「2人のローマ教皇 The Two Popes」 2019年 |
(監)フェルナンド・メイレレス Fernando Meirelles
(製)ダン・リヒ、ジョナサン・アイリヒ他
(製総)マーク・バオフ
(脚)アンソニー・マクカーテン
(撮)セザール・シャローン
(PD)マイク・テイルデスリー
(音)ブライス・デスナー
(出)ジョナサン・プライス、アンソニー・ホプキンス、フアン・ミヌヒン
<あらすじ>
カトリックの聖職者による性的虐待事件が公となり、ローマ・カトリック教会のトップに立つローマ教皇ベネディクト16世は世界的な批判の矢面に立たされていました。それまで保守的な立場をとる教皇は、大きな改革をせずにいましたが、いよいよ動く必要に迫られていました。
ちょうどその頃、アルゼンチンの枢機卿フランシスコは、教皇に辞表を提出しようとバチカンに向かっていました。彼は改革派を代表する存在なので、その辞職を認めることは教皇が改革を認めないというメッセージと見られかねませんでした。そのため、教皇は彼の辞職を認めようとしませんでした。それでも二人はお互いの胸の内を明かし始め、少しずつ信頼関係が築かれ始め、教皇の心は大きく変化し始めます。 |
二人の登場人物の対話がほとんど映画のすべてなので、主役二人の演技と台詞が命の映画ですが、見事に成功しています。脚本の良さは高い評価を受けて良いはずです。
「神の存在は時代と共に変化するべきと私は考えます」
そう主張する主人公の考え方にたぶん日本人の多くは抵抗なく賛同できるはず。そこはキリスト教徒である必要はありません。
<ローマ教皇>
日本における天皇と同じようにローマ・カトリックの世界では「ローマ教皇」という位は一度選ばれると死ぬまで続ける必要がありました。それだけカトリックの世界で「ローマ教皇」が象徴的で重要な役割だということです。ところが、その暗黙の掟を700年ぶりに破った掟破りの教皇が現れました。それがこの映画の主人公ベネディクト16世です。なぜ彼はその掟を破ってまで自分の役割を降りたのか?この作品は、その理由と実現までの過程を事実の基づいて映像化したものです。
でも宗教界の裏話を明かしちゃってよいものでしょうか?カトリックに原理主義過激派はいないのかもしれませんが、この映画の企画が実現したこと自体がカトリック宗教界における大きな変化を証明しているのでしょう。そもそもこの作品はネットフリックスでの公開なので映画館では上映されないので、抗議デモを行うこともできないのですが・・・。(逆にカトリックの信者さんたちがこの作品を機に世界規模でネットフリックスを観始めたら、それは大変な効果です!)
映画「スポットライト 世紀のスクープ」に象徴されるようにカトリックの古くて陰湿な体質が悪いイメージを作ってしまった21世紀の今、この作品はそのイメージをプラスに転換する大きなチャンスなのは確かです。
<フランシスコ教皇>
「ロック・スター」とも呼ばれるフランシスコ教皇の存在無くしてこの作品はあり得ません。
軍事独裁政権によって支配されていた1970年代のアルゼンチンでカトリック教会の指導者として働いていた彼は、暴力的な政府と民主化を求める宗教界、市民との板挟みになり苦しんでいました。しかし、彼が所属するイエズス会(カトリックの一宗派)を存続するためには暴力的な軍事政権に妥協し従うしかない。そう考えた彼は多くの同胞を見殺しにせざるを得ませんでした。そのため民主化されたアルゼンチンで彼は批判の矢面に立つことになり、彼は罪を背負ってその後の人生を生きることになります。
ドイツ出身のベネディクト16世もまたナチス・ドイツ時代を生きた宗教指導者として「ナチの残党」と批判されてきた経緯がありました。厳格すぎる典型的なドイツ人とサッカーとタンゴが好きな典型的なラテン気質のアルゼンチン人である二人はまったく異なる宗教観をもつにも関わらず二人には、本質的な部分で理解し合えことが明らかにされます。しかし、そのことをお互いな認識するためには心を明かすだけの対話が必要でした。それがこの映画が描く最も重要な部分です。
<対話>
心の中をお互いが明かすことは誰にとっても困難なことです。そのことは宗教者でなくても理解できるでしょう。それでもカトリックの世界には「告解」という秘儀があります。そして、その告解の相手としてローマ教皇ほどの存在はいません。お互いが胸の内を明かし合うことで、信頼関係が生まれ、歴史的な改革が始まることになりました。
宗教的、民族的、経済的な対立が深まる21世紀の今、対話こそ最も必要なことかもしれません。さらに必要と思われるのは、貧富の差が拡大する一方の現代社会で宗教的な清貧の思想をもう一度見直すべきだということです。
映画「修道士は沈黙する」では、ヨーロッパ主要8カ国による経済会議に参加した修道士がその倫理観により会議の流れを大きく変えることになりました。映画「神々と男たち」では、イスラムの人々と共存していたカトリックの修道士がテロリストに誘拐され殺害されるまでの過程を描いていましたが、彼らの勇気ある行動には感動させられました。
もしかすると、今再び世界は神の救いを求め始めているのかもしれません。2019年に来日したフランシスコ教皇の人気と盛り上がりは記憶に新しいところです。グレタ・トゥーンベリさんと教皇二人がコンビを組めば世界最強の年の差コンビとして世界を変え得る気がします。
<使用されている曲>
この作品では、音楽も映画のアクセントとして重要な役割を果たしています。
ベネディクト16世のクラシック音楽、フランシス教皇の出身地であるアルゼンチンのご当地的な曲などが中心ですが、誰もが知るヒット曲も多くそれが映画をポップに見やすくしています。
以下の一覧をご覧ください! |
曲名 |
演奏者 |
作曲・作詞 |
コメント |
「ベサメ・ムーチョ
Besame Mucho」 |
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コンスエロ・ベラスケス
Consuelo Velazquez |
作者は15歳のメキシコの少女!
世界的なスタンダード・ナンバー
ビートルズもカバーしている |
「Amplius Lava Me」 |
The Tallis Schoars |
グレゴリオ・アレグリ
Gregorio Allegri |
イタリアの作曲家による合唱曲「Allegris' Miserere」より
「神よ、汝を憐れみたまえ」 |
「Ariwacumee」 |
Frente Cumbiero and
Mad Professor |
Toro Mario Galeano
Neil Jeseph Fraser |
フレンド・クンビエロはコロンビアのクンビア・バンド
マッド・プロフェッサーは英国のレゲエ系プロデューサー |
「La Fiesta Termino Pinata」 |
Los Pibes del Penal |
Adrian Pierro , Dalebe |
クンビアバンドの2018年同名アルバム・タイトル曲 |
「ピアノ協奏曲23番イ長調」
Piano Coneeto No.23 In A Major K488 |
ボビー・マクファーリン
Bobby McFerrin
チック・コリア Chick Corea |
W・アマデウス・モーツァルト
Wolfgang Amadeus Mozart |
モーツァルトによる代表的な古典派ピアノ協奏曲
ジャズ・ヴォーカルのボビー・マクファーリン
ジャズ・ピアニストのチック・コリアのカバー |
「ダンシング・クイーン Dancing Queen」 |
Royal Philharmonic Orch. |
Bjoern Ulvaneus
Benny Anderssen
Stig Anderson |
スウェーデンを代表する人気バンドABBAの大ヒット曲
1976年全米ナンバー1 |
「月の光 Clain de Lune」 |
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クロード・ドビュッシー
Claude Debussy |
フランスの20世紀初めを代表する作曲家
1890年発表の「ベルガマスク組曲」より
ドビュッシーの最もポピュラーな曲 |
「Tecleando」 |
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カルロス・フィガーリ
Carlos Figari |
カルロス・フィガーリがアルゼンチン・タンゴの作曲家
1952年アルゼンチンのアニバル・トロイロ楽団のヒット |
「Cafe Dominguez」 |
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アンヘル・ダゴスティーノ
Angel D'Agostino |
アルゼンチン・タンゴ黄金期のバンドリーダー、作曲家
多くのカバーがあるタンゴの名曲 |
「Tango Italiano」 |
コッキー・マジェッティ
Cocki Mazzetti |
Gualtiero Malgoni
Bruno Pallesi
Luciano Beretta |
コッキー・マジェッティはイタリア・ミラノのポップ歌手
同じイタリアの歌手ミルバのヒットが有名 |
「Epistrophy」 |
セロニアス・モンク
Thelonious Monk |
Thelonious Monk
Kenny Clarke |
モダン・ジャズの偉大なピアニストの曲
ドラムのケニー・クラークとの共作で1941年発表 |
「さらば恋人 Bella Ciao」 |
The Swingle Singers |
Ben Parry |
ザ・スウィングル・シンガースは1962年フランスで結成
アカペラ・ヴォーカル・グループ |
「Antiphone Blues」 |
Arne Domnerus & Gustaf Sjokvist |
Arne Domnerus |
アルネ・ドムネロスはスウェーデンのジャズ・サックス奏者
1975年録音のアルバムより |
「Cuando Tenga La Tierra」 |
メルセデス・ソーサ
Mercedes Sosa |
Angel Petrocelli
Daniel Toro |
アルゼンチン・フォルクローレの女性歌手
1973年発表 |
「Nobody Knows The Trouble I've Seen」 |
Grant Green |
|
1867年に発表された黒人霊歌
グラント・グリーンはミズーリ州の黒人ジャズ・ギタリスト |
「Minguito」 |
ディノ・サルーシ
Dino Saluzzi |
Dino Saluzzi |
ディノ・サルーシはアルゼンチンのバンドネオン奏者
1987年録音 |
「Rond De Ninos En La Montana」 |
Dino Saluzzi |
Dino Saluzzi |
|
「Tango A Mi Padre」 |
Dino Saluzzi |
Dino Saluzzi |
|
「ピアノ協奏曲第20番ニ短調」
Prelude To Concerto For Piano & Orch.
No.20 In D Minor K466 |
Bobby McFerrin
Chick Corea |
Wolfgang Amadeus Mozart |
ベートーベン、ブラームスらが愛した曲と言われます。
ソ連の独裁者スターリンはこの曲とK488が好きだった! |
「ブラック・バード Blackbird」 |
The Swngla Singers |
Paul McCartney
John Lennon |
ザ・ビートルズのアルバム「ザ・ビートルズ」収録
ポール・マッカートニーの単独曲で1968年発表 |
Andre Mehmari |
「Por El Sol Y Por La Lluvia」 |
Dino Saluzzi |
Dino Saluzzi |
1983年発表アルバム「kultrum」 |
「Sastanaqqam」 |
ティナリウェン
Tinariwen |
Abdallah A G. Alhousseyni |
マリ共和国だ活動するトゥアレグ族のバンド
2016年の同名アルバム収録 |
「ベサメ・ムーチョ Besame Mucho」 |
レイ・コニフと彼のオーケストラ
Ray Conniff & his Orch.&Chorus |
Consuelo Velazquez |
レイ・コニフ・シンガーズのバンド・マスター
1950年代から60年代に様々な曲のカバーで活躍 |
「Siete De Abril」 |
ブライス・デスナー |
Andres Avelino Chazarreta |
アンドレス・チェザレッタはアルゼンチンの作曲家 |