第二次世界大戦を背景にした英国刑事ドラマの最高傑作

「刑事フォイル Foyle's War」

<傑作ドラマの歴史的背景を知る>
- アンソニー・ホロヴィッツ Anthony Horowitz、マイケル・キッチン Michael Kitchen -
<久々の傑作刑事ドラマ>
 海外モノの刑事ドラマをしばらく見ていませんでした。アメリカ西海岸を舞台にした「刑事コロンボ」とそれに対抗して制作されたニューヨークを舞台にした「刑事コジャック」。この2作品をピークに本格的な刑事ドラマの時代は終わってしまったのかもしれない。そんな風に思っていました。現在でもなお再放送が行われている「刑事コロンボ」の人気とその影響力の大きさを考えると、それほど間違っていない気もします。
 その後、話題になった海外モノの推理ドラマ、刑事ドラマは、どれも普通の刑事が主人公ではなくなる傾向にあります。「ポリス・ストーリー」は警察官、「心理探偵フィッツ」は犯罪心理学者、「ツイン・ピークス」はFBIの捜査官でそれもかなりの変わり者、「Dr刑事クインシー」は警察医、「ロックフォードの事件メモ」は私立探偵、「名探偵モンク」は警察のコンサルタント、現代版の「シャーロック」は当然私立探偵です。その他にも、刑事もののコンビ作品などもありますが、どれもアクションものだったり、アイドルものだったりします。王道の刑事ドラマの傑作はその後めっきり見られなくなりました。そんな海外版の「刑事ドラマ」の歴史に久々に新たな1ページを刻んだのが、「刑事フォイル」です。
 なんとなく気になって、録画したシリーズ第一作「ドイツ人の女」を見始めて、オープニングからの10分で「これはいいぞ!」と思いました。映像のクオリティーの高さ、時代設定と場所の面白さ、音楽の重厚さ、俳優陣のリアルな雰囲気に名作誕生を予感しました。フォイルの上司役には、「ジャッカルの日」の主人公を演じたエドワード・フォックスがゲストとして出演していて、それだけでもやられたと思いました。そしてラストには、推理ドラマとしてなかなか予測できない意外な結末が用意されていて、大いに感心しました。
 これは「刑事コロンボ」以来の傑作かもしれない、そう思いました。とはいっても、このシリーズは単に「刑事コロンボ」の路線の延長にある作品ではありません。それでは、僕としては評価する気にはなれなかったでしょう。それは、今までの刑事ドラマとは、まったく異なるジャンルの犯罪ドラマとして画期的なものなのです。それは、実に複雑で贅沢な要素をもつ奥の深い作品なのです。ざっと考えて、このシリーズは以下の内容を併せ持っています。

<推理ドラマ>
 このシリーズは最後まで犯人がわからない場合が多く、推理ドラマとして実に巧妙に作られています。どの回も複数の犯罪や事件がからみ、容疑者も複数います。まったく異なる事件と思われたものが、最後に一つになる場合が多く、それが予想外の展開、犯人を浮かび上がらせることになります。
<戦争ドラマ>
 このシリーズは直接戦場が描かれることは、ほとんどありませんが、フランスへのパラシュート降下、英国上空での空中戦、ドイツとのスパイ戦、ダンケルクからの撤退作戦・・・様々な戦場周辺での戦いが描かれていて、戦場の悲惨さを浮かび上がらせます。さらには、石油備蓄基地や戦時下に食料生産を増やすために始まった農場、造船所、レーダー基地、医療施設、MI5など、戦争のために働く様々な人々も描いていて、戦場外のそれぞれの戦争を描いたドラマになっています。
<刑事ドラマ>
 このシリーズは戦場に行けなかった主人公、戦争で足を失った失意の刑事、女性として捜査に参加することもある運転手など、様々な立場の刑事、警察官による人間的で地道な捜査を描いた刑事ドラマです。
<ファミリー・ドラマ>
 このシリーズは主人公とパイロットとなった息子、障害者となったことから妻との関係を終わらせた刑事、働く女性という生きる道を歩む女性と牧師の父親、疎開先で事故に巻き込まれた少年、イタリア系であるために悲劇に巻き込まれたファミリーなど、その他にも毎回登場する家族の多くが戦争による悲劇に巻き込まれてしまうファミリー・ドラマとして感動的な作品になっています。
<恋愛ドラマ>
 主な登場人物のサム、アンドリューの恋物語だけだなく、戦場に行った男性との恋、国境を越え人種を越えた恋、そして、戦争で失った恋人との失われた恋。時代が生み出した恋の物語の多くは悲恋に終わりますが、それだけにどの恋も短くも美しく燃え上がる恋物語として描かれています。
<歴史ドラマ>
 このシリーズは第二次世界大戦という20世紀最大の戦争の中、1940年から終戦後までの7年間を時系列で追ったドキュメンタリー・タッチの歴史ドラマとしても見ごたえがあります。ダンケルクの敗北と撤退やレーダー開発の現場、ロンドンの空爆、細菌兵器の開発、ナチスの収容所、ロスアラモスの核実験、パレスチナ問題・・・様々な歴史的事件が描かれていて、そうした歴史的状況と事件との関りも重要な要素となってきます。それは時には、事件の結末を左右する場合もあります。

<NHKさん、続編も放送お願いします!>(2017年3月)
 ここでは、先日、NHKBSで放送された第一話から第14話までについて、<あらすじ>と当時の歴史的状況について書き出してみました。
 実は、このシリーズを見始めて、自分が第二次世界大戦については、戦争映画で見た有名な戦争や事件以外、全然知らないことに気づき、急きょ「第二次世界大戦の歴史」を調べてみました。当時の環境を理解するとより深く、より面白くドラマを観ることができるでしょう。
 是非、参考にしてください。
 2017年、ついに終戦までが放送されました。最終回が近づくにつれて、戦争による後遺症(肉体、精神)をおった様々な人々が登場し、ドラマのトーンが重くなって行きました。戦争に勝ったという高揚感はあまりないのが、やはり現代のドラマという感じです。
 ところが終戦を迎えても、まだこのドラマは終わらず、ここからまだ続きがあります。噂によると、フォイルさんは刑事ではなく警察ではなくMI5で働くとか?ええーじゃあ「刑事フォイル」じゃないんですけど・・・この続きはどうなるのか。今後ともNHKさん放送よろしくお願いします!


「刑事フォイル Foyle's War」 2002年~2015年
(制)AXNミステリー
(企)(脚)アンソニー・ホロヴィッツ Anthony Horowitz
(製)ジル・グリーン Jill Green(E1~4)、サイモン・パスモア Simon Passmore(E2~4)
(監)ジェレミー・シルバーストーン Jeremy Silberston(E1、2、4)、デヴィッド・タッカー David Thacker(E3)
(撮)デヴィッド・オッド David Odd(E1)、ピーター・ミドルトンPeter Middleton(E2、3、4)
(衣)ロザリンド・エビュット Rosalind Ebbutt
(編)イアン・ファー Ian Farr(E1、2、4)、ブライアン・オーツ Bryan Oates(E3)
(音)ジム・パーカー Jim Parker
(出)マイケル・キッチンMichael Kitchen(クリストファー・フォイル警視正)、アンソニー・ハウウェルAnthony Howell(ポール・ミルナー)、ハニーサックル・ウィークスHoneysuckle Weeks(サマンサ・スチュアート)、ジュリアン・オヴェンデンJulian Ovenden(アンドリュー・フォイル)
「ドイツ人の女 The German Woman」(1940年5月)
<あらすじ>
 イングランド東南海岸の街、ヘイスティングスがドイツ軍によって初めて爆撃されます。そして、パブの女性従業員が最初の犠牲者となりました。国内ではドイツからの移民たちが逮捕され始めます。そしてその頃、地元の弁護士のドイツ人妻が暗殺される事件が起きます。
 誰がなんのために彼女を殺したのか?その捜査を担当することになった地元警察のフォイル警視正は、海軍情報局への転属を希望しながら受け入れられずにいました。
 そんな彼の元に運転手、助手として、サマンサ・スチュアート(サム)が配属されてきます。
 ドイツ人妻はドイツ人を憎む何者かによって殺されたのか?それとも別の理由があるのか?爆弾で死んだ女性との関係は?
<ドイツの侵攻とチャーチルの登場>
 5月9日、ドイツ軍がオランダに侵攻。その後、ベルギー・ルクセンブルグ、フランスが次々と攻撃を受けることになります。そして、ドイツは英国にも宣戦を布告し、空軍による爆撃が始まりました。ドラマはまさにこの時期から始まります。当初はドイツとの戦争を避けるべきという流れがあった英国も、チャーチルをトップとする挙国一致内閣が誕生し、一気に戦時体制に入ります。
: 5月13日、英国の首相に就任したウィンストン・チャーチルは議会下院で就任演説を行います。
「私は血と労苦と涙と汗以外に、捧げるべき何ひとつも持っていない。あなた方は(首相になった私に)政策は何かと聞かれるであろう。私はこう答える。海で陸で、そして空で、神が我々に与え給うた全ての力と精神力で戦争を戦うだけである。また我々の目的は何かと聞かれるだろう。私はたったひとつの言葉で答えることができる。勝利。それだけだ」
 ヘイスティングスの街はヨーロッパに面した位置にあり、英国におけるドイツとの最前線にあったといえます。そんな街がドラマの舞台になりました。
「臆病者 The White Feather」(1940年5月) 
<あらすじ>
 フランスに渡った英国軍は、ドイツ軍の電光石火の攻撃により敗走し、ダンケルクの港から船での脱出を試みます。民間の船などの協力もあり、多くの英国兵が脱出に成功しますが、フランスはドイツ軍によって占領されてしまいます。
 第一次世界大戦の戦場で片足を失ったポール・ミルナーは、フォイルの助手となるために配属されます。彼はロンドンで親ファシスト派の集会に出席し、そのリーダーと知り合いになります。その後、ヘイスティングスのホテルで行われた親ドイツ派の集会で停電が起き、その間にホテルの女主人が射殺されます。
 誰が何のために彼女を殺したのか?反ファシスト派による犯行なのか?
<ダンケルク撤退作戦(ダイナモ作戦)>
 ゴート卿が率いる英国の海外派遣軍(BEF)は、フランス軍と共に戦闘を続けますが、フランス軍の敗色は濃厚でBEFは北フランスの海岸地域へと撤退。故国へと撤退する準備が開始されます。
 5月19日、北フランスの港町ダンケルクからの撤退作戦が始まります。しかし、撤退を待つ30万人を超える兵士に対し、英国はすべての艦船を使っても、最大で4万5000人しか救出できないことがわかっていました。そこでBBC(英国国営放送)などによる呼びかけが行われ、撤退作戦への協力要請に答えた600隻の船が参加します。しかし、ドイツ軍の攻撃により10隻の駆逐艦が沈没させられ、ダンケルクの街はドイツ軍によって包囲されてしまいます。撤退する船への乗船は英国兵が優先されたため、フランス軍との対立も深まります。
 5月26日から27日にかけては、わずか8000人弱しか脱出できませんでしたが、28日には18000人、29日には47000人が脱出。
 5月30日、兵の半数が残されたままのBEFを救出するために集められた「リトルシップス」たちが到着。ヨット、外輪船、タグボート、レジャーボート、漁船など様々な船がこの作戦にボランティアとして参加。これらの小さな船が大型船までの搬送を行うことで救出できる兵士の数は急増します。
 6月3日にこの作戦が終了した時点で、救出された兵士の数は33万8000人に達しました。(そのうち英国兵は19万3000人、仏兵11万)それでも港には8万人が残されたといいます。
 英国軍はここまでの戦闘で6万8000人の兵を失いました。
 この作戦はヨーロッパ戦線での敗北がもたらした「巨大な負け戦」でした。しかし、ここで救出された33万8000人の兵士たちは、その後、再び、ドイツとの戦闘に参加することになり、大きな戦力となります。改めて振り返ると、この敗走から、連合軍の勝利が始まっていたいえるのかもしれません。
<親ファシスト派との関係>
 この時期の英国では反ユダヤ思想、反共産主義思想と共に親ファシスト派が力を持っていて、ドイツとの戦闘を回避したいというグループとドイツとの和平を模索していました。この流れはアメリカでも同じでした。英国はまだ腰が引けた状態で戦闘を行っていたといえます。
「兵役拒否 A Lesson in Murder」(1940年6月) 
<あらすじ>
 良心的兵役拒否の青年が逮捕され、留置場で首つり自殺します。その青年を有罪にした判事の家で爆弾テロ事件が起き、そこに疎開していた少年が巻き添えになり死亡します。
 誰が何のためにテロ事件を起こしたのか?
 同じ頃、イタリアが英国に宣戦布告したことから、イタリアからの移民が経営するレストランが危機になろうとしていました。
<イタリア軍の参戦>
 6月10日、ドイツ優位の戦況を知り、どさくさ紛れにイタリアが英仏への宣戦布告を行います。イタリアは今のうちに自分の領土を獲得しておこうと企んでいました。当初、フランスはイタリアに自国領土を渡す代わりに、ムッソリーニにヒトラーへの仲介を依頼しようと考えていました。もちろん、ヒトラーにはそんな和平案など通じるはずはなかったし、チャーチルもその案には徹底的に反対しました。こうして、英国ではドイツ人に対する差別と共にイタリア人に対する差別が始まり、時には暴力的な事件にまで発展することになります。
 こうした事件は同じ時期の日本ではそれほど多くはなかったといえますが、英国にはすでに多くの海外からの移民がいて、それが国内の混乱の原因ともなりました。
<子供たちの疎開>
 ドイツ軍の空爆が始まり、ロンドンなどの都会から、多くの子供たちが地方の街へと疎開することになります。子供を預かることが可能な家庭で彼らは生活することになります。「ナルニア国物語」はそうして地方に疎開することになった子供たちが祖父の家で体験する冒険の物語でした。ただし、彼らは決してみんなが悲惨な生活をしていたわけではなく、素晴らしい思い出になることもありました。ジョン・ブアマン監督の映画「戦場の小さな天使たち」(1987年)は、そんな疎開先の子供たちを描いた傑作です。
<兵役拒否と人種問題>
 当時の英国では宗教的な理由などにより戦場へ行くことを拒否することは可能だったようです。(その代わりに仕事で奉仕することが求められましたが)しかし、社会的にも、そのことは疎外や虐待の原因になっていたことも確かでした。
「レーダー基地 Eagle Day」(1940年8月) 
<あらすじ>
 美術品の盗難事件が起き、フォイルはその行方と犯人を追うことになります。犯人として浮上してきたのは美術品を運んでいたトラックの運転手でした。その頃、フォイルの息子アンドリューは空軍でテスト・パイロット を勤めていましたが、レーダー開発の情報を漏らした疑いで逮捕されてしまいます。その頃、ドイツ軍は英国空軍を壊滅するための作戦イーグル作戦の準備を着々と進めていました。英国空軍はドイツ空軍の侵入に備えるレーダー網の完成と空軍の充実を迫られていました。
 美術品盗難事件の黒幕は誰なのか?アンドリューは本当に秘密漏えいを行ったのか?
<レーダー開発>
 アンドリューが参加していたレーダー開発は、その後の戦争の行方を大きく変えることになります。アンドリューのようなテストパイロットたちの仕事とレーダーを追う女性たちの共同作業により、レーダー開発の現場は多くのデータを得て完成の域に達することになります。そして、こうして完成されたレーダーによる探査技術によって、この後、連合軍は制空権奪うことに成功。それにより戦況は一気に連合軍側の有利へと変わることになりました。
<暗黒の木曜日>
 8月15日に行われたドイツ軍のイーグル作戦は数の上で上回るドイツの空軍を、英国軍の精鋭たちが技術で上回ることで見事に撃退に成功します。ドイツ軍は、この後この時の空軍の失敗から8月15日を「暗黒の木曜日」と呼ぶことになります。この時の優秀なパイロットたちの中には、ポーランドから逃げてきた多くのユダヤ人たちがいました。彼らの命がけの戦闘は英国人パイロット以上にドイツ軍には脅威となったのでした。
「50隻の軍艦 Fifty Ships」(1940年9月)
<あらすじ>
 サムの下宿がドイツ軍の空爆で焼けてしまいます。そして消火作業の混乱の中、家主の貴重品が盗まれていたことがわかります。フォイルは補助消防隊のメンバーを疑います。
 同じ頃、フォイルは友人夫妻に招待されたパーティーで英国に来ているアメリカの上級官僚と知り合います。彼は英国との秘密交渉に絡んでいました。
 ヘイスティングスの海岸で大酒飲みの便利屋の死体が発見され、自殺と判断されそうになりますが、フォイルはそれを他殺と考えます。そして、犯人が誰かを知ります。ところが、彼はその犯人を逮捕することはできないことを知ります。戦争という特異な環境のもとでは、正義がそのまま通じるとは限らなかったのです。
 犯人は誰か?なぜ逮捕できないのか?
 「戦争が終わったら、必ず罪を償わせる」そうフォイルが語るラストが素晴らしい、シリーズの魅力を象徴する傑作だと思います。
<対アメリカ交渉の行方>
 9月27日、日独伊三国同盟が結ばれます。この条約は、それまでドイツが行っていたヨーロッパでの作戦が世界中に向けられることを示すものでした。アメリカはこの条約の締結を知り、いよいよ対ドイツ、対日本との戦いを意識するようになります。ヨーロッパで孤軍奮闘していた英国はアメリカの参戦を求めますが、当時はまだアメリカ国内にはドイツとの友好を望む声もあり、ユダヤ人だけがファシスト政権の恐ろしさを叫んでいる状況でした。この時期は、先ずアメリカが軍事援助や資金供与などで英国に協力する交渉が行われている微妙な時期だったといえます。そんな政治交渉が本作の重要なテーマになっています。
「エースパイロット Among the Few」(1940年9月)
<あらすじ>
 偶然出あわせた国防市民軍の検問所を突破したトラックをフォイルとサムが追跡。しかし、そのトラックは運転を誤った末に爆発炎上してしまいます。そのトラックは石油貯蔵所から盗み出した石油を運搬する闇取引を行っていました。どうやってその石油は持ち出されたのか?サムは、トラック運転手として石油貯蔵所に潜入し、捜査を始めます。
 誰が、どうやって石油の横流しを行っているのか?しだいにフォイルは核心に迫りますが、横流しに関わっていたと考えられていた女性従業員が殺される事件が起きてしまいます。ところが、その容疑者として浮上してきたのは、フォイルの息子アンドリューでした。
 なぜアンドリューが事件と関わることになったのか?
 この時期ドイツ軍は英国への上陸作戦を当面行わないと決定します。その代わり、ドイツ軍はUボートや空軍の攻撃により英国を孤立させることで経済的にも精神的にも追い込む作戦に出ます。そのため、英国は食糧だけでなく石油も急速に不足し始めます。海外からの輸入に頼る石油を運搬するタンカーはドイツ海軍の潜水艦に狙われ、いよいよ石油不足が深刻化することになっていました。
 英国空軍はそうした船を守ったり、空爆にやってくる爆撃機を迎え撃つため、もっとも重要な役割を担うことになりますが、彼らの多くはその戦闘で命を落とすことになりました。
<英国空軍の精鋭たち>
 英国空軍は、優秀な混成部隊でした。イギリス人2334人、ポーランド人145人、ニュージーランド人126人、カナダ人98人、チェコスロバキア人88人、オーストラリア人33人、ベルギー人29人、南アフリカ人25人、フランス人13人、アメリカ人11人、アイルランド人10人
 中でもポーランドから亡命して来た兵士は8000人と多く、彼らが空軍に参加することで英国空軍の戦力は大幅にアップしました。彼らは素晴らしい技術を持つと同時に母国を奪われたドイツへの復讐心に燃えていて空軍のレベルを押し上げました。ついには、シコルスキ将軍のもとでポーランド空軍も編成されることになります。
 それでもドイツ空軍は、苦戦しながらも数で上回ることで、なんとか優位を保ち、英国空軍基地への爆撃により、飛行機、滑走路、パイロットを失わせ、英国空軍を危機的状況に追い込んで行きました。ところが、ここで空軍トップのゲーリングは大きな失敗を犯してしまいます。
 彼は、英国国民に心情的により大きな打撃を与えるためには、ロンドンなど都市部への攻撃を行うべきと考えたのです。こうして、ドイツ空軍は攻撃対象を空軍基地からロンドンなどの都市部へと転換。これにより多くの市民の命が失われることになります。ところが英国空軍にとっては、そのおかげで空港整備や航空機の開発、パイロットの訓練を進めることが可能になりました。これが英国空軍を復活させる重要な要因になったといいます。
「作戦演習 War Games」(1940年10月)
<あらすじ>
 ドイツ軍の英国への上陸作戦が近いと言われる中、国防市民軍の演習が行われることになり、フォイルはその審判役を担当することになりました。その頃、ヘイスティングス出身の女性秘書がロンドンにある食品加工会社の窓から転落死します。さらに同じ会社のオーナー宅に泥棒が入る事件も起きます。ところがその事件の犯人と疑われていた男が、国防市民軍の演習で何者かに射殺される事件が起きます。その男はフォイルの友人である英国の諜報員でもある弁護士と会っていて、転落死した女性とも知り合いだったことが分かります。こうして食品加工業者とドイツとの間に怪しげな取引関係が見えてきます。
 秘書の転落死は、自殺か他殺か?
 誰が何ののために演習中に殺人を行ったのか?
 ドイツとの戦争が始まっても、企業によってはドイツとのそれまでの取引を続ける場合もありました。当然それは法律的に処罰の対象となったので、秘密裏に行われることになりました。元々ヨーロッパでは経済的にも民族的にも結びつきは強く、家族の中にもドイツ系がいる場合も多いので、英国とドイツの間には様々なつながりがありました。それはスパイ行為の隠れ蓑になる場合もあり、このドラマ・シリーズでも何度かこうしたドイツとの関係が登場し、それがドラマをより複雑にすることになります。
「隠れ家 The Funk Hole」(1940年10月)
<あらすじ>
 政府の食糧倉庫に泥棒が入り、犯人の一人が撃たれますが、そのまま仲間と共に逃走します。次の日、行方不明の息子を探してほしいという母親からの捜索願があり、フォイルは彼が働いていた郊外のゲストハウスへと向かいます。そこはロンドンの資産家たちが疎開のために利用する高級なゲストハウスでした。
 同じ頃、フォイルはロンドンの防空壕で扇動罪の疑いをかけられ自宅待機を命ぜられます。そんな中、ゲストハウスに宿泊していたロンドンの議員の死体が森の中で発見され、自殺と判断されます。しかし、助手のミルナーは他殺と考え、フォイルに相談します。フォイルはロンドンの街に出て、そこで捜査を行います。するとフォイルの代行として、ロンドンからやって来たコリア―の家族が空襲によって命を落としていることを突きとめます。
 なぜコリア―はヘイスティングスにやって来たのか?
 食糧品盗難事件との関係はあるのか?
 ロンドンへの空襲が強まり、街には多くの防空壕ができていました。しかし、一般市民のほとんどは、危険とは知りつつも仕事の都合や住む場所の都合で街から出ることはできませんでした。それに比べ、資産家の多くはロンドン郊外の別荘や高級なリゾート・ホテルに住まいを移し、危険から逃れていました。そうした不平等もまた戦争によって明らかになり、英国国民の心の統一を妨げることになりました。
「丘の家 The French Drop」(1941年2月)
<あらすじ>
 フランスのルーアン近くにパラシュート降下した英国の諜報員が地雷で死亡します。その諜報員は、英国を代表する諜報組織MI5のメンバーではなく彼らと対立する組織SOE(特殊作戦執行部)に所属していました。SOEは当時失敗続きで、政府によって閉鎖される可能性がありました。、
 そんな頃、ヘイスティングスの本屋で爆発事件が起き、そこからMI5所属の少将の息子が遺体で発見されます。フィルは調査のため、SOEのトレーニングセンターを訪れます。すると事件の背後に二つの組織の権力争いがあることがわかってきます。
 この事件でも、フォイルは英国の秘密工作に関する秘匿を重視するよう迫られることになります。
 どこの国でも政府の組織には国内にライバル関係になる組織があり、予算の奪い合いなど様々な対立関係にあります。特に英国の場合は、昔からMI5(Military Intelligence Section 5、軍情報部第5課)という諜報組織が様々な事件で活躍していました。映画「イミテーション・ゲーム」でアラン・チューリングがドイツ軍の暗号機エニグマ解読を行ったのもMI5からの指示によるものでした。しかし、当時は軍事作戦を行うための組織として、もうひとつSOE(特殊作戦執行部)が存在して、その権力争いが熾烈でした。ちなみに英国ではもうひとつロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)が存在し、国内におけるテロ対策はここが担当するよう役割分担がなされています。(MI5は国内での諜報活動、MI6は国外での諜報活動を業務としています)
「癒えない傷跡 Enemy Fire」(1941年2月)
<あらすじ>
 英国空軍は歴史的建造物のディグビー館を徴用し、火傷治療の病院が開設されます。しかし、館の持ち主は徴用に納得しておらず、何者かによる病院運営を妨害する事件が多発します。
 その頃、フォイルの息子アンドリューは偵察中に乗っていた機が墜落し、脱出が出来ずに火傷を負います。脱出できなかったのは、整備の不備が原因でしたがその整備担当者が殺害されたため、アンドリューに殺人の疑いがかけられることになります。
 病院で起きた妨害事件と整備士殺害に関係はあるのか?
 アンドリューへの疑いは晴れるのか?
 1941年1月、連合軍はドイツ本土の港湾都市マンハイムへの空爆を実施ます。ここから連合軍によるドイツでの本格的な都市攻撃が始まります。当時は、連合軍はまだヨーロッパ本土への上陸作戦を計画すらしていなかったので、空軍が戦争の主役だったといえます。さらにドイツ軍による空爆も同じように頻繁に行われていたため、戦争被害者の多くは爆弾による火傷を負っていました。火傷の治療とそれに伴う皮膚移植は、この時期急速に発達することになります。
 しかし、火傷による傷跡は治癒しても、心の傷は癒えない場合が多いことが明らかになったのも、この時期だったといえます。心的外傷性ストレス障害(PTSD)という名の精神的な病の存在は、まだ広く認められたわけではありませんでしたが、その影響は明らかでした。「ライ麦畑でつかまえて」の著者J・D・サリンジャーも、この戦争でPTSDを患った一人です。
「それぞれの戦場 They Fought in the Fields」(1941年4月)
<あらすじ>
 フォイルとミルナーは街の空襲後に墜落した爆撃機に乗っていた2人のドイツ兵を逮捕します。同じ頃、農場主が椅子に座った状態で死亡しているのが見つかります。当初、それはショットガンを用いた自殺だと考えられますが、フォイルは他殺と考えました。
 さらにドイツ空軍のパイロットが木にぶら下がっているところを発見されますが、フォイルはその兵士への質問を軍の担当者に断られてしまいます。ところがその兵士は墜落後、自分のピストルを赤いジャケットを着た女性に奪われたと語っていたことがわかります。パイロットが発見された農場で働く女性たちの態度が不審だったことからフォイルは彼女たちに疑いを持ちます。
 この回では、フォイルの秘密兵器であるドイツ語が大事な役目を果たすことになります。
 当時、英国はドイツのUボート、空軍機による攻撃により様々な海外からの輸入品が途絶えていました。特にヨーロッパからの輸入に頼っていた食料品の不足は深刻でした。農業に従事する労働者も、その多くが徴兵されてしまい、それを補うために女性たちが活躍の場を与えられることになります。工場でも、農場でも、労働者の多くが女性となりました。この回の舞台は、そんな女性たちによる農場です。戦争は戦場で戦う兵士だけでなく、農場で食料を生産する女性たちもまた異なる戦いを行っていたわけです。
「不発弾 A War of Nerves」(1941年6月) 
<あらすじ>
 フォイルは、副警視総監から共産党のリーダーがヘイスティングスを訪れタルボット造船所でストライキを計画しているかもしれないので監視するよう依頼されます。
 同じ頃、フォイルとミルナーは資材の盗難事件を捜査していて、タルボット兄弟の造船所が怪しいとにらみます。
 そんな時、造船所へのドイツ軍による爆撃があり、その不発弾処理に爆弾処理がやってきます。その時、処理班のメンバーは工場内で大金を見つけます。
 その後、処理班のメンバーの一人が行方不明となり、死体で発見される事件が発生。それはどうやら爆弾処理班が見つけた大金が原因だったようです。
 爆弾処理班の兵士たちが見つけた大金は、どこへ行ったのか?
 この回もまたフォイルは犯人逮捕に失敗しますが、驚きの結末が訪れます。
 1941年6月、ドイツ軍は「バルバロッサ作戦」により、ソ連への侵攻を開始します。ここからドイツ軍による英国への侵攻作戦は遠のきます。5月にドイツのナンバー2、ルドルフ・ヘスが英国に単独飛行でやって来て交渉を行おうとしたのも、対ソ連で英国と協力関係を築こうという意図があったと考えられます。
 そんなとんでもないことが可能になり得ると考えるほど、共産主義に対する英国国内の反発は強かったということでもあります。共産主義者と手を組むくらいならファシストと手を組んだ方がまだまし、そう考える政治家も多かったということです。工場におけるストライキが、ソ連から送り込まれた共産党の工作員による破壊工作だと考えられていて、英国国内はその意味でも混乱が深まっていたといえます。そうした政治的混乱の中、私腹を肥やそうとする犯罪者もいて、この事件のように実に複雑にいくつもの事件がからみあうことになったわけです。
 政治、戦争、犯罪、思想対立、兵士たちの疲弊・・・様々な要素が混じり合うフォイル・シリーズらしい作品となりました。
「侵略 Invasion」(1942年3月)
<あらすじ>
 ついに連合軍に加わることになったアメリカ軍の兵士たちがヘイスティングスの街にやって来ます。彼らは街の郊外にある農園の土地に基地を建設し始めます。しかし、その農地の持ち主は、勝手に自分の土地を奪われたことに怒り、米兵たちに銃を向けます。
 ミルナーはかつて戦友だった兵士と再会しますが、彼はその翌日火事で焼死します。しかし、死体が発見された部屋の状況からミルナーは彼が殺されたのではないかと疑い始めます。
 その頃、アメリカ兵のための歓迎パーティーが開催される中、その会場で地元の英国人女性が殺される事件が発生し、殺人容疑で1人の米兵が逮捕されます。殺された女性は妊娠しており、米兵がその父親ではないかと疑われます。ところが、殺された女性は化学の知識があり、地元のパブで違法ウイスキーの密造に関わっていたことが疑われ始めます。
 1941年12月、ドイツはアメリカに宣戦布告を行い、いよいよアメリカとの戦闘状態に入ります。そのため、英国はヨーロッパへの上陸を目指す連合軍の前線基地となり、多くのアメリカ兵がやってくることになりました。ただし、当初はなぜもっと早く来てくれなかったのだ!という反発もあり、英国は歓迎ムード一色というわけではなかったようです。それでもアメリカ兵たちは英国各地で友好関係を築き、アメリカの文化を英国にもたらすことになりました。逆に、アメリカから来た黒人兵たちは、英国では自分たちが差別されないことに驚き、それが帰郷後の差別撤廃運動のきっかけの一つになりました。
 ドイツ軍はこの頃、ユダヤ人への差別からその抹殺(ホロコースト)へとその異常さを増しつつありました。彼らによる残虐なユダヤ人虐殺の情報が少しずつ海外へと広がり、ファシズムよりも共産主義と手を組むという究極の選択をアメリカに行わせることにもなりました。
「生物兵器 Bad Blood」(1942年8月) 
<あらすじ>
 海岸近くで行われた謎の実験で発生した煙により、多くの羊たちが犠牲になります。そころが、その死体の運搬中、そのひとつがトラックから落下してしまいます。
 ミルナーは幼馴染の女性から、殺人罪で逮捕された弟を助けてほしいと頼まれます。殺されたのは、ヨーロッパ戦線の英雄で、彼によって多くの兵士が船の転覆の際に救われたとされていました。ところが、その英雄を殺したと疑われる幼馴染の弟は、犯行を否定。しかし、なぜか彼は自分の知っていることを離そうとしませんでした。殺害に使われた凶器が医療用の器具だったことから、フォイルは医療関係に従事する人物と考えます。
 その頃、農場で次々に牛が死亡する事件が発生し、さらには牧場主の妻までもが原因不明の高熱を出し、ついには死亡してしまいます。どうやら、その原因は牧場主が拾った羊だったとわかってきました。しかし、その高熱の原因である病原菌の正体はつかめず、その間、サムまでもが謎の病で倒れてしまいます。どうやらそれは炭疽菌を使った化学兵器が原因だったとわかり始めます。
 1942年8月、連合軍はフランスへの上陸作戦「ジュビリー作戦」を実施しますが、海岸線に作られた擁壁に撃退され4000人の犠牲者を出し、大失敗に終わります。これによりヒトラーは大西洋側の守りに自信を持ち、攻撃をソ連側に向け集中するようになります。
 さらにドイツ軍は第一次世界大戦で使用した毒ガス兵器を進化させた病原菌を用いた細菌兵器の開発を進めていました。英国軍もそれに対抗する兵器の開発を行い、その中で「炭疽菌」を用いた兵器の開発も行われていたようです。「化学兵器」は、この後、国連によって制限されることになりますが、現在でもその使用が密かに行われており、オウム真理教の「サリン事件」のようなテロでの使用を生み出すことになります。

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