イタリア式反米テロリズム宣言

「群盗荒野を裂く QUIEN SABE?」

- ダミアーノ・ダミアーニ Damiano Damiani -

<幻の映画>
 2013年NHKBSの映画劇場で久しぶりにこの映画を見ました。中学生ぐらいの頃、テレビの洋画劇場で見て以来なので40年近くたっていましたが、「群盗荒野を裂く」というタイトルとエンディングの衝撃だけは印象に深く残っていました。
 僕の心の中には幻の名作というイメージがありましたが、意外なことに映画史の本を読んでも、イタリア映画の本を見てもその名前は出てきませんでした。その上監督の名前も知らなかったので、あの感動は幻だったんだろうか?そう思っていました。
 というわけで、久しぶりにこの映画を見たのですが、いやなかなか良かったです。映像もきれいになっていたので古さもあまり感じられませんでした。調べてみると、この映画の監督ダミアーノ・ダミアーニはイタリア映画界の巨匠で、この映画は彼にとって異色作だったということもわかりました。そして彼の代表作のひとつ「警視の告白」もまた僕にとって印象深い映画のひとつでした。(これまた監督が誰かわからず、その後見ていない幻の作品でした)「群盗荒野を裂く」がコメディ・タッチもある娯楽西部劇なのに対し、「警視の告白」は警察内部の不正を告発したドキュメンタリータッチの重い作品で、まったく違うタッチの作品です。この二作の監督ということは、かなり幅の広い監督ということです。

<マカロニ・ウエスタン>
 そもそも1960年の後半、なぜイタリア人が「マカロニ・ウエスタン」と呼ばれる西部劇を撮ったのでしょうか?(「マカロニ・ウエスタン」という言葉は日本でつけられた呼称です)
 昔からイタリアの映画界は、芸術的な映画とは別にB級娯楽映画の分野で海外で稼ぐのを得意にしていました。たとえば、戦後最初の海外でのヒットは神話の実写化イタリア版「ヘラクレス」でした。アメリカ人俳優スティーブ・リーブスを主役とするその映画はイタリアだけでなくアメリカでも大ヒット。続編がすぐに作られました。
 その後も、イタリア映画は海外でのヒットを視野に入れた娯楽映画を売り物にしてゆきます。
グァルティエロ・ヤコペッティの「世界残酷物語」(1961年)に代表される残酷ものドキュメンタリー映画。「007」シリーズをパクッた映画。「ゴッドファーザー」のヒットに乗ったマフィア映画。「エマニエル夫人」のヒットに乗ったお色気映画もの。「エクソシスト」のヒットに乗ったオカルトもの。その他にもカンフーもの、ジョーズもの、なんでもパクり、盗作批判もおかまいなし。それはイタリアB級映画の美学でした。
 そんな中でも最も成功したシリーズのひとつに黒澤明の「用心棒」をパクッたセルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」(1964年)から始まったマカロニ・ウエスタンのブームがあります。(黒澤プロとの著作権問題のトラブルはその後ちゃんと和解が成立しています)1960年代後半は、ハリウッド映画ですら勢いを失い苦しんでいた時期です。そんな中、イタリアの映画界にとって「マカロニ・ウエスタン・ブーム」は大きな救いとなり、次々にイタリア製の西部劇が誕生します。
 セルジオ・レオーネ監督の作品以外にも、セルジオ・コルブッチの「続・荒野の用心棒」(1965年)、「さすらいのガンマン」(1966年)、ドウッチョ・テッサリの「夕陽の用心棒」(1965年)などが大ヒットしました。これらの監督たちはマカロニ・ウエスタンのブームに乗って、その人気を獲得し、その後も活躍することになりました。ある意味、マカロニ・ウエスタンは優れた監督の登竜門になったともいえそうです。(もちろん西部劇以外のジャンルで)この映画の監督ダミアーノ・ダミアーニにとっても、この作品は異色作でしたが、やはり単なるガンファイト映画にはせず、時代の雰囲気を見事に映し出す作品に仕上げたといえます。

<ダミアーノ・ダミアーニ>
 この映画の監督ダミアーノ・ダミアーニ Damiano Damiani は、1922年7月23日生まれで2013年3月7日に91歳でこの世を去っています。1950年代に映画監督としてデビューした彼は、40歳の時の監督作「禁じられた恋の島」(1962年)だサンセバスチャン国際映画祭でグランプリを受賞し、世界的にその名を知られるようになりました。
 ネオリアリズモの流れを汲む社会派映画の監督としての要素も忘れない監督として様々なジャンルの映画を撮りました。フランコ・ネロとマーチン・バルサム主演の「警視の告白」(1971年)はマフィアと警察上層部との癒着を追及した限りなく事実に基づく社会派のサスペンス映画で、モスクワ映画祭グランプリを受賞。(どうりで面白かったはずです!)
 さらに1985年の「実録マフィア戦争/暗黒の首領」でもベルリン映画祭で銀熊賞を受賞。イタリア国内の社会問題などを題材とした作品が多く日本では作品も多い監督です。
 「群盗荒野を裂く」は、1910年~1920年にかけて、メキシコで起きた革命戦争を舞台に作られた作品です。この時期のメキシコは独立はしていたものの実質的には植民地に近い状況にあり、政府は西欧諸国の支配の元にありました。そうした状況を変えるために有名なサパタを指導者とする革命軍が各地で蜂起し10年に及ぶ戦乱の時代が続くことになりました。
 ただし、多くの観客はこの映画をベトナム戦争への批判を込めた作品と考えていました。だからこそ、この映画はイタリア国内だけでなく世界各国で大ヒットとなったのでしょう。メキシコを舞台にしてイタリア人が描いたアメリカ式西部劇によるベトナム反戦映画。この映画の構図がその後もアフガニスタンやイラク、エルサルバドル、チリなど様々な国で繰り返されることになったことはいうまでもありません。
 映画ラストの主人公のセリフは忘れられません。アメリカ人からもらった金を見ず知らずのメキシコ人に渡した主人公はこう言います。

「この金でパンを買うんじゃない。ダイナマイトを買え!

<ジャン・マリア・ボロンテ>
 この映画の魅力のひとつは、主人公を演じたジャン・マリア・ボロンテの名演技でしょう。単純素朴で頭の悪い盗賊団のボスは、簡単に人を殺すくせに義理人情に厚い主人公の魅力的なキャラクターの存在なしにこの映画は成立しなかったでしょう。
 ジャン・マリア・ボロンテ Gian Maria Volonte は、1933年4月9日ミラノに生まれました。少年時代から演劇が好きで高校卒業後に地方劇団で大道具係として働き始めました。その後、ローマの演劇アカデミーに入学し1957年に卒業。ミラノで舞台俳優として活躍し、1960年頃から映画に出演し始めます。
 最初にブレイクしたのは、セルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」における泥臭い悪役の演技でした。その後もマカロニ・ウエスタンの人気とともに「夕陽のガンマン」(1966年)そしてこの作品に出演。見た目と違い、彼はインテリの左派急進派で、その後は社会派の重い作品に出演しながら貫禄のある大物俳優となってゆきます。薄汚いチンピラ役からマフィアの大物やインテリの大学教授まで演じ分けたイタリアが生んだ名優です。
 ちなみに、この映画で共演したイタリアを代表する美人女優カルラ・グラヴィーナと不倫関係となり、子供をもうけたことでも有名です。
<主な出演作>
「悪い奴ほど手が白い」(町の不正を追及し、暗殺されてしまう大学教授)、「黒い砂漠」(石油市場を牛耳る大物実業家エンリコ・マッティ)、「コーザ・ノストラ」(マフィアの大物ラッキー・ルチアーノ)

<タランティーノのお気に入り>
 あのクエンティン・タランティーノ監督は、この映画の大ファンだそうです。次から次に人を殺すガン・ファイトとその合間のコメディー。キャラの立ったクールな殺し屋と優しくてお間抜けな泥棒たち。アクション映画でありながら政治的かつロマンチックなラスト。
 もともとマカロニ・ウエスタンが大好きなタランティーノが好きなのは当然かもしれません。ちなみに2004年のヴェネチア映画祭で行われ「イタリア映画の知られざる映画史」という企画で、タランティーノが選んだ20数本の中の一本に入っています。
 他に選ばれている作品は、ルッジェロ・デオダートの「食人族」、ルチオ・フルチの「ビヨンド」、セルジオ・ソリーマの「復讐のガンマン」、フェルナンド・デイ・レオの「皆殺しハンター」などです。

<あらすじ>
 アメリカよりの政権を倒そうとする革命軍がメキシコを二分して政府軍と戦っていた時代。主人公のエル・チュンチョ(ジャン・マリア・ボロンテ)は仲間とともに政府軍を襲ってはその武器を奪い、それを革命軍の指導者エリアス将軍に届け金を稼いでいました。ある日、武器を積んだ列車を襲撃した時にお尋ね者というアメリカ人の青年を助けます。謎の多いその青年を仲間たちは疑いの目で見ますが、チュンチョは疑うことなく彼を仲間に入れます。実は、彼は政府軍に雇われた殺し屋で、革命軍の指導者に接近しエリアス将軍を暗殺するのが目的でした。
 その後、彼らは政府軍が支配する村を奇襲し解放、そこで機関銃を手に入れたチュンチョは村を離れ、革命軍の本部へと向かいます。革命軍の本部で彼は憧れの将軍と再会しますが、そこで彼は自分たちが残してきた村が政府軍の攻撃によって全滅したことを知らされます。・・・

 主人公チュンチョは人情に厚く、歌が大好きで女性と金さえあれば独立も神もどうでもよいという無学で田舎者のメキシコ人です。それに対して、金以外には興味がなく政治も神も信じないどこまでもクールなアメリカ人の殺し屋。性格は正反対でも、金に対する執着だけは共通する二人は仲間としてアメリカへと向かおうとします。そこに大きなどんでん返しが・・・。

「群盗荒野を裂く QUIEN SABE?」 1966年
(監)ダミアーノ・ダミアーニ
(脚)サルヴァトーレ・ラウリーニ
(撮)トニ・セッチ
(音)ルイス・エンリケ・バカロフ、エンニオ・モリコーネ
(出)ジャン・マリア・ボロンテ、クラウス・キンスキー、ルー・カステル、カルラ・グラヴィーナ、マルティーヌ・ベズウィック

<参考>
「マカロニ・マエストロ列伝」
 2005年
二階堂卓也(著) 洋泉社

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