ギャングスタ・ラップの原点は誰か?


「ギャングスタ・ラップの登場」
ドキュメンタリー「ヒップホップ・エヴォリューション」Vol.3
「ギャングスタ・ラップの登場」
 東海岸でヒップホップが人気爆発し急激な進化を遂げていたのに対し、西海岸では同じ黒人音楽でも人気だったのはファンクやディスコ系の音楽でした。日差しがまぶしいカリフォルニアでは、陽気なパーティー・ミュージックにあうプリンス、モーリス・デイ、ファンカデリック、ドナ・サマーなどが大人気だったのです。ファッションもFILAのような原色のスポーツ・ブランドのファッションが主流で、ロングヘアーにパーマという「ライオネル・リッチー」風が流行していました。しかし、そんな音楽状況は「ギャングスタ・ラップ」の登場で大きく変わることになります。

<ギャング団の増加>
 明るいパーティー・ミュージックが主流だった西海岸の音楽状況を変えたのは、社会状況の大きな変化でした。アメリカ経済の長引く不況により、西海岸の経済状況も悪化し、そのしわ寄せは黒人社会を覆うことになりました。仕事のない若者たちの増加は、街にギャング団を数多く誕生させます。1980年代末、ロサンゼルスには600ものギャング団があり、そのメンバーの総数は7万人に及んだと言われます。当初、彼らはマリファナの販売を主な資金源にしていましたが、その後、コカインが登場するとより強烈な効果をもつコカインの密売が主流となります。常習性が高く、より高額なコカインが蔓延したことで、多くの若者が売春や強盗を行うようになり、急激に治安が悪化することになります。
 1週間で1000万ドルを稼ぐ売人が登場するようになると、薬物の取引はより危険になり、銃の使用が当たり前になります。それでも、一攫千金の命がけの商売として、若者たちを惹きつけ、若者たちのライフ・スタイルが一気に変わることになりました。
 そんなLAの社会状況を最初にラップにのせたのはアイス-Tでした。当時のLAのほとんどのラッパーが、ギャングたちと何らかの関りがあったことを考えると必然的な結果だったのかもしれません。薬物の売人をテーマにした曲は、ある種日常の風景を描いた「学園ドラマ」と大差ない内容だったとも言えます。そうして誕生した「6 In the Morning」は、LAの日常をリアルに描き出した曲として話題になりました。ただし、アイス-Tによると彼の元祖ギャングスタ・ラップにも、そのオリジナルとも言える存在があったといいます。
「ギャングスタ・ラップの原点は誰だったのか?」

<ギャングスタ・ラップの原点>
 アメリカ東部の荒廃した都市フィラデルフィアのラッパー、スクーリーD Schoolly-D の「Park Side Killers」はまさにそんなギャングスタ・ラップの先駆的な曲でした。彼が好きだったアーティストは、ジェームス・ブラウン、アース・ウィンド&ファイヤー、パーラメント=ファンカデリックなどのファンクバンド。そして人気コメディアンのリチャード・プライヤー、レッドフォックスなどでした。彼はそんなコメディアンたちのブラックなジョークをラップに乗せようと考えます。そして、そのレコーディングの日、彼はマリファナでぶっ飛んだ状態で前述の「Park Side Killers」を録音。映画「ロッキー」でも有名な荒れ果てた都市フィラデルフィアの風景が見えるようなその曲は多くのラッパーに影響を与えたようです。

<LAでのブレイク>
 アイス-TからスタートしブレイクすることになったLAのギャングスタ・ラップは、本物のギャングたちをメンバーとしたグループN.W.A.によって、さらに危険さを増し「Boyz-N-The Hood」、「Fuck The Police」をヒットさせます。
 LAやフィラデルフィアと並ぶ危険な街デトロイトでのライブでN.W.A.は、警察の静止を無視して「Fuck The Police」を演奏。すぐに警察が乱入する騒動となり、コンサートは中止させられました。
 1992年あの有名な「ロドニー・キング事件」が発端となったロサンゼルス大暴動が起きます。ギャングスタ・ラップはそうした事件の背景音楽として時代を象徴する存在となりました。しかし、LAの街や社会を崩壊させたギャングたちの存在を否定するラッパーも現れ始めます。
 その代表的存在が、N.W.A.を離れて、ソロ活動をスタートさせたドクター・ドレーであり、彼の代表作となったアルバム「The Cronic」です。脱暴力を意識し、美しきメロディーあり、R&Bあり、ファンクありのLAらしいギャングスタ・ラップから次なる時代のラップへと新たなスタートが切られました。

<参考>
「ヒップホップ・エヴォリューション」
Hip-Hop Evolution 2016年(N)
「ギャングスタ・ラップの登場」(第四回)
(監)(製)ダービー・ホイーラー(カナダ)
(製)スコット・マクファーディン、サム・ダン(製総)ネルソン・ジョージ、ラッセル・ピーターズ
(脚)(製)ロドリゴ・バシュナン(撮)マーティン・ホークス(編)スティーブ・テイラー、マーク・スタントン
(ホスト)シャドラック・カバンゴ 
(出)スクーリーD、アイス・キューブ、アラビアン・プリンス、アイス-T、イージーE、L・L・クールJ他
曲名 演奏  作曲・作詞  コメント 
「My Beat Goes Boom」  Egyptian Lover  Greg Broussard   
「Surgery」  World Class,Wrecking Cru  Margette Hawkins
Alonzo Williams
 
「Uncle Jam」  Skratch Bastid  Paul Murphy   
「P.S.K.What Does It Mean ?」  Schoolly D  Jesse Bonds Weaver Jr.   
「6 In The Morning」  Ice-T  Cheles Andre Glenn
Tracy Marow 
 
「Colors」  Ice-T  Cheles Andre Glenn
Tracy Marow 
 
「Dopeworm」  Skratch Bastid  Paul Murphy   
「The Boyz-N-The-Hood」  Easy-E  O'Shea Jackson,Eric Wright,Andre Young   
「Straight Outta Compton」  N.W.A.  O'Shea Jackson,Eric Wright,Andre Young
Lorenzo Patterson 
 
「Fuck The Police」  N.W.A.  O'Shea Jackson,Eric Wright,Andre Young
Harry Whitaker 
 
「Nuthin' But A G Thang」  Dr.Dre
feat.Snoop Doggy Dog 
Calvin Broadus,Leon Haywood
Frederich Knight
 
「Let Me Ride」  Dr.Dre  George Clinton Jr.Bernard Worrell
Calvin Bradus,Eric Collins,William Collins
 
「85」  Skratch Bastid  Paul Murphy