求めて闘うというよりも、積極的に社会の中で活躍する道を選択。
男性の協力や結婚は不要のものとなり始めます。それはある意味、男性よりワンランク上の活躍を目指すことでした。
「エリン・ブロコビッチ」 2000年 (監)スティーブン・ソダーバーグ(出)ジュリア・ロバーツ 弁護士事務所で働くシングルマザーが産業廃棄物を垂れ流す大企業と闘う実録作品 「コヨーテ・アグリー」 2000年 (監)デヴィッド・マクナリー(出)パイパー・ペラーポ セクシーな女性バーテンダーたちの人生ドラマ 「キューティー・ブロンド」 2001年 (監)ロバート・ルケティック(出)リース・ウィザースプーン 可愛いだけのはずだった女子大生が一念発起、弁護士を目指す挑戦のドラマ
あるあるの物語ですが、よくできた脚本で爽快感もあるナイスなコメディ「フリーダ」 2002年 (監)ジュリー・テイモア(出)サルマ・ハエック メキシコの偉大な女性画家フリーダ・カーロの伝記映画
様々な障害を乗り越えて、力強い自画像を残したフェミニズムのアイコン的存在「めぐりあう時間たち」 2002年 (監)スティーブン・ダルドリー(出)ニコール・キッドマン、メリル・ストリープ、ジュリアン・ムーア 時を越えた女性たちの3つの物語が交錯する不思議な女性たちの物語 「モナリザ・スマイル」 2003年 (監)マイク・ニューウェル(出)ジィリア・ロバーツ 保守的な名門女子大に赴任した美術教師の奮闘記 「下妻物語」 2004年 (監)中島哲也(出)深田恭子、土屋アンナ 茨木の強烈ヤンキー娘とロリータ・ファッション娘の友情物語。
原作は嶽本のばら「スウィング・ガールズ」 2004年 (監)矢口史靖(出)上野樹里、貫地谷しおり、本仮屋ユイカ 女子高生スウィング・ジャズバンドの活躍を描いた熱血ドラマ 「花とアリス」 2004年 (監)岩井俊二(出)蒼井優、鈴木杏 バレエ少女二人の友情を描いた名作 「リンダ・リンダ・リンダ」 2005年 (監)山下敦宏(出)ペ・ドゥナ、前田亜希、香椎由宇 女子高生が主人公の青春ロックムービーの傑作 「ドミノ」 2005年 (監)トニー・スコット(出)キーラ・ナイトレイ 俳優ローレンス・ハーヴェイの娘が賞金稼ぎに立った実録人生ドラマ 「あなたになら言える秘密のこと」 2005年 (監)イザベル・コイシェ(出)サラ・ポーリー はるか海上にある油田の医務室に就職した看護師女性が抱える心の闇とは? 「かもめ食堂」 2006年 (監)荻上直子(出)小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ フィンランド、ヘルシンキの街で食堂を開いた日本人女性の物語 「フラガール」 2006年 (監)李相日(出)松雪泰子、蒼井優、山崎静代 常磐ハワイアンセンター誕生秘話の主役となった女性たちの物語 「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」 2007年 (監)吉田大八(出)佐藤江梨子、佐津川愛美 男どもをぶっ飛ばす強烈個性の女性の物語。原作戯曲は本谷有希子 「JUNO/ジュノ」 2007年 (監)ジェイソン・ライトマン(出)エレン・ペイジ 彼氏の子供を妊娠してしまった女子高生が選んだのは? 「ココ・アヴァン・シャネル」 2009年 (監)アンヌ・フォンテーヌ(出)オドレイ・トゥトゥ 女性の社会進出の象徴となるファッションを生み出したフランスのデザイナーの伝記映画
<2010年代:フェミニズム映画大爆発時代>
2010年代に入り、女性監督、女性主人公の映画は急増します。その原因のひとつに「MeeToo運動」の存在があります。
「MeeToo運動」
2006年、若い黒人女性の貧困や性被害を救うために非営利団体Just Be Inc.を設立したタラナ・バークが2007年に性的虐待を受けた被害者を支援するためのスローガンとして生み出したのが「MeeToo」でした。
静かに広がっていたその言葉が、2017年にハリウッドでハーヴェイ・ワイスタインによるセクハラ問題が世界的に拡散する中、トレンド・ワードとして注目され、世界中の女性たちに使用されることになりました。映画界は、この事件の影響でそれまでいかに男女差別がハリウッドで行われていたのかが明らかになり始めます。
そして、その影響によりフェミニズム映画が急増し、女性監督、女性製作者の活躍が一気に始まります。
2017年以降の作品の数の多さは圧倒的です!
特に印象深い作品の詳細について記してあります。参考にどうそ!
2017年以降の代表作詳細
「バーレスク」 2010年 (監)スティーブ・アンティン(出)シェール、クリスティーナ・アギレラ セクシーなダンサーたちが働くバーレスク・ラウンジで働く女性たちの物語 「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」 2011年 (監)フィリダ・ロイド(出)メリル・ストリープ 悪名高いマーガレット・サッチャーの伝記映画
でも女性初の英国首相誕生物語はフェミニズムの映画でもありました。「物語る私たち」 2012年 (監)(出)サラ・ポーリー カナダの女優サラ・ポーリーが自身の家族の過去に迫るドキュメンタリー 「この世界の片隅に」(アニメ) 2012年 (監)片淵須直 女性視点からみた太平洋戦争と原子爆弾が投下された広島 「0.5ミリ」 2013年 (監)安藤桃子(出)安藤サクラ 介護ヘルパーとして働くことになった女性の日々を描いた作品 「ベル ある伯爵令嬢の恋」 2013年 (監)アマ・アサンテ(出)ググ・バサ=ロー 黒人女性監督による実在した黒人伯爵令嬢、波乱の人生 「バックコーラスの歌姫たち」 2013年 (監)モーガン・ネヴィル(出)ダーレン・ラヴ他 多くのミュージシャンの裏方として支えてきた黒人女性コーラスの記録 「グロリアの青春」 2013年 (監)セバスチャン・レリオ(出)パウリーナ・ガルシア(ベルリン国際映画祭女優賞) おひとり様人生を選択したおばさんの日常 「アクトレス 女たちの舞台」 2014年 (監)オリヴィエ・アサイヤス(出)ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート 有名女優と彼女を支える女性アシスタントの奮闘の日々 「サンドラの週末」 2014年 (監)ダルデンヌ兄弟(出)マリオン・コティヤール 解雇を逃れるために奮闘する女性労働者のある週末を描いた名作 「ル・コルビュジェとアイリーン 追憶のヴィラ」 2014年 (監)メアリー・マクガキアン(出)オーラ・グラディ 偉大な建築家ル・コルビュジェの影に隠された悲劇の女性家具デザイナーの伝記映画
脇役のはずのコルビュジェの名前がタイトルにあるのがすでに差別的?「百円の恋」 2014年 (監)武正晴(出)安藤サクラ 自堕落な生活を送っていた女性がボクシングで大変身!
かつては男性が演じていた役どころ「未来を花束にして」 2015年 (監)サラ・ガブロン(出)キャリー・マリガン、メリル・ストリープ 女性参政権運動の闘士エメリン・パンクハーストの戦いを描いた実録映画の傑作 「ジョイ」 2015年 (監)デヴィッド・O・ラッセル(出)ジェニファー・ローレンス アメリカの女性発明家ジョイ・マンガーノの伝記映画 「ガザの美容室」 2015年 (監)タルザン&アラブ・ナーセル(出)ヒアム・アッバス 中東紛争の縮図ガザ地域の美容室に集まった人々、それぞれの人生 「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」 2015年 (監)ジョージ・ミラー(出)シャーリーズ・セロン 男の映画だった作品を女性主人公にしてパワーアップさせた傑作 「ドリーム」 2016年 (監)セオドア・メルフィ(出)オクタビア・スペンサー アポロ計画に関わった黒人女性数学者とその仲間たちの隠された実録物語 「ヴェロニカ・ゲリン」 2016年 (監)ジョエル・シュマッカー(出)ケイト・ブランシェット アイルランドで過激で危険な取材を続けた女性記者の奮闘 「20センチュリー・ウーマン」 2016年 (監)マイク・ミルズ(出)アネット・ベニング、グレタ・ガーウィグ シングルマザーと2人の女性に育てられた少年の成長のドラマ 「レディ・バード」 2017年 (監)グレタ・ガーウィグ(出)シアーシャ・ローナン 高校を卒業し故郷を出ることになった少女の成長物語
21世紀女性版「アメリカン・グラフィティ」「女は2度決断する」 2017年 (監)ファティ・アキン(出)ダイアン・クルーガー 夫と息子をテロリストに殺された女性がその復讐をしようとしますが・・・ 「妻の愛、娘の時」 2017年 (監)シルヴィア・チャン(出)シルヴィア・チャン、ティエン・チュアンチュア 亡き父親の故郷でその繊細に追い返された娘。過去に何があったのか? 「メアリーの総て」 2017年 (監)ハイファ・アル=マンスール(出)エル・ファニング なぜ17歳の少女があの「フランケンシュタイン」を書いたのか?
女性差別が激しいサウジアラビア出身の女性監督によるフェミニズム映画「ワンダーウーマン」 2017年 (監)パティ・ジェンキンス(出)ガル・ガドット 本格的な女性アメコミ・ヒーロー映画として新時代を切り開いた作品 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」 2017年 (監)ヴァレリー・ファレス、ジョナサン・デイトン(出)エマ・ストーン テニス界の女王だったキング夫人が賃金などの男女平等を求め男子選手に挑戦
歴史的名勝負の内幕を描いた実録映画「ビリーブ 未来への大逆転」 2018年 (監)ミミ・レダー(出)フェリシティ・ジョーンズ 最高裁の女性判事として活躍したルース・ベイダー・ギンズバーグの伝記映画 「マイ・ブックショップ」 2018年 (監)イザベル・コイシェ(出)エミリー・モーティマー 英国の小さな島で本屋を始めた女性が様々な困難と闘う物語 「わたしは、幸福」 2018年 (監)アラン・ゴミス(出)ヴェロ・ツァンダ・ベヤ コンゴ共和国を舞台に女性歌手の過酷な人生を描いた作品 「ナイチンゲール」 2018年 (監)ジェフリー・ケント(出)アシュリン・フランシオージ オーストラリア、タスマニア島を舞台に夫と子供を軍人に殺された女性の復讐劇 「アグネスと幸せのパズル」 2018年 (監)マーク・タートルトープ(出)ケリー・マクドナルド 平凡な主婦がジグソー・パズルの大会に出場することで人生を見直します 「軽い男じゃないのよ」 2018年 (監)エレオノール・ブリア(出)ヴァンサン・エルヴァズ 男性と女性の立場が入れ替わった世界で差別を体感することになった男性
入れ替わりものですが、一度世の男性が体験するといいのかもしれません。「オーシャンズ8」 2018年 (監)ゲイリー・ロス(出)サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット他 「オーシャンズ11」の女性版も、女性が演じるとまた新鮮で魅力的になります。 「RBG 最強の85才」(D) 2018年 (監)ベッツィ・ウエスト、ジェリー・コーエン 女性最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグのドキュメンタリー映画 「ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス」(D) 2018年 (監)ローナ・タッカー(出)ヴィヴィアン・ウエストウッド、ナオミ・キャンベル パンク・ファッションの生みの親となったファッション・デザイナーのドキュメンタリー 「第三夫人と髪飾り」 2018年 (監)アッシュ・メイフェア(出)グエン・フォン・チャーミー ベトナムの名家に嫁いだ祖母の波乱の人生をもとにしたベトナム系女性監督作品 「菊とギロチン」 2018年 (監)瀬々敬久(出)木竜麻生 大正デモクラシーの時代に実在した女子相撲選手たちの波乱の人生 「タリーと私の秘密の時間」 2018年 (監)ジェイソン・ライマン(出)シャーリーズ・セロン 子育て生活に身も心も追い込まれた母親を助ける謎のスーパーヘルパーとは? 「バハールの涙」 2018年 (監)エヴァ・ウッソン(出)ゴルシフテ・ファラハン ISと闘う女性クルド人部隊の戦いの日々を描いた実録映画 「たちあがる女」 2018年 (監)ベネディクト・エリングソン(出)ハルドラ・ゲイルハルズドッティル アルミニウム工場による環境破壊にストップをかけるため送電線の切断をする女性 「ブックスマート 卒業前夜のパーティー・デビュー」 2019年 (監)オリヴィア・ワイルド(出)ケイトリン・デヴァー タイトルはチャラいのですが中身は女子高生による男性文化批判満載! 「パピチャ 未来へのランウェイ」 2019年 (監)ムニア・メドゥール(出)リナ・クードリ イスラム原理主義が拡大する中、ファッションショー開催を目指す女子学生の挑戦 「82年生まれ、キム・ジヨン」 2019年 (監)キム・ドヨン(出)チャン・ユミ 女性への差別が根強い韓国で子育てに苦労する母親の現実を描いた作品
世界的にヒットした韓国フェミニズム小説の映画化「燃ゆる女の肖像」 2019年 (監)セリーヌ・シアマ(出)エミ・メルラン 肖像画を依頼された女性画家とそのモデルの女性の恋
2010年代が産んだLGBTQ&フェミニズム映画の傑作「ハリエット」 2019年 (監)ケイシー・レモンズ(出)シンシア・エリヴォ 黒人奴隷の逃亡を助けるために活躍した実在の黒人女性ヒーロー、ハリエット・タブマンの実録映画 「モロッコ、彼女たちの朝」 2019年 (監)マリヤム・トゥザニ(出)ルブナ・アザバル 一人で赤ん坊を生むとする女性と彼女を助けるパン屋の女性店主の物語 「ハスラーズ」 2019年 (監)ローリーン・スカファリア(出)ジェニファー・ロペス ニューヨークで活躍したおバカなセレブ男から金を奪う知能犯女性グループの仕事ぶりを映画化 「スキャンダル」 2019年 (監)ジェイ・ローチ(出)シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン TV界で横行してきたセクハラを暴露しMeeToo運動の火付け役となった事件 「クイーンズ・オブ・フィールド」 2019年 (監)モハメド・ハミディ(出)カド・メラッド 老舗サッカー・チームの存続をかけ女子が男子に代わって出場するお話
フェミニズム運動が活発な女子サッカーといえば、ミーガン・ラピノーをお忘れなく!「キャプテン・マーベル」 2019年 (監)アンナ・ボーデン、ライアン・フレック(出)ブリー・ラーソン マーベルに登場した女性ヒーロー。たぶんマーベル最強の存在です。 「ストーリー・オブ・マイ・ライフ 私の若草物語」 2019年 (監)グレタ・ガーウィグ(出)シアーシャ・ローナン オルコットの名作「若草物語」の誕生秘話であり、プロ女性作家誕生の物語でもあります。 「ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画」 2019年 (監)ジャガン・シャクティ(出)ヴィディヤ・バーラン 火星探査衛星打ち上げのために集まった女性研究者たちの活躍描いた実録ドラマ
<2020年代:フェミニズム映画が当たり前の時代へ>
2010年代にフェミニズム映画は様々なジャンルで製作されましたが、2020年代はそれが特殊なわけではないことを証明する時代かもしれません。
あえて「フェミニズム映画」という括りが不要となるような新時代が始まるかどうか?
2021年に入り、取り上げるべき作品が減っている気がします。一時的なブームで終わらなければ良いのですが・・・。
それはこれからの10年で明らかになるでしょう。
「私をくいとめて」 2020年 (監)大九明子(出)のん 日本の女子に元気を与える稀有な女優と監督の代表作 「あの子は貴族」 2020年 (監)岨手由貴子(出)門脇麦 名門家庭に嫁いだ女性による運命を変えた人生の選択 「おらおらでひとりいぐも」 2020年 (監)沖田修一(出)田中裕子 老い行く一人暮らしの女性の楽しき最後の日々をファンタジックに描いた作品 「プロミシング・ヤング・ウーマン」 2020年 (監)エメラルド・フェネル(出)キャリー・マリガン 友人を死に追いやった男たちへの復讐劇フェミニズム版 「アンモナイトの目覚め」 2020年 (監)フランシス・リー(出)ケイト・ウィンスレット、シアーシャ・ローナン 化石発掘研究者の女性と依頼人の妻との恋 「オールド・ガード」 2020年 (監)ジーナ・プリンズ=バイスウッド(出)シャーリーズ・セロン 歴史を動かしてきた不老不死の女性ヒーローの伝説 「マ・レイニーのブラック・ボトム」 2020年 (監)ジョージ・C・ウルフ(出)ヴィオラ・デイヴィス 「ブルースの母」と呼ばれた女性ブルース歌手のパワフルな生き様を描いた音楽映画 「ミス・マルクス」 2020年 (監)スザンナ・ニッキャレリ(出)ロモーラ・ガライ マルクスの意志を継ぎフェミニズムの闘士でもあったその娘の波乱の人生 「私というパズル」 2020年 (監)コーネル・ムンドルッツ(出)ヴァネッサ・カービー 赤ん坊を失った女性が訴訟を起こし、精神的に追い込れる人間ドラマ 「スタント・ウーマン ハリウッドの知られざるホーローたち」(D) 2020年 (監)エイブリル・ライト(出)ミシェル・ロドリゲス他 映画誕生と共に活躍し始めた女性スタントの歴史と男女平等への取り組み 「ハーレクインの華麗なる覚醒」 2020年 (監)キャシー・ヤン(出)マーゴット・ロビー 過去になかった狂気の女性ヒールが主人公のド派手なアクション映画 「40歳の解釈:ラダの場合」(D) 2020年 (監)(出)ラダ・ブランク 女優・演出家のラダが自らの人生を問い直すドキュメンタリー 「サンドラの小さな家」 2020年 (監)フィリダ・ロイド(出)クレア・ダン 貧困に苦しむシングルマザーが自力で家を建てる物語 「17歳の瞳に映る世界」 2020年 (監)エリザ・ヒットマン(出)タリア・ライダー、シドニー・フラニガン 赤ちゃんをおろすため、都会に友人と旅に出た少女の旅物語 「茜色に焼かれる」 2020年 (監)石井裕也(出)尾野真千子 元トルコ嬢のシングルマザーによる子育て&お仕事奮闘記 「カモン・カモン」 2021年 (監)マイク・ミルズ(出)ギャビー・ホフマン、ホアキン・フェニックス 双極性障害に苦しむ夫をもつ妹の子供をあずかった叔父さんの日々 「三姉妹」 2021年 (監)イ・スンウォン(出)ムン・ソリ、キム・ソニョン、チャン・ユンジュ 別々に暮らし父親のDVに苦しんだ過去をもつ三姉妹が人生を再発見する物語 「モキシー 私たちのムーブメント」 2021年 (監)エイミー・ポーラー(出)ジョセフィン・ラング 高校内のセクハラを批判する冊子を匿名で発行した女子高校生の戦い 「リスペクト」 2021年 (監)リーズル・トミー(出)ジェニファー・ハドソン 「ソウルの女王」アレサ・フランクリンの苦難と波乱の人生を描いた名作 「わたしの名はパウリ・マレー」(D) 2021年 (監)ジュリー・コーエン、ベッツィー・ウエスト 同性愛者であるために歴史から消された公民権運動の先駆となった女性弁護士 「ブラック・パンサー/ワカンダ・フォー・エヴァー」 2022年 (監)ライアン・クーグラー(出)レティーシャ・ライト、アンジェラ・バセット ティチャラ亡き後、女性たちを主役にした新たなブラックパンサー誕生 「マイ・ブロークン・マリコ」 2022年 (監)(脚)タナダユキ(原)平庫ワカ(出)永野芽衣、奈緒 DVにより心を壊され自殺した親友の遺骨を奪い旅にでた女子ひとり旅 「山女」 2022年 (監)福永壮志(出)山田杏奈 日本の山奥に住むという山姥伝説のもとになった山の民となった女性 「エノーラ・ホームズの事件簿2」 2022年 (監)ハリー・ブラッドピア(出)ヘンリー・カビル、ヘレナ・ボナム・カーター シャーロック・ホームズの妹とフェミニズム運動の闘士となった母の物語 「私ときどきレッサーパンダ」(アニメ) 2022年 (監)ドミー・シー 性徴期も含め、女の子の成長を描いたアニメファンタジー