「グッド・モーニング、ベトナム Good Morning,Vietnam」 1988年

- ロビン・ウィリアムス Robin Williams
バリー・レヴィンソン Barry Levinson -

<ロビン・ウィリアムス>
 BSで放映されているアクターズ・スタジオの生徒を前にした公開インタビュー番組にロビン・ウィリアムスが出演しました。ロビン・ウィリアムスという俳優については、その笑顔が大嫌いだという人も意外に多く、賛否が別れる俳優かもしれませんが、僕にとっては、初めてみた彼の主演作「ガープの世界」以来、好きな俳優のひとりです。それに彼のアドリブ芸の面白さもわかっていたので、しっかりと見てみました。すると、期待を遙かに越える面白さで、久しぶりに一人で笑い転げてしまいました。台本なしで、あれだけ観客を笑わせることのできる俳優は、そうはいないでしょう。しかし、彼は、けっして天然ボケのコメディアンではありません。常に観客の反応を見ながら、理論物理学者になりたかったという切れ味鋭い頭の回転によって、笑いを生み出しているのです。
 しかし、その頭の良さは逆に彼の精神的弱さ、繊細さの証でもあったようです。そのため、彼は麻薬常用の深みにはまり込んでしまったこともあったそうです。(同時期のジョン・ベルーシと同じように彼は、死んでしまっていたかもしれなかったということです)
 しかし、天然ボケのキャラクターでないからこそ、彼はコメディアンとしてだけでなく、俳優として他の追随を許さない幅広い役柄をこなしてきたとも言えます。

<キャラクターの数々>
 英語がしゃべれないロシア人「ハドソン川のモスコー」(1984年)首と胴が離れてしまった王様「バロン」(1989年)、アドリブを多用したアニメの吹き替え「アラジン」(1992年)、女装したお手伝いさん「ミセス・ダウト」(1993年)、ゲイのナイトクラブ社長「バード・ケイジ」(1996年)、身体だけがどんどん大人になってゆく子供「ジャック」(1996年)、ロボットを演じた「アンドリューNDR114」(1999年)こうやって改めて挙げてみると、その役柄の広さは感動ものです。

<グッド・モーニング、ベトナム>
 そこで、あえて最も彼らしい役柄、映画はどれか?と考えてみると、それはたぶん「グッド・モーニング、ベトナム」ということになるのではないでしょうか。マイクを握ると、人が変わったように次から次へとギャグが飛び出してくるアメリカ軍向けラジオ放送のディスク・ジョッキー役、この役こそ最も彼自身に近い役だと思います(他に彼に近いのは、「いまを生きる」(1989年)の教師役、「グッドウィル・ハンティング」(1997年)の心理学者役など、学者的な役どころかもしれません)
 監督のバリー・レヴィンソン(「レインマン」、「ナチュラル」など)は、元々コメディー映画出身の演出家ということで、ロビン・ウィリアムスに自由にディスク・ジョッキーを演じさせたということです。そうやって撮られた数多くのテイクから、選りすぐったものを映画に採用したのです。

<バリー・レヴィンソン>
 バリー・レヴィンソン Barry Levinsonは1942年4月6日、メリーランド州ボルチモアに生まれました。ワシントン大学でジャーナリズムを学びながら、ローカルのテレビ局で働き、コメディーの台本を書き、エミー賞を二度受賞します。その後、コメディー映画界の巨匠メル・ブルックスのもとで映画修行を開始。大ヒットした「サイレント・ムービー」(1976年)などで脚本に参加。1982年青春映画「ダイナー」で監督デビューを飾りました。その後、ロバート・レッドフォード主演で大ヒットした「ナチュラル」(1984年)を撮った後、「レインマン」(1988年)ではアカデミー賞の作品、監督、脚本、主演男優賞を受賞するという快挙を成し遂げ、ユダヤ系移民のノスタルジアに満ちた傑作「わが心のボルチモア」(1990年)、ウォーレン・ビーティーのラスベガス創生の物語「バグジー」(1997年)、「スリーパーズ」(1996年)、「ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ」(1997年)など、話題作を数多く手がけています。

<戦闘シーンのない戦争映画>
 この映画の大きな特徴は、戦闘シーンがないということです。あるのは、テロによる爆発や爆撃機による爆撃の映像のみです。これは、監督があえてベトナム人を敵役、悪役にしないために選んだ方法であり、コメディー映画であるために選んだ方法でしょう。それは、この映画の良さでもありますが、物足りなさにもつながっています。
 ベトナム人の英語スクールの生徒たちが野球に熱中するシーンなどは、アメリカ人の文化押しつけの最たる例で、あまり気持ちの良いシーンとは思えません。(監督の野球好きのせいでしょうか?)

<美しい映像と音楽>
 さて、この映画の音楽ですが、当然のごとくこの時代の懐かしいヒット曲が次々と流れます。それも美しい映像との組み合わせが素晴らしく、それぞれの曲が楽しかったり、悲しかったり、上手い使われ方をしています。(あえて、悲惨な戦場の戦闘シーンを排除しているのも大きなポイントでしょう)
 逃げ場のない戦場を皮肉ったモータウンの名曲、マーサ&ザ・ヴァンデラスの"Nowhere To Run"、戦場でのつかの間の喜びを演出するジェームス・ブラウンの"I Feel Good"、そして、極めつけが、ルイ・アームストロングの「素晴らしき世界」です。

<素晴らしき世界>
 美しいベトナムの田園風景や人々ののどかな生活、そして戦場を離れたアメリカ兵たちの日常生活や移動風景は、どれも平和そのものです。しかし、この映画の中でも数少ない戦場シーンともいえる町中でのテロ、爆撃機による絨毯爆撃の映像が続き、雰囲気は一変しますが、その美しさは変わりません。爆発で広がるオレンジ色の炎までもが美しく描かれているのです。映像に合わせたこの膨大なカットの連続は、初めは「なんと世界は美しいのだろう!」と歌っていながら、しだいに「これでも世界は美しいのだろうか?」に変わってゆきます。しかし、20世紀を代表するこの歌は、そんな悲しい世界の現実を前にしてもなお、「それでも、世界はやっぱり美しいじゃないか!」とポジティブにとらえさせる力をもっているのです。凄い!
 ちなみに、この曲は発表当時イギリスでヒット・チャートのナンバー1に輝いています。それも4週連続のナンバー1です。ところが本国アメリカでは、なんと最高位116位だったのです。この情緒は、アメリカ人にはちょっと難しかったのかもしれません。

ルイ・アームストロング
 両親に捨てられ、極貧生活からはい上がり、さらに厳しい人種差別とも闘わなければならなかったにも関わらず、最後まで笑顔を失うことの無かったサッチモ。彼の歌のもつ説得力に改めて感動させられました。このほんのわずかのシーンだけでも、この映画を観る価値があるというものです。

「グッド・モーニング、ベトナム Good Morning,Vietonam」 1988年公開
(監)バリー・レヴィンソン Barry Levinson
(脚)ミッチ・マーコウィッツ
(撮)ピーター・ソーヴァ Peter Sova
(音)アレックス・ノース Alex North
(出)ロビン・ウィリアムス Robin Williams
   フォレスト・ウィテカー Forest Whitater
   チンタラ・スカファット Chintara Sukhaphat
   ブルーノ・カービー Bruno Kirby
   J・T・ウォルシュ J.T.Walsh

<追記>2014年8月
 この作品で出会ったロビン・ウィリアムスが2014年8月11日亡くなられました。(享年63歳)
 「グッドウィル・ハンティング」「レナードの朝」「ガープの世界」・・・彼の出演作にはずれはありませんでした。以前から麻薬の使用など精神的に弱くて繊細な人物であることは知られていたので、自殺という結果は驚きではありませんでした。でも彼ほど周囲から愛されていた俳優も少なかったはずです。自殺という結末を止めることができなかったことが残念です。やはり彼は孤独な人間だったのでしょうか。優しくて繊細なるがゆえに生まれた素晴らしい演技は、ロバート・デニーロのそれとはまた異なるものでした。
 彼もまた空へと旅立って行きました。ご冥福をお祈りいたします。

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