欲望と自由の国、アメリカの原点

「ゴールドラッシュ(カリフォルニア) Gold Rush」
(1848年~1850年)
<ゴールドラッシュ>
 20世紀以前のアメリカの歴史を振り返る時、エポック・メイキングな事件として「アメリカ大陸の発見」、「独立戦争」、「西部開拓史」、「アメリカ先住民との戦争」、「南北戦争」、そして「ゴードラッシュ」があげられます。しかし、上記それぞれの事件が映画で様々な作品として描かれているのに比べると、「ゴールドラッシュ」に関する作品はあまり多くはない気がします。もしかするとその理由は、そこにハリウッド映画が描くべき「ヒーロー」がいなかったからかもしれません。
 「ゴールドラッシュの映画」といえば、チャップリンの「黄金狂時代」のようなコメディか、ハンフリー・ボガート主演の「黄金」のような欲望に狂った男たちの悲劇か、どちらかになってしまうのです。
 ある日突然、カリフォルニア北部の川で金が見つかり、その噂を聞きつけた人々が押し寄せることになった「ゴールドラッシュ」は、「ヒーロー」を生み出すことなく、「狂気」と「欲望」の混沌を生み出しただけだったのかもしれません。
 「ゴールドラッシュ」について書かれた本「カリフォルニアの黄金 ゴールドラッシュ物語」を読んで、僕はそんなことを思いました。
 ただし、そんな「混沌のゴールドラッシュ」ですが、その後のアメリカにとって、大きな文化的、地理的、経済的な意味を持つことになったとも考えられます。それは、意外なことに「黄金」が生み出した「経済力」ではなく、「混沌」が生み出した「自由な空気」によるものでした。
 ここから生まれた西海岸独特の「自由な空気」は、20世紀に入って「映画の都」ハリウッドを誕生させただけでなく、1940年代には砂漠の真ん中に賭博の街、ラスベガスを作り上げ、1960年代には「ヒッピー・ムーブメント」の中心となり、1970年代には「同性愛の聖地」を生み出し、1980年代には「シリコンバレー」から「IT王国」を誕生させることにもなります。
 アメリカが世界に誇る文化のほとんどは、もしかするとそんな「混沌のゴールドラッシュ」が生み出したのかもしれません。
 というわけで、アメリカ文化のルーツとなった「ゴールドラッシュ」について調べて見ました。

<ゴールドラッシュの原点>
 アメリカにおける「ゴールドラッシュ」の大きな特徴は、黄金が発見された場所が、当時はまだまったくの未開地だったアメリカの西の果てだったことです。実は、同じような「ゴールドラッシュ」は、もう一つの新大陸オーストラリアでも起きていますが、それは発見された場所の違いからまったく違う展開をみせることになりました。

 だから黄金は新世界のさいはてにあるのがよかった。ところがオーストラリアの場合黄金は、カリフォルニア・ゴールドラッシュの直後、メルボルンのすぐ北で発見された。もし島大陸北端のダーウィン周辺で発見されていれば、たとえそれが熱帯でも南部から北部へ猛烈なゴールドラッシュが起こり、それはラッシュ後もアジアへの突入につながっていったかもしれない。だがそうではなかったために、「巨大な無駄の連環」は狭い範囲でしか回転せず、この国の民衆的リズムの停滞につながり、またアジアを恐れて「白豪主義」で門戸を閉ざすに至る。・・・

 アメリカでは黄金を探す人々が西へ西へと向かうことで、開拓の流れが急速に進み、西海岸をアメリカにおけるもうひとつの中心地にすることになったといえます。そして、さらに重要なのは東海岸が政治や金融などの中心として今でも機能しているのに対して、西海岸は映画・音楽などのエンターテイメント産業やシリコンバレーに象徴されるIT関連のベンチャー企業活動の中心地になったことです。
 その最大の原因は、西海岸の住民たちが持つ独特の気風にあると思われます。それは、東海岸の質実剛健の気風に対する、自由で挑戦的な冒険精神であり、その遺伝子は「ゴールドラッシュ」が生み出したのです。
 自ら「ゴールドラッシュ」を体験したものの1857年には西海岸を去っている後に将軍となる人物はこう語っています。
「カリフォルニアでは万事が博打だ。ここの連中相手に安らかな生活を送るのは無理です」
ウィリアム・シャーマン将軍

「虚空に『なあに構うもんか!』という無鉄砲な気分がみなぎっている。どこから来るのか分からないが、とにかく濃厚に感じられる。まず太平洋から吹き付けるきつい風に当たると、酔っ払ったようになってしまう。・・・
 この都市の若者はここで一人前になり、途方もないベンチャー・ビジネスに乗り出して、・・・ばーっと派手に破産していく」

ラドヤード・キプリング(小説家)

<自由を求める人々>
 実はゴールドラッシュは黄金を求める荒くれ者たちによる暴力的な争いの場だったのか?というとそうではありませんでした。特にその初期は、未開の土地を先住民や強盗に狙われながら西部への長旅をし、そこで採掘調査を行えるだけの知識と財力が必要だったので、資産家や上流階級などそれなりの階層の人々だけが参加できる贅沢な冒険でした。
 したがって、西海岸には上流階級から無法者まで様々なタイプの人々が入り混じりながら、それぞれが身分や階級の違いに関係なく、自由な立場で冒険を行うことができていたのです。

 ゴールドラッシュとカウンター・カルチャーの類似は随所にうかがえる。金鉱地では俄鉱夫も俄商人も、ヒッピー同様、背後に棄ててきた社会階層や職業をひげ面、赤いフランネルシャツ、ジーンズの陰に隠して、誰もが同じ服装で生活した。

<アメリカ的競争原理>
 当時、政府はまだ後進国だったアメリカの経済力を上げるため、その財源となるはずの黄金の発見を急がせようと、自由過ぎる競争を行わせようと仕組みました。
 政府は、そのために「金」に関して、土地の所有権と採掘権とを切り離します。そうすることで、誰の土地で黄金を見つけようと、その黄金は発見者のものになるようにしたのです。そのうえ発見者は、発見した場所で水利権と金鉱へ辿り着く通路の権利も獲得することになりました。その鉱区は一人一区(50~100フィート)で水路沿いに共同で権利を得て、それをつなぐことも可能でした。そこまでして、政府は早く金を発見させたかったのです。
 要するに金を採掘する権利は、その土地の所有者ではなく、かってにその土地を掘り返して、最初に金を見つけた者に与えられるということです。そうなると早い者勝ち、発見した者勝ちなので、とにかく握って掘って掘りまくるしかないわけです。そうなると大土地所有者や大規模採掘業者が成功するとは限りません。

 とは言っても、ある日突然、金を発見し、一攫千金のチャンスをつかんだ発見者がそこから成功者としての地位をつかめずに失敗する例も多かったようです。確かにある日突然、宝くじに当選するように巨万の富を得られることになったら、そこからどう生きるのか?誰もが未経験のことなので、心構えもなく、当時はそんな人をサポートするコンサルタント業者も存在しませんでした。これが多くの人が成功できなかった最大の理由かもしれません。

 元来、歴史的事件には助走部分を構成する時期を経て、徐々にクライマックスに達する場合が多い。その場合は助走部分でクライマックスを担えるだけの人物たちが鍛え上げられている。日本の明治維新などがその典型だ。だが助走部分抜きでいきなりクライマックスが起こってしまう場合もある。・・・
 カリフォルニア・ゴールドラッシュもそうだった。だから歴史的事件の中心に、マーシャルのようにそれを担うだけの器量がない人物が位置するlことになった。


 ゴールドラッシュから生まれたドラマの多くが「成功のドラマ」よりも、「失敗のドラマ」だったのは、それを担う人物が「ヒーロー」になる器を持っていなかったせいなのかもしれません。それとも、そもそも「金」に目がくらんだ人の中からは、「ヒーロー」は生まれないのは当然のことなのかもしれません?
 その分かりやすい失敗例として、「ゴールドラッシュ」の生みの親であるジェームズ・マーシャルとジョン・サッターの場合をあげることができます。

 1847年8月23日、ジェームズ・マーシャルは、企業家のジョン・サッターに製粉・製材所を建てる大工として雇われました。彼はその仕事のために12人のモルモン教徒を雇い、さらに多くのアメリカ先住民を人夫として雇うことで建設を開始。
 その建設現場は、カリフォルニア北部のアメリカン川周辺部で、翌年の1948年、無事にその建設を終えた後、マーシャルは現場近くの水底から光る物体を発見します。調べるとその豆状の物体は金であることがわかりました。ところがここで彼は、ついついその発見を雇い主のサッターに伝えただけでなく、他の仲間たちにも教えてしまいます。そして、そのことが彼らに大いなる不幸をもたらすことになります。
 彼の雇い主ジョン・サッターは元々金探しが目的で、西部にやって来たわけではありませんでした。元々軍人として活躍していた彼は、メキシコの支配下にあったその土地を広く安く購入し、その開発を行おうとしていました。
 ところが、自分の土地から金が出てしまい、その計画が大幅に狂ってしまいます。情報が洩れ、金探しの亡者たちが押し寄せることになり、開発など不可能になってしまったのです。金を見つけた採掘者たちに土地を奪われた彼は、資金繰りに困り、サミュエル・ブラナンという商売人に多額の借金を負うことになります。ところが、その人物は詐欺的行為によって、サッターからその資産のすべてを奪い取ってしまいます。
 後日談ですが、この後、サッターを騙したブラナンは大きな成功を収め、カリフォルニアを代表する大金持ちへと成りあがりますが、カリフォルニア北部での温泉リゾート開発で失敗し、ほとんどの資産を失うことになります。

<ゴールドラッシュから生まれた英雄>
 結局、カリフォルニアで起きたゴールドラッシュにおいては、黄金を発見することよりも、採掘者たちが落とす金を集めた者が本当の成功者となったことを歴史が示しています。例えば、交通網の整備を行った鉄道事業や彼らの資産を動かしたり、融資を行った銀行家、土地の売買を請け負った不動産業たちはその代表的存在ですが、採掘者たちのために作った衣料品から歴史に名を残すことになった人物もいます。ジーンズの発明者リーヴァイ・ストラウスです。

 リーヴァイ・ストラウスは金鉱地へテントを売り歩いた。だが鉱夫たちは口々に、「めぼしい鉱石を突っ込むのでズボンのポケットの底が抜けるんだ。それにすぐ膝小僧が擦り切れてしまう。丈夫なズボンがないかなあ」とこぼした。ストラウスは試しにテント地で「頑丈な」ズボンを作った。確かに金鉱地向きだったが、ごわごわして股擦れが激しいので、改良を加えて今日のジーンズの祖型を作り出した。

 このジーンズはあくまで当初は頑丈な労働着として普及しましたが、1960年代になるとヒッピー・ムーブメントにおいてヒップな若者たちの間で大流行することになります。これもまた「西海岸の自由」が生み出した重要なアイテムの一つと言えるでしょう。(70年代には、西海岸でアップル社がノートパソコンを生み出します)

 同じ時期に西部の英雄の一人として人気があった強盗ブラック・バートは、人を殺さず、静かに駅馬車を襲って金品を奪うことで大衆の人気者になりました。彼は常にたった一人で動き、弾を込めない銃を持ち、徒歩で山を歩きながら馬車を襲撃していました。そんな彼のキャラクターは、その後、実在の強盗デリンジャーの人気に引き継がれ、映画における「ワイルドバンチ」の壁の穴一味、「明日に向かって撃て」のブッチとサンダンスなどとも共通する実にアメリカ的なヒーロー像の原点となります。

 ブラック・バート(チャールズ・E・ボルトン)は、頭の良さはジェームズ・B・ヒューム(ウェルズ=ファーゴ社の刑事部長)と互角で、しかも大衆から嫌われていたウェルズ=ファーゴ社に楯突いた上に、一度も殺生せず、現場に詩を残し、普段は紳士としてサンフランシスコで暮らしていた洒脱さが受けて、今日のBART(ベイエリア高速電車網)にまでその名残をとどめる人気者になっている。

 ゴールドラッシュの成功者はそう多くはありませんでしたが、そのままカリフォルニアに住み着く人々は増え続け、それなりの経済基盤を築いた人々は東部もしくはそれぞれの故国から女性たちを呼び寄せ、新たな家庭が次々に誕生することになります。

 ・・・ゴールドラッシュという「巨大な無駄の連鎖」には、新世界という最強の女性を征服するという最終目標が追加され、その征服の証である金で故国の女性を買いとる行為へと輪が閉じられ、無限に反復されていくのだ。反復の媒体は金である。

 こうして生まれた新しい家族を中心に自由な気風をもつ土地柄が誕生し、東部のヨーロッパ的で質実剛健な文化とは対照的な独自の文化が生み出されて行くことになります。そして、新世界に憧れるイギリスの人々は、そんな新しいタイプのアメリカの文学者たちを高く評価することになります。その代表的な存在が、ヨーロッパで大歓迎された作家のマーク・トウェインでした。その後も、ヨーロッパ社会は自由な気風が生み出すアメリカ独自の文化に憧れ続け、多くのジャズやブルースのミュージシャンたちがヨーロッパで大歓迎されることになります。

 東から西へと急速に移動発展したアメリカ文化は、巨大な二つの文化圏を生み出しました。しかし、急速なるがゆえにその間には空白の土地も多く、うち捨てられたゴーストタウンや巨大施設の多い独特の歴史をもつ土地になりつつあります。アニメ映画「カーズ」におけるゴーストタウンはそんな場所を舞台にしていました。こうした打ち捨てられた街の映像もまたアメリカを象徴的する存在です。

「過去はわが国におけるように、記念建造物によって現れず、残存物によって現れる」
ジャン=ポール・サルトル

 アメリカ映画におけるその象徴的な題材である「ロードムーヴィー」は、「ゴールドラッシュ」が生み出した東から西への人々の大移動がその原点にあると僕は思っています。それは、その後、1930年代にはスタインベックが「怒りの葡萄」で描いた貧しき人々の移住の旅となり、1950年代にはジャック・ケルアックの「ザ・ロード」を生み出し、1960年代には多くの若者を「花のサンフランシスコ」へと向かわせることになります。
 アメリカで時代ごとに生まれた「自由を求める旅」の原点は、「ゴールドラッシュ」にあるのです。


<参考>
「カリフォルニアの黄金 ゴールドラッシュ物語」
 1990年
(著)越智道雄
朝日選書

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