20世紀アメリカ最後のインデペンデント監督


- ハル・ハートリー Hal Hartley -
<ハル・ハートリー>
「彼の見事なところは、つかの間の流行にはほとんど目をくれず、彼独特の世界観に背くことなく主流派に交わらない映画製作を続けながらも、啓発的で重要で非常に愉快であると大勢の人間に評価されるような作品を生み出していることである。このことからハートリーは、現代アメリカのインディペンデント界のやりがいと価値の全てを体現した人物だといえるだろう。・・・」
ジェフ・アンドリュー「インディーズ監督10人の肖像」より

 以前からハル・ハートリー監督の作品は気になっていたのですが、なかなか見る機会がありませんでした。先日、やっと彼の「愛・アマチュア」を見ることができたので、その面白さがわかりました。ということで、ハル・ハートリーという20世紀最後のインディーズ監督のことをご紹介します。

 ハル・ハートリー Hal Hartley は、1959年11月3日ニューヨーク州ロングアイランドで生まれています。彼は労働者階級が多く住む地域で育った後、ボストンのマサチューセッツ芸術大学に入学し、絵画を学びました。しかし、そこで彼の興味は絵画から映画に移り、8mmカメラを使った自主製作映画の制作を始めます。その後、ニューヨーク州立大学の映画学科に入学し、卒業後は映像関係の職を転々として、CM制作の会社などで働きながら、短編映画を撮り続けます。
 「「The Cartographer's Girlfriend」(1987年)、「Dogs」(1988年)などで評価を受けた彼は、テレビ制作会社の社長ジェローム・ブラウンスタインからの出資を得て、1990年「ニューヨーク・ラブ・ストーリー」で長編映画デビューを果たします。

「ニューヨーク・ラブ・ストーリー」(1990)
(監)(製)(脚)ハル・ハートリー(撮)マイケル・スピラー(出)エイドリアン・シェリー、ロバート・バーク、クリストファー・フック

「トラスト・ミー」(1990年)
(監)(脚)ハル・ハートリー(製)ブルース・ウェイス(製総)ジェローム・ブラウンスタイン(撮)マイケル・スピラー(音)フィル・リード
(出)エイドリアン・シェリー、マーティン・ドノヴァン、メリット・ネルソン、ジョン・マッケイ
 この作品で初めてハル・ハートリー作品に出演したその後の常連俳優マーティン・ドノヴァンは、当時、監督のことがよくわからず苦労したといいます。アメリカ人とは思えない生真面目で大人しい性格が、何を考えているかわからない印象を与えたのかもしれません。
 彼は演出の際、俳優に「演じない」ことを求めています。台詞どおりにしゃべり、それに対して自然にリアクションをする。それだけを求めたため、演じることを訓練してきた俳優たちには、不安に思えたのでしょう。
 そんな彼の演出は、日本の偉大な監督、小津安二郎を思わせます。実際、日本が大好きな彼は、「FLIRT/フラート」(1995年)を日本を舞台に撮っていて、その主演女優となった二階堂美穂と結婚しています。彼が多くの日本映画から影響を受けているのは間違いないでしょう。

「シンプルメン」(1992年)
(監)(製)(脚)ハル・ハートリー(撮)マイケル・スピラー(音)ネッド・ライフル(ハル・ハートリーの別名義)
(出)ロバート・バーク、ウィリアム・セイジ、カレン・サイラス、エリナ・レーヴェンソン

「愛・アマチュア」(1994年)
(監)(製)(脚)ハル・ハートリー(製総)ジェローム・ブラウンスタイン、リンゼイ・ロウ(製)テッド・ホープ(撮)マイケル・スピラー(音)ジェフ・テイラー、ネッド・ライフル
(出)イザベル・ユペール、マーティン・ドノヴァン、エリナ・レーヴェンソン、ダミアン・ヤング
<あらすじ>
 ニューヨークの道端で倒れている男の様子を見ていた女性(ソフィア)は、彼の意識がないことを確認してその場を立ち去ります。しかし、その男(トーマス)はその後、意識を取り戻し、近くのカフェに入ります。しかし、カフェで声をかけられた彼は自分の名前すら思い出せませんでした。店の常連客のイザベルは彼を自分の家に連れ帰ることにします。彼女は、長年修道院で暮らしていましたが、そこを出てポルノ小説を書いていて、連れ帰った彼にセックスの相手をしてほしいと頼みます。
 その頃、ソフィアは友人の経理士エドワードに夫のトーマスを窓から突き落として殺したと打ち明けていました。(死んではいなかったのですが・・・)実は、トーマスはソフィアに麻薬を強要し、ポルノ映画に出演させた悪人で、自らが関わる犯罪組織のボス、ジャック(オランダ在住)を脅迫し、大金を得ようとしていました。彼はジャックが行っている武器取引の情報が入ったフロッピー・ディスクを盗み出していたのです。ところが、その前にソフィアがトーマスを窓から突き落とし、彼に代わって彼女がジャックへの脅迫を続けようとしていました。
 しかし、ジャックは部下二人をすでにニューヨークに送り込み、脅迫者を殺そうと動いていました。二人はさっそく、トーマスの行方についての情報を得ようと彼の仲間だったエドワードを誘拐。そして、電気ショックによる拷問によって居場所を聞き出そうとしていました。
 トーマスの世話をしていたイザベルは、偶然ソフィアが出演していたポルノ映画を観て、つい最近彼女を映画館で見かけたことを思い出します。そして、トーマスが寝言で彼女の名前を呼んでいたことから、彼女の住所を調べる、そのアパートへと向かいます。トーマスとイザベルが、そこに着くとその部屋の窓が壊れていて、その下に自分が倒れていたことに気がつきます。すると、そこへ、ソフィアが現れ、すぐに彼女を追ってオランダからの二人組も部屋に侵入。五人が部屋で鉢合わせとなり、乱闘の末、二人組の片割れが窓から落ちてしまいます。3人はその場を去り、車に乗るとエドワードが用意してくれていた隠れ家へと向かいます。
 その頃、拷問されていたエドワードは、その場から逃げ出すものの、電気ショックによって精神がおかしくなり、街中で暴れ回った末に警察に逮捕されます。さらには、警察でも暴れた末、パトカーを奪ったうえ、自らが用意した隠れ家へと向かいます。隠れ家で4人は出会いますが、追手が現れて銃撃戦となり、追手は死ぬものの、ソフィアも怪我をしてしまいます。
 イザベルは、ケガをしたソフィアの手当てをするため、かつて自分がいた修道院に彼女を運び込みます。しかし、警察もまたその修道院へと迫り、その中から現れた銃を持ったトーマスをエドワードと勘違いして射殺してしまいます。

 長々と「あらすじ」を書きましたが、彼の作品の特徴は、ドラマとしての「起承転結」がなく、様々なエピソードが複雑に絡み合いラストへと向かって行く、その「魅力的で複雑な構成」にこそあります。それにしても、なかなかに説明が難しい複雑なお話です。(少人数編成で撮られたロバート・アルトマンの傑作「ナッシュビル」みたいな感じでしょうか?)
 この映画って、「犯罪映画?」、「ヒューマン・サスペンス映画?」、「ラブストーリー?」、「コメディ?」、「悲劇?」…どのジャンルにも収まらないこの作品の不思議な物語構造こそが、最大の特徴なのかもしれません。他の作品も、あらすじの複雑さは同様のようです。どんなジャンルにも属さないお話こそが「ハル・ハートリー映画」の基本であり魅力なのです。
 とはいえ、この作品のDVDに収められた特典映像によると、この映画は「記憶を失っていた聖人が実は罪人だったことを思い出してしまうという悲劇」とのこと。過去の記憶を失ってしまっても、なお、「罪人」はけっして「善人」にはなれないものなのでしょうか?
 実は、彼の中ではしっかりとしたテーマがあり、そのためにドラマはしっかりと意味を持って組み上げられているのだと思います。ただし、彼は自分でも認めているように、性格的に生真面目すぎるようで、それを補うためにあえて「笑い」の要素を盛り込んでいるそうです。
 最近のインデペンデント出身監督は、簡単にハリウッド・デビューを果たし、メジャー監督へと転身してしまうので、成功か失敗かどちらかしかないようです。それに対し、彼のスタイルは基本的には変わらず、アメリカでヒットすることもないし、映画会社からの資金提供もなかなか得られないようです。その意味でも、彼はロバート・アルトマン亡き後、最後のインデペンデント界の巨匠といえるかもしれません。
 彼はネッド・ライフルという別名義で作曲も担当するほどの音楽好きです。当然、使用する音楽にもこだわりがあるわけで、この作品のための曲も彼が好きなインディーズ系のロックで固められています。以下はこの映画の使用曲リストです。

「Mind Full of Worry」 The Aquanettas  1994年 ニューヨークの四人組ガールズ・パンクバンド 
「Tom Boy」  Bettie Serveert  1992年 オランダ出身のインディーズ女性ロッカー 
「Water」 P・J・ハーヴェイ P.J.Harvey  1992年 英国出身のインディーズ女性ロッカー、90年代から00年代に大活躍 
「Then Comes Dudley」  ザ・ジーザス・リザード The Jesus Lizard    テキサス州オースティン出身の四人組オルタナ・ロック・バンド、80年代末から90年代に活躍 
「Only Shallow」  マイ・ブラディ・ヴァレンタイン My Bloody Valentine  1991年 アイルランド・ダブリン出身の四人組インディーズ・ロック・バンド、80年代から長く活躍
アルバム「ラブレス」収録 
「Here」  ペイヴメント Pavement  1992年 カリフォルニア出身のインディーズ・ロック・バンド、90年代に活躍
アルバム「Slanted and Unchanted」収録 
「Girls !,Girls !,Girls !」  Liz Pair     
「Japanese To English」  The Red House Painters  1992年 サンフランシスコ出身のオルタナ・ロック・バンド
アルバム「Down Colorful Hill」収録 
「Shaker」  ヨ・ラ・テンゴ Yo la Tengo    ニュージャージー州ホーボーケン出身のインディーズ・ロック・バンド
アルバム「I Can Hear the Heart Beating as One」(1997年)は名盤です!

<参考>
「インディーズ監督10人の肖像・・もうひとつのハリウッド・ドリーム」
Maverick Film Makers In Recent American Cinema
(著)ジェフ・アンドリュー Geoff Andrew
(訳)鹿田昌美
1998年 (株)キネマ旬報社

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