「ギャング・オブ・ニューヨーク Gang of New York」 2002年

- ハーバート・アズベリー Herbert Asbury、マーティン・スコセッシ Martin Scorsese -

<あまりに運命的な映画>
 映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」は、監督マーティン・スコセッシにとっては、長年あたためてきたライフ・ワークであり、久々に映画出演したダニエル・デイ・ルイスにとっても渾身の一作でした。しかし、残念なことに作品の完成度は今ひとつで、同時多発テロ事件の発生により公開が一年遅れるというハプニングもあり、興行的にも、評論家の評価の点でも、あまり良い結果は得られませんでした。(スコセッシ監督の作品は、どれも完成度が今ひとつなところが、魅力なのだと僕は思うのですが・・・)しかし、僕は個人的にこの映画が大好きです。そして、アメリカ人がこの映画を好きになれないであろう理由も良くわかります。なぜなら、この映画はニューヨークの街を築いた人々の裏面史であると同時に、アメリカの人々にとっては受け入れがたい「暴力」による発展の歴史を明らかにしているからです。もちろん、そこにはささやかながら「愛」の存在もありましたが、荒れ狂う「暴力」の前では実にはかない存在でした。そして、アメリカはそこから延々と続く裏の歴史を海外で展開し続け、それがついには9/11のテロ事件を生むことになったわけです。
 ラスト・シーンで主人公が見つめる燃え上がる街の映像は2001年テロ事件直後のニューヨークの姿を衝撃的に思い起こさせます。一年間公開を延ばさざるを得なかったのも当然でしょう。「暴力」によって築かれた街ニューヨークが「暴力」によって破壊させられる姿は、衝撃的であると同時に、輪廻の存在をも感じさせます。実際、ニューヨークの街で数千人規模の死者がでたのは、この映画に取り上げられた暴動の年、1863年以来のことなのです。

<未だ見ぬニューヨークの姿>
 この映画の最も興味深い点は、物語が「1863年のニューヨーク」という今まで見たことのない場所を舞台にしている点です。20世紀以降のニューヨークの街ならいくらでも映画で見ることができます。しかし、19世紀のアメリカと言えば、西部劇に出てくる荒野の中の小さな街か南北戦争前後の南部の農場以外ほとんど映画に登場することはありません。マフィアどころかイタリアからの移民すら現れていなかったニューヨークの街が存在していたことを、目の当たりにできただけでも、充分僕には驚くべき事でした。
 そこではイギリス系アメリカ人が支配階級として君臨し、アイルランド人と黒人がともに奴隷同然の扱いを受けていました。(そのため、暴動が始まるとアイルランド移民たちは先ず初めに当面のライバルである黒人たちをリンチにかけ始めました)
 今やアメリカの警察機構における最大勢力と言われるアイルランド系移民が元々はニューヨークの街を支配するギャング団から始まっていたとは、・・・。ニューヨーク警察もかつては汚職天国だっただけでなく、人種差別や過激な暴力でギャング団の上をいっていた時期もありました。警察官による人種差別が未だに無くならないのも、こうした伝統と無関係ではないのでしょう。その中心として有名なのが、アイルランド系移民の組織「タマニー・ソサイエティー」です。

<魅力一杯のギャングたち>
 この映画のもうひとつの魅力として、登場人物のキャラクターが実に面白いことがあげられるでしょう。特に脇役(悪役)たちの個性の強さは、カラフルな衣装や不思議なデザインの武器も含めてまるでアニメのキャラクターのようです。
 ダニエル・デイ・ルイス演じるビル・ザ・ブッチャー、ブレンダン・グリーソン演じるモンク(イーストマン)、それに政治家のウィリアム・トゥイード、ハッピー・ジャック、マグロインなど、誰もが生き生きとしています。
 それもそのはず、彼らのほとんどが実在の人物をモデルとして生み出されたキャラクターなのです。そう考えると、これらのギャングたちを生き生きと描き出している原作の「The Gangs of New York」にこそ、この映画の魅力の秘密が隠されていそうです。

<ハーバート・アズベリー>
 この映画の原作「The Gangs of New York - An Informal History of The New York Underworld」の作者、ハーバート・アズベリー Herbert Asburyは、1889年ミズーリ州に生まれています。したがって、この映画に描かれている1863年という年を彼は経験したわけではありません。
 1800年代の前半から、彼がこの作品を書いた1927年頃までのほぼ100年にわたるギャングの歴史を綴ったこの伝記物語は、新聞記者として活躍した彼のアンダーグラウンドに関する知識と情報が基になっています。しかし、現代ならまだしも1920年代にあれだけ社会の裏側、警察の腐敗を掘り起こすことは、かなり危険な仕事だったのではないでしょうか。
 牧師の息子、それもアメリカで最初のメソジスト派の主教に選ばれた人物を父にもつ彼は、その反動のせいか、典型的な放蕩息子として青春時代をおくりました。世が世なら、まさに「ロック世代のヒーロー」になっていたかもしれません。
だからこそ、彼が描いたギャングたちは生き生きと輝いており、そこに描かれたニューヨーク社会も最低最悪の犯罪社会でありながら、実に魅力的に思えるのです。

<1860年前後のアメリカ>
 ついでながら、1863年前後のアメリカはこんな時代でした。
1845年 有名なアイルランドの大飢饉
       この時、アイルランドから世界中に移民たちが旅立ちました
1848年 カリフォルニアでゴールド・ラッシュ始まる
1861年 南北戦争勃発
       このため、北部の軍隊のための徴兵制が始まり、そこでの差別(金持ちはお金を払えば徴兵されないですんだ)に反発して、徴兵暴動が起きたのです
1863年 ニューヨークで徴兵暴動
1869年 大陸横断鉄道完成
1873年 セントラル・パーク完成(古い公園なんですね)
1876年 リトル・ビッグホーンの戦い(南軍敗北へ)

<ニューヨークの街を築いた人々>
 この原作本の中で作者はこう書いています。
「・・・暴動の大部分は40年代か50年代にかけてヨーロッパの様々な都市でかき集められ、船に詰め込まれてアメリカの岸辺に吐き出された人間のくずだった。
 そのほとんどが、ニューヨーク市の土を踏み、この街に留まった。そして、間もなくバワリーやファイブ・ポインツや、他の地域のギャング団に共通項を見出し、そこに入り込んで、しっかり根を下ろした。もめ事の臭いを嗅ぎつけたとたんに巣穴から湧き出したのは彼らだ。彼らが組織した核の周囲に群衆が集まったのである」


<ダニエル・デイ・ルイス>
 それにしても、この映画のダニエル・デイ・ルイスのなんと魅力的だったことか!「存在の耐えられない軽さ」で、彼を初めて見たときも驚きでしたが、今回の迫力ある演技は文句なしです。映画俳優という仕事に疑問を感じ、靴職人になるためフィレンツェで修行をしているという話しもありましたが、・・・やっぱり彼は俳優をやるべきです。
 いつかまた彼を俳優に戻る気にさせる映画が現れてほしいものです。(なんだか、かつてのマーロン・ブランドのような存在になってきました・・・)
 最後に一言
「ニューヨーク、そこはギャングたちとその子孫たちによってつくられた世界最強のテロ国家のシンボルなのかもしれません。それでも、やっぱり僕は I Love New Yorkです!」

「ギャング・オブ・ニューヨーク Gang of New York」 2002年
(監督)マーティン・スコセッシ Martin Scorsese
(製作)アルバート・グリマルディー Albert Grimaldi
(製総)ハーベイ・ワインシュタイン Harvey Weinstein
    ミハエル・ハウスマン Michael Hausman
(撮影)ミハエル・バルハウス Michael Ballhause
(衣装)サンディー・パウエル Sandy Powell
(原・脚)ジェイ・コックス Jay Cocks、スティーブン・ザイリアン Steven Zaillian
     ケネス・ロナガン Kenneth Lonergan
(美術)ダンテ・フェレッティー Dante Ferretti
(出演)レオナルド・ディカプリオ Leonardo Dicaprio
    キャメロン・ディアス Cameron Diaz
    ダニエル・デイ・ルイス Daniel Day-Lewis
    リーアム・ニーソン Liam Neeson
    ヘンリー・トーマス Henry Hhomas(ETの子役!)
    ブレンダン・グリーソン Brendan Gleeson
    ジム・ブラッドベント Jim Braadbent
    ジョン・C・レイリー John C.Reilly
    ゲイリー・ルイス Gary Lewis
<あらすじ>
 19世紀初めのニューヨーク。イギリス系の移民たちの組織「ネイティブ・アメリカンズ」とアイルランドから大飢饉を逃れてやってきた移民たちの組織「デッド・ラビッツ」の対立は、ついに全面戦争となり、デッド・ラビッツのリーダー、ヴァロン神父(リーアム・ニーソン)は、ネイティブ・アメリカンズのリーダー、ビル・ザ・ブッチャー(ダニエル・デイ・ルイス)によって殺害されることで終わりを迎えました。
 それから16年、ヴァロン神父の息子アムステルダム(レオナルド・ディカプリオ)は、ビルへの復讐のため街に戻ってきました。正体を知られていなかった彼は、ビルの組織に潜入。度胸と頭の良さとからしだいにビルに認められてゆきます。しかし、彼がビルの愛する女性ジェニー(キャメロン・ディアス)と恋におちたことから、その正体をビルに知られてしまいます。ビルによって半殺しにされたアムステルダムはジェニーの看病のおかげで回復すると新生デッド・ラビッツを結成。ビルとの最終決戦に臨みます。
 しかし、この時ニューヨークの街は南北戦争をきっかけに起こった徴兵制拒否の暴動を抑えるため、北軍による総攻撃を受けようとしていました。彼らの戦いはその戦乱に飲み込まれてしまいます。彼らは雨のように降る砲弾の中で生き延びることができるのでしょうか。

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