ヒップホップの原点となった幻のラップバトル

「ストリートから表舞台へ」
ドキュメンタリー「ヒップホップ・エヴォリューション」Vol.2
「ストリートから表舞台へ」
 クール・ハーク、グランドマスター、アフリカバンバータらの活躍によって誕生したヒップホップ。1970年代の終わり、その人気は地元ブロンクスでは盛り上がりをみせますが、当時はまだごくごく狭い地域限定の存在でした。貧困層が多いその地域ではDJプレイをしたくても必要な機材を揃えることができる若者はそう多くはなかったため、文化としての広がりも限られていました。ところが、そんな状況を変える事件が起きます。
 1977年7月13日夜9時過ぎにニューヨークの街全体で大停電が起きました。ハドソン川の変電所に雷が落ちたことが原因のその夜の「ニューヨーク大停電」は翌朝まで続くことになりました。その日、真夏のニューヨークが猛暑に襲われていたこともあり、ブロンクスなど各地で若者たちが街に出て騒ぎ出し、ついには暴動や略奪に発展してしまいました。そして、この時に多くの若者たちが電気店に侵入し、そこからDJに必要なレコードプレイヤーやアンプなどを持ち出したらしいのです。それまで手が出なかった機材を手に入れた若者たちが一斉にDJプレイを始めたことで、ブロンクスではそのレベルが一気に上がることになりました。なんとも不謹慎な話ではありますが・・・。

<DJバトルの始まり>
 こうして街に急増したDJ、ヒップホップ・グループは、実力を競い合うようになり、その勝負の場となるラップ・バトルが盛り上がりを見せ始めます。当然ながらブロンクスはその中心地として優れたグループが集まります。しかし、地元のナンバー1、グランドマスターが、全国ツアーに出発し不在になると、そのトップの座を奪い合うバトルが本格化。当時の2大人気グループ、ファンタスティック5コールド・クラッシュによる頂上決戦ラップバトルが開催されることになりました。
 賞金1000ドルを賭けたバトルは、両方のパフォーマンスの後、観衆の拍手やリアクションにによって判定が下されました。その結果は、イケメンで女性ファンが多かったファンタスティック5が勝利を収めました。
 ところが、バトルの終了後、その録音テープが出回り始めると、グランドマスター・カズのラップを中心とするコールド・クラッシュの人気が急上昇することになりました。誌的でパワフルでメロディアスなカズ独特のラップは、新たなラップのスタイルを生み出しつつありました。彼は、他の多くのラッパーとは異なり、子供の頃からビートルズ、ローリングストーンズ、サイモン&ガーファンクルなど白人のロックやフォークを聞いて育っていて、そのポップなエッセンスをラップに持ち込んでいたのです。そのため、彼らの音楽はライブ会場の外、車の中や部屋で聞いても何度も聞ける音楽に仕上がっていたのでした。

<記録されなかった熱気>
 残念なことに、ファンタスティック5とコールド・クラッシュのラップ・バトルのきちんとした録音は残されていません。観客参加のラップ・バトルは、その日、その時の会場の雰囲気すべてが幻の存在となりました。そのうえ、コールド・クラッシュもファンタスティック5も、ライブをメインに活動していたことから、アルバムを録音するという発想がそもそもなく、ほとんど音源も残されていません。もし、当時のヒップホップを題材とした映画が撮られることがあっても、その熱気の再現は不可能でしょう。
 生物進化の歴史では、ある限られた狭い地域に混沌とした状況が生まれ、エネルギーがマックスに達した時、そこで急激な変化(進化)が起きると言われています。ニューヨークのブロンクスは、まさにそうした進化爆発の混沌の地だったと言えます。
 そんな狭い地域に生まれた音楽ヒップホップを外の世界で売り出そうと考えたのは、レコード会社を立ち上げたばかりの女性起業家シルヴィア・ロビンソンでした。彼女が立ち上げたシュガーヒル・レーベルは、ブロンクスのヒップホップ・グループとの契約を結ぼうとします。ところが、前述のように彼らは自分たちの音楽をレコードにしようとは思わず、彼女を無視。
 彼女は仕方なくブロンクスではなくニュージャージーで、地元のラップ自慢のセミプロを集めて寄せ集めのグループ、シュガーヒル・ギャングを結成し、デビューさせます。彼らがまさかの大ブレイクしたことから、大手のレコード会社も、本格的にヒップホップ・ビジネスに参入することになります。
 ただし、シュガーヒル・ギャングは、素人がパーティーの雰囲気で歌うラップは、大ブームとなるもののそれは安易な模倣を生み出しながら、一時期のブームに終わりかけました。

<次なる時代へ>
 一時のブームとなるところだったヒップホップでしたが、その文化はストリート・アートのグラフィティが地下鉄車両と共にニューヨークの中心部へ進出。注目を集め始めます。さらにアフリカバンバータらのがダウンタウンのディスコに進出することで、ヒップホップはダンス・ミュージックの主流になり始めます。バンバータは、クラフトワークなどのテクノ・サウンドとヒップホップを融合させることで新たなファン層を獲得し始めます。こうしてダウンタウンで主流だったテクノやパンクが好きな白人の若者たちの間にも、ヒップホップが人気となり始めます。そんな中、ニューヨーク・パンクの人気バンド、ブロンディがラップでグランドマスターを紹介し、ブレイクにつなげます。
 こうしていよいよヒップホップの世界進出が始まります。

<参考>
「ヒップホップ・エヴォリューション」
Hip-Hop Evolution 2016年(N)
「ストリートから表舞台へ」(第二回)
(監)(製)ダービー・ホイーラー(カナダ)
(製)スコット・マクファーディン、サム・ダン(製総)ネルソン・ジョージ、ラッセル・ピーターズ
(脚)(製)ロドリゴ・バシュナン(撮)マーティン・ホークス(編)スティーブ・テイラー、マーク・スタントン
(ホスト)シャドラック・カバンゴ 
(出)カーティス・ブロウ、グランドマスター、アイスT、ジャジー・ジェイ、アイス・キューブ、クール・モー・ディー、ラッセル・シモンズ、ジャジー・ジェイ、ネルソン・ジョージ他
曲名  演奏  作曲・作詞  コメント 
「Looking For The Perfect Beat」  アフリカバンバータ
&ソウル・ソニック・フォース 
Robert Allen
Arther Baker
Afrika Bambaataa他
 
「It's Bigger Than Hip Hop」  Dead Prez
Feat. Tahir and People's Army 
Lavonne Alfred
Clayton A. Gavin
Andrew Mair他
 
「UFO」  ESG  Renee Scroggins   
「Fantastic Freaks at The Divie」  Kevie Kev, Master Rob
Prince Whipper Whip
Rubie Dee , Dot A Rock
DJ Gland W.Theodore
Di Kevie Kev Rockwell
Robin Diggs
Kevin Ferguson
James Whipper 
 
「Cold Crush Bros, At The Dixie」  Grand Master Caz
JDL, Easy AD, KG
DJ Tony Tone, DJ Charlie Chase
Curtis Brown
Kenneth Pounder他 
 
「Rapper's Delight」  The Sugarhill Gang  Benrnard Edwards
Nile Rodgers 
ヒップホップ最初のメガヒット 
「Grandmaster Cuts It Up」  Grand Mixer DX and The Infinity Rappers D. Showard   
「Rapture」 Blondie Deborah Harry
Chris Stein 
 
「Planet Rock」  アフリカバンバータ
&ソウル・ソニック・フォース  
Robert Allen
Arther Baker
Afrika Bambaataa他 
テクノとヒップホップの融合 
「The Message」  Grandmaster Flash
and The Furious Five 
Sylvia Robinson
Jiggs Chase, Melvin Glover
Edward E Fetcher
メッセージ性を盛り込んだ名曲
「85」  Skratch Bastid Paul Murphy   

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