「ハーダー・ゼイ・カム The Harder They Come」 1972年

- ジミー・クリフ Jimmy Cliff -

<ブームを生んだ映画>
 映画と音楽が切っても切れない関係になった1950年代以降、新しい音楽ジャンルが誕生するとそれに合わせるようにして、その人気を決定的なものにする映画が登場するようになりました。
 古くは、ロックン・ロールにおける「暴力教室」(1955年)、ブリティッシュ・ビート・ブームにおける「ビートルズがやって来るヤア!ヤア!ヤア!」(1964年)、ウッドストック世代における「イージー・ライダー」(1969年)、「ウッドストック」(1970年)、ソウルの世界では「黒いジャガー」(1971年)、「スーパー・フライ」(1972年)、ディスコ・ブームなら、なんと言っても「サタデー・ナイト・フィーバー」(1977年)、ヒップ・ホップなら「ワイルド・スタイル」(1982年)、ニュージャック・スウィングの「ニュージャック・シティー」(1991年)、ブリット・ポップ、テクノ・ブームに火をつけた「トレインスポッティング」(1996年)などなど。それ以外にも、「マドンナのスーザンを探して」(1985年)、「U2魂の叫び」(1988年)、「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」(1989年)など、アーティスト自身によるライブ・フィルムとは違う優れた映像作品も数多くあります。
 これらの作品が、それぞれのジャンルを代表する傑作となりえたのは、単にブームに便乗したのではなく、逆にブームに火をつける役目を果たしたからです。そんな作品群の中でも、そのカリスマ的な人気と影響力の大きさで伝説と化した作品、それがレゲエ・ムービーの元祖「ハーダー・ゼイ・カム The Harder They Come」と言うことができるでしょう。

<ジャマイカのイメージを作った映画>
 イギリスの植民地から実質的なアメリカの植民地へとなってしまった国、ジャマイカ。アメリカのラジオ番組を聞きながら、R&Bからスカ、ロック・ステディー、そしてレゲエを育てた国、ジャマイカ。カリブの楽園として、リゾート開発を行いながら、一歩街を出るとスラム街が広がる貧しい国、ジャマイカ。今では、ある程度常識となったジャマイカのもつイメージを世界中に広めた最初の作品が、この映画でした。

<ジャマイカ初の映画>
 ところがこの映画、なんとジャマイカ初の劇場用映画だったのです。監督はジャマイカ生まれの白人、ペリー・ヘンゼル。彼はイギリスで育ち、テレビ・ドラマやCMの世界で活躍した後、故郷ジャマイカで初めて映画製作&監督に挑戦したのでした。
 映画の中に登場するリアルなキングストンの街並みを飾らず、欠かさず撮れたのは、やはり監督がジャマイカ出身であったことと半端ではない作品への情熱があったからでしょう。
 実際、この映画が完成した時、出演していた俳優が二人も射殺されてこの世を去っていたというエピソードもあるくらい、当時のキングストン周辺のスラム街、シャンティ・タウンは危険な場所だったようです。
 そんな街をとことんリアルに写し取ったことで、この映画は作りものではない「生きたジャマイカ」「生きたレゲエ」を描き出すことに成功したのです。(あまりにリアルに描きすぎたため、犯罪を誘発する恐れありとして、ジャマイカ政府はこの映画を上映禁止にしてしまったほどです)

<ジミー・クリフの魅力>
 もちろん、この作品の映画としての質が高いことは確かでしたが、主役のレゲエ・ミュージシャン、ジミー・クリフの魅力抜きにあれだけの成功はあり得なかったのも確かです。
 すでにジャマイカでは大スターになっていたジミー・クリフですが、この映画は10代前半でミュージシャンとしての活動を始めた彼の半自伝的作品でもありました。だからこそ、映画の主人公アイヴァンは、ジミーの演技によって生き生きとした生命力を持ちうることができたのです。
 特に作品中、主人公が中国人エンジニアのもつスタジオでレコーディングのチャンスを得るという逸話は、ジミーがデビューした時の出来事そのままで、バイロン・リーというダイナミック・サウンド・スタジオの主催者をモデルにしているということでした。

<レゲエ文化を紹介したカルト・ムービー>
 この映画は、1973年の作品ですが、映画の公開よりもサントラ盤の発売が先行し、いち早く音楽としてのレゲエ・ブームの火付け役となりました。そのため、映画の公開時にはすでに、この映画はカルト的な存在になっていたわけです。
 さらに作品中には、ジミーと並ぶ初期レゲエの人気バンド、メイタルズの録音風景もあり、音楽ドキュメンタリーとしても、レゲエ・ファンにはうれしい作品になっていました。

<レゲエの原点>
 小さな貧しい国で生まれた不思議なリズム「レゲエ」は、今や世界中のポピュラー音楽にとって、なくてはならない存在になりました。
 しかし、その原点は何か?と問われたら、「ハーダー・ゼイ・カム」を見ればよい!と言いたくなるほど、この映画の存在感は大きなものでした。この映画とボブ・マーリーの存在なくして、レゲエの世界進出はなかったかもしれません。

<サントラ盤の魅力>
 当たり前ですが、この映画のサントラ盤の聴き応えは充分です。
 テーマ曲とも言える"You Can Get If You Really Want","Harder They Come"の2曲は、もちろんのこと、リンダ・ロンシュタットら数多くのアーティストたちにカバーされることになった名曲「遙かなる河 Many Rivers To Cross」、スリー・ドッグ・ナイトがカバーした"Sitting In Limbo"、メイタルズの名曲"Sweet And Dandy","Pressure Drop"、これも有名な曲メロディアンズの「バビロン川のほとりで Rivers Of Babylon」など、素晴らしい作品集になっています。
 映像がなくても、音楽だけで充分に傑作です。

「ハーダー・ゼイ・カム The Harder They Come」 1972年公開
(監)(製)(脚)ペリー・ヘンゼル Perry Henzell
(脚)トレヴァー・ローヌ Trevor Rhone
(撮)ペーター・ジェソップ Peter Jessop
   デヴィッド・マクドナルド David McDonald
(音)ジミー・クリフ Jimmy Cliff
(出)ジミー・クリフ Jimmy Cliff
   ジャネット・バークレイ Janet Barkley
   カール・ブラッドショウ Carl Bradshaw

<あらすじ>
 アイヴァン・マーティン(ジミー・クリフ)は、シンガーを目指して、ジャマイカの首都キングストンに上京してきました。しかし、田舎者の彼はすぐに荷物を盗まれてしまいます。しかたなく、彼は教会に世話になり、下宿させてもらうことになり、牧師の娘エルザと恋に落ちてしまいます。その後、彼は歌手になるためにレコーディング・スタジオで大物プロデューサーに自分を売り込みますが、マリファナの密売事件に巻き込まれてしまいます。
(この物語は1948年警官隊によって射殺された脱獄囚ヴィンセント”ライジン”マーティンをモデルにしています)

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