- フィッシュマンズ Fishmans -

<世界一の雑食音楽J−ポップ>
 元々ロックもソウルもレゲエも、みんな過去に生まれたポップスの混血であり、ルーツをたどることのできない音楽は存在しないと言ってよいでしょう。だから、明らかなパクリだったり、過去の曲をリメイクしたりサンプリング使用した曲だったとしても、その曲が素晴らしければ、それはポピュラー音楽としての役目を果たしていると言えるはずです。そんな中でも、最近のJ−ポップの雑食性は、世界一と言える状況にありそうです。そこには、日本自体にポピュラー音楽文化が希薄なこととか、新しいもの好きの国民性だということとか、いろいろな原因があるでしょう。とにかく、今のJ−ポップは、ほとんど世界のポップスからのパクリで成り立っているのかもしれません。だからこそ、そのパクリ・ネタの意外性や手法のオリジナリティーが魅力になっているとも言えるのです。

<新しい音楽と出会う喜び>
 しかし、そんな状況であればあるほど、聴いたこともないような新しい音楽との出会いは、貴重であり、大きな喜びを与えてくれるものです。そうでなければ、新しい音楽を探しにCDショップに行くこともないし、音楽雑誌だってみる必要もなくなってしまうのですから。というわけで、僕が1990年代になって見つけた素晴らしい宝物、久しぶりに僕を狂喜させてくれたバンドについて書きたいと思います。実は彼らのことは、解散してから知りました。しかし、音楽との出会いに遅すぎるということはないはずです。久々に愛すべき音楽と出会えたことに感謝しています。

 音楽は何のために 鳴りひびきゃいいの
 こんなにも静かな世界では
 心ふるわす人たちに 手紙を待つあの人に
 届けばいいのにね
              「新しい人」 (作詞)佐藤伸治
                          
<魚のような男たち>
 「名は体を表す」とはよく言ったものです。彼らのバンド名は、「フィッシャーマンズ」=「漁師」ではない。「フィッシュマンズ」=「魚のような男たち」です。魚たちが、軽やかに、しなやかに水の中を泳ぎ回る姿。彼らの音楽を最も的確に表しているのが、そんな水中の情景かもしれません。
 そのうえ、彼らの音楽は水中から空中へも漂い出し、空をゆったりと歩むこともできます。ついには、大気圏外へも飛び出し、宇宙から地球を望むことだってできるのです。
 宇宙空間に漂うちっぽけな惑星、地球。その惑星の海に浮かぶちっぽけな島国、日本。そして、そこで押し合いへし合いしながら生きているちっぽけな人間たち。そんな、ささやかで愚かな生命を宇宙空間の遙か彼方から見つめる優しい視線、それがフィッシュマンズが作り上げた独特の音楽空間なのです。

 冷たい夜はさあ 目の前かけぬけて彼女の孤独を
 そっと ノックするんだ トトン トトン トトン
 あー元気ですか 
              「ずっと前」 (作詞)佐藤伸治

<フィッシュマンズ>
 フィッシュマンズは1987年に結成されています。デビュー当時は五人組のレゲエ・バンドで、1991年に「チャッピー・ドント・クライ」でメジャー・デビューを果たしています。その後、メンバーは佐藤伸治(Vo,Guitar)、茂木欣一(Dr.)、柏原譲(Bas.)という三人組になり、ダブ・バンドの要素を強めて行きます。そして、ついに出世作となった「空中キャンプ」を1996年に発表します。この作品で彼らは、静かでゆったりとしたリズムのダブ・サウンドに、ささやくようなヴォーカルを乗せ、はるか宇宙のかなたまで広がるような夢のような音空間を作り上げました。
 彼らの凄いところは、凍りつくように寂しい現代の情景を恐れることなく表現しきる勇気にあるとも言えるでしょう。それを、ゆったりと止まってしまいそうなダブのサウンドに乗せることで、寂しいけれども、優しい独特のリズム感をもつ音楽を作り上げてしまったのです。1997年には、「宇宙、日本、世田谷」を発表。いよいよその音空間は拡がりをみせ、1998年には「ゆらめき In The Air」を発表しますが、そこで柏原が脱退、そして1999年にヴォーカル、ソングライターだった佐藤がこの世を去ってしまいます。これで完全にフィッシュマンズは幻の存在になってしまいました。

(追記)フィッシュマンズは完全に解散したわけではなく柏原が一時的に復帰し、その後も不定期ですが活動を行っています。佐藤氏の穴を埋め、泳ぎ続けるフィッシュマンズの今後の活躍を祈ります。(2005年7月16日)

 この世の不幸は全ての不安
 この世の不幸は感情操作とウソ笑いで
 別に何でもいいのさ    
         「幸せ者」 (作詞)佐藤伸治

<Fish Man>
 砂地が続く海の底を延々と泳いで行くと、そこには、まるで無限に広がる宇宙空間のような世界が開けてきます。砂の上にできた波紋だけが岸の方角を示していて、沖に行くほど、それも定かではなくなってきます。まるで竜安寺の石庭のように、所々に岩が砂地からのぞいていて、そこには小さな魚たちが群れています。それはまるで、宇宙空間に浮かぶ惑星のようにも見えます。海の底の水は冷たいのですが、慣れてしまえば自分の身体も海の一部になってしまったような感覚になってきます。そのうえ、もしかすると、これは夢の中なのではないのだろうか?という不思議な感覚にまでおちいってしまうかもしれません。寂しいけれど、ここは懐かしき母なる海。僕らはここで生まれて、地上に移り住んだ「フィッシュマン」なのです。

 だれかとだれかがどこかで二人出会ったら
 小さな小さな祝福の灯りがともって
 そして小さな時間の輪がまわり
 小さな想いがかけまわって
 ひとりでそうかとうなずくんだ
      「MAGIC LOVE」 (作詞)佐藤伸治

<締めのお言葉>
「距離が必要なんだ−間隔が。地球がどんなに美しいか鑑賞しようと思うなら、それを月とみることだ。人生の美しさを鑑賞するには、死という、見晴らしのきく位置から眺めることだ」
アーシュラ K. ルグィン著 「所有せざる人々」より

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