地球を変えた植物たちの物語
How Plants Changed Earth's History


「植物が出現し、気候を変えた The Green Planet」
<植物が変えてきた地球>
 地球環境はどのように変化してきたのか?
地球の現在の環境を作り上げたのは、プレートの移動や火山活動、それに気候変動、海流の変動など、地球物理学と呼ばれる大きな規模の地球全体の活動でした。
 しかし、最新科学の研究により、そうした地球全体の活動とはまったく別の小さな生命の営みが地球を変えてきた事実が明らかになってきました。
 「植物」による生命活動が地球の姿を大きく変えた来たことが明らかになってきたのです。
 そんな植物による環境改造の歴史をまとめた最新の本があったので、そこから「目から鱗」的な部分を選び出し、まとめてみました。そのテーマはこんな感じです。
(1)「葉っぱ誕生物語」
  カンブリア紀に登場した「葉っぱ」は、なぜ、なんのために生まれたのか?
(2)「腐海の森」は、なぜ消えたのか?
  かつて地上には、「風の谷のナウシカ」に出てきた「腐海の森」にそっくりの場所があり、そこでは巨大な昆虫がゆっくりと空を飛んでいたといいます。
(3)恐竜たちが世界を征した理由
  かつて恐竜たちが地上を支配することができた理由は何だったのか?
(4)「南極には森があった?」
  かつて南極には森があった?そして、その証拠を見つけたのは、あのスコット大佐だったというのです。
(5)植物の最新モード「C4植物」って何?
  森から草原へと地球の風景を変えつつある植物の進化形「C4植物」とは?
(6)地球薄暮化現象が人類を救う?
  地球温暖化現象が進む中、もしかすると別の要因がその進行を弱めているかもしれないという説

(1)「葉っぱ誕生物語」
 植物が陸上に進出した4億6500万年(カンブリア紀)、植物はまだ「葉」を身につけてはいませんでした。それでも4億1700万年前(シルル紀)の化石からは単純な維管束状の軸(原始的な茎)を持つ植物が発見されています。その植物(クックソニア)はまだ葉はないものの、葉の原形となる先端部の平らな部分が確認されています。
 この後、3億6000万年前にかけて(デボン紀の終わりのペルム紀)、植物は「植物版のカンブリア大爆発」の時代を迎えることになり、やっとこの時代の終わりになって「葉」が登場することになります。結局、植物が誕生してから5000万年の間、「葉」はないままの状態だったことになります。どうして、それだけの時間がたって初めて「葉っぱ」は世に生まれたのでしょうか?

 植物に「葉」を作り出させる遺伝子のセット(ノックス遺伝子)は、すでにその前から存在していたようです。それは、それ以前、植物がまだ水中にいた時代、すでに平たい葉状のものがあったことから証明されています。ではなぜ、その遺伝子のセットが生まれることになったのでしょうか?
 植物が陸上に進出した頃、地上は二酸化炭素濃度が高い温室効果による灼熱地獄でした。しかし、植物たちはその二酸化炭素の濃度を酸素に変換することで少しずつ下げてゆきます。二酸化炭素を減少させる最大の原因は、地上の岩石に含まれるケイ酸塩が風化する時に二酸化炭素を取り込むことです。気温が高いと気候変動は激しく風化は進みます。そのため、二酸化炭素はより急速に減少することになります。そんな中で、植物が陸上に進出。彼らは土に根をはることで岩石の風化を早めることになり、さらに二酸化炭素の減少を促進します。
 そして、二酸化炭素濃度が減ったことで、植物たちは光合成をより活発に行わなければエネルギーを得られなくなったため、その効率を上げるために「葉」の裏にある気功を増やす必要に迫られました。気功を増やすことは、そのまま葉の面積を広げることにつながっただけでなく、さらには大型化や多様な形状への進化が急激に進むことになりました。ここから、いよいよ現在へとつながる植物の多様性が生まれることになりました。
 さらに気功の増加は、光合成による水の蒸散を増やすことになり、周囲の温度を下げる効果を生み出すことにもなりました。この効果により、地上の気温は下げられましたが、それがどこまでも下がるわけではなく、植物の生育が年ごとに変化することでフィードバック機能が働き、地球の急激な気候変動を押さえることが可能になりました。
 こうして、植物の進化は地球の気候変動を進めたと同時に、その変化のスピードを緩和させることになり、それに合わせて地上の動物たちもまた環境の変化に合わせて独自の進化を遂げつ行くことになります。
<葉っぱの機能>
 葉っぱは気功による温度の調節機能以外にも重要な役目を担っています。
 冬期間に入る前に葉っぱを落とすことで無駄な光合成によるエネルギー・ロスをなくす落葉樹の仕組みは、寒い地域にも植物が広まるのに重要な役目を果たしました。さらに葉っぱから余分な水分を放出することで、厳冬期の凍結を防ぐ常緑樹があることもわかってきています。

(2)腐海の森は、なぜ消えたのか?
 現在の科学では岩石の成分から、過去の地球上における酸素濃度を知ることができます。それによると今から3億年から2億年前にかけて(石炭紀からペルム紀)、大気中の酸素が急激に増えた時期がありました。現在の地球上が21%なのに対し、ピーク時には35%に達し、その後、2億年ほど前(ジュラ紀)には15%近くにまで減った時期もありました。その後は、現在までほぼ20%強で安定しています。
 なぜそこまで大きな変動が起きたのでしょうか?そして、その大きな変動はどのような変動を地球にもたらしたのでしょうか?
 今から3億年前(石炭紀)の地上には、どうやら「風の谷のナウシカ」に登場する「腐海の森」に似た世界が広がっていたようです。例えば、2005年にスコットランドで発見されたウミサソリの化石からは、それが1.5mもの大きさだったことがわかりました。その他にも、羽を広げると63cmにもなる肉食の大型トンボ(メガネウラ)など、様々な巨大昆虫の化石が発見されています。
 どうやら酸素濃度の高さは、空気抵抗を高くすることで空を飛ぶ昆虫に有利な世界だったと考えられます。空気抵抗の大きさは、早く飛んだり走ったりするには不利ですが、ゆっくりと空を舞うのには適していたといえます。それはまさに、「風の谷のナウシカ」に登場した「腐海の森」を優雅に舞っていた虫たちの飛ぶ姿そのものです。
 もうひとつ酸素濃度が高いということは、生命活動にとってはより多くのエネルギーを得られることでもあり、それにより生物はエネルギーをより多く体内に取り込むことで巨大化が可能になりました。巨大甲虫にとってはまさに天国だったわけです。
 ではなぜその時代に酸素濃度が急激に高くなったのでしょうか?
 その原因のひとつとして植物が生み出した「リグニン」という物質の存在が上げられています。植物は光合成によって酸素を放出します。しかし、その植物が枯れると、今度はそれを微生物が分解する際、酸素を吸収して二酸化炭素を放出することになるので基本的にはトントンになります。(寒い地域だとそれは腐らないので、酸素が収支プラスになりますが・・・)
 ところが、植物が石炭紀の頃、新しい化学物質「リグニン」を生み出したことで、この状況が変わったと考えられるのです。「リグニン」は、植物がそれまでにない硬い体をもつことを可能にしました。それにより、植物はより大きくなることが可能になったのです。
 さらに「リグニン」は、当時生きていた微生物たちにとって分解不能な組成だったため、数百万年に渡り、リグニンをもつ植物は分解されず、その分の酸素はそのまま大気中にたまってゆくことになったと考えられます。
 したがって、リグニンを分解する能力を微生物たちが獲得するようになると酸素の増加にはストップがかかることになったと考えられます。
 2億5千万年ほど前、ペルム紀の終わりになって酸素は激減しました。そうなると、豊富な酸素に支えられていた巨大昆虫たちは生存不可能になってゆきます。空を飛ぶことも困難になり、体を大きくすることも困難になっていったからです。そして、この時期から地球上では多くの種が絶滅し始めることになります。

(3)恐竜たちが世界を征した理由
 ペルム紀の終わりに巨大昆虫たちが絶滅する中、逆に代謝が遅く、より少ない酸素でも生きられる種である爬虫類たちが活躍の場を広めて行きました。
 もしかすると、当時の酸素濃度の低下こそ、恐竜たちの黄金時代の原因ではないのか?そんな説があります。実は、地球上の酸素濃度が低かった時代と恐竜たちの黄金時代(ジュラ紀、白亜紀)は重なっているのです。
 では、酸素濃度が低下した要因は何だったのでしょうか?
 植物の化石を調べ、葉の表面にある気功の数を知らべることで、当時の二酸化炭素の濃度を調査した結果によると、ジュラ紀の始りの時期、二酸化炭素の濃度がその前の三畳紀に比べて3倍に増加していたことがわかりました。この二酸化炭素の増加は、温室効果の要因ともなり、地球の気温はその間、8℃近く上昇したと考えられます。ジュラ紀は恐竜たちにとって、繁栄のための条件がそろった素晴らしい時代だったのです。
 では、その二酸化炭素濃度の急上昇の原因はなんだったのでしょうか?
 その要因については、いくつかの説があるようです。
 最も有力とされている説は、火山の噴火によるものです。かつてパンゲア大陸が分裂し始めた時期、単体の火山の噴火とは比較にならない膨大な規模の噴火があり、大量の溶岩が地上に流出、それとともに400億トンもの二酸化炭素が空気中に放出されたことが推測されています。これが地球大気の成分を根本的に変える原因になったと考えられているのです。
 もうひとつ海底に作られていたメタンハイドレイ-トの層が、地殻変動や海流の変化によって表面に現れ、それが二酸化炭素を排出する大きな原因になったとも考えられます。二酸化炭素濃度の上昇は気温の上昇につながり、それが海水温を上げることで水中のメタンハイドレートがより多く溶け出すことになり、加速度的に二酸化炭素が増加することになるわけです。
 さらにこの時期、海水は急激に酸化することになり、そのため多量のプランクトンが死滅。そのプランクトンを餌にしていたより大きな生物や魚類もまた死滅することになったと考えられます。

(4)南極には森があった?(忘れられたスコット隊の偉業)
 1912年12月12日、救援調査隊によって、スコット大佐と2人の隊員の遺体が発見されました。その後、彼の日記や残された気象データなどから、様々な事実が明らかになります。その中から、なぜ彼らがアムンゼン隊の栄光の陰に隠れることになったのか、その理由も明らかになりました。
 その後明らかになったデータによると、1912年の南極の冬は、過去38年の中で最も寒い異常気象の年でした。異常な気温の低下により、橇が雪に接する部分が摩擦熱が加わっても解けないため、橇がまったく進まなくなりました。そのため、アムンゼン隊の橇をひいていた犬たち52頭のうち41頭は途中で命を落としています。そんな過酷な状況の中、なんとスコット隊は犬を使わず、人力のみで橇をひいていたのです。それでは帰りつけるはずはありませんでした。
 ところが、そんな危機的状況の中、スコット隊は貴重な化石の発掘作業を行っていました。それはかつて南極に森があったことを証明する重要な発見となります。この発見により、かつて地球は極地までもが温暖な熱帯の惑星だったことが証明されることになりました。
 そう考えると、スコット隊の命がけの調査旅行は、単に南極点に立っただけのアムンゼンよりも、より大きな意味があったと評価するべきなのかもしれません。
<異常な温暖化の原因>
 では、なぜ地球全体が温暖化する「温室状態」が生まれたのでしょうか?
 二酸化炭素濃度の上昇もその一因と考えられますが、それだけでは不可能なレベルと考えられます。(二酸化炭素が今の6倍でも困難なレベルの高さでした)そのため、他にも要因が考えられ、そこでメタンの増加をその一因とする説が登場しました。
 沼などに生息するメタン生成菌の活動が温暖化によって活発化。彼らが生み出したメタンガスは10年ほどで分解して二酸化炭素や水蒸気になり、これが温室効果ガスとして地球温暖化の要因になったと考えられます。(その他の温室効果ガス、亜鉛化チッソ、オゾンも増加していたと考えられます)メタンを生み出す湿地や熱帯林が多かった当時は、現在以上に多量のメタンを生み出す環境だったとこは確かです。
 こうした温室効果ガスの急増が地上にフィードバック効果を発生させることで、大気温度を急激に上昇させたと考えられそうです。
<異常な温暖化の終わり>
 では、なぜ地球全体の温暖化にストップがかかったのでしょうか?
 5千万年ほど前に大気中の二酸化炭素濃度は急激に下がり始めました。その要因のひとつと考えられるのは、大陸移動によってできたヒマラヤ山脈などの隆起によって誕生した岩石が風化することで二酸化炭素と化合、消費されたためとも考えられています。
 明確な理由は未だに不明ですが、3000~4000万年前にかけて二酸化炭素は急激に減り、地球はほぼ現在に近い環境になったと考えられています。

(5)植物の最新モード「C4植物」って何?
 植物の光合成のメカニズムは、意外に最近までよくわかっていませんでした。詳細まで明らかになったのは、サイクロトロンが発明され、目印となる放射性炭素を含んだ化合物が植物内を光合成によりどう移動するかを追跡することが可能になってからでした。
 植物の中には、光合成で二酸化炭素を取り込む時、最初に作られる分子に炭素原子を3個含む(C3と呼ばれる)ものと4個含むもの(C4)があるとわかった。C4植物はサトウキビやトウモロコシなど、生産性の高い穀類や雑草に多いことがわかりました。(現在の植物のうち1/5がC4植物でその中心はイネ科)
 C4植物は光合成の効率を上げ、CO2が不足した状況に適応したとも考えられます。このC4植物が広がったのは600~800万年前、中新世に二酸化炭素濃度が低下した時期だったようです。(二酸化炭素濃度の減少は同時に気温の低下もともないました)
 C4植物が地球上に広がっていった要因として考えられているのは、酸素濃度の上昇にともなう山火事の増加です。現在の山火事の規模を大きく超える大火事が森を焼きつくすことで、そこにC4植物が進出したと考えられます。
 そう考えると、現在、我々人類は二酸化炭素濃度が増え続ける中、そのC4植物をさらに増やしつつあり、それにより森を消し去りつつあります。C4植物は人類を救うのか?その逆か?

(6)地球薄暮化現象は人類を救うのか?
 2005年、イギリスのBBCがシリーズ番組「ホライゾン」が「地球薄暮化現象」を特集しました。人類の産業活動が生み出した汚染物質の微粒子(エアロゾル)が大気中に放出されることで、地上に達する太陽光は減り続けています。(ぼんやりと輝く大気が太陽光を弾き返していると考えられます)太陽光が減少すると空気中の水蒸気をも減らすこともわかっています。空気中の水分が減れば熱をこもらせる存在(吸収装置)がなくなることで、気温の変動はより激しくなります。さらに太陽光が減れば当然気温も下がります。
 もしかすると「二酸化炭素濃度の上昇」は「地球薄暮化」と今、偶然にもバランスをとっているのかもしれません。皮肉なことに、もし大気が今、昔のようにきれいになってしまうと、地上に降り注ぐ太陽光が急増し、地球温暖化は決定的なものになるのかもしれません。
 科学の進歩は確実に急速に進んでいますが、まだまだ気候変動のシュミレーションは困難なようです。

<参考>
「植物が出現し、気候を変えた The Emerald Planet : How Planet Chnged Earth's History」
 2007年
(著)デヴィッド・ビアリング David Beerling
(訳)西田佐知子
みすず書房

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