FIFA腐敗の原因と改革の行方

BBCドキュメンタリー番組「FIFA腐敗の全貌に迫る」

- アンドリュー・ジェニングス -

<衝撃の逮捕劇>
 2015年5月、スイス警察がサッカー界の最高組織である国際サッカー連盟FIFA(Fédération Internationale de Football Association)の幹部7人を逮捕。長年行われてきたFIFA内の不正が明らかになり始めました。この逮捕劇は、スイスだけではなくアメリカでも行われていて、世界的な規模によるもので、最終的には組織のトップに君臨してきたブラッター会長の起訴にまで及ぶことになりました。
 FIFA内部ではいったい何が起きていたのか?
 なぜ、組織ぐるみの不正が今になって明らかになったのか?
 そんな疑問に答えてくれる番組がBSドキュメンタリーで放送されました。イギリスの国営放送局BBC制作のドキュメンタリー番組「FIFA腐敗の全貌に迫る」です。この番組は、15年間に渡りFIFAによる不正行為を調査報道してきた記者アンドリュー・ジェニングスに密着し、今回の逮捕劇に至る事件の全貌を描いた内容になっています。
 FIFAが汚職まみれの腐敗した組織であることは、以前から様々な報道で知ってはいましたが、ここまで酷い状態だったとは・・・驚きです。

<マフィアと同等の組織犯罪>
 FIFAの不正行為はある意味実にわかりやすいものです。FIFA(世界サッカー機構)は、自らが統括する「ワールドカップ」から得られる放送権やスポンサー収入などの巨額収益だけでなく、世界各地のサッカー連盟が同じように開催する地域の大会などで得る利益からの上納金を集めます。そして、それをそれぞれの地域に分配し、地域サッカーの発展に貢献するわけです。ただし、収益をどう使うかは限られた理事たちとトップの意向により決まるので、いくらでもごまかしは利いてしまいます。ポケットに入れようと思えば、簡単にできる仕組みになっています。そして、それがメンバーの多くによって、公然と行われていたとしたら・・・。自分の懐を温めることしか考えない人間たちばかりだとしたら、サッカーによる地域発展が表向きのことだとしたら・、ひどい話です。
 FIFAの不正の構図は、理事会メンバーが組織ぐるみで行っていたことで、世界的な規模の犯罪シンジケートによる大掛かりな組織犯罪ということができます。そのことを、アメリカの上院調査会で記者のアンドリューが、「FIFAはマフィアと実質的な同じである」と指摘すると、上院の担当者はこんなことを語ったそうです。
「その指摘はマフィアに対して失礼かもしれません。マフィアの幹部たちはFIFA幹部のように高慢でもないし、自分たちの行為を不正であると理解していますから・・・」
 この番組に登場したFIFAの元職員によると、ブラッター元会長は職員たちにこう豪語していたといいます。
「世界中、どの国に行っても、その国のトップと会談が可能な唯一の男が私だ!」
 確かに彼ならIS以外のどの国のトップとも直接会談が可能かもしれません。政治も宗教も越えて対話が可能なのは、サッカーというスポーツのもつパワーによるものでしょう。(けっしてブラッター氏が偉大な存在だからではありません)
 しかし、そのサッカーのもつ恵まれた条件こそ、FIFAの理事たちが不正を行うことになった最大の原因なのかもしれません。

<腐敗の原点、ブラジル>
 アンドリュー記者は、そんなFIFAの腐敗の原点ともいえる土地ブラジルを訪れます。ブラジルといえば、ブラッターが会長になる前、彼の権力機構の基盤をすでに作り上げていたとも言われる前会長ジョアン・アベランジェの出身国です。(在任期間は1974年から1998年と24年にもわたりました。それだけ長いと腐敗もしますね)
 ブラジルといえば、国民の多くがサッカー(とカーニバル)に人生を捧げる国。そんな世界一サッカーに向けた情熱が熱い国では、サッカーのために行われる不正を認めてしまう傾向も強いと言います。南米サッカーといえば、「神の手」に代表されるように勝利のためにはファウル(不正)もまた良し・・・となりがちなのです。そんなお国柄のために、逆に大衆の多くはサッカーの名のもとに自分たちが搾取されていることにも寛容になってしまたのでしょう。その象徴ともいえるのが、ブラジル・サッカー連盟の巨大なビルです。
 ブラジル・サッカー連盟のビルの一階には、世界的スポーツ・ブランドであるNIKE(ナイキ)のメガショップが入居しています。もちろん、そのためにナイキ社は巨額のお金を支払っているのでしょう。しかし、ナイキ社とブラジル・サッカー連盟の関係はそんな商売だけでは済まない深い部分にまで入り込んでいるようです。かつてアベランジェがFIFAの会長だった時代に、ナイキ社はアベランジェとブラジル・サッカー連盟のトップ(アベランジェの娘婿)に巨額の賄賂を渡したことが明らかになっています。この頃から、ナイキ社はブラジル・サッカー連盟に大きな影響力をもつようになり、現在ではブラジル代表チームのメンバー選考にまで口出しをしているといいます。(ナイキ社がスポンサーとなっている選手がメンバー入りする方がいいに決まってますしね・・・)

<どうやって調査を行ったか?>
 FIFAの不正の調査を行ったアメリカ司法当局のチームは、マフィアなど巨大な犯罪シンジケートを捜査・解体する部門でした。そのために用いられた法律も、そうした組織犯罪を取り締まるためのものでした。当然、その捜査方法もハリウッド製犯罪映画のようにおとり捜査の手法が用いられました。
 ターゲットとなったFIFA理事会メンバーの一人チャック・ブレイザーの巨額収賄について証拠を固めたFBIの捜査チームは、その人物に接触。彼に脱税容疑で刑務所に入るか、捜査に協力するか二者択一を迫りました。(この時、彼の有罪の証拠をFBIに渡したのはアンドリュー記者でした)こうしてその理事は盗聴器を仕掛けられて、様々な会議や打ち合わせの現場に出席。裏取引の現場で次々と不正の証拠を集めることになりました。
 過去にも何度となく組織から不正を失くすためと称して改革運動が行われましたが、それらはすべて失敗に終わっています。たとえ一部メンバーの不正は明らかになっても、そのメンバーですらメンバーから除外されないのが、FIFAという組織の特殊性だったのです。理事会での不正は何の疑問もないまま行われていたのですから、内部のでの情報集めは簡単だったかもしれません。

<FIFAの改革は可能なのか?>
 こうしてアメリカの司法当局による調査が進行すると同時に、FIFAの本部が置かれたスイスの警察もまたFIFAの不正に関する調査を開始。組織の不正の構図がどんどん明らかになりだします。そして、この流れを受けて、かつてFIFAの組織改革に動いたために職場を追われた職員や理事たちが、不正の現状について証言を行うようになります。(この番組の主人公ともいえるアンドリュー記者もまたFIFAの取材から排除された存在でした)そうした内部の腐敗を知る証言者たちによると、2015年時点のFIFAの現状は1980年代末崩壊直前のソビエト連邦のようだといいます。
 かつてソ連は、政府内部の腐敗を排除しようと何度も改革を行おうとしましたが、そのたびに軍部を中心とした保守派によって潰されていました。結局、ソ連の改革は、共産主義の体制すべてが崩壊するまで不可能だったのかもしれません。FIFAもまた、同じようにトップも含めて理事会全員が退任し、組織そのものだけでなく運営方法や収益の分配方法まで含めてすべてを0から見直さない限り、本質的な変革はあり得ないのかもしれません。ただし、ソ連の場合はまだ一国の問題なので良かったものの、FIFAの場合はオリンピック加盟国の数より多い国と地域からなる世界最大のスポーツ組織なのです。そうなると、加盟するすべてのサッカー連盟の構造改革を実行しない限り、全体を変えることは不可能なのかもしれません。そう考えると、FIFAの組織改革など、永久に無理な気がしてしまいます。
(ちなみに、FIFAの傘下には6つのサッカー連盟があります。アジアサッカー連盟AFC、アフリカサッカー連盟CAF、欧州サッカー連盟UEFA、オセアニアサッカー連盟OFC、北中米カリブ海サッカー連盟CONCAFAF、南米サッカー連盟CONMEBOL)
 それでもかつてソ連崩壊の際、ゴルバチョフという英雄が登場したように、FIFAにも改革の中心となる英雄が現れるかもしれません。というか、そうした英雄的存在が現れなければ改革の成功はない気がします。それでも世界で最も多くの人に愛されているスポーツがサッカーなのですから、その中から英雄が登場する可能性もないわけではありません。その意味で、次回のFIFA会長選挙はサッカー界の命運を分ける重要なものになるのかもしれません。
 もうひとつ、「改革の英雄」を排出することは無理でも、日本サッカー連盟はこの問題では重要な役割を果たせるかもしれません。これまでFIFAの腐敗体質に巻き込まれずにいた日本サッカー連盟は、これから始まる改革における中心になる可能性があるのです。(日本サッカー連盟が不正行為に無関係だったのかはまだわからないのですが・・・)
 日韓ワールドカップ共催は、FIFA内部における裏工作の結果という説もありますが、この問題もこれから何か動きがあるかもしれません。ただし、この問題ではあまり過去を無視返さない方がいい気もします。なぜなら、日韓共催のワールドカップは日韓関係の改善にとって大きな価値があったことは間違いないからです。
 2016年2月、日本サッカー協会の副会長に岡田武史氏が就任すると発表されました。国際部門の業務も担当するとのこと。岡田氏の活躍に期待します。

<資本主義社会におけるスポーツ>
 FIFAの改革における最大の問題点は、もしかするとサッカーというスポーツがあまりにも人気がありすぎることにあるのかもしれません。資本主義社会において、人気スポーツはお金を稼げるスポーツであり、それは多くの企業の投資対象となります。そうなると必然的にスポンサーとなる企業からの影響を受けることにならざるをえません。そうなると、ナイキ社やアディダス社のようなスポーツ・ブランドだけでなく、コカ・コーラやマクドナルド、VISAなど、サッカーに関わりをもつ世界的企業とFIFAとの結びつきはなくならないでしょう。そうなると、FIFA内部の不正はいつでもまた起きる可能性があると考えなければなりません。
 この問題に根本的な解決方法があるとは残念ながら思えません。サッカーがペタンクと同じようなローカル・スポーツに戻らない限り・・・。

<参考>
「FIFA腐敗の全貌に迫る」

イギリスBBC放送制作

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