2012年

- ヒッグス粒子発見の歴史とその衝撃 -

<ヒッグス粒子>
 2012年という年は、今後、世界史において、「ヒッグス粒子発見の年」として、大きな意味をもつことになるかもしれません。ここでは、超簡単に「ヒッグス粒子」の意味とその発見までの歴史について書いておこうと思います。
 「ヒッグス粒子」とは、その存在を理論的に予見したアメリカの物理学者の名前からとられた素粒子のひとつです。なぜ、その発見がノーベル賞間違いなしといわれるほど注目されるのか?それは「ヒッグス粒子」が、宇宙を形作っている最重要物質「ダークマター」なのではないかと考えられていたからです。(どうやらそうではなかったようですが・・・)


<「光あれ」から始まった宇宙>
 旧約聖書によれば、神はまず初めに「光あれ」といい、そこからすべてが誕生したとなっています。驚いたことに、現代科学の最先端の科学者たちもまた「宇宙の始まり」は「ビッグバン」によって「光」が生まれた瞬間であると考えています。しかし、光が生まれただけでは、現在の宇宙はけっして誕生しなかったであろう。ということも、多くの科学者たちによって明らかにされています。ビッグバンによって始まった光の拡散は、それを止める何らかの力が存在しない限り、永遠に続くことになり、そのままだと惑星も太陽も様々な元素も、、もちろん生命も生まれることはなかったはずです。
 しかし、実際には宇宙の拡散のスピードは、何らかの力が働いたことで抑制され、その影響で宇宙の各所に粒子の吹き溜まりのような場所ができました。それが太陽や惑星が誕生する場となり、そうなって初めて海や生命が生まれることになったのです。


<「ダークマター」とは何か?>
 宇宙誕生のきっかけとなった星の動きについて最初に気づき研究を始めたのは、アメリカの女性天文学者ベラ・ルービン博士でした。彼女は宇宙に広がる星の動きと速度を観察し、多くのデータを蓄積しながら、宇宙全体の動きをシュミレーションしていました。その結果から彼女は宇宙には何か強力な引力をもつ物質が存在し、それにより星ぼしは引き寄せられているという研究結果を発表しました。
 当初、彼女の発表に多くの科学者たちは否定的でした。しかし、データ的に宇宙の拡散が何かの力によって抑えられていることが証明されると、世界中の科学者たちが「その物質を発見しようとし始めます。その謎の力のもととなる物質は「ダークマター」と呼ばれることになりました。


<暗くて重い星>
 最初に「ダークマター」の候補として浮上したのは、「粒子」ではなく「星」でした。もし、宇宙に光を発しない重い星が一定数存在したとすれば、地球から観測することはできなくても、星ぼしを引き寄せることは可能なはず。そう考えられました。こうして「ダークマター」の正体と考えられた謎の星の探索が始まり、それらしき星の存在が確認されました。しかし、光を発しない星をどうやって発見したのか?それは「重力レンズ」を用いることで可能になりました。
 アインシュタインの相対性理論により、重力は光を曲げることが明らかになりました。ならば、もし、ある場所で光の湾曲が発見されれば、そこには光を曲げるだけの重量をもつ重い物質(星)が存在すると推測されます。そして、そこに星の姿が見えないとしたら、そこには光を発しない暗くて重い星が存在するはずです。こうして、宇宙全体の光の湾曲が調べられ、その中から謎の天体らしき星が13個発見されました。ところが、その星が「ダークマター」ではないことがこの後明らかになります。
 それは、宇宙全体の総量を計算すると、その重さの物質が拡散することを抑えるためには、もっと重い物質でなければならないことが明らかになったからです。前述の星なら、100個は存在しなければならないはず、という計算結果がでてしまったのです。再び「ダークマター」の存在は、謎となりました。


<ニュートリノ>
 次に「ダークマター」の候補として名前があがったのは、星とは正反対の小さな存在「ニュートリノ」でした。粒子として宇宙に多量に存在するニュートリノが、小さくても重さを持っていたならば、巨大な天体ではなくても、宇宙の拡散を抑えるだけの引力を生み出せるのではないか?そう考えられたのです。巨大で重い星から微小な見えない存在であるニュートリノへの方向転換は、まったく正反対の方向転換でしたが、理論的には十分ありえることでした。
 しかし、その後の研究で明らかになったニュートリノの重さは、宇宙の重さを支えるのに必要な重さの1/100程度しかありませんでした。ではいったい、どれだけの重さがあれば「宇宙」を支えることが可能になるのでしょうか?その研究については、大気圏外におけるスペース・シャトルによる調査が大きな役目を果たしました。宇宙空間における正確な測定により、宇宙全体に存在する物質の総量が推定値ながら明らかになったのです。そして、その総量に対して、今現在人類が把握している物質の重さの総量は、わずか15%にすぎないことも明らかになりました。なんと「ダークマター」は、宇宙の85%をしめているのでした。いったいそれはどこに存在するのか?再び「ダークマター」の探索が始まりました。


<謎の微粒子の存在>
 計算により「ダークマター」は目には見えなくても確かに存在することが明らかになりました。そして、その重さは理論的に水素の数千倍の重さをもつ素粒子に違いないことも明らかになりました。こうして、「ダークマター」が何かについて再びターゲットがしぼられ、巨大な観測装置によって液体キセノンに加速した粒子を衝突させる実験が行われました。この時、玉突きのようにはじき出された素粒子を超高感度の光センサーがとらえることに成功しました。問題は、この衝突の際、一様に(均一方向に)素粒子がはじき出だされているかどうかです。
 物質同士がが衝突した場合、衝突前後の運動量は必ず保存されるはずです。それに対して、もし、その衝突の際、均一な拡散がなく、そこに光センサーがとらえられなかった部分が見つかれば、それは光を発しない物質が衝突した跡と考えられます。そして、それこそが「ダークマター」と考えられるのです。この実験は、重力レンズによる天体観測をそのまま極小の世界に移し変えたものと考えることができるでしょう。そして、この素粒子の衝突実験は、「ビッグバン」の再現とも考えられます。
 再現された「ビッグバン」で、もし「ヒッグス粒子」が発見されれば、それこそ文句なしに「ダークマター」の正体と考えられるはずです。そして、その重量が宇宙全体の85%に相当することが証明されれば、いよいよ宇宙誕生の瞬間を明らかにしたことになるのかもしれません。
 とりあえず「ヒッグス粒子」は発見されたようでから、ここからさらに研究が進めば、いよいよ「ビッグバン」の全容も明らかになるかもしれません。そうなると、人類の歴史よりも遥か昔、宇宙誕生からの歴史がほぼ明らかになってくるでしょう。これはたいへんなことです。その後の研究により、「ヒッグス粒子」は存在するものの、「ダークマター」の量よりずっと少ないことがわかりました。未だ「ダークマター」の正体は明らかになっていません。


<宇宙の未来とSF小説>
 この発見は、もうひとつ重要なことを明らかにするかもしれません。それは宇宙誕生のメカニズムが明らかになったことで、その後の進化の方向を予測することも可能になるかもしれないということです。宇宙の未来をシュミレーションすることが可能になるということです。まあ、これで宇宙の終末の時期が明らかになったとしても、どうせ我々人類が生きている可能性は低いと思うのですが、・・・。
 それよりも、「ヒッグス粒子」の存在が明らかになれば、将来それを発生させたり、移動させたりと制御することも可能になるかもしれません。そうなれば、人類は「重力」を制御することになります。それはもちろん、人類が究極の移動手段を手に入れることでもありますが、「重力制御」はそのまま「光のスピード制御」にも結びつき、「時間制御」へとつながることになるはずです。時間旅行は困難でも、時間のスピードを遅くしたり、早くしたりすることは可能になるでしょう。
 SF作家にとっては、いよいよ新たなジャンルを描くネタが増えることになります。(でも、物理の勉強をしながら進歩についてゆかないと、・・・)

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