- ザ・バンド、グレイトフル・デッド、ジャニス・ジョップリン・・・etc. -

<若きロックの時代>
 激動の1960年代末、ロックは若者たちの文化の中心として社会に大きな影響を与える存在になっていました。しかし、この時代ロックはまだまだ若く未完成な音楽ジャンルでした。だからこそ、ロックは分裂と融合を繰り返しながら強烈なエネルギーを発散し続けていたのです。
 1969年のウッドストックをピークとするロックフェスティバルは、その象徴で、それらの音楽祭から次々と新しいスターが誕生し、新たなジャンルを開拓しつつありました。その他、フィルモアのようにロック文化を育てる創造的なライブ・ハウスも登場し、そこでは異なるジャンルのミュージシャンの共演と競合が行われることで、さらなるロックの革新が進められていました。
 このサイトには、こうした60年代末の音楽ムーブメントがいろいろと登場しています。ところがついこの間、僕はそれらとはまったく異なるもうひとつのイベントがあの時代にあったことを知りました。それが1970年に行われた「Festival Express」というイベントです。なぜ今頃、知ったのかというと、2005年そのイベントの全貌を収めたDVDが発売になったからです。(ポニーキャニオン PCBP51499)さて「フェスティバル・エクスプレス」とは、いかなるイベントだったのでしょうか?

<フェスティバル・エクスプレスとは?>
 「フェスティバル・エクスプレス」とは、1970年6月27日にカナダのトロントからウェニペグ、カルガリーへと大陸を横断しながらライブ・ツアーを行うためにミュージシャンたちを乗せて走ったカナダ鉄道の特別列車の名前です。参加したミュージシャンは、グレイトフル・デッドジャニス・ジョップリンザ・バンド、デラニー&ボニー、フライング・ブリトー・ブラザース、バディ・ガイ、シャナナなどです。
 このツアーのコンセプトは、ロック・イベント=野外会場に観客を集めて行う巨大イベントとは、まったく逆の発想によるものです。それは「ツアーを組んでバンドが観客の住む街に行く」というものでした。と言っても、ただそれだけならバスを連ねて行う多人数でのライブ・ツアーとそう変わりません。実は、このツアーが本当に素晴らしいのは、列車を降りて行われたコンサートだけではなく、列車の中で昼も夜も、どこかの車両で行われていたジャム・セッションの部分なのです。(もちろん、このDVDにはこうしたジャム・セッションのシーンがたっぷり収められています)
 例えば、リック・ダンコ、ジェリー・ガルシア、ボブ・ウィアーをバックにジャニスが実に気持ちよさそうに歌う「Ain't No More Come」。今や、ブルース界の大御所バディ・ガイとジェリー・ガルシアがコンビを組んだ「I Can't Do It Baby」。

<夢のジャムセッション>
 どんなに多くのアーティストが参加するイベントでも、出演者たちはヘリで会場入りすると自分の担当ステージをこなし、すぐにまた会場を去るというのが普通でした。そのため、アーティスト同志が交流できる機会はほとんどなく、ましてジャムセッションが行われることはめったにありませんでした。それがこの列車の中では24時間、どこでも可能になっていて、そのため食堂車も24時間常に食べ物、飲み物を用意していたそうです。(さらにはドラッグも用意されていて、かなり危険だったともいえますが、・・・)こうして行われたツアーの中でそれぞれのアーティストたちがどれだけ多くのインスピレーションを得たのか、これもまたロックの大きな発展の一要因であったのでしょう。

<リラックスしたライブ>
 もちろん各ライブ会場でのパフォーマンスも、そんな気持ちのよい状態で望んだこともあり、どれも素晴らしいできです。
 グレイトフル・デッドは「Casey Jones」「New Speedway Boogie」を演奏。彼らの透明感のある演奏はカナダの澄んだ空気感にピッタリ。ジェリー・ガルシアの澄んだギターの音色が実に気持ちよく響き、時代を越えるナチュラル・ハイなサウンドです。
 ザ・バンドは「Slippin'&Slidin'」、「The Weight」「I Shall Be Released」。彼らはまだ20代の若さだったにも関わらず、見た目も音も実に老成しています。下積みが長く厳しいライブ・ツアーを経験していた彼らにとって、このツアーは天国への旅に思えたかも知れません。
 ジャニスは「Cry Baby」「Tell Mama」「Me&Bobby McGee」。このライブで実に幸せそうに歌っていた彼女は、このツアーの数ヶ月後の10月4日、ドラッグの過剰摂取によってこの世を去っています。彼女にとって、このツアーはしばし安息の日々だったのでしょう。それにしても死が目前に迫っているとは思えない力強い歌いっぷりです。
 バディ・ガイは「I Can't Do It Baby」「Money」。ブルース界からのゲストだった彼は、最近の肥った姿とは違い実に細くて格好いいクール・ガイです。
 フライング・ブリトー・ブラザースは「Lazy Day」。カントリー・ロックを生み出したグラム・パーソンズがザ・バーズを脱退して作った幻のバンドの動く映像は貴重です。
 シャナナは「Rock&Roll is here to stay」。このツアー唯一のロックンロール・バンドの明るさも忘れられません。
 ニュー・ライダース・オブ・ザ・パープル・セイジの「Better take Jesus hand」。グレイトフル・デッドの別バンドでもある彼らの貴重な演奏も聞くことができます。

<熱く幸福な日々の終わり>
 各地のライブ会場で観客たちが主催者に「資本家のブタ!十分儲けただろうから、ただで見せろ!」と迫り、暴動まで起こしてしまう様子は、「素晴らしきウッドストック時代の終わり」を感じさせます。1970年という年は、すでに時代の角を曲がり「若く発展途上のロック時代」は「成熟した大人のロック時代」へと変わる始めていた時でした。そんな時代の変わり目にアメリカ大陸を走り抜けたフェスティバル・エクスプレス。それは、この後時代の変わり目に苦しむことになるアーテイストたちに、しばし天国のような日々を与えた最初で最後の創造的なライブ・ツアーだったのかもしれません。
 このツアーが行われて30年以上が過ぎたにも関わらず、この映像は見る人を感動させます。それは、このツアーに参加したアーティストたちが感じる「演奏する喜び」「創造する喜び」「みんなで作り上げる喜び」「人と出会う喜び」に誰もが共感できるからでしょう。あなたも是非、1960年代のロックが発し続けていた素晴らしい創造のエネルギーを感じて下さい!きっと、それはあなた自身にもエネルギーを与えてくれるでしょう。そしたら、是非そのエネルギーを今に生かしていただければと思います。

<追記>
 この作品が古く思えないのは、画像の美しさ、音楽の良さ、それにファッションの面白さにもありそうです。この頃のファッションは今まさに復刻流行しているエスニックでカラフルなスタイル、そのものです。そのあたりも見ていて楽しいです。たぶん業界的には2005年がそのピークだったのかもしれませんが、・・・。(一応、私ファッション業界の人間なので・・・)

「フェスティバル・エクスプレス Festival Express」 2005年
(監)Bob Smeaton
(製)Gavin Poolman , John Trapman
(撮)Peter Biziou , Bob Fiore
(編)Eamonn Power
(出)The Band , Delaney & Bonny & Friends , The Frying Burrito Brothers
   Grateful Dead , Buddy Guy Blues Band , Janis Joplin , ShaNaNa
   Ian & Silvia & The Great Spechled Bird , Mashmakhan

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