アメリカの原罪をえぐったノンフィクション小説


「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」


- デイヴィッド・グラン David Grann -
<実に面白い小説です!>
 あまりに面白かったので、久しぶりに一気読みしました。推理小説としても面白いし、FBI誕生秘話としても面白いし、人種差別問題を描いた社会派作品としても面白いし、アメリカ開拓史の裏側を描いた歴史小説としても面白い。そして、何よりあまりに衝撃的な真相に驚かされました。これがノンフィクション小説だとは思えない結末です。これからマーティン・スコセッシ監督によって映画化されるので、大変な話題作になることは間違いないでしょう。
 同じように恐ろしい映画でも、黒人への差別が生んだ警官による殺人事件を描いた「デトロイト」は恐い作品でしたが、この小説はもっと恐ろしい映画になりそうです。

<あらすじ>
 20世紀に入り、先祖代々住み続けてきた土地を追われたアメリカ先住民オーセージ族の人々は、オクラホマ州に不毛の土地を与えられ、そこの住人として細々と暮らしています。
 ところが、ある日、その土地の地下に巨大な油田が眠っていることがわかります。幸いなことに、先見の明があった部族のリーダーのおけげで、そこから産出する石油の利益を部族で分け合うことになります。そのおかげで、部族の人々は一躍大金持ちとなります。ここまでは懐かしのテレビドラマ「じゃじゃ馬億万長者」のような楽しいお話です。
 しかし、ある日、部族の女性と男性二人が行方不明となり、いずれも別々の場所で射殺された遺体が発見されます。連続殺人事件として、地元警察による捜査が始まりますが、被害者が先住民ということで捜査もおざなりで犯人は逮捕されませんでした。仕方なく二人の親族が私立探偵を雇って、警察とは別に捜査を行わせます。殺された二人には石油から資産があり、その権利を遺産として受け継ぐ人物が疑われることになりますが、捜査はそのまま行き詰まります。
 ところがここから次々にオーセージ族の人々が不審な死を遂げて行き、その犯人に迫っていたはずの人物は家に仕掛けられた爆弾によって家族と共に殺されてしまいます。24人のオーセージ族の死は全米の話題となり、その解決はアメリカの警察組織にとって重要な課題となって行きます。
 ちょうどその頃、地域の警察よって解決することができない難事件を科学的な手法と地域のしがらみにしばられない組織体制で解決するための組織FBI設立に向けた準備が始まっていました。そのトップを任されていたエドガー・フーバーは新組織の存在意義と力を証明するための、「オーセージ族連続殺人事件」の捜査に挑むことを指示されます。
 アメリカ中から注目される事件を解決するため、フーバーは特別チームを編成。そのトップにトム・ホワイトというテキサス・レンジャー出身の捜査官を指名。彼らはすぐに捜査をゼロからやり直し、それまでの捜査が見落としていた事実を見つけ出してゆきます。なぜか当初の捜査で無視されていた証言や証拠の中には、捜査の方向性を大きく変えるものもありました。
 当時、オーセージ族の人々は多額の収入を得ていながら、その使用法は後継人として選任された「白人」が実質的に仕切っていました。もし、当事者が死ぬとその遺産は配偶者や親類に残されますが、彼らの多くは白人と結婚していて、必然的にその遺産の多くが部族から失われることになっていました。改めて調査を行ったところ、この時期に様々な事故や事件が起きていて、なんろ24人のオーセージ族が死んでいることが明らかになります。
 事件は、いよいよ大規模な連続殺人事件の様相を帯びてきました。

<アメリカン・ドリームの行き先>
 成功するため、大金持ちになるためには、弱者を犠牲にすることは間違いではないと考えるのは、アメリカン・ドリームの基本です。そのためにアメリカは歴史上、様々な弱者の差別や排除を行ってきました。その原点にあるのは、アメリカ大陸に元々住んでいた先住民たちの土地を奪うことでした。そして、この考え方は未だに変わらず続いていることは、21世紀に入ってアメリカのトップに立ったトランプ大統領の言葉「アメリカ・ファースト」が示しています。
 かつてアメリカは、自分たちが移民としてやった来た国で先住民を征服し、その土地を奪っただけでなくその文化をも消し去ろうとしました。そんな彼らが今度は、メキシコからの移民の流入にストップをかけています。それは自分たちが過去に行った原罪を今でも忘れていないからなのかもしれません。いつか自分たちも同じ目に合うのではないか?そう怯えているからなのかもしれません。(思えば、我々日本人だってアメリカ人と同じように過去に琉球民族、アイヌ民族から土地を奪ってきたし、韓国、中国でも同じことを繰り広げた過去があるのです)
 この小説に登場する恐るべき犯人たちは、捕まらなかっただけでなく今もなお生き続けているのかもしれません。このノンフィクション小説の結末は、連続殺人事件の一部を解決するものの、それ以上に巨大な犯罪の存在を明らかにしてしまいます。あまりに恐ろしい結末です。カポーティの「冷血」も恐ろしいノンフィクション小説でしたが、この作品の恐ろしさはそれ以上かもしれません。(犯人の人数、被害者の数、犯罪のスケールの大きさから言っても)
 スコセッシ監督がどこまで描き切るか。映画化が今から楽しみです。

 映画は、レオナルド・ディカプリオ主演で2019年夏撮影開始予定とのことです。

「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」 2017年
Killers of the Flower Moon The Osage Murders and the Birth of the FBI
(著)デイヴィッド・グラン David Grann
(訳)倉田真木
早川書房

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