ヒップホップの拡散と進化の英雄たち


「新しい形への進化」
ドキュメンタリー「ヒップホップ・エヴォリューション」Vol.3
「新しい形への進化」
 1980年代に入るとヒップホップは新たな段階へと進化し始めます。その進化を進めたのは、何人かの革命家たちでした。ここではそんなヒップホップ界の革命家にスポットを当てます。
 先ずは、黒人音楽だったヒップホップを白人の若者層にまで広める仕掛け人となったラッセル・シモンズから始めます。
 この時代の拡散と進化によって、ヒップホップは音楽的により幅の広いポップ・ミュージックとなりました。

<ラッセル・シモンズ>
 ラッセル・シモンズはその生い立ちからして、ヒップホップの異端でした。ブロンクスではなくクイーンズの出身で家庭は裕福。それでも、当時のニューヨークは街全体が荒れていた時期だったので、彼はそこから脱出しようとニューヨーク市立大学に進学。そこで学生起業家として、パーティーを企画し、プロモーターとしての活動を始めます。
 最初に彼が企画した大きなパーティーに出演したカーティス・ブロウの実力に惹かれた彼は、マネージャーとして彼を売り出し始めます。しかし、音楽業界にまったくコネがなかった彼はなかなか彼を売り出せませんでした。そこで彼はチャンスを掴むための作戦を実行に移します。
 彼はニューヨークの有名なディスコに潜入し、その店の常連客だった人気ラジオDJのフランキー・クロッカーがやって来るのを待ちました。そして、彼が来ると、その店のDJにお金を掴ませてカーティス・ブロウの曲をかけさせます。さらに、あらかじめ待機させておいた大学の仲間たちが、曲が始まるのに合わせて大騒ぎし、踊りまくるという作戦でした。するとその作戦は大成功。フランキーは、その曲の人気ぶりに驚いてDJブースに現れ、「この曲は誰の曲だ?」と質問。すると、DJは「ああ、それならちょうどいい、そこに本人がちょうど来てるぜ」。
 こうしてカーティスはチャンスを掴み、ラッパー初のアイドル・スターとしてブレイクすることになりました。ただし、彼は既存のソウルやファンクの曲をバックトラックにしたラッパーとしてしか活躍できませんでした。そこにはそれ以上のオリジナリティーはなかったと言えます。
 そこで次にシモンズが挑んだのは、白人のリック・ルービンと組み、白人の若者たちにヒップホップをブレイクさせる作戦でした。

<リック・ルービン>
 ラッセル・シモンズは、白人の若者リック・ルービンと出会い意気投合します。ヒップホップだけでなくパンクのファンでもあったリックと彼は、インディーズのレコード会社「デフ・ジャム・レコード」を設立します。そこで彼らがデビューさせた最初の大スターがビ―スティー・ボーイズでした。元々はパンク・ロックのバンドだった彼らを、そのテイストを持ち込んだヒップホップのグループとしてデビューさせると黒人ヒップホップ・ファンだけではなく白人の若者たちから熱狂的に支持されて大ブレイク。ヒップホップはポップ・ミュージックの主流へと進出することになりました。
 さらに大きな成功を収めることになったのが、黒人ラップ・グループRUN-D.M.C.の活躍です。特に重要なのは、彼らが世界的にブレイクするきっかけとなったエアロ・スミスの大ヒット曲「Walk This Way」のラップ・カバーです。
 リック・ルービンのアイデアにより、バックトラックに使うだけでなく歌詞までカバーすることを当初、メンバーは拒否。スタジオでの録音がストップする事態になりました。そこでなんとシモンズは、本家エアロ・スミスを呼び寄せてスタジオ入りさせました。(当時、エアロスミスはヒット曲に恵まれず、低空飛行状態だったのが幸いしたかのかもしれません)まさかの本家登場にスタジオは一気に盛り上がり、録音は再会され、世界的メガヒットが生まれることになりました。
 ただし、RUN-DMCのメンバーはそれでもまだ、この曲をシングル・カットすることには反対していましたが、まさかの歴史的メガヒットとなりました。

<マリー・マール>
 マリー・マール Marley Marl の名前は、ヒップホップの歴史上あまり有名な存在ではありません。しかし、彼のアイデアにより、ヒップホップのバック・トラックは革命的な進化を遂げることになりました。
 ヒップホップの初期、そのバック・トラックに使用されたリズムの多くは、ドラム・マシンという既存の音をデータ化して取り込んだものを使用していたので、必然的に限られた音しか使用できませんでした。当然、生み出される音楽はどれも似た感じになっていました。(80年代の打ち込み系ファンクの多くが似ているのはそのせいでもあります)
 ある日、マリー・マールはちょっとした間違いからドラムの音一つを繰り返し録音することで好きな音質のリズムを生み出せることに気づきました。ということは、サンプリング・マシーンを使えば、ドラムの音でなくても、好きな音を使うことで唯一無二のリズム・トラックを生み出すことが可能になったのです。この発見は、ヒップホップのバックトラックの概念に革命を起こすことになりました。

<ラキム>
 オールド・スタイルと呼ばれるラップは、基本となるリズム・トラックに同じテンポでラップを乗せるスタイルが基本だったので、リズムと歌詞だけが売りの単調な曲にならざるを得ませんでした。しかし、ヒップホップの中心地から離れたニューヨーク郊外のロングアイランドから、新しいタイプのラッパー、ラキム RAKIM が現れます。
 彼は、元々ジャズ・サックスの演奏者でジョン・コルトレーンに憧れるジャズ・ファンでした。そのため彼がラップを始めた時、彼が目指したのは、コルトレーンがサックスを吹くようにラップすることだったと言います。そこから彼独特の「フロウ」を重視した複雑な曲調を持つラップのスタイルが生み出されました。

<チャックD>
 後にパブリック・エネミーを結成するチャックDは、1960年生まれで、公民権運動やベトナム反戦運動の混沌とした時代をギリギリ体験した世代です。彼はビル・ステファニーが運営するラジオ局WBAUでヒップホップ専門の番組DJとして活動。同時にスペクトラム・シティというグループで音楽活動もしていました。その存在に目を付けたリック・ルービンが彼をデフ・ジャムに誘いますが、彼は黒人たちの誇りを取り戻すような曲を作りたいとコマーシャリズムと異なる路線を目指すとこだわりを主張しました。
 意外なことに、彼が目指していたのはアメリカの黒人アーティストではなく、英国のロックバンド、ザ・クラッシュでした。パンク・ブームの中から登場したザ・クラッシュは、それまでのパンク・バンドの枠を越え、人種問題など社会的メッセージを込めた曲で活躍していました。そのメッセージ性とRUN-DMCのエンターテイメント性を併せ持つ曲として発表されたのが、パブリックエネミーの代表曲「Fight The Power」でした。この曲は、スパイク・リーの社会派の問題作「ドゥ・ザ・ライト・シング」と共に世界的なヒットなりました。
 彼の登場により、ヒップホップにはギャングスタ的要素ではなく、公民権運動以降の人種差別問題もまたテーマとして盛り込まれるようになり、その音楽的な幅が拡大することになりました。

<参考>
「ヒップホップ・エヴォリューション」
Hip-Hop Evolution 2016年(N)
「新しい形への進化」(第三回)
(監)(製)ダービー・ホイーラー(カナダ)
(製)スコット・マクファーディン、サム・ダン(製総)ネルソン・ジョージ、ラッセル・ピーターズ
(脚)(製)ロドリゴ・バシュナン(撮)マーティン・ホークス(編)スティーブ・テイラー、マーク・スタントン
(ホスト)シャドラック・カバンゴ 
(出)ラッセル・シモンズ、RUN-DMC、ネルソン・ジョージ、マリー・マール他
曲名  演奏  作曲・作詞  コメント 
「It's Bigger Than Hip Hop」  Dead Prez
Feat. Tahir and People's Army 
Lavonne Alfred
Clayton A. Gavin
Andrew Mair他
 
「I Need A Beats」  LL Cool J  Adam Horovitz
Rick Rubin
James Smith 
 
「Christmas Rappin」  Kurtis Blow  Robert Ford
Denzil Miller
James B. Moore他 
 
「My Adidas」  RUN-D.M.C. Darryl McDaniels
Rick Ruvin
Joseph Simmons
アディダスとのコラボに成功
音楽界初の快挙 
「Sucker M.C.'s(Krush -Groove1)」  RUN-D.M.C. Darryl McDaniels
Josph Simmons
Lawrence Simmons
 
「Run's House」  RUN-D.M.C. Darryl McDaniels
Josph Simmons
Jason Mizell
David Reeves 
 
「It's Yours」  T La Rock Rick Ruvin  
「Fight For Your Right」  Beastie Boys  Adam Horovitz
Rick Ruvin
Adam Yauch 
PVも素晴らしかった! 
「Walk This Way」  RUN-D.M.C. Joe Perry
Steven Tyler 
エアロスミスも復活! 
「Marley Marl Scratch」 
Marley Marl 
Shawn L. (MC Shawn)
Moltken & Marlon
Lu Roe Williams 
「Smooth Operator」 Big Daddy Kane Antonio Hardy   
「Paid In Full」  Eric B. and Rakim Eric Barrier
William Griffin
 
「Fight The Power」  Public Enemmy  James Boxley Ⅲ
Keith Boxley
Carlton Ridenhour
Eric Sadler 
映画「Do The Right Thing」 
「85」  Skratch Bastid  Paul Murphy   

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